シンポジウム第2回 石綿(アスベスト)含有建築材料

Symposium 2004 : 2

シンポジストと会場から

名取: いくつか議論のポイントがあると思いますので、シンポジスト一人1分でお答えいただきたいと思います。最初にアスベスト含有建材の調査の資格の点です。石綿含有の有無は対策の出発点で、グレーを白にしてはまずい訳で、厚生労働省は現在も今後の案でも「資格制度なしでいこう」としているようです。特化則作業主任者の拡大か、アスベスト作業主任という新たな資格か、資格はいらないのか。この点大越さんから順番に、どの石綿含有建材(吹きつけ以外の建材)について、どのような資格がいる、いらないについてお答えください。

大越: 先ほども申し上げましたように、アスベスト含有建材というのは、多様にわたって使用されております。そのため、簡単なにわか勉強的な調査員が判断するのは、私として適正ではないと思います。やはりアスベストの調査に精通した人間を育成する、それを代表して調査する必要があると思います。特化則の制度だけでの運用は実際上は難しいと思います。やはり新たな法律や規制で、資格も定めていく必要があると思います。

高木: 石綿協会が石綿含有建材を調べた資料が平成7-8年にあります。A4で30数ページで商品名が入っています。しかし目視、見た目では、この会議室で使われている天井や壁の建材がどのメーカーの何の製品かは、私達建築業者でもわからない場合が多いのです。資格ということで申し上げれば、パトロールして、専門できちんと判断する方、きちんとした資格を持った人が今後やるべきだと思います。

外山: 特化則の作業主任者の資格を取ってどうこうというのは、現実的ではないのかなと思います。そういう意味で新しい資格が、現場をきちんと管理するという事では必要かなと思います。しかし特化則も有機溶剤も作業環境測定士も、いろんな資格制度が今の制度でうまく機能していない面もあると思います。新しい資格がうまく機能するためには、建築産業全体の安全体制をどうしていくのかという議論が先に必要ではないかというのが率直な感想です。

古谷: 飛散しやすいアスベストの作業については、もっとライセンスを厳しくするべきだと思います。誰でもできるというふうにはしないほうが良い。特化則の作業主任者は、アスベストのことだけではなく、すべての発がん性物質のことを知らなければ資格を取れない。石綿含有建材の資格制度は、労働安全衛生法施行令となるので、労働安全衛生法の見直しをする今がチャンスです。アスベスト含有建材対策をできる資格をもう少し広く、建設職人のみなさんが取れるようにしたほうが良い。石綿含有建材の新しい資格の内容では、石綿含有の調査よりも、比重としては改修や解体工事のための資格の面を重視したい。

名取: 2点目ですが、今後どのようなアスベスト建材の対策が有効か。法的側面、技術的側面でそれぞれお願いします。

大越: 先ほど話が中途半端になりましたが、私としては、石綿含有建材を一つの流れの中で定めるということではなくて、特に飛散の大きいもの、それまでいかないけれどなんらかの対策をしなければいけないというものに分ける必要があるのではないかと思っております。今国内の法規では、アスベスト含有建材といわれるものについての法規制が的確ではありません。その辺をもう少し的確な法律の抑制をしていくことが重要だと思っています。吹き付けアスベスト、保温材、耐火被覆に使われているアスベスト被覆板、煙突の内部材に使われているものは非常に飛散性が大きいので、今の法律の枠内に入れて頂きたい。スレート等は、それまでいかないけれど何らかの対策を今後するものとして、もう少し法律を厳しくすることによって飛散防止をかなり防げるのではないかと思っています。

高木: 現場で考えますと、屋根の石綿スレートにカラーリングしてある「コロニアル」があります。古くなると風化して表面の塗膜が飛んでいきます。そうすると、材料そのものは非拡散性かもしれないけれど、それを塗りなおすときに、ワイヤーブラシをかけたりして下地を整えます。アスベストの粉が飛散しますが対策はされていません。アスベスト含有建材の対策をするのだったら、除去や養生など費用が本来の工事以外に大変かかるという問題もあります。国民すべてのみんなにアスベストの恐ろしさを啓蒙すべきだと思います。ただ僕たちに建設職人にとって深刻なのは、かってアスベストを使用していた家電製品等は20年も30年も使い続けられません。しかし建物は30年以上そのままという事は珍しいことではありません。実際の現場での対応について、国をあげて、まさに私たちが発信していかなくてはいけないと思います。アスベストの危険性をもっともっと大きく伝えていくことでしょう。そのために工事費用を出さなくてはいけないのは仕様がない、社会的義務だということを含めて、伝える事が大きなポイントかなと思います。

外山: 可能な限り手ばらしでしょう。屋外でスレートとかの場合には、手ばらし以外にないと思います。建材の比重での飛散性の差の話がありましたが、測定するとあまり差はないのです。数f/mlになるものが多い。建材吸湿性のもので水をかければ収まるものもある。それができない場合には養生を行う、開口部養生やその他ですが、現場のみなさんの工夫や知恵による部分が大きいので、一概にこれをすればよいですよというのではないと思います。

古谷: 一般的な建築物解体改修には、アスベストは必ずあるのだから、誰もがとらなくてはいけない対策の中身をどうするかが大事です。現場のみなさんの知恵も必要だろうし、あわせて特化則を含めた労働安全衛生法という体系全体の中で位置づけるべきでしょう。同じようことを環境省の大気汚染防止法に規定するとしたら、住民や環境の立場から同じことをどう考えるのか。今まで解体というのは「業」としてくくられたことがなかったのですが、建設リサイクル法が初めて解体を「業」としてとらえた。国土交通省の関係、建築基準法も今まで建築物の居住者への配慮義務は一度もなかったわけですが、シックハウス症候群が引き金になって、ホルムアルデヒド対策で初めて建築基準法を発動したわけです。アスベストも今後この点での整合性を持つ必要があると思います。

名取: この点でいかがでしょうか。法律的に入らなくても良いですが、どのような対策が有効かということで、会場の方はなにか。

会場から: 建設産業で働く人で、大きなポイントになるのは一つに単価の問題です。現状のままのしばりでいくと、結果的に施主がはらってくれなかったときは、仕事が逃げていくということがどうしてもある。やはり国民の皆さん、消費者の皆さん全員がアスベスト問題に関心を持っているわけではないですから、単価問題が必ず出てくる。そこのところをどうやってクリアしていくかということが大切なことだと思います。そう考えると、壁材、屋根材には入っているので、特定のものの工事、解体様式を最初から定めてしまう。こういった工事や解体に関しては、こういう取扱いをしなくてはいけないというようなものを定めてしまえば、それ以外のやり方は認められないので、そうすれば一定の工事代金が定まるのではないかと思います。一つ一つの製品に基づいた工事様式を指定するのが必要かなと思います。

会場から: 千葉から参加しました。それぞれの地方自治体が定めている環境条例もある。それぞれの地方自治体の条例の中で縛りをかけられるというのは、この分野でも努力さえすれば解体時かなりの縛りをかけられるというのが可能かどうか、あるいは事例としてあるのかお聞きしたい。

名取: これは大越さんの資料の裏を見ていただければ、実際にいろんな自治体が石綿で国以上に規制しています。最後になりますが、施主について責任の強化という事が言われていますが、どうでしょうか?

大越: 先ほどから含有建材に対する規制をどうするかということで、私は再三、法律的、法律的と申し上げていますが、私の実体験から申しますと、実際にアスベスト対策をするさいには、お客様から依頼をちょうだいしない限りわれわれとしては過分な対策は講じられないわけです。お客様がどうしてわれわれに依頼するかというと、法律的なもので規制しないと、われわれは実際に費用負担の問題や工期延長の問題を含めて、下からあげても管理する元請けさん、費用を出す施主さんがご理解いただけない。われわれがいくらやろうと思っても、そこまでやれるような立場ではなくなってしまう。やはり法律的に規制しなければ、これは机上の空論に終わる可能性が非常に高いと思います。

高木: 法律がいけないというのではないのですが、法律を作れば抜け道というか、それに該当しないということがまた出てくるのではないかと思います。たとえば労働安全衛生法を守ってさえいれば現場で事故がおきないかというと、想定もできない事故がおきるわけですから、どんどん条項が増えていくという現実があります。施主の責任規定は、民間のすべてのところで大変な費用負担になると思います。アスベストの恐ろしさの啓蒙も含めて段階的に、基本的には地方自治体を含めた公共のところでの発注者の問題というところから始まって、本当に全体でアスベスト被害の撲滅のために多少の費用負担はしようがないというところまで行く形で考えたい。いきなりすべての施主に責任という形には、なかなかうまくいかないのかなと思います。

外山: はじめは記録、調査、保存ということだけというように、段階的に施主の責任を課すのは必要ではないかと思います。

古谷: 先ほども申しましたように、世界的にも議論の最中でして、難しいですね。比較的厳しいといわれているフランスが、時期を区切って、まず1000人以上の人が出入りするところはいつまでに確認しろとか、その次の段階ではこういう場所を確認しろという義務付けを、建築物の持ち主にかけている。他の国はなかなかなくて難しい。むしろ逆にさっきの話のように、今、国土交通省の共通仕様書は僕自身の目からすると結構厳しい。少なくとも成形板全般について、廃棄処分のことを除けば、ほぼ吹き付けに準じた取り扱いをしなさいとされています。問題の起こった文京区や練馬区ではさらに、国土交通省の共通仕様書を上回った対策になりつつある。では、練馬区や国土交通省の共通仕様書でやっていることを、最低限の義務として法的に義務付けられるか、というと悩ましいところです。実際に守らせることのできる効果のある対策が大事ですから。

名取: 会場の方からご意見はないでしょうか。

会場から: 中皮腫・じん肺・アスベストセンターのNといいます。石綿含有建材のことで言うと、いまだにどの建材にアスベストが入っているのか、いないかは、非常に難しいんです。そのリストがないんです。われわれも何度か作ろうとしていますが、建材名でなかなかアスベストの含有と非含有を決めることが難しい。製造業者はその資料を持っているわけで、作れるはずです。できていないというのは、サボっている。厚生労働省は、そのリスト作りは頑張っているということですが、責任をもって作り上げていただきたい。今の関連ですが、法律ができたとしてもどのくらい機能するかというのは別の問題と思います。各行政自治体、出先機関、工事や現場を監督しなければならない人たちが、アスベストについて勉強をしてもらわなければいけない。各地方自治体の環境対策の関係の人や、営繕の関係の人たちの勉強が重要です。

名取: 今回のシンポジウムにあたっては、災害防止協会や厚生労働省の方もお招きしました。今回は「異文化交流」までは行かず、内部的な交流になってしまって残念ですが、今後参加してくださりそうな感触がありました。本日は参加者が59名でした。時間がせまっておりますので、あとどうしてもという発言を伺います。

会場から: 先ほどの責任の問題ですが、住宅の品質加工等に関する法律で、もし工事に瑕疵があった場合に責任がどこにあるのかということですが、それと同じようにアスベストの場合にもきちんと理解してくれればお金は払われるのではないかなと。ただ新たなお金を出すわけですから、それだけの議論の盛り上がりが無くてはいけないだろうと。もう一つ法律を作る話がありましたが、ぜひ大企業と中小企業の立場の違いもあるでしょうから、そのへんでも私たち中小企業を守る立場で、付帯事項的な部分でやってほしいなと思います。

会場から: アスベストで被害を起こした建材や製品を製造した会社は、悪い情報は知っていると思います。製造物責任という言葉があります。それと同じで製造している人はそれだけの責任を伴っているはずです。解体時に一般市民が費用を負担するのはとんでもない話です。アスベストは本来害があるのに広報せず、安全だと伝えてきた製造会社が製品の正しい使い方を報告や指導せずに、一般市民が解体時に費用を伴うというのはとんでもない話です。製造する責任、製造するに当たって解体まで含めたマニュアルの正しい報告をすべきだと思います。石綿製品を使っている人がアスベスト被害をこうむった、あるいは一般市民が風化した石綿製品が飛んだ事で石綿関連の病気になることもあるのですから、製造物責任、解体にいたるまで、きちんと決めて法的になんらかしていったほうが良いと思います。

名取: ありがとうございます。これで終わらせていただこうと思います。今日は皆様ありがとうございました。

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