9.胸膜中皮腫の標準的治療

What is Mesothelioma?

(1)臨床病期と治療

 胸膜中皮腫では、病期、中皮腫の組織型、手術で除去できるか? 石綿肺野の有無、患者さんの年齢(70才以上か否か)等を総合的に判断し治療方法が決まります。次に示すのは、胸膜中皮腫の病期と治療方法の関係を表した図です。がんの広がりが大きく切除が難しい場合、患者さんの希望や全身状態により抗がん剤による化学療法を行いますか、症状を緩和する緩和医療(緩和ケア)を優先するかについても選択することがあります。

 担当医と治療方針についてよく話し合う参考にしましょう。

図2 胸膜中皮腫の臨床病期と治療

胸膜中皮腫の治療

胸膜中皮腫 ステージ(病期)別治療

※手術前後に化学療法や、手術後の放射線治療を行う場合もあります。I期およびII期でも手術ができない場合もあります。

※放射線治療は、病期Ⅰ期やⅡ期で実施されない病院が多くありますし、病期Ⅲ期やⅣ期でも疼痛緩和で実施される場合も稀にあります

(2)病期(ステージ)別治療

(1)I期およびII期

 1期およびII期の場合手術が第1選択の場合があります。肺を含めて胸膜、横隔膜や心膜ごと切除する胸膜肺全摘術が行われます。肺胸膜全的術単独での生存率の延長を示す研究ないので、放射線療法や化学療法と併用して行われることがほとんどです。詳しくは、本HPの(4)項を参照してください。現在は胸膜肺全摘術の副作用を考えて、胸膜剥離術(PD)を行う場合も増えています。判断に悩む方が多いので、紹介で中皮腫のセカンド・オピニオン外来に受診する場合も多いです。多量に胸水が貯留し呼吸困難がある場合は、管(ドレーン)を挿入して胸水を体外へ排出します。胸水再貯留を防ぐため、この管を通して胸膜癒着(ゆちゃく)剤と呼ばれる薬などを胸腔内へ投与することもあります。

(2)III期〜IV期

 ⅲ期以上の病期は、手術で病変をとることが困難で放射線療法や化学療法が第1選択の治療法として行われます。抗がん剤の中ではペメドレキセド(アリムタ)のみがシスプラチンと併用で生存期間を延長することが確認されています。詳しくは(5)項参照のこと。

 広範囲に進展し切除困難な場合、患者さんの希望や全身状態により抗がん剤による化学療法を行うか、症状を緩和する対症療法(緩和ケア)を優先するか判断定します。判断に悩む方が多いので、紹介で中皮腫のセカンド・オピニオン外来に受診する場合も多いです。

 しかし、確立された治療法は少ないため、放射線、種々の抗がん剤、手術のいずれか、あるいはこれらを組み合わせた新しい治療法が臨床試験として行われることもあります。

 2010年以前は中皮腫の予後は、平均で1.3年前後の論文が多かったのですが、肺胸膜全摘術と、抗がん剤治療と放射線療法を組み合わせた、山口宇部医療センターの岡部先生が、日本でも国際的に評価される「生存期間中央値18.5か月」「5年生存率32%」の結果を近年報告され注目されています(下記は2016年時点の結果です)。

図3 胸膜肺全摘術(EPP)の結果(岡部医師提供)

胸膜中皮腫の治療 手術(外科治療)と生存率について

(3)自分に合う治療法を考えて決める

 治療方法は担当医に任せたいという患者さん・御家族もいます。自分の希望を伝えた上で一緒に治療方法を選びたいという患者さん・御家族もふえています。患者さん自身・ご家族が納得する方法がいちばんです。

 まずは、病状を詳しく聞いて、担当医に何でも質問してみましょう。診断を聞く時は、病期(ステージ)と組織型を確認しましょう。治療法は病期によって異なります。診断や治療法を十分に納得したうえで、治療を始めましょう。

 最初にかかった担当医が質問しにくい、相談しにくいタイプで、治療方針に納得できない場合もあります。その場合は担当医以外の医師の意見(セカンドオピニオン )を聞くこともできます。多くの医師は中皮腫のセカンド・オピニオンを聞くことは一般的と理解していますので、快く資料をつくってくれるはずです。→ セカンドオピニオン参照

(4)手術(外科治療)

 胸膜中皮腫では、片側の肺のすべて、外側の胸膜(壁側胸膜)、横隔膜などをまとめて取り除く大きな手術をします(胸膜肺全摘術)。外側の胸膜を切除しがんで厚くなった内側の胸膜をはぎ取る手術(肺剥離術、PD)も最近行われます。→「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会HP参照」手術の前に抗がん剤治療を行うこともあり、また、手術後の再発を予防するために放射線治療を行うこともあります。

 手術に伴う主な合併症は、軽症から生命に関わるものまで、さまざまな合併症の可能性があります。時に重篤な合併症(心疾患、膿胸等)がありますので、その病院での合併症が何%おきるか十分聞いて納得してください。ほとんどは順調に経過し、おおむね問題なく日常生活が送れると考えてよいと思います。

(5)化学療法(抗がん剤治療)

 手術ができない場合や、手術前にがんを小さくする、症状を緩和するなどの目的で、抗がん剤治療を行います。ペメトレキセド(PEME)は、抗がん剤治療を初めて受ける患者さんにおいてシスプラチン(CDDP)と一緒に投与すると、生存期間が延長することが確認されています。主な論文のデータを次に示します。

胸膜中皮腫の治療 化学療法(抗がん剤治療)について

 また、症状も改善しています。

●化学療法(抗がん剤治療)の副作用と対策

 抗がん剤による副作用は、抗がん剤の種類により個人差があります。副作用は自分でわかる自覚的と、検査でわかる他覚的とに大別されます。自覚的な副作用として、食欲不振、全身倦怠感、吐き気・嘔吐、末梢神経障害(手足のしびれ)、脱毛、口内炎、薬剤性大腸炎、下痢、便秘などがあります。他覚的副作用には、白血球減少、貧血、血小板減少、肝機能障害、腎機能障害、心機能障害、薬剤性間質性肺炎などがあります。予期せぬ重篤な副作用があらわれ、まれに命に関わることもあります。副作用が著しい場合には治療薬の減量や休止、治療の中断や変更を検討することもあります。

(6)胸水の治療

 胸膜中皮腫では胸水が大量にたまり、圧迫感や呼吸困難などの症状が出てきます。そこで、管(ドレーン)を胸の中に入れて、胸水を体外へ排出し、呼吸を楽にします(ドレナージ)。胸水が再びたまることを防ぐため、この管を通じて胸膜癒着(ゆちゃく)剤と呼ばれる薬などを胸腔内へ投与することもあります(胸膜癒着術)。

(7)緩和医療(緩和ケア)

 緩和医療(緩和ケア)は、がんによる症状を抑え患者さんの生活の質(QOL:クオリティー・オブ・ライフ)を向上させる方法として重要です。症状が少しでもあるとき、心理的な負担や不眠がある時は、医師に何でも相談してください。胸痛、呼吸困難、咳、発熱などの症状は薬や酸素吸入などでほぼ対処できます。米国国立がん研究所「患者と家族のためのがん緩和ケアマニュアル-米国国立がん研究所 支持療法と緩和ケア版」(財団法人 先端医療振興財団監修)」もご参考ください。

 日本の中皮腫のトータルな緩和ケアによる痛み(PAIN)と改善については、松浦、長松、名取等から報告がなされています。 

図4 長松康子 松浦志野、名取雄司

胸膜中皮腫の緩和医療(緩和ケア)について

(8)臨床試験

 胸膜中皮腫に対する標準的な治療法は、早期の胸膜肺全摘術+抗がん剤+放射線療法、抗がん剤療法の数月の延命(CDDP+Pemetrexed)以外は少ないのが確かに実情です。そのため新しい治療法の臨床試験が行われ、多くの方が期待する場合があります。

 臨床試験に関する情報は定期的に更新されており、主要なサイトは以下の4サイトです。

1.臨床治験検査サイト

 PDQ®(Physician Data Query®)は、米国国立がん研究所(NCI)が配信する、世界最大かつ最新の包括的ながん情報です。臨床試験検索 PDQ®には、がんの治療、遺伝学的情報、診断、支持療法と緩和ケア、スクリーニング、予防に関する8,000題以上の登録中試験および19,000題以上の終了試験情報が掲載されています。

 

 がんの分離:大分類は「呼吸器」を選択し、小分類は「中皮腫」を選択してください。

 試験実施地域は、地域「アジア」、国「日本」、地方「全国」とします。試験のタイプは、「治療」「支持療法と緩和ケア」「遺伝学」等から選択してください。進捗状況は「ACTIVE」を選択し、フエーズは「すべてのPhase」を選択し、「検索」してください。日本での胸膜中皮腫の治験が終了している時期ですと、「該当なし」が表示される場合も多いです。

2.一般財団法人日本医療情報センター(JAPIC)

(2018年6月8日最終閲覧)

 日本語を選択し、「疾患名」に「胸膜中皮腫」と入力すると、過去で終了したものを含めた治験情報が得られます。

3.日本医師会 臨床治験登録システム
4.国際製薬団体連合会 臨床研究情報ポータルサイト

 治験に関する考え方を、セカンド・オピニオンの経験が豊富な、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの名取医師に伺いました。「治験は全国で30~50名名等の一定数に達したら、いったん終了する場合が主です。良い効果のあった治験は早く治験が終了し薬の認可までの6月以上は治験を行っていた病院でも一時薬物が使用できなくなります。ある病院で最初に治験をされた患者さんで一定の効果が見られた場合、主治医が勧める場合が多くなるのが実情で、副作用が強い治験の場合次の患者さんに治験を勧める医師は減る場合が多くなります。長い間継続している治験は・・、どういうものか良く考えてください。セカンドオピニオンの医師に治験の効果を聞くのも大事です。残念ですが治験は海外が先行して、日本はかなり後で知見を行う場合が多いので、海外のデータも参考にしましょう。」

(本項目の文章は2018年8月段階の内容です。2018年9月以降の変化は反映していない場合がある点ご了承ください。)