石綿(アスベスト)含有建築材料 シンポジウム2004 今後予定されるアスベスト建材対策

シンポジウム第2回 石綿(アスベスト)含有建築材料

Symposium 2004 : 2

今後予定されるアスベスト建材対策

名取: 特化則の改定案がそろそろ出される予定です。石綿対策全国連事務局長の古谷さんにお話を伺います。

古谷: ご承知の方も多いと思いますが、今年11月に早稲田大学国際会議場で世界アスベスト会議が開かれます。このポスターは、桑沢デザイン研究所というところで3名の先生に協力していただいて、建築家やビジュアルアートの卵たちがコンペをやった最優秀作品です。ちょうど出来上がってきたところですので、是非宣伝に使ってください。みなさんの手元に、会議の「暫定プログラム」が入っていますが、国際会議では「建設とアスベスト」のワークショップがあり、今日の話につながると思います。

 また、全体会議では、「既存アスベストの把握、管理、除去、廃棄」のテーマのセッションがあります。この内容は、今回4回の連続シンポジウムを計画した問題意識を象徴的に現しているといえると思います。「いつ、誰が、どこにアスベストがあるか」を調べるのか?」。「ここにアスベストがあるとわかったら、どうするのか?」この点はこの間あまり議論されていません。80年代後半も「吹き付けアスベストがある。すぐに除去だ。」ということになって、非常に危険な工事がおこなわれ、かえって住民が曝露を受けた。今は吹き付けアスベストだけでなく、石綿含有建材全般に関心がいく時代です。石綿含有建材がある時、「これをどう管理していくか?」「どう除去し、解体改築工事をどうするのか?」「最終的にどこで取り除いて、最後はどこに捨てるのか?」そう考えると、日本の法律や規則がカバーしていない領域は非常に大きいのです。現在までの日本の法律の規定は、吹き付け石綿中心で改築、解体、一部の廃棄物対策だけが決まっているのですね。その現行の規定に問題があるということはすでに3人の方がお話なさいました。そういう中で問題を考えていただきたい。

 10月1日からアスベストが原則禁止になりますが、これ自体は労働安全衛生法施行令の改正によるものです。それにあわせ、10月に特定化学物質障害防止規則(特化則)を変更する話がありました。労働安全衛生法という、「働く人や職場の環境をきちんとしよう」という法律の下で作られている規則の中で、大雑把に言うと発ガン物質の規制に関する規則が特化則です。その特化則の見直しをするということで、お手元にありますのは、しばらく前に、厚生労働省がこういうことを考えているのだ、ということを説明するために作ったメモです。原則禁止が10月1日施行ですから、これにあわせて特化則改正もしたいといっていましたが、理由はともかく確実に遅れています。パブリックコメント手続き(こういうふうに変えたいのだが国民のみなさんのご意見を聞かせてくださいという手続き)をやる予定で、場合により審議会にかけるよりもパブリックコメントを先にやる予定もあるようです。1ヶ月くらいは意見を聞かなくてはいけないので、一番早く実施されるとしても来年の1月1日、また来年度からの施行ではないかと思います。その中身は今後変わっているかもしれませんが、その話を今回主にさせて頂きます。

 もう一つその作業と別に注意して頂きたいのは、現在久しぶりに労働安全衛生法本体の見直し作業が進められています。こちらはいくつかの専門検討委員会をやっていますが、おそらく年内に案が出て、年末に召集される通常国会に改正案がかけられると思います。これが何故大事かというと、先ほども左官用モルタル混和材の話が出ましたが、私たちが盛んに言っていたように、例外として認めるもの以外全て禁止するというのが原則禁止だ。そういう禁止の仕方をしていれば、たとえ石綿含有モルタルが出てきてもこれは禁止ですと言えたわけです。しかし変な禁止の仕方をしたものだから、モルタル混和材を禁止するためにはもう1回安衛法施行令を改正しなくてはいけない。法律や政省令を改正するのは大変なことですから、だから石綿含有モルタル混和材が禁止されずに残ってしまうことになります。労働安全衛生法本体の改正がすでに予定に入っているのですから、私たちは今回の特化則の改正についてだけ物を言うだけでなく、本体にまでさかのぼらなければならない問題もこの際叩きつけていこうじゃないか、是非考えていただきたい、ということがまず第一です。

 それでは、特定化学物質障害防止規則(特化則)を変更する話に入ります。8項目あります。

1)建築物の解体等における石綿使用状況の調査。これは建築物と建築物以外も入りますが、改修や解体などの作業をおこなう場合に石綿建材が使われているかどうか調べる義務を設けようということです。現在もある特化則の石綿含有の事前確認の義務を明確にし、拡大する形式だと思います。この部分はライセンスのある人を必要とせず、誰でも出来るように考えているようです。日本の今の規制は、特化則でも大気汚染防止法でも、解体や改修工事をやろうとした時のみ、石綿がどこにあるかを調べることとされています。規制が発動される時期は、「いつ、どこに、誰が、アスベストがあるのかを把握するのか。」は、解体改修工事をやろうとした時しか発動できないわけです。その場合の問題は、建設職人さん自身が、結局は知らされないまま作業をすることがある。ばかりでなく、工事を請けた建設業者に、現在の特化則でも石綿含有の事前確認の義務があります。調査していなかった、調査が不十分だった責任は、法的には、施主でなく工事を担当する建築業者や建設職人さんの肩に背負わされています。世界的に、この問題をどう解決するかは、重要な課題になっています。発注者や施主さんに全ての義務をかけるというのだったら、国民全てに義務がかかる。そういう大それたことができるのか? でもすべきだという議論が一方であります。少なくとも不特定多数の人たちが出入りする建築物については、あらかじめわかっていなくてはいけない。わかっていれば緊急事態の時に、地震やテロが起こった時に、消防士や救急隊が曝露するのを防げる。労働者が働かされているオフィスとか工場については、そこの持ち主や使用者に事前確認義務をかけたほうがいいのではと、世界的に苦労して議論している真最中です。労働安全衛生法の見直しの中で、実は今発注者の責任を強化しようということが議論されています。同じ俎上に載せてほしいと思います。アスベストがどこに使われているかを、どうやって、いつ誰が調べるかということは、特化則だけではできない話かもしれないので、労働安全衛生法を見直す中で考えたい。

2)建築物の解体等における作業計画を作成しましょう、が2番目。

3)一定規模以上の解体工事をおこなう場合には、作業届けを監督署に届け出ましょう、が3番目。

4)アスベスト含有建材の解体等に従事する人に対する特別教育をしましょう、が4番目。

5)吹き付けアスベストの全面禁止。労働安全衛生法施行令の原則禁止がいかに不十分かというのが、この特化則を改正しないと、吹き付けアスベストは今でも合法的におこなえるわけですね。ようやく吹きつけが禁止になる。

6)汚染された作業衣は家に持って帰らないようにしよう。これが何ででているかというと、ILOがアスベスト条約を1986年に制定しています。石綿対策全国連絡会議ができたのは、当時の労働組合がこのILO会議に参加したのがきっかけですが、日本はこのILO石綿条約を批准していません。大きなネックの一つが、アスベストに汚染された作業衣を家に持ち帰るなという規定を、日本の法令はどこでも決めていないこと。しかし、これを改定したらILO条約を批准できるかというと、ここでももう一つ大きなネックがある。屋外作業の問題です。厚生労働省の担当者と話をしていると、行政指導の解釈で今回批准できるのでないかなと言っていますが果たしてどうか?仮にILO条約の批准という課題をあげると、汚染された作業衣の持ちかえり禁止と屋外作業の測定等の問題であろうと思います。

7)作業記録等の保存期間の見直しというのは、細かいのですが、発ガン物質は潜伏期間が長いので、30年間は保存しなくてはいけない。今回は30年とする様ですが、ドクター方の常識からいけば50年以上保存してほしいと言います。潜伏期60年の人もいるとすると、永久保存しておかないと対応できないということがある。

8)清掃作業における曝露防止対策の充実は、実は私たちがこの間言っていたことがようやく取り入れられた。工事の埃が下に積もってそれを掃除する時もう一回埃が舞い上がり、この時の濃度は高いことを言い続けてきました。ようやく中身はともかく、清掃作業でも対策をしなくてはいけないという話が出てきています。

 先ほど言わなかったのですが、定量分析をすべてする方向は無駄だということです。厚生労働省の担当者も、定量分析を何でもやらせようという方向ではない、むしろ石綿含有がないことがはっきりしない限りは、石綿含有として対策をとる方向に誘導したい。これは大賛成で、無駄な定量分析で1%に満たないとか、いうことにいくら金を使うんですか?1回3万?厳然とはっきりしてない限りは、入っているものとして必要な対策をとりなさいという方法が効果がある。問題はどういう飛散防止対策をとるかということです。残念ながら、厚生労働省は粉じん防止策として、具体的には、個人保護具(マスク)を使いなさい、散水(水をまきなさい)、清掃しか考えていないようです。誰もがわかる形にしたほうが良いと思うが、厚生労働省の対策ではとっても不十分だと私は思います。例えば、先ほどの外山さんの3点の中身、手ばらし、湿潤化、開口部養生が期待されるわけです。一方で、私自身は、吹き付けや飛散性の高いといわれるものについては、できれば諸外国でやっているように、一定の資格、認可を持っている業者しか仕事ができないという方向に強化することが必要ではないかと考えています。世界会議では、アスベストの把握、管理、除去、廃棄のセッションは、期待できる発表が勢ぞろいし、世界の最先端の議論が期待できます。建設関係のアジアの労働組合から現場の活動家が参加してくれるということで、共通の議論ができることを期待しています。11月に参加してください。よろしくお願いします。

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