The Risk Communication Cases
「第2回 養生検査にスモークテスタ―登場と完了検査」で紹介したように、旧築地市場の解体工事に伴うアスベスト除去では、さまざまな提案・取り組みが実施されている。
築地市場のアスベスト除去工事レベル1、レベル2の養生検査、完了検査は2月以降本格化し、毎週月曜日にはその週の各工区の毎日の検査スケジュールが入ってくるようになった。ほぼ毎日数件の検査が入り、管理会社と第三者としての私は多い日には1日で8~9件の養生検査、完了検査を次々にこなした。中央区はこれらすべての養生検査、完了検査を行い、現場を確認している。
5/20~5/30スケジュール表 ①スケジュール表
事前の養生前清掃検査、養生検査、完了検査がいかに重要であるか、形だけの養生検査だけで済まされてきた今までの行政による検査がいかに不十分であったか、以下に実際に行われた検査の実態を紹介する。
築地市場の現場では、アスベスト除去業者が事前除去計画に基づいて工事に着手する前に、養生設置前清掃検査が工事監理会社により行われた。この監理会社の検査に、発注者の東京都と、第三者として私が立ち合った。これは養生設置する前に、床面や壁面など周囲の清掃が完了しているかどうかを見る検査で、清掃のようすばかりでなく、全体の養生設置の際の注意点を指摘することができた。
たとえば、折板屋根の裏側に吹付けがある場合、室内の養生ばかりでなく、折板の小口に隙間がある可能性があり、屋外への飛散が考えられた。周辺へのアスベスト飛散を防ぐために、屋根の上の密閉養生を提案し、屋根全体を覆うことが可能かどうかを協議した。またその場合、負圧機をどこに設置すれば養生内の負圧吸引がショートカットせずに全体に及ぶかを除去業者の担当者と話し合い、可能な範囲で設置場所を検討した。養生が完成してからでは変更が難しくなる負圧機の設置場所等の注意点について、この事前の清掃検査の時点で検討することは大変重要である。この時点での様々な要望、指摘は、除去業者も変更可能なことが多く、工事への第三者の意見が最も入れやすい。この第三者と発注者が参加する養生設置前検査は、その後の除去工事の安全性を大きく左右する。
②折板屋根屋上の養生
事前清掃検査が済むと、養生が設置され、養生検査が行われる。養生検査については、前回の報告(「第2回 養生検査にスモークテスタ―登場と完了検査」)でもいくつか触れたが、築地市場ではそれ以外にも様々なケースを見ることができた。そのなかにはいくつか教訓化できる事例もあった。少し詳しく養生検査の注意点についてみていきたい。
養生前清掃の確認が終了すると、養生設置工事が開始された。第三者の意見を取り入れて、養生が完成すると監理会社、東京都、第三者による養生検査が行われた。この時にはまず養生内に防じんマスクを装着して入り、養生の隅々を目視で検査する。養生のへりの、躯体と接する部分の密閉状態を観察した。また、養生を支える単管パイプの足場との密着具合を見た。
青果仲卸棟の屋上駐車場の鉄骨梁吹付け材の撤去工事は、天井が高く、空間が広大であった。そこで作業空間を少なくし負圧の効きの効率を確保する観点から、床面を立ち上げることが検討された。しかし、吹付けされた面が柱の中段まであったことから、立ち上げ床面を設置せず、床面から天井までを養生空間とし、移動足場上での撤去作業となった。
③青果仲卸棟の広い空間
養生を設置する前に、養生計画について除去業者による事前説明が実施され、図面による養生計画を検討する場を持った。ここでは、前回紹介したように、人用のセキュリティールームと廃棄物専用のセキュリティールームの設置を提案し、負圧機設置個所の検討などを行った。これらは事前に検討しておかなければ、設置後では変更が難しく、事前の検討が大変有効である。この検討には、除去業者、管理会社、発注者(東京都)、第三者として私が参加した。
この駐車場は面積も大きかったので、全体のほぼ3分の1と、3分の2で分けられ、2工区として養生が作られた。吹付けされた天井面が、工区の区切りで途切れず続いていたことから、工区の分かれ目の天井面の密閉状態が問題となった。天井に吹付けされたでこぼこした面の密閉養生を目視で検査した。
工区の境の区切り面の、天井から数センチメートルほどに近接した直下に、天井面の傾斜や凹凸に沿って、並行に単管パイプで足場が組まれた。その天井と単管パイプの間の数センチメートル程の隙間に、床から立ち上げたプラスティック養生シートの上端を挟み込み、シートは単管パイプに両面テープで接着された。単管パイプと天井の吹付面との隙間に、シートの裏側から、養生シートの切れ端(養生設置の際に余った端の部分)を丸め、ぎっしりと押し込み、天井とシートを密着させた。その接着面に、発泡ウレタンのスプレーを面に沿って吹き付けた。発泡ウレタンは膨張し一定の強度をもって固まることで、微細な穴がふさがれた。前述したスモークテストでは、接着面の小さな穴からの漏れがないことが確認された。
④天井の境界面をウレタンスプレーで塞ぐ
また養生シートが天井から大きな面積で設置されていたことで、負圧除じん機が稼働した際に、1枚のシート全体に負荷が大きくかかり、養生の崩壊の危険性が生じた。このことから、養生シートをカッターで一定の大きさで切って、1シートの面積を小さくし、テープで固定し直し、1枚の養生シートの負荷を減らした。また、外側の単管パイプに結束バンドを多用してシートを多くの箇所で固定し、固定箇所を養生テープで塞いだ。
⑤単管パイプに結束バンドで固定
養生内の移動足場等の養生も確認した。養生内の単管パイプの小口は養生テープですべて塞がれ、管はビニールやプラスティックシートで粉じんに汚染されないように周囲がくるまれた。養生内の設置物には、負圧除じん機もある。
負圧除じん機の設置個所については養生内に設置して、粉じん発生個所に移動し、効率のいい吸引をする考え方と、負圧除じん機は養生外に固定して設置し、養生内ではダクトを伸ばし、粉じん発生個所近くではマニホールド(吸引ダクト延長ユニット)を設置する方法と双方が実施された。
⑥負圧機の延長ダクトを天井近くに設置し、粉じんの吸引の様子を確認する
養生内移動式の負圧除じん機は移動・振動によるヘパフィルターの設置のゆがみ、移動のためのキャスター周辺の汚染が問題になった。一方、外部設置型ではキャスター部分やフィルターの合わせ部分を養生外に置くことでより粉じんの汚染を防止できた。このため次第に負圧除塵機の設置はフィルター部分だけを養生内に開放し、本体を養生外に出す設置方法に統一されていった。ただし、いずれにしても延長ダクトを使用して、吸引の実効を上げようとする場合、ダクトの抵抗によるロスで計算上の吸引量が落ちることから、排気ダクトでの風量測定を行い、排気量の実質総量を確保することが重要である。
⑦負圧機の養生内の部分をすべてシートで包み、フィルター部分だけ養生内に露出
養生検査は必ず2度行われた。最初は除去業者との事前の事務所での説明を監理会社、発注者、第三者で聞き、概要をつかんだうえで養生の現場に向かった。現場では養生の外観、セキュリティールーム周辺を確認した。セキュリティールームの出入り口の足元の足洗いの水を含んだ容器の確認、中の負圧状態を見るマノメーターが正常に作動しているかどうかの確認、エアシャワーの稼働の確認を行った。
セキュリティールーム周辺が整頓されているかどうかで工事の丁寧さがうかがえる。セキュリティールーム周辺に鏡を設置し、中に入る作業者がマスクや防護服の装着状態を自ら確認するように指摘した。築地市場内の工事現場ではトイレなどに鏡が大量に残されており、それらを適切に使うことで費用を掛けずに鏡の設置ができる場合がある。エアシャワーの性能が落ちていたケースもあり、事前の稼働確認が重要である。
セキュリティールームは広さについてマニュアルによる規定はない。除去工事に係る建物の構造上、大変狭いセキュリティールームの設置が見られた。これは、セキュリティールームの3室がそれぞれ非常に狭く、養生から出るときに防護服等を脱ぐ一番奥の部屋では、ほとんど身動きもとれないような狭い空間で、シューズカバーやつなぎの防護服を脱がなくてはならない。狭いと、服を脱いだ後の素肌がセキュリティールームのシートの汚染された内側に触れたりすることで、無用な2次汚染を被ることになる。
また、セキュリティールームのすぐ外が階段になっているケースもあった。これも狭い工事区画の上でのやむを得ぬ設置であるが大変危険である。セキュリティールームから外に出たとたんに下りの階段になっていると、踏み外して転げ落ちる危険がある。このような場合、養生からの誘導路を延長し、広い場所で十分な広さを確保したセキュリティールームの設置が求められる。
前回報告(「第2回 養生検査にスモークテスタ―登場と完了検査」)で腰壁材の塗材の取り残しが完了検査で見つかり、事なきを得たケースを紹介したが、築地市場のアスベスト除去工事では、外壁の塗材の除去が広範囲で、多数の建物で行われた。外壁塗材除去では、密閉養生、セキュリティールームの設置、負圧除じん機の稼働が確認され、スモークテストが行われた。外壁の養生は壁に沿って単管足場が組まれ、プラスティックシートで覆われた狭い空間が20メートルを超える高さまで設置され、屋上や地面との間の隙間がないように、ひとつの空間に密閉された。
外壁養生検査では、狭い養生空間内に単管で組まれた足場を、タラップと呼ばれるはしごや、体を横にしてやっとくぐり抜けられるような狭い階段を登りながら、プラスティックシートの養生面を確認した。すべての単管パイプの小口がテープで塞がれているかどうかを確認し、屋上との接地面の密閉を確認した。セキュリティールームが1階に設置されている養生では、ショートカットしないように負圧除じん機は上階に設置された。
一般に外壁養生では、養生空間が狭く、空気の流れが単純に一方向に向かうことが多いので、スモークテストでは比較的短時間で養生内のスモークは排気されてきれいになった。一部外壁養生でも、くぼみがあったり、上の階の張り出しで養生空間が区切られているような場合には、スモークの滞留が目で確認できた。スモークテストにより、除去作業時にはその部分に負圧機の延長ユニットを設置するように指摘でき、除去業者も納得することができた。
外壁養生では、特筆しておきたい事例があった。これは、非常に高い外壁の外側がプラスティックシートで囲われていたが、単管足場が地面から20段ほどにも立ち上げられていた。養生シートには、15-8というような番号が、各シートにマーカーペンで大きく書かれていた。養生設置した除去業者に聞いたところ、これは作業者が今どこで作業しているか、振り返って養生シートを見ればすぐにわかるということで書いてあるものであった。この業者は、外壁の養生の場合、常にこのようなアドレスマークをシートに書いているということであった。除去が始まると、養生空間は粉じんが充満し、防塵マスクも粉じんで汚れ見えにくくなることから、緊急事態の時などに自分がどこにいるか、セキュリティールームはどちらの方向にあるかという情報は、大変重要だということであった。このような参考にすべき取り組みは、広く共有してもらいたい。
外壁塗材の除去では、グラインダーで削り取る工法が採られたケースがあった。複数の除去業者は、グラインダーで削り取った粉じんを、養生内の5~6人ほどの作業者が、それぞれグラインダーに取り付けた吸引口から、養生の外に設置された粉じん収集施設に直接吸引捕集する方法が採られた。この方法は、除去作業中に発生した粉じんをそのまま外の収集施設に、パイプで排出してしまうため、養生内が粉じんで汚染されることが少なく、作業効率もいいということであった。粉じん収集施設は、養生の外に別の養生が組み立てられ、その施設そのものも負圧除じん機で負圧にし、セキュリティールームが設けられた。ただし、粉じん収集装置は、収集された大量の壁の表面を削ったアスベスト混じりの粉が、作業中に出続けることから、粉の処理に注意が必要である。築地市場内では2つのケースの粉じん収集施設が見られたが、一方は集めた粉じんを1次のバグフィルターで捕捉し、バグフィルターを通過した粉じんをプラスティック袋で捕捉する集塵装置が2連で稼働し、養生内のグラインダーは6個同時に稼働が可能であった。
他方、別の粉じん収集施設は、養生内の複数のグラインダーから送られてくる粉が、負圧にされた外付けの収集施設の1か所に収集され、中で防じんマスクをつけた作業者が全身粉だらけで、スコップでプラスティック袋に休みなく粉を詰め込んでいた。
養生外の集じん施設による粉じん収集は、作業場内の廃棄物を減らし、効率が良くなることから有効であるが、収集した粉じんの処理方法に注意が必要である。
⑧外壁粉じん外付け収集装置
養生検査は、除去が開始される前に、養生からの粉じんの漏れなど注意点を確認できる。工事が始まってしまうと修正や変更が難しくなる。養生周辺のデジタル粉じん計による粉じんの異常値などにより、養生の微修正は可能であるが、大きな養生の漏れの確認にはスモークテストが大変有効であった。
築地市場内の他の除去現場では、さまざまな試みが行われた。養生検査の重要性について、次回(「第4回 水産立体駐車場の試行錯誤とさまざまな教訓」)でも引き続き有効な事例を紹介したい。