Symposium 2005/08/28
では一般の大気で1リットル中0.1本くらいあると、リスクとして高いのか、もしくは低いのかを考えてみます。
実はこのことに非常に関係する報告を1996年に環境庁中央環境審議会が出しています。ここで環境リスクに関する画期的な考え方が提示されました。それまでは環境基準というとそれ以下だったら絶対影響が無いというものでした。例えば窒素酸化物や硫黄酸化物という典型的な環境汚染物質がありますが、環境基準はそれ以下だったら影響が無いというレベルに設定されてきたわけです。しかし、様々ながんを起こす物質は往々にして、量が減っても影響は無くなりません。そういう物質を閾値の無い物質と呼びます。そのため環境基準の考え方をそのままあてはめることができませんでした。しかし、閾値の無い有害物質も減らしていくということで、1996年時点で環境省が、だいたいこれくらいの影響だったら実質的にゼロとみなしていいのではないかという一つの目安を出したわけです。これが実質安全容量、略してVSDです。
そこで生涯死亡率が10-5という数字が目安になりました。あくまで当面の目標であると書かれています。他の国でもだいたいこういう数字で考えているとしています。
これは過去のアスベストの環境濃度調査をピックアップして調べたものです。最近では濃度が下がってきています。東京では一般の大気中に0.1本、しかし、過去において1本あたりになっていた時期もどうもありそうだということです。ただ、過去に戻るほどデータが無く、測定方法にも確実性が無いということで、はっきりしたことが言えないのですが、今より高かったことは言えそうです。
今のようなことを考慮して、先ほど紹介した実質的に安全だとみなしていい量と比較するとどうかというのがここに書いてあることです。現在の一般的な環境はだいたい0.1本くらいと言われていますが、これだと環境省が定めている目安とだいたい同じかやや高いレベルです。しかし10年前には1本くらいあった時期がありそうだとすると今のVSDの実質的な安全容量に比べると10倍くらいの数値であったかもしれません。
また大気汚染防止法の敷地境界基準では1リットル中10本という数字が決められています。これをVSDと比較すると100倍になります。ただし、敷地境界は一般の環境ではありません。敷地境界でずっと住む方はいないので、一般的環境基準を当てはめるのはややおかしなところがあります。しかし、こういう結果を見てくると、96年に環境庁が一つの結果を出した段階でもう少し敷地境界基準の妥当性を再検討する必要があったのではないかと思います。
敷地境界基準は89年に法律で決まったのですが、実は96年のVSDでは、法律で決まっている物質については、環境リスクの新しい考え方を適用しないことになっていました。ですからアスベストリスクについて10-5という新しい考え方を持ってきた場合、大きいのか小さいのかという考え方を当時はしなかったということなのです。このあたりは今後検証すべき点であると考えています。
敷地境界基準ですが、当時、環境庁は相当工場周辺の濃度測定をしています。また、WHOがアスベストに関する報告書を出しています。当時の資料をみると一般環境においてリスクがどのくらい大きいのか小さいのかを調べると、定量的にわからない、質的に調べてもおそらく検知できないくらい低いだろうという表現がされています。だいたいこういう事実や情報から10本ということが決まったようです。
敷地境界基準というのは非常に特殊な基準です。他の物質は排出基準といって、煙突のすぐ近くで測っている基準、それから環境基準といって家の近くで測る基準の2つなのですが、アスベストだけこういう基準が決まっています。
これについて、衆議院の環境委員会で、当時の環境庁の局長が答弁をしています。要するにアスベストは煙突だけではなくていろんなところから出てくるから、境界で調べたほうがいいという考え方ですね。
ただ、時間的な経過を見るとその後93年にEPAがリスク評価をしていますし、2000年にもWHOがリスク評価をしていて、1リットル中10本で考えると2.2〜4×10-3ぐらいの値になるわけです。これは96年に決めた10-5に比べてやはり高いと言わざるを得ない。いくら敷地境界といっても、クボタの事例のように非常に近いところに住んでいる可能性があるわけです。そういう意味ではもう一度この基準を見直すということがあっていいのではないか。少なくとも妥当性の検証はすべきだと考えています。
基本的にはこのような諸要素を踏まえて基準を考えていく必要があると思います。