アスベストセンター医療講座
「悪性胸膜中皮腫に関する薬物療法の現況」

Lecture by Dr Sakashita 2023


横須賀共済病院化学療法科/呼吸器内科 坂下博之

収録日時: 2023年7月29日(火)

【概要】

(講演の説明文が入ります)

【追加的な情報】

本講演の後に行われた質疑応答と今後の発展が期待される治療についてはこちらをご覧ください。

 今回呼んでいただいたご縁は、自分が昨年度の石綿・中皮腫学会のランチョンセミナーで、今日と同じような演題を話す機会がありました。恐らく講演を聞いていただいて、その時に話した内容をまた今日話していただけないかということで、ご依頼を受けました。元々医療者用に作ったスライドを前提に話を構築していますので、多少難しい部分があるかと思います。今回お聞きになっている方はかなり勉強されている方とお聞きしていますので、どうかおつき合いいただければと思います。それでは、スライドを共有したいと思います。

 この講演にあたり、規定で定められた開示すべきCOIはありません。私の経歴ですが、東京医科歯科大学を卒業しました。4年前まで医科歯科大学で働いていましたが、医科歯科大学で大久保先生という京都大学から来られた先生が中皮腫を非常に熱心に診療され一緒に患者さんを診ていました。当時は稲瀬直彦先生が教授で、前回のこの会でお話しされた稲瀬先生と一緒に診療に当たっていました。

 4年前縁があって横須賀共済病院に移りました。横須賀共済病院は、古くは三浦溥太郎先生が中皮腫に関して活発に診療されたことと、現在外科の諸星先生、病理の津浦先生と共に中皮腫を含めた胸部疾患の腫瘍の治療に当たっています。自分は化学療法専門という立場で横須賀共済病院に勤め、中皮腫の治療にとても詳しいかどうかというところでありますが、横須賀共済病院という中皮腫のメッカにいること、自分が化学療法家で考えていること、今横須賀共済病院でがんゲノム医療に携わっています。その経験を踏まえて話をさせていただければと思います。

 前回の講演会です。私の上司である稲瀬先生に話していただいたということで、後輩の私が、その後を引き継いで、今日、お話ししたいと思います。本日の話題ですが、最初悪性胸膜中皮腫の動向に触れた後に、薬物療法の変遷(過去・現在・未来)を考えたいと思います。現在の治療戦略、新規治療開発をお話します。

 少し怪しい治療も入りますので、(編者注)YOUTUBEでは別に扱わせて頂きます。自分が熱心にやっている遺伝子異常、がんゲノム検査、当院は治験施設でありませんが、その話題についても触れられればと思います。

 

 その前に大事なことだと自分が考えていることです。治療は総力戦です。内科医の立場から言うと転移などがあった場合は薬物療法がメインで、他の治療はどうかという意味合いもあります。今はそのような局所療法が非常に重要視されています。横須賀共済病院や東京医科歯科大学で長く生きている人は、三つの療法(外科、薬物、○○)を組み合わせている患者さんではないかと思います。予後が良いといいますか、元気な患者さんだから全部をやれたということもありますが、この三つの治療を組み合わせていくことが重要ではないかということが1点です。

 もう一つ中皮腫の治療で考えなければいけないことは、保険医療の診療のハードルがあります。現在、邦で承認されている薬剤は、シスプラチン、ペメトレキセド、ニボルマブ、イピリムマブのみです。今回は論文ベースのデータを紹介していきますが、お断りのように、「保険適応外の薬剤の使用、適応外の使用法を推奨するものではありません」と書いていますが、現実的には保険適応外の治療を使用していることも事実です。その根拠は実は厚労省が55年通知と言いまして「再審査期間が終了した古い薬に関しては、個々の症例ごとに保険適応の可否を学術上の根拠と薬理作用に基づいて適応外使用で使っていい」いうおふれが出ているのです。私たちが適応外で使う場合は、この範囲内だと判断している場合に使っているという状況になります。「使えない」、「微妙」、

「ほぼ全国どこで使っても適応外で大丈夫」の段階があるかと思います。その基準が不明確でA県で大丈夫だが、B県では保険ではだめ、という保険の問題があり、呼吸器診療に関わる者として胸腺がんと悪性胸膜中皮腫という希少がんで、悩ましいところがあります。横須賀共済病院は準公的病院で、なかなか踏み込んだ治療はできず、55年通知を絶えず考え治療しているという実態があります。

 

 ここから悪性中皮腫の死亡数の推移です。軒並み増えてきて、2018年、2019年、2020年辺りは少し横ばい基調になります。最新のデータまで取れませんでしたが、実数は東京でなく東京は抜かれていたと思いますが、2020年は東京が一番多く、人口比にすると北海道、兵庫、大阪やはり関西や北海道が多く東京は5番目でした。

 

 薬物療法の歴史について、話ししたいと思います。自分が考えるには、中皮腫の薬物療法の歴史には、三つのフェーズがあるのではないかと思っています。最初「ペメトレキセド登場」と書いていますが、その上に書いてある、「2003年エンファシススタディでシスプラチンとペメトレキセドという治療がいい」ということが分かり日本とFDA(アメリカ)ですね、日本で承認され新しい効果的な薬が加わったという形になります。

 その後新しい治療開発は進みませんでしたが、2010年代半ばに血管新生阻害薬の併用が良いのではということになります。三つぐらいの薬があり2016年ベバシズマブというお薬を使ったものだけは、統計学的に優位な結果でした。承認上の問題で残念ながら保険承認にならず「挫折」としましたが、なかなか難しい所と思います。

 ここ数年免疫療法の台頭で、日本ではニボルマブ、オプジーボの試験が行われ、世界に先駆け免疫療法ができるようになりました。日本を含めた海外との大きな臨床試験で、ニボルマブとイピリムマブ、オプジーボとヤーボイという薬が効果的ということで、免疫療法が台頭してきた状況になります。

 以上の中皮腫の薬物療法の流れについて、ゆっくり見ていきたいと思います。ペメトレキセド(商品名アリムタ)ですが、今はジェネリックも出て別の名前の薬もあったと思います。これが2003年で20年前の臨床試験です。シスプラチンとシスプラチンに葉酸代謝の拮抗剤、代謝を抑えるようなお薬を上乗せするものと、どちらがいいかというような比較試験が行われました。これは途中で毒性が出たために葉酸とビタミンB12の投与を行うことになります。当初43例で治療の関連死が見られ、葉酸代謝拮抗剤による葉酸とビタミンB12のプールの減少でないかということで、この試験は途中から葉酸とビタミンB12を併用しながら行われました。

 これが全生存期間です。左は全ての人を対象にしたもの、右のFSPは葉酸とビタミンB12をやった人に限って統計解析したものになります。シスプラチン単独だと10か月だったものが3.3か月のびて統計学的に優位だということで、このシスプラチンとペメトレキセドが標準治療の一つになりました。

 全生存期間と同様に、PFSは病気が悪くなるまでの期間になります。併用療法するとシスプラチンだけより長く効果が持っているという良い結果が得られました。シスプラチンとペメトレキセドの併用療法は、確かに毒性は増えますが葉酸とビタミンB12を加えることによって薬が長期間継続できて、好中球減少や消化器症状も軽減されているというデータが出ました。

 専門的になりますがプラチナ製剤のような機序のお薬は、シスプラチンと有名なカルボプラチンという薬があります。シスプラチンは腎機能が悪かったり高齢者で使いにくいということで、肺がんなどでカルボプラチンを主軸で使っていますが、カルボプラチンはどうかということが、次に出てくるかと思います。

 カルボプラチンとペメトレキセドを加えた、数が多くない試験です。ORRは奏効率といって、がんが全患者さんに対して何パーセントの患者さんが一定の縮小が見られたかということです。カルボプラチンにすると劣っていますが、PFSは効果が持続した期間や生存期間に関してそれほど変わりないということで、治療の選択肢として十分候補にはなり得るということです。カルボプラチンは保険適応されていませんで、ガイドラインにも但し書きがあります。

 最初に言ったような状況もあって適応外だけれど、患者さんによっては使用しているといった実態はあります。当初シスプラチンとペメトレキセドは、最初病気が増悪するまで継続していました。自分が2010年前に、胸膜中皮腫の患者さんにプラチナとペメトレキセドを投与した時は悪くなるまで、8コースでも10コースでも続けていました。この治療を続けていくのは体力的にも毒性的にもきつく肺がんに準じて、大体4回から6回やって、その後は一旦やめるのが、その後の臨床試験で標準になりました。

 その後の治療はどうするかというと、何もしないのかという点が、一つの臨床的疑問としてあります。肺がん

 では維持療法という考え方があります。薬剤Aと薬剤Bを使って効果があった場合は薬剤B、同じ1種類の薬だけをずっと悪くなるまで続けるという考え方です。もう一つはスイッチ(交代)するメインテナンス療法という考えで、AとBで薬が効いた場合途中から毒性の軽い薬C薬替え、それをずっと続けることが考えられます。

 胸膜中皮腫において、維持療法がどうかということを見るフェーズ2の試験が行われました。シスプラチンあるいはカルボプラチンとペメトレキセドを4回から6回の後、病気が進行していない患者さんにおいて、ペメトレキセドのみ使うか、何もしないか。27例と22例と少ない数ですが、比較する試験が行われました。普通は続けたほうが無増悪生存期間が長くなるのですが、あまり変わりがありません。生存期間、この数字だけを見ると、中央値としては少し長く見えますが、統計学的に延長がないということで、基本的には、維持療法に関しては、延長することに関してはエビデンスがないということになっています。

 先ほどお見せしたように、この論文一つぐらいしかないことと、少数例の報告で、意見が分かれていることも事実です。日本の肺がん診療のガイドラインでは、プラチナ製剤とペメトレキセド投与後には行わないように提案するということが合意率85%なので、スタンダードには行いませんが、いろいろなところで伝え聞く実臨床では、ケース・バイ・ケースで対応されているような気はします。

 スイッチ・メンテナンス、プラチナ製剤とペメトレキセドを投与した後に、ゲムシタビンという別の薬を投与する維持療法に関しては提案する形になっています。NVALT19試験があって、プラチナとペメトレキセドの後に、薬を替えゲムシタビンを続けると生存期間では差がないけれども、奏効率や無増悪の生存期間で延長が認められているというデータに基づいて提案がされています。実際自分が伝え聞く限り、この13のbの治療をやっているという話はあまり聞かないように思います。

 ペメトレキセドは中皮腫のキードラッグで、まとめますと、前投薬でビタミンB12と葉酸を1週間前から使用します。ペメトレキセドは腎機能、クレアチニンクレアンスは45ML/ミニッツ以上が基本と言われます。実は、高年齢、体が小柄な人は結構45を切ることがあって、その時どうしようということがあります。

 このお薬は皮疹対策で、海外では投与前日から翌日までステロイドとデキサメサゾンが投与されていました。

 日本の現況で前日から飲ませることは難しく、現在投与当日は点滴で、翌日、翌々日にデキサメサゾンが入っている場合もあり、患者さんにより皮疹が起きる場合、2クール目から投与する患者さんもいるかと思います。

 最近はあまり経験しませんが、水曜日点滴すると土日に一過性に熱が出たりする患者さんがいたと思います。痛みがあるので消炎鎮痛剤を使ったりしますが、添付文書上毒性が増強されるので、前後はお休みしてください、とあります。

 ビタミンに関して1週間ですが、適正使用ガイドラインには一応1週間と書いてあるので、基本はそれを守るようにはしています。

 腎機能に関して45が微妙で、では40だったら使ったらいけないのか、そのようなことも悩んだりします。基本40以上だったらいいけれども、30台になったら休薬するのか、日常臨床ではやっています。そもそも、クレアチニンクレアンスの計算法が、日本とアメリカ、昔はクレアチニンの測定法が違っていたり、抗がん剤を投与するときは対表面積で計算して投与しますが、この基準は絶対値なので、腎機能も対表面積で補正した値で判断すべきではないかと、日常臨床上、思うことはあります。ただ、医師の立場から言うと、適正使用に適切に対応することが建前ですので、現実には、このCcr45をできるだけ基準に、治療はしています。

 実際、市販後調査のデータですが、Ccr45以下で、953人のうち42人に投与されていますが、確かに、骨髄抑制や、副作用が強く出ているというようなデータはあると思っています。

 ここまでのまとめですが、PS 0-2の切除不能の中皮腫の患者さんには薬物療法を行うことを推奨します。PS 3-4の人には臨床試験が組めないので、薬物療法は行わないようにします。シスプラチンとペメトレキセドの併用療法は、推奨の強さが1で、エビデンスはBですが、合意率95%ということで、推奨するとなっています。高齢者も同じくプラチナ製剤併用療法を行うように提案すると書いていて、高齢者の場合カルボプラチンをシスプラチンの代わりに使うことも、ある程度許容されるのではないかと、個人的には思っています。

 

 第2部です。血管新生阻害薬の話をします。血管新生阻害薬はどうして効くかとなると、一つは兵糧攻めです。腫瘍に行く血管が退縮すると栄養が行かなくなり、新しい血管ができないと腫瘍に対して栄養が行かないことになります。もう一つの機序とし腫瘍血管は抗がん剤が十分届かない不良の血管なので、血管新生阻害薬を使うことで、残存血管が正常化し、抗がん剤がしっかり腫瘍に届くということが、メリットと考えられています。

 マップスス試験というフランスで行われた試験です。シスプラチンとペメトレキセドの薬に、血管新生阻害薬のベバシズマブを加えた場合と加えない場合で比較する試験が行われました。全生存期間、無増悪生存期間とも、加えることによって延長が認められ最初は承認申請が出されていました。自分は細かい裏事情は分かりませんが、臨床試験の基準を満たしていなかったということで、各国で取り下げになっています。一部の国において保険でなんとか使えたりしますが、残念ながら日本と欧州で使えないという状況です。

 血管新生阻害薬にもう1種類試験があります。シスプラチンと同じくペメトレキセドにニンテダニブ、オフェブの薬で、現在間質性肺炎の線維化を抑制するお薬です。フェーズ2試験の一段前の試験で、無増悪生存期間が有効でないかという話でしたが、症例数を増やすと増悪までの期間6.8か月、7か月とあまり変わりなかった。ネガティブ・スタディでした。血管新生阻害薬が盛り上がった後、その後使えないという状況になっています。難しいのは薬物療法の対象の悪性胸膜中皮腫に、血管新生阻害薬の併用は勧められるか、ベバシズマブを追加することを提案するとなっています。保険勧奨されないのに提案していいのかは微妙だと思ったりはしますが、ガイドラインにこのような記載をすることで、保険承認を後押しする意味合いもあるとは聞いています。

 

 第3部です。免疫療法の台頭です。一昔前は免疫療法というと怪しいリンパ球療法などが言われていましたが、免疫チェックポイント機構を抑え調節するような薬が出て画期的に変わりました。T細胞ががん細胞を攻撃するのですが、T細胞の活性化を調節する免疫チェックポイント機構があり、がん細胞の発現しているPD-L1と、T細胞の発現しているPD-1レセプターの二つがつくと、T細胞の活性化が抑えられがんをやっつけなくなる機序が言われています。PD-1とPD-L1の結びつきをどちらかを抑えてやる。PD-1の抗体かPD-L1の抗体を抑えてやることで、T細胞の元気が出て、がん細胞をやっつけられるようになるというような機序が考えられています。機序的にPD-L1というがん細胞がたくさん発現していれば、その薬が効きやすいという仮説は立ちますが、なかなかそういかないこともあります。もう一つリンパ球ががん細胞を殺すためには、リンパ球にがん細胞がどのようなものかを教育する、プライミングというフェーズが必要になります。そこに関与するのが、CTLA-4とB7、CD28、の分子が活性化や不活性化を調節しています。B7とCTLA-4がくっつくとリンパ球が不活性化といいますか、元気がなくなって、CTLA-4を抑えることによって、プライミングが十分に行くようになります。二つの実際はこのような単純ではありませんが、この三つのどこかを抑えT細胞が元気を取り戻して、やっつけようというのが、免疫療法の基本的な考えになります。

 

 最初は本庶先生のオプジーボだけでしたが、最近薬がどんどん出てきました。PD-1抗体が3種類、PD-L1抗体が3種類、CTLA抗体が2種類です。現在中皮腫で使えるものは、オプジーボ、ニボルマブとイピリムマブ、ヤーボイの2種類ですが、他のお薬も開発は少しずつ進んでいます。現在使えるオプジーボに関しては、PD-1の部分を抑えることと、イピリムマブに関しては、CTLA-4を抑えるという機序で、効果は発現すると言われています。

 

 実際、自分は他癌種の話をすることもありますが、いろいろながん腫で免疫療法が使えるようになりました。当初はとても高い薬で、このようなものを使うと日本の医療財政はどうなるのかと思っていましたが、今や使えないものは、すい臓がんと卵巣がん、一部の大腸がんぐらいになりました。

 免疫療法にもいろいろな開発のロードマップがあって、薬剤別にあるということと、最初は治療歴がある人のセカンドラインから開発が始まって、だんだん最初から使っていこうというように進んでいきます。この図はややこしいので、後で時折解説を入れながら、説明していきます。まず、免疫療法が出てきたときに、すでに治療、例えばシスプラチンとペメトレキセドをやったような患者さんに、単剤でオプジーボだけ、ニボルマブだけを使ってどうか、というような試験が考えられました。実は、この分野においては、日本は先んじて、MERIT試験というフェーズ2の試験を34例、非常に少ないですが、二次治療、三次治療を行った患者さんにおいて、このような臨床試験が行われました。

 これを見ると、ORRは奏効率ですが、30%ぐらいの患者さんで腫瘍が縮小して、腫瘍がある程度増悪しないで抑えられている人が7割弱ぐらいいます。特にバイフェージックなど、緑色ですね、組織系が上皮型ではないような患者さんに特によく効いたり、セカンドラインでやったほうがよく効いたり、先ほど少しお話ししましたが、PD-L1が発現している人がより小さくなったり、一定の効果を認めたという結果が出ました。

 これは、上皮型と二相型、肉腫型ですが、これを見て分かるとおり、やはり免疫療法は、少なくともこの試験においては、全体として、mOSは生存期間の中央値ですが、上皮型と肉腫型、数が少ないので何とも言えませんが、肉腫型や二相型でよく効いています。同じくPFSという増悪するまでの期間も、肉腫型と二相型でよく効いている印象があることと、先ほど言った、PD-L1が発現していると効きやすいとか効きにくいということがありますが、何となく発現しているほうが効いているような感じはありますが、統計学的な有意差はなしという解釈でした。

 これはわずか三十数例のデータで、比較もしていませんが、日本においては、自分が伝え聞くところによると、患者会の後押しもあって、非常に早期にオプジーボが保険償還されたと聞いています。

 世界的には少し遅れて、コンファーム試験といって、もっと200例規模の第3層の比較試験が同じく行われて、これによって、やはり、何もしないよりも、ニボルマブを投与することによって、奏効率、生存期間、無増悪生存期間がそれぞれ延長したということで、ニボルマブ単剤で効果があるということが、さらに検証されました。今日はデータは出しませんが、今年のASCOで、どのような人に効いて、どのような人に効かないか、そのような細かいデータが発表されていました。

 では、ニボルマブ以外の、単剤での開発はどうかということになります。中には少し効いたというデータもありますが、ニボルマブ、トレメリムマブ、ペムブロリズマブで単剤の試験が行われましたが、結果として、現在、保険で使えそうというような話は聞かず、トータルとしては、あまり良い結果はなかったという認識でいます。

 では次に、1種類ではなくて2種類、免疫チェックポイント阻害剤同士を組み合わせればどうかという話に行きます。現在、特に研究、臨床試験が進んでいるものは、ニボルマブとイピリムマブ、PD-1抗体とCTLA-4抗体、それから、口がもつれそうですが、デュルバルマブとトレメリムマブ、これはPD-L1抗体とCTLA-4抗体、この二つの組み合わせの試験が先行して進んでいます。

 これが、現在の中皮腫の治療の、一つ大きな選択肢を増やした、CheckMate743試験です。標準治療群では、先ほどから出てきた、シスプラチンやカルボプラチンとペメトレキセドの組み合わせの治療に対して、ニボルマブとイピリムマブ、オプジーボとヤーボイ、免疫療法のコンビネーションを比較する試験が行われました。

 日本でどのような施設が入ったのかを調べてみました。残念ながら、当院は入っていませんが、広島大学や国がん中央、山口宇部医療センター、兵庫医科大、岡山労災病院などが入っていて、アジア人は10%程度と聞いています。これを見ると、全生存期間は、標準治療のシスプラチン、ペメトレキセドに関して延長しているということで、この試験は、ポジティブといいますか、効果があったという判断となりました。

 悪くなるまでの期間に関しては有意差がなくて、むしろ中央値だけを見ると標準治療群のほうがいいですが、このカーブを見ると、クロスしています。これはどのようなことかというと、免疫療法を受けている人は、免疫療法は効く人には効くけれども、効かない人には効かないので、最初にばーんと落ちて、効かない人には効かないということになりますが、だんだん時間がたつと、効く人には長期間効きます。肺がんなどでは4年5年というところまでのデータが結構出ていますが、そのような効き方をすることが、一つの特徴ではないかと思っています。

 では、このようなコンビネーションがどのような患者さんに効果があるのかというと、先ほどのニボルマブの試験と同様に、上皮型と非上皮型を比べると、非上皮型で、化学療法に関して、非常によく効いています。ただ、よく見ると、生存期間の中央値だけは、上皮型でも非上皮型でも変わりはありませんが、従来、肉腫型と言われていたものは、やはり抗がん剤が効きにくいということで、特に免疫療法の恩恵は、この非上皮型で受けるのではないかと思っています。

 では、先ほどから時々出てくる、がん細胞のPD-L1の発現によって違うかというと、これもPD-L1の発現があるほうが、差があるように認められますが、これは、元々の患者の対象群の相別間因子といいますか、正当な比較試験ではないことと、何となくPD-L1の発現しているほうの抗がん剤の効きが悪いという、これがたまたまなのかどうかというところはありますが、PD-L1で、効果がある人、ない人を判断することは、この試験上は難しいのではないかという判断になっています。

 それから、最近は、クオリティ・オブ・ライフ、要するに健康関連です、ヘルス・リレイティッドのクオリティ・オブ・ライフがどうか。先ほど、上皮型だと生存期間やそのようなものの差はそれほどないのではないかという話はしましたが、QОLを見ると、上皮型においても、どちらかというと、併用群、要するに、免疫療法の併用群が、インプルーブメントの指標を示しているのではないかと見ています。

 ただ、免疫療法の併用は、副作用が非常に問題になります。この試験では、甲状腺機能が落ちた人が、全体で12%、それから、よく皮疹が出ますが、皮疹が13%、下痢や大腸炎、肺炎や肝炎です。この数字だけを見ると、一般的には許容範囲内かと思います。つい最近、これはホームページで誰でも見られますが、中皮腫ではなくて、非小細胞肺がんに、ニボルマブとイピリムマブ併用療法、抗がん剤と併用はされていますが、重篤な副作用が出ました、というようなプレスリリースがあります。

 結局、これもあくまで肺がんの試験だということと、ニボルマブ、イピリムマブだけではなくて、化学療法をあくまで併用している中の試験にはなりますが、ニボルマブとイピリムマブを併用している患者さんにおいて、治療関連死がたしか7%ありました。肺臓炎は、自分たち呼吸器内科ではよく薬剤性の肺炎を行って、亡くなられた方がいるという話はありますが、この薬に特徴的な副作用として、サイトカイン放出症候群が3例で認められたということが注意喚起されました。

 サイトカイン放出症候群は、免疫反応を惹起することによって、サイトカインが放出されて、あたかもインフルエンザやコロナ感染、あるいは敗血症といった、重篤な感染症と似たような症状を引き起こして、あっという間に命に関わるという、非常に怖い副作用だと思っています。いろいろ注意喚起はされていますが、起きたときにこれにうまく対応できるかどうかというと、なかなか、感染症かサイトカイン放出症候群かという鑑別も難しいですし、注意していても起こり得ることは回避できませんが、一応、このようなことがあるということは、頭に置きながらやらなければいけないということです。

 また、これはあくまで肺がんの抗がん剤との併用なので、先ほどお話ししている、中皮腫の試験、中皮腫はどうかというデータに関しては、このような重篤なものに関しては、現在まで報告はされていません。ただ、医療者側としては、このような報告があることは一応患者さんにお話ししたうえで、中皮腫に関して言うと、やはりイピリムマブとニボルマブという治療が、キーの治療の一つですので、相談のうえ、現場では使用しているといった状況になります。

 ちなみに、免疫関係の有害事象、先ほどのような致死的なものはあれですが、そうではないものは、逆に言うと、そのような副作用が出た患者さんにはよく効いているという、裏腹の結果、裏腹ではありませんが、蜜は毒という感じになるのかもしれませんが、そのような報告がされています。これは肺がんのガイドラインですが、ニボルマブ、イピリムマブの併用療法を行うように推奨すると出ています。

 その他の治療は、残念ながら、保険償還はないものばかりになります。赤字で出ているものはガイドラインに掲載されているもので、ビノレルビン、ゲムシタビン、GEMビノレルビンが、一応、挙がっています。その他にも、カルボGEMなど、兵庫医大の先生はよくGEMイリノテカンをペーパーで報告されていますが、現実的にはそれほど効果が得られるわけではなく、ここに書いてある薬が頻回に投与されているかというと、それほどでもないという事実ではあります。

 ちなみに、どれぐらい効果があるかということを見ていますが、これはフェーズ2試験で、ビノレルビンとゲムシタビンをコンビネーションした試験です。大体、ORRは奏効率が10%ぐらいで、生存期間が10か月ぐらいとなっています。日本人のこれはレトロの解析ですが、日本人に絞った解析でも、報告例を見ると、効いた人が十数パーセントで、やはり生存期間としては10か月ぐらいです。

 これは、ビノレルビンの単剤の試験です。やはり、効果や生存期間に関しては、同様のデータかと思います。ゲムシタビンに関しても、むしろ奏効率が10%行っていないというデータがあります。先ほど、ペメトレキセドというお薬は、維持療法で使わなければ一旦終了にしてしまいますが、再投与も一つの選択肢と言われています。実際、これは観察研究ですが、リスポンスやOSは同じような数字にはなっていますが、特に、最初に効いて、もう一度投与するまでの期間が長い、1年以上たってから投与する場合は結構、再投与の効果があるという報告がされています。

 二次治療以降に関して言うと、ガイドラインでは、最初に出てきたニボルマブの単剤や、ペメトレキセドの再投与、ビノレルビンとゲムシタビン、このような併用療法を行うことが、推奨の強さは弱いですし、エビデンスも弱いですが、このような形で、記載はされています。

 ここで少し話が変わって、当院での、先ほど出た、イピリムマブ、ニボルマブの使用状況です。2021年9月から7月までで、計9人の患者さんに使用しました。最高齢は78歳、男性7人、女性2人で、上皮型の人が6人、二相型が1人、肉腫型が2人でした。何コース投与できたかということですが、実は1コース、それもday1しか投与できない人が2人いて、やはり全身状態が不良の場合は、言い方は悪いですが、一発逆転を狙っても、なかなか効果が期待しづらいと思います。あとは、2コース、3コース、4コース、7コース投与されていた方がいましたが、PRが3例、SDが3例という状況になります。効く人には効いていますが、ただ、最初に言ったように、ずっと肺がんで認められるような、2年を過ぎても効果が続いている患者さんは、残念ながら、経験していません。

 あとはどのような患者さんに使ったかというと、初回進行例、非根治の手術後に使ったり、術後再発で使ったり、異時性の重複で使ったり、本来、この治療は術前で使うというたてつけではありませんが、使ってみたら想像以上に効果を認めて、結果的に術前になったような症例もあります。免疫の副作用に関しては、やはり腸炎や副腎皮質低下症で投与が中止になった患者さんもいますし、副作用はそこそこ出ています。実際、この薬が使えるようになってから、いわゆるファーストラインで、選択肢はあるのですが、1例を除いて、現在、イピリムマブ、ニボルマブを当院では使っているという状況になります。

 ちなみに、当院の治療の場合だとどうしても外科の集学的治療という形が主体になりますので、7対3ぐらいで、諸星先生を含め、外科の先生が頑張って治療をしているという形で、内科の場合は、明らかに手術療法と関係ない、あるいは最初から胸水貯留が来て、内科で診断がついて、そのまま診ている症例が多いので、これらの治療成績は、かなり外科の先生が行っているという背景はあります。

 これはケース1で、70歳代の上皮型で、初回診断の患者さんです。これが治療前で、2コースやりましたが、この辺りの胸膜肥厚がかなり良くなっています。ただ、最終的には、7コース施行した後、効かなくなって、次の治療に移っています。

 これは当初、肉腫型という紹介で、肉腫型だからイピニボしかないだろうとイピニボをやったのですが、病理を見直してみると上皮型ということが途中で分かって、2コースやると非常によく効いて、「じゃあ、手術しましょう」ということで、手術をしたら、残存腫瘍がなかったということで、術後治療をやって、現在、再発を認めていないという症例になります。

 3番目も上皮型の症例で、これが治療開始前で、2コースやりました。このようなものを見ると、切れ味が良くて、よく効いているなと思いますが、この時点で腸炎や皮疹などいろいろな副作用が出て、4コース目のday1以降は、現在、投与を中断しているという状況になっています。現時点では、以後無治療で、明らかな増悪は認めていないという状況になります。

 ガイドラインに、シスプラチンとペメトレキセド併用療法か、ニボルマブとイピリムマブ併用療法か、二つ併記されていて、どちらをやればいいかということに関して、あまり細かい記載はされていません。これはちなみに、アメリカのNCCNというガイドラインの最新版を取ってきた推奨になります。やはり治療を見ると、上皮型か上皮型以外かということが、最初のフローチャートの分かれ目になっています。上皮型ではなくて、肉腫型や二相型の場合は、やはりニボルマブ、イピリムマブが推奨されます。上皮型の場合は、このガイドライン上では、ニボルマブ、イピリムマブ、シスプラチン、ペメトレキセド、両方併記された記載になっています。

 ちなみにこれは、アップツーデートという、エビデンスを総括したような、有料のウエブサイトがありますが、そこでフローチャートが出てきたので、それをまとめてみました。このガイドライン上では、一応、上皮型ではプラチナPEMを推奨して、イピリムマブ、ニボルマブは代替治療、特に化学療法が認容性のない患者さんでということで、どちらかというと、プラチナ療法とペメトレキセド療法に重きを置いているような記載になっています。もちろん、非上皮型では、イピリムマブ、ニボルマブがまず優先されるべきというフローチャートになっています。

 当院で現在どうしているか、これも流動的ですが、一次治療ですが、肉腫型、二相があったらイピニボになりますし、上皮型であっても、現在はほとんどイピニボを使っているという状況になります。当初は、手術の可能性があればプラチナPEMが優先されましたが、先ほどお見せしたように、イピニボが非常によく効いた症例もあるので、これが適切な使い方かと言われると議論はありますが、効いた患者さんは、その後、手術に持っていくという考えでいます。

 二次治療に関しては、プラチナ療法とペメトレキセドです。残念ながら、血管新生阻害薬は、現在、併用は行っていません。三次治療以降は、先ほど出てきたような治療を、患者さんの状況に応じて適宜使い、PSが良ければ使い分けているという事情になっています。

 これからの治療です。まず、複合免疫療法の話をします。セットがお得かどうか分かりませんが、免疫と免疫チェックポイント、これは今までお話ししてきました。では、免疫チェックポイントに、例えば細胞障害性の抗がん剤を加えます。さらに、これに、分子標的薬血管新生阻害薬を加えます。肺がんの領域ではこの複合免疫療法はかなり進んでいますが、中皮腫の領域でもいろいろな試験が行われていて、現在、赤字で出ているものに関しては、結果が出ています。

 これは日本でやったものですが、シスプラチンとペメトレキセドにニボルマブを加えた、抗がん剤と免疫療法の併用になります。奏効率が77.8%で、生存期間の中央値は20.8か月、非常に良いですが、18例ですし、これをもって保険適用とはなかなかいかないのではないかと思います。

 先月のASCOで、CCTG IND.277という、化学療法にペンブロリズマブ、いわゆるキイトルーダを併用した臨床試験の成績が報告されました。日本は入っていなくて、カナダとフランスとイタリアで行われましたが、先ほどからお話ししているプラチナ療法とペメトレキセドに、VS(ヴァーサス)ですね、ペンブロリズマブ、いわゆるキイトルーダを加えて、免疫療法が効いている場合は最長2年まで続けるというたてつけの試験が行われました。これを見ると、赤字が免疫療法の上乗せ分ですが、統計学的に優位に、やはり併用群で成績が良かったです。

 こちらは組織型別です。上皮型は差が少ないですが、非上皮型に関しては、上乗せ効果がかなり見られます。PD-L1の発現別にどうかということですが、これもあまり明確な差は、残念ながら、ありませんでした。増悪するまでの期間に関しては、免疫療法の上乗せ群のほうが上回っているというデータになっています。ただ、肺がんなどと比べると、もう少し行ってほしいなという気も、しないことはありません。

 これは、ASCOのスライドから持ってきました。患者さんで、この治療をやったらがんがなくなって、今は何もしていないけれども、治療が効いたというコメントがプレゼンテーションされていました。肺がんにおいては今、免疫療法と抗がん剤の併用は非常によく行われていて、実際、2年過ぎて、3年、4年、その後、無治療で、再発していない、いわゆるロングテールといいますか、長期生存されている方がいますが、中皮腫でそこまでの効果が期待できるかどうかは、今後のデータを見ないと分からないと思っています。

 バイオマーカーは、このような患者さんに効くとか効かないとかいうようなことが分かればいいなというところがありますが、先ほどからお話ししているように、がんの側に、PD-L1という、いわゆる分子標的薬、免疫療法の標的が発現していれば、効果が出る、出ないということがはっきりしていればいいですが、中皮腫に関しては、クエスチョンです。それ以外に、現在言われていることは、遺伝子変異の数が多いと効きやすいのではないか、がんの中にリンパ球がたくさん行っていると、闘う相手がいるから、効果があるのではないか、腸内の細菌叢が効果に関係するのではないかと言われています。ですから、腸内細菌叢に影響を与えるような胃薬や抗生物質が効果に関係したり、ステロイドのように、免疫を抑えるお薬、去年のASCOで、鎮痛剤の一種のアセトアミノフェンが効果に関わるのではないかと言われてはいますが、決定的な、良い、悪いというところまでの確定的なデータはないのではないかと思っています。

 血管新生阻害剤がだめだという話をしていましたが、少しずつ見直されつつある部分もあります。これはイタリアで行われたフェーズ2試験で、ゲムシタビンにラムシルマブ、これも血管新生阻害薬の1種類ですが、セカンドライン以降で、このような併用試験が行われました。全生存期間は有意差がありましたが、無増悪生存期間は、有意差がありません。ただ、成績自体は、セカンドライン以降のセッティングで悪くないのではないかと思っています。ただ、効果がある人は、効いたという奏効率は、それほど、6%、8%と多くはありませんが、効かなかった患者さんが、血管新生阻害薬を加えると20%弱ぐらい減っているということで、いくばくかの効果は期待できるのではないかとは思いますが、現時点ではこのデータぐらいしかないので、併用療法を行うだけの根拠が明確ではありません。保険も通っていませんし、実認証では難しいという状況になっています。

 レンバチニブも血管新生阻害薬、それからマルチキナーゼもいろいろな標的を抑えるお薬ですが、このようなお薬と免疫療法の併用でも、去年の世界肺がんですが、少し良好な成績が出ていました。

 最後に、まとめになります。悪性胸膜中皮腫の現時点での薬物療法のキードラッグは、プラチナ製剤、ペメトレキセド、免疫チェックポイント阻害剤です。どのような人に効くかということがもう少し分かれば、どちらの薬を先にやるというようなこともできてくるので、バイオマーカーの確立が望まれます。

 今後の現実的な治療としては、まずは複合免疫療法、あるいは血管新生阻害薬との併用が期待されるのではないかと思います。ゲノム医療の発展による、オバマ大統領が言ったPrecision medicine、いわゆる精密医療も期待されますが、これが軌道に乗るにはまだ少し時間がかかるのではないかと考えています。以上になります。ご清聴ありがとうございました。

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