環境でのアスベスト曝露「リスクと広がり」

Symposium 2005/08/28

環境でのアスベスト曝露「リスクと広がり」(2/4)

アスベスト濃度とリスク予測

 環境中のアスベスト濃度の現状を整理したものです。こういった濃度で、どのくらいのリスクが発生するのでしょうか。リスク予測の方法は大きく2つに区分けされます。一つは過去の死亡数をもとにして予測するものです。もう一つは疫学的な調査、あるいは動物実験などの結果を使って推計をしたりするものです。

 他の環境汚染の物質だと、基本的には後者です。疫学が使えるものは非常に少なく、動物実験などを使うのが一般的な方法です。ただし中皮腫は特殊な病気で、アスベストによる可能性が非常に高い。つまり、原因はアスベストだということが言えます。よって、中皮腫による過去の死亡数を調べ、それが将来どうなっていくかの予測もできるということになります。

 その結果がこのグラフです。この実線が予測の代表的な数字です。2000年から40年で男性だけで10万人が被害を受けるという数字が出てきました。ただし誤差がありますので、多い場合や少ない場合を点線で示していますが、真ん中の値をとれば実線のようになるということです。これはあくまで過去の死亡数を元にしています。一方、棒グラフは日本のアスベスト消費量です。被害の山が少し遅れて出てくることが見えてきます。

 今お話したのがひとつの予測方法ですが、他の物質で行うオーソドックスな方法を紹介します。アスベストリスクは肺がんと悪性中皮腫という2つの病気が指摘されています。肺がんではタバコなど他の影響による死亡率に加えて、どれくらいアスベストで肺がんが増えるかについての予測モデルが作られています。

 悪性中皮腫はアスベスト以外で起きることが多くありませんので、そういう形に基づいたモデルが作られています。t-t0とありますね。これは時間の要素、曝露期間です。ここで3乗となっているのは、アスベストを吸ってからの時間の3乗、危険率が高まることを示しています。これは悪性中皮腫の危険性の特徴です。

 こういったモデルで、特定の係数を決めるのは非常に難しい。一般的には曝露量が増えればリスクが高まると言えますが、調査によってその高まり具合に差があります。+で示した点は昔日本でも作られていたアスベスト紡織品工場で調べられた結果です。一方、×で示された点は、石綿セメント工場で調べた結果です。こういったものを元にしてパラメーターを設定します。さらに、他の死因による生存率減少も考えて、アスベストによって亡くなる方がどれくらいいるかを予測します。

 今のような設定で考えると、結果が上図のようになります。1リットル中0.1本で、1.7×10-5くらいの生涯死亡率になります。アスベストで亡くなられる方が10万人中だいたい1人から2人いるという数字です。

 この結果を95年から5年間くらいの実際の中皮腫死亡者数とあわせてみます。普通の環境でも1リットル中1本くらいの大気の環境であったことを考えると、だいたい1割くらいの方々が一般環境による中皮腫で亡くなったと考えられます。ただ今の環境では1リットル中1本というのはかなり高いです。高めの数字なのですが、そういった傾向が読み取れそうだと言えます。

他の機関の数字をご紹介したいと思います。まずアメリカのEPA、環境保護庁の数字とWHOのヨーロッパ地域事務所が2000年に発表した報告の数字です。いずれの場合も0.1本くらいであれば10-5、10万人に1人、2人あるいは3人弱という値で、私が出した値も同じくらいの値になっているということが言えると思います。


<<前のページ | 次のページ>>