第3回シンポジウム2004 地震とアスベスト

The 3rdシンポジウム2004 Symosium 200

シンポジウム プロローグ

司会: それではシンポジウムを始めたいと思います。平成7年1月に阪神淡路大震災が起きてから10年が経とうとしていますが、神戸の市街地を歩いていますと、本当に倒壊した建物もすっかり綺麗になって、地震が本当にあったのかという感じになってきております。人通りも元に戻りました。そういう意味では、見た目には地震の傷跡も無くなったように見えます。しかし、先程環境研究所の寺園淳さんからありましたように、阪神淡路大震災では壊れた建物の解体時にかなりのアスベストが飛散したということです。そういう意味で飛散したアスベストによる健康影響が心配されます。何故心配されるかといいますと、寺園さんのお話にありましたように、アスベストというのは潜伏期間が10-40年と見られております。阪神淡路大震災から10年経とうとしているということは、逆にこれからがアスベストによる健康影響が表面化するということです。日本は地震が多い国です。東京直下型地震や東海地震、東南海地震も何時どこで起きるか分かりません。阪神淡路大震災は他人事ではないのです。これから発症するリスクを抱えている人たちにどういう風に対応したらよいのか、私たちが阪神淡路大震災の教訓を得て、こういうような被害を受けないようにするにはどうしたらいいのか。これは非常に重要な問題であるわけです。そこでその問題についてこれから議論していきたいと思います。

 まず寺園さんからアスベストについて簡単なご説明があったのですが、アスベストについて私も去年まで良く知りませんでした。会場にいらっしゃる方もアスベストについての理解には温度差があるのではないかと思っています。そこで、先ず石綿・アスベストとは何かということから中皮腫・じん肺・アスベストセンター代表の名取さんに説明して頂きたいと思います。

名取: スライドをお願いします。石綿・アスベストですけれども、蛇紋石族と角閃石族、2つの大きなグループからなる、繊維性の鉱物です。繊維というのは一応長さと直径の比が3:1以上でありまして、商業的に使われていますのはクリソタイル・クロシドライト・アモサイトの3つが主要なものです。

 どういう所で使われていたかというと、元々は蒸気関連の所に使われていました。戦前では海軍・造船・鉄道・発電、という蒸気関連の機械の保温材として基本的に使われていました。その後建材としては1910年前後ぐらいから、波型スレートが最初に商業的な生産が始まって、だんだんと他の製品に移っていきました。そして吹き付け石綿は1930年代くらいにイギリスのほうで商業化されて、日本では1950年代から使用が始まっています。先程もお話がありましたが吹きつけ石綿は公には1980年で使用禁止と言われてきましたが、実際には1988年まで吹き付け材の中のロックウールに石綿が含まれて使われています。そしてパッキング・ジョイントシート・ポンプ・配管関連と、なかなか目に見えない部分で使う製品ですね。それから最近、ご相談が非常に多いのですけれども、接着剤とゴム、他の製品に混ぜて使うという使用が報告されています。

 実際の問題の一つは、石綿含有建材のバール破砕です。実際の現場ではバール破砕をされている事が今一番多いのですけれども、石綿濃度を測定してみますとだいたい濃度は3・14本/mlくらいです。吹き付けアスベストの現場と同等の濃度がでてしまうのです。改築・解体ではこの作業が多いので危険と言われております。

 石綿の法的規制を概括すると、民法の規定は1947年です。石綿肺が1960年にじん肺法で、ガンとしては特定化学物質等障害予防規則(特化則)で1971年に、また1975年に吹付け石綿が禁止になっています。1971年頃に制定された大気汚染防止法で石綿の話がでてくるのは1985年と遅れます。クロシドライト・アモサイトが禁止になって、事前の記録が義務づけられたのは1995年です。廃棄物清掃法に特別管理産業廃棄物として石綿が出てくるのは1992年、PRTR法や建設リサイクル法で石綿が扱われるのは2002年です。

 潜伏期の関係と濃度の関係ですが、非常に大雑把なものですけど、大体は数十年くらいで、中皮腫とか胸膜肥厚斑は低濃度曝露でも出現して、石綿肺は高濃度でなる、と言われています。

 何故中皮腫というのか説明しますと、発生の過程で上皮・中皮・内皮がありまして、上皮からでた悪性腫瘍はガンということです。皮膚ガン・食道ガン・胃ガン・肝臓ガン・大腸ガン・肺ガン・喉頭ガン・前立腺ガン・膀胱ガン等といいます。内皮から出たものについては肉腫といい、線維肉腫・脂肪肉腫等、血液については白血病・悪性リンパ腫というわけです。中皮の部分、胸膜・腹膜・心膜にでた悪性腫瘍が中皮腫です。基本的にはガンの一種です。中皮とは何かということですが、次の図を御覧下さい。

(肺病理アトラス山中晃・横山武著 S60.3.30 文光堂より引用)

 常の中皮には、一層の中皮細胞層があって、その下に内胸膜や弾性繊維があります。中皮腫に上皮型、肉腫型、二相型(上皮型+肉腫型)の中皮腫と3種類がある背景がおわかり頂けると思います。

 吸入した石綿が数十年後に何故発ガンをもたらすのか説明してほしいというご要望です。私には身に余る話ですし、発ガンの仕組みは十分わかっているわけではありませんが、全くの仮説ですが説明します。発ガン物質等でDNAには変化が絶えず起きていますが、修復のメカニズムもあるので、すぐにガンは起きません。DNAの異常が細胞レベルで異常となっても、免疫反応で治されて発ガンはしない事もあります。さらに細胞が増殖しても押さえられます。こういう発癌作用と免疫反応とか修復のメカニズムが、加齢とともになかなか効かなくなってくる。治す様々なレベルの力が多分、40年ぐらい経ってくると効かなくなってくるので、それによってだんだん腫瘍として発現する。また石綿は繊維として体内に残存していますから、様々な作用を生体内で何十年も働かせる事も関係するのだと思います。

 悪性中皮腫ですけれども、65歳、潜伏期間がだいたい43年くらい、予後は15ヶ月、3年生存率は3.7%です。かなり予後の悪い腫瘍で、治療として実際問題は緩和ケアを主体として、化学療法とか手術療法、免疫療法を組み合わせて努力が続いているというところであります。

 実際に中皮腫等の病気が阪神淡路大震災でどうなるのか、まずだいたいどのくらいの濃度だったのか、環境庁の調査等から見ていきます。一応バックグラウンド0.15本/Lと考えますと、今回の阪神淡路大震災における石綿濃度の上昇はだいたい0.67本/Lがだいたい1年間続いております。この濃度を元にユニットリスクを考えると生涯リスクはどうなるのか、昨日、今日に間に合う様にざっと推計を試みましたが、寺園先生が触れられたので割愛します。

 これは早稲田大学の村山先生が、実際に中皮腫の中でどのくらい一般環境中のリスクがあるのかということで計算されているものです。こういう方向からの推計も可能なので、実際に阪神淡路大震災でどのくらいの今後の健康リスクがでるのかというのは、今後の研究が必要だと思います。

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