地震とアスベスト シンポジウム2004 基調報告3/3

The 3rd Symosium 2004

基調報告(3/3)

 クリソタイル・アモサイト・クロシドライトといろいろなものがあり、主にはS造(鉄骨)が多かったです。一部にはRC造(鉄筋コンクリート)がありました。かなり粉塵が出た時もあったが、散水をしながら壊していき、その横でサンプリングをしました。




 このような調査は業者の了解が得られないと、勝手に行って測るということはなかなか難しく、一般に低い濃度しか測定できないという限界があります。散水をしないまま建物を壊す(非除去解体)と、最も高濃度の数値が得られると思われます。私が測定できたのは吹き付けアスベストを除去している間、または除去後の解体現場であります。これがその建物の中の除去の様子です。



 こういう所で除去をし、その中の濃度を測ります。見つかったアスベストは電子顕微鏡で確認もしました。

 調査の結果は、屋外濃度というのは、対策をして除去をしている間は養生(覆い)をしているので、アスベストがもれることはほとんどない。

 除去が終わってから壊す場合、少し高い濃度がありました。15本/Lです。これについては除去後であっても建物に残存したアスベストがあって、それが飛散した可能性はあるだろう、と考えました。ただし、それでも非除去解体に比べれば、かなり低いです。吹きつけアスベストを除去せずに解体するは、非除去解体に比べれば、かなり低いです。非除去解体の場合は、環境監視研究所の中地氏が測ったように160-250本/Lでした。それを私が電子顕微鏡で確認させて頂いて、クロシドライトを確認し、電子顕微鏡による濃度は5300本/L。(この意味は一般の光学顕微鏡による濃度とは違います)でした。数百本/Lという高濃度の飛散というのは、被災地の解体現場で比較的頻繁にあったのではないかと考えられます。これが、一般環境濃度の上昇に寄与した可能性は大きいであろうと考えました。では本当にどれぐらい寄与したかと考えたいと思いまして、拡散モデルを使って計算致しました。

 地震発生後のアスベスト濃度を環境庁がモニタリングしたような、濃度上昇に対して、発生源の影響はどれぐらいあったかということを考えようと思ったものであります。まず、詳細は省きますが、阪神淡路大震災の被災地域での全建築物の床面積を建築研究所のデータから取りまして、そこから構造別、年代別のデータを使いまして、吹付けアスベストが一体その地域でどれぐらいあったかということを計算し、その後でどれぐらいかを計算し、その後でどれぐらい飛んだかを計算します。

 それで、どれぐらい濃度が上がったかということを、拡散モデルを使って計算して、それを環境庁のモニタリングのデータ(16地点)と比べてみました。

 この中で被害率については建築研究所が発表している数値を使いました。また、飛散係数、例えば1kgのアスベストがあったときそのどれくらいが舞うか、については文献がありましたので、0.01%という値を使用しました。ケースの2(17万トン使用されていたという場合)を使いますと、阪神淡路大震災の地域で吹き付けアスベストの蓄積量というのは、3740トンくらいあったと推測されます。

 その2月-4月のうちに、330トンくらい壊されて、バッと舞ったのではないかと考えられました。バッと舞った結果考えられる濃度上昇について拡散モデルを使った計算の値と、実際の濃度上昇の値と比べてみると、少しボヤけてはいますが、y=2.47x、となっており、弱い相関関係はありそうだと考えられました。

 つまり、0.01%くらいのアスベストが舞うという計算は、オーダー的にはあっているのではないかと考えました。

 もう一つ経済的な話ですけれども、除去費用は高いということがあります。

 西宮市から協力を得られて、除去費用と解体費用はわかったものにつきまして、建物を8つくらい比較しましたところ、除去費用は解体費用の68-94%です。ですから7割から9割以上が解体したお金の中でも、除去費用とかそれぐらい高い。これには、民間に対してやって下さいと言っても引き受けてくれません。しかるべき財政支援がないと出来ないだろうと考えました。

 最後に何をなすべきか、という私見で説明させて頂きます。

 私が一番重要だと考えますのは、除去作業者等に対する健康影響の追跡調査です。かなり粗いですが、一般環境へのリスクについては、ユニットリスクというものを利用して計算することは可能です。ユニットリスクとは1本/Lという濃度を生涯(75年間)ずっと吸い続けますと、10万人あたりの過剰死亡は22人と考えられる、というものです。これを仮に、先程の環境庁のモニタリングに当てはめます。一般環境での濃度5本/L、それが1年続いたとして、非常に大まかに言って10万人あたり1.5人程度の過剰死亡が発生する恐れがあるのではないかと考えられます。これは神戸の人口150万、周辺を合わせて200万として計算した場合、数十人オーダーの過剰死亡があるのではないかと、単純にユニットリスクから計算することはできます。

 これが大きいか小さいかというのは、人によって意見が違うと思われます。私は実はこういう一般環境の濃度ではなくて、むしろ除去作業者が実際に数百本/L、時には数千本/Lというような、非常に高濃度な所で作業された可能性のあることを心配しています。しかもその除去作業者というのは、私が見てきた限り、ほとんどの方が煙草を吸われています。そういう方々にどういうような健康影響がでるかというのは、本来はしっかりと追跡調査をしなければいけないと考えます。書類上は20年程度の保管をしなければいけないという規則があったと思いますが、実際には臨時の雇いの場合もあり、そういう方々になかなか追跡調査が難しい方が多いと思われます。ですから、行政・業者も含めてあまり本気になられているとは思えません。その辺をどうするか、ということが一番重要な課題かと思っております。

 また、その除去作業の厳格な適用が重要と考えます。これは大気汚染防止法が1996年に改正されましたが、その時にも除去業者は登録制だけで終わりました。この際、法制定の経緯を知る業界のある方に対して、何故、許可制にしなかったのですか、という問い合わせもしたのですが、「そういうのは馴染まないから」と言われました。そのような有害物質管理に対する理解がなかなか当時も今も少し足りないと思っております。また、その日常的な有害物質管理というのは、アスベスト以外の物質も必要でして、いざ地震になってから「どうしようか」なんてことは、普段できないことは余計できません。これについては後にシンポジストの中地氏の話の中に出てくるかもしれません。そのような管理強化を進める上で、最後に必要なのは財政的支援ではないかということを申し上げて終わります。あくまで私見ということで最後はいろいろ申し上げましたが、重要と考える課題を述べました。以上です。ご静聴ありがとうございました。

司会: ありがとうございました。寺園さんの発表に対してご質問のある方いらっしゃいますか?

名取: 二点程教えて頂きたいのですが、一つは飛散の計数は0.01%ですが根拠は何ですか? もう一つは、吹き付け以外の石綿含有建材を私達が測定してみますと、バール破砕をすると、吹き付け石綿同様の濃度が出てしまうのです。建材を手ばらしで解体すれば吹きつけ同様の濃度が出ないのはわかりますけれども、建設現場で現実的に無理な現状があります。アスベスト含有建材の飛散もかなりの量を占めるのではないかと思うのですが、ご意見を頂けないでしょうか。

寺園: どうもありがとうございます。一点目の飛散係数につきましては、日本では文献がありませんでした。海外(アメリカ)のほうでいくつか文献がありまして、今のような建築物の解体現場から調査した文献ではないのですが、アスベスト廃棄物を乱暴に取り扱った場合の飛散状況を調べた文献から引用すると、およそ0.01%程度であるということがわかりました。文献もあるので必要ならば後でご説明しますが、数%というようなオーダーではなく、もう少し低くて0.01%のオーダーであるというものです。ただし、それが小さいと言うことではなく、あくまで飛散の対象となるバルク状の物質がドサッとある中で、それを乱暴に取り扱えば0.0数%のアスベストが飛散するということであり、飛散したアスベストの濃度を考えれば決して小さいものではないと思われます。

 その数値を求めるために自分で吹き付けアスベストを使った飛散実験をやってもよかったのかもしれませんけど、その実験をやること自体リスクがある割に生産的ではないと思って、そういうアメリカの文献の数値を借りて計算しました。計算した濃度上昇分と実際の濃度上昇分を比べたら、オーダーが大体合っていたということで、飛散係数もやはりその程度だったのではないかと考えております。ですからその飛散係数が小さいという印象を持つのでなく、むしろ潜在的な蓄積量の大きさというのを考えるべきでしょう。そして、3千数百トンもある中からそれぐらい飛んだらこういう濃度になるのかということを、自分で算数をやって確認してみたということです。

 それから吹き付け以外のアスベスト含有建材につきましては、確かにおっしゃられたように石綿スレートのバール破砕からの飛散の危険性は私も認識しております。京都大学におりました時に、吹き付けアスベストの調査もやりましたし、石綿スレートの調査もやりました。但し、阪神淡路大震災につきましては、石綿スレートの存在量や、それを解体している影響についての調査まではできませんでした。正直なところ吹付つけアスベストの調査ですら、当初早い復興を希望する被災地の方々を前にしては、現地の優先順位を考えるとなかなか難しい部分があると感じました。ただ数カ月経ってからは、吹き付けアスベストの危険性というのはやはりちゃんと総括しておくべきと感じましたし、現地でも問題意識は高まってきましたので、調査に踏み出しまして、実際の協力も得られました。その時に、全体の優先順位を考えた私の意識として石綿スレートまでは到達できませんでしたし、実際に調査しようとしても力量的に難しかったと思います。あまり答えになっていませんがご理解頂ければ幸いです。

司会: 他の方どうぞ。

中地: 補足ですが、行政の協力を得られたという話ですが、今回の阪神淡路大震災の場合で、解体費については個人の所有については災害廃棄物という形で国庫補助を得られました。それで、普通ならばその持ち主と所有者と解体業者の間で契約を結ぶのですが、そこに行政と、例えば神戸市、西宮市と三者で契約を結んで、最終的には神戸市とか西宮市が解体計画、あるいは解体費用が適当であるかということをチェックした上で国から解体費用を払ったという経過がありますので、自己負担が少なく、費用がかからないので比較的すんなり調査協力を得られたということです。また、神戸市が調査をしてどれくらい吹き付けアスベストの建物があったのかということも、チェックをしているというのはそういう契約で神戸市が除去工事についてはある程度把握しているという経過がありました。

司会: 他に質問などございませんでしょうか? 寺園さん、どうもありがとうございました。

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