The Risk Communication Cases
築地市場の豊洲新市場への業務移転に伴い、施設の解体工事が2018年12月に開始、解体に先駆けてアスベスト除去工事が始まった。築地市場内の建築物は大小合わせて130~140棟、内アスベストレベル1及び2の撤去が実施された建物は、2019年3月20日時点で52か所の養生検査、41件の完了検査が行われた。この全域の解体工事を4社の元請け業者とその傘下で7社のアスベスト除去業者が工事を担当した。これらの養生設置前清掃検査、養生検査、完了検査はそれぞれ管理会社による検査、中央区による検査と2回ずつ行われ、私は第三者としてほぼすべての検査に立ち会うことができている。
このほかに仲卸棟の大屋根の波形スレート板の撤去についても第三者として工事の事前の検討から参加し、意見を述べる機会を持った。この大量のレベル3建材の撤去工事においても、他に類を見ない工事が実行された。
これらの立ち合いで、アスベスト除去現場で起きている様々な具体的な課題を見ることができた。以下にいくつかの事例を紹介したい。
工事着手前に、レベル1建材の吹付けアスベストやレベル2に該当するケイ酸カルシウム板等の施工されている建物のアスベスト撤去について、アスベスト除去業者により工事の概要が説明された。設計図面での説明の際に、セキュリティールームや負圧除じん機の設置場所について第三者を交え、確認、変更が検討された。
これらのレベル1,レベル2アスベスト含有建材撤去は、プラスチックシートによる全面養生の中で行われる。この養生は中で発生したアスベスト粉じんが外に漏れないように、シートは隙間なく設置されなければならない。また、目に見えない微細なアスベスト粉じんを外に漏らさないように、養生内で負圧除じん機を稼働させて、負圧除じん機に設置されたヘパフィルターにアスベスト粉じんを吸着させる。この養生内への出入りには、作業者はセキュリティールームと呼ばれる3室を通って入り、その中で汚染された保護服を脱いで出てくることになる。
このセキュリティールームの設置は普通一カ所で、除去作業者と養生内で撤去され袋詰めされたアスベスト廃棄物とがともに出入りすることになる。人と廃棄物が同じ通路を通して出てくることで、養生周辺のアスベスト粉じん汚染が懸念される。そこで、築地市場では人用のセキュリティールームと別に廃棄物専用のセキュリティールームの設置を要望し、広い密閉養生の現場では実施してもらった。(写真)
①セキュリティールーム写真
プラスチックシートで密閉された養生が、中で除去作業が始まる前に、漏れがないように設置されているかどうかを確認する養生検査を行った。大気汚染防止法に基づく行政による立ち入り調査では、おもに養生が完成した時点でセキュリティールームの設置の様子などを目視して確認される。しかし、今回の築地市場では、最初に養生設置前の清掃の確認をし、養生が完成すると監理会社による養生内部の立ち入り検査を行った。最初に監理会社、発注者の東京都が養生内部に入り目視点検した。翌日中央区の行政の立ち入り養生検査が行われ、すべての養生が事前にダブルチェックされた。私はほぼすべての監理会社による養生検査と、中央区による行政立ち入り調査に同行した。東京都職員も両方に同行している。
監理会社による養生検査では、養生内部の目視による調査を最初に行った。ここではおもに養生シートと躯体との接着部分の密閉状態を隅々まで確認した。また、養生の中を負圧状態にするためには、養生内の空気を負圧除じん機で陰圧にするため、一定の強度が求められる。負圧機が稼働しているときに養生シートが剥がれそうなところは補強を指示した。また、養生の骨組みを構築するために使用されている単管パイプの養生内の断面の穴をすべて養生テープで塞ぐよう指示した。さらに養生内部で露出しているすべての単管、階段の床面、手すり部分などを、養生テープもしくはビニールシートで覆った。
EFAラボラトリーズから工事期間中ずっとお借りして、何度も繰り返し使用したスモーカー(発煙装置)が威力を発揮した。目視で養生を確認した後に、スモーカーを養生内に入れて、無害の粉じんを大量に発生させた。スモーカーは舞台などで煙を発生させる道具で開発されたと聞いたが、負圧機の稼働を止めて、密閉された養生内で大量に煙を発生させた。養生内は真っ白で自分の足元も見えないほどに煙を充満させた。すると、養生に穴があったり、接着部分が不十分であると、その養生の外側の周辺がもわっと白く煙ってくる。養生の穴が一目瞭然で確認できる。
ある養生では、養生内で大量の煙を発生させると間もなく、セキュリティールームの周辺が白く煙ってきた。そこでテストに立ち会っていた業者、都職員が慌てだし、周辺を詳細に見てまわった。最初はセキュリティールームの入り口からの逆流ではないかと疑ったが、都の職員がセキュリティールームの足元の単管からもれているのを発見した。養生の足場を支えている単管が養生のプラスチックシートを貫いて固定されており、その中と外の小口の両面がふさがれていなかったことで、中のスモークが煙突を通るように外に出ていたことが判った。そこで、単管の両面を養生テープで塞ぐことを指示した。
これは、スモークによるテストが行われなければ事前に見つけることができず、全面養生をかけて負圧除じん機の機能を確かめたにもかかわらず、アスベスト粉じんを周囲に漏らしてしまうところであった。事前のスモークテストで事なきを得た事例である。このようにスモークテストによる養生確認はたいへん重要である。
②スモークテスト写真
③養生からの漏れの写真
さらにスモークで養生内を満たし、その後負圧除じん機を稼働させ15分間程度、養生内から粉じんが排出される様子を確認した。スモークがすべて排出されていれば、マニュアルに示されている1時間につき4回換気が実際に目視で確認できる。これは狭い養生空間では排出されるが、広い養生空間では15分できれいに換気できないことが起こった。これは養生空間が広いと、あちらこちらで対流が起こり15分ではすべての粉じんが排出されないケースが見られた。この場合、負圧機を移動ができるもの(マニホールドの設置)にして、除去作業の近くまで接近させることを指示した。ただしこの場合ダクトを延長することから、延長分のダクトの空気抵抗が増え、計算上の換気量が不足することがあり得る。そのため、排気ダクトからの風量を直接計測し、養生内1時間4換気を満たすかどうかの確認が必要になる。
このスモーカーを使用した大量のスモーク発生テストは、各アスベスト除去業者に好評であった。なにしろ養生の漏れを確認するには大変わかりやすい。除去業者の何社かは独自でスモーク発生装置を購入した。
④スモーク発生機写真
別の養生ではスモークを発生させた直後に、養生の一角が白く煙った。これは雨の影響で養生の足元の一部のテープが剥がれ煙が漏れたものであった。このケースも除去が始まる前に見つかったことで工事中の漏洩を防ぐことができた。
デジタル粉じん計は必ずしもアスベスト粉じんを計測するものではないが、一般粉じんを絶えず養生周辺で計測し粉じん濃度が急激に高まった場合、その工事を見直すことでアスベスト粉じんの漏れをリアルタイムで知ることができる。アスベスト粉じん濃度測定は計測後早くてもその日の工事後、もしくは翌日にわかるために、粉じんの漏洩をリアルタイムで知り工事を見直すことができない。その点、デジタル粉じん計による計測は、正確にはアスベスト粉じんではなくとも、時機を逸することを防ぐことができる。このような意味で、東京都の職員にデジタル粉じん計での随時計測をお願いした。
12月21日、東京都施設課職員により「デジタル粉じん計での異常値確認について(水産本館負圧・除塵機排気口)」とする報告書が提出された。除去工事現場周辺の粉じん濃度測定を随時行う中で、313カウントを計測した。そこで緊急にアスベスト除去作業を中止し、現地点検を実施、異常のないことを確認の上工事を再開している。
⑤報告書
当初、アスベスト除去に関する除去業者の、養生設置の出来不出来には差が見られた。現場ごとに養生の設置しやすい現場や難しい現場はあるものの、養生のうまい業者、不十分な養生になってしまっている業者とで差が見られた。その後それぞれの業者が養生の作り方を学び合い養生のレベルが向上し、一定のレベルの高さに均一化してきた。このことから、養生の作り方について。実地での訓練機関が養生の設置についての技能者を訓練し、一定の技能レベルに達したものが専門に養生設置を行う必要がある。
完了検査は非常に重要である。完了検査の重要性を各除去業者に理解してもらい、完了検査に際してどの部分に取り残しが多くあるかを認識してもらうことで、除去作業が隅々まで丁寧に行われる効果が期待できた。
実際に養生撤去前に完了検査で不十分な除去が判明し、結果的にアスベスト粉じん飛散を未然に防ぐことができた事例を紹介する。
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