シンポジウム第1回 公共建築物の吹き付けアスベスト

Symposium 2004 : 1 The Case of Kanagawa

シンポジウム:神奈川の取り組み

司会: 神奈川県はアスベスト問題の発祥の地ですが、様々な問題に取り組んでおられる西田さんからお話願います。

西田: 神奈川労災職業病センターの西田です。永倉氏、池尻氏の話はいずれも東京での取り組みですが、神奈川県では1987年当時の文部省による一斉調査の時に既に小・中学校は吹き付けがあり除去しました。市営住宅でも吹き付けの存在がわかり、私も現場調査に行きました。2003年になってこの問題を神奈川県でもう一度やり直すというのは大変ですが、徹底してやらざるを得ないのではないかと思い準備をしました。

 横須賀市は吹き付けアスベストが問題になる前に、空母ミッドウエーのアスベスト不法投棄事件があり、それをきっかけに横須賀から全国的にアスベスト問題が広がった土地です。市内の小・中・高等学校の建物の設計図書の情報公開請求をしました。その時の資料をまとめた物が2枚目の『吹き付け材別一覧』です。1987年文部省の一斉調査は教室や体育館が中心でしたので、そこから漏れているのが給食室や階段室などでした。しかも、吹き付け材の種類は、練馬区ではロックウールが多かったようですが、横須賀市の場合は黄色がかった‘ひる石吹き付け'パーミキュライトというものが多かったのです。ロックウールもありましたが、さらに、業者によると、ネオパールスキンや練馬区と同じゾノライト、という吹き付け材が使われていました。

 正確にどれくらいかは設計図面を見た限りでははっきりと言えませんが、約70%位このような物があるとわかりました。これは大変だ、と。こういった確証を掴んだ上で横須賀市と交渉をすることになりました。このような調査・準備をしていなければ、『吹き付けは調査済みで撤去してあります』という回答が来るのは目に見えていました。そうではなく、『当時の調査は極めて不十分であり、私達の最近の調査でこれだけの建物に吹き付けアスベストがまだ使われているではないか』と突きつけることができたのです。

 それでも市の回答は、『建物の劣化がひどくなれば学校管理者から建築課に報告されているはずなので、新たな調査は必要ない』というものでした。しかし、市は昨年10月の文部科学省の通知から、吹き付けロックウールや吹き付けひる石の中に当時の調査から漏れた物があることを知っていたようです。また、石綿の定義がそれまでの『5%以上含まれているもの』から『1%以上』と厳しくなっていることも知っていました。やらねばならないと内心思ってはいたようです。そもそも横須賀では基地や造船所があるため、実際にアスベストによる被害が起きて裁判になっています。この被災者の方にもいっしょに交渉に参加してもらい、『アスベストの被害は量の問題ではなく、少量でも肺がんや中皮腫という恐ろしい病気になるのだ』と話ましたら、市は当初の回答を撤回して『では、調査をしましょう』ということになりました。

 これで、一件落着かと思いました。その後、どこまで調査をするのかとやりとりして『最初の1年間で設計図面と目視調査(現場でどのような形状なのか見る調査)をし、1年かけて分析・測定調査をする』という市の回答を得ましたが、これはいくらなんでもおかしいのではないか。ちょうどその時、2004年世界アスベスト東京会議のプレイベントで来日していた、アスベスト禁止国際書記局のローリー・カザン・アレンさんと再度横須賀市へ要請に行きました。副市長と教育部長が対応しましたが、同じ回答をしました。これにはローリーさんが怒りました。『イギリスではアスベストで死んでいるのですよ。イギリスでこのようなことが起これば、学校閉鎖しなければなりません』と。このことは新聞に載りました。この時感じたのは、日本とイギリスでのアスベストに対する危険性の認識の違い、発ガン性物質がどういう結果をもたらすのか、イギリスでさんざん起きていて、日本でも起きているのです。ところが、横須賀市の副市長や教育部長には全く認識が無いので、このような対策は、被害がすぐに出るわけではないのだから、2年かけてゆっくりやればよいというようになるのです。

 やはりアスベストへの認識、この場で共有化している認識がまだまだ少数であるようです。現に教育現場では、教師も訴えてはいるのですが、子供達のためにすぐに除去するのだという意識にはなっていないのです。横須賀市以外にも神奈川県では県立高校78校で、ひる石吹き付けを中心に使われていることがわかりました。県立高校については、この吹き付けだけではなく、何年か前にアスベストフェルト材を柔道・剣道場の屋根に敷いて防火断熱材として54校に使われ、現在も経過観察中として毎年目視調査をしています。4校は補修工事をしています。しかし、工事は天井に蓋をするだけで、ベニヤ板で天井を二重にして隔離するだけで、アスベストは残っているのです。個々について何故除去しないのか交渉をしていますが、費用がかかるとして除去が進展しないのです。そういう意味では、神奈川県でも壁がまだ厚い、ということです。練馬区だけにとどめず、どこまで全国の自治体・学校教育現場に広げてゆくか皆さんとともに今後がんばってゆきたいと思っています。

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