石綿関連疾患の診断・ケア・飛散防止対策 石綿関連疾患総論(11/12)

Lecture by Dr Natori 2005

石綿関連疾患総論(11/12)

 建物由来の中皮腫は日本で初めてで、今後中皮腫の発症では建物の問診も行って頂く時代になってきました(61)。大変残念な事は、民間の1000平方メートルの建物は2005年の建物調査対象ではなく、そこで既に被害が生じている事です。

 最近の報道を聞くと、吸入した全員がアスベスト関連疾患で亡くなるような不安を持つ方がいますが、全員がなるわけでは決してありません(62)。1994年〜95年私達は、米海軍基地の造船所の疫学調査を行ないました。ボイラー工や断熱工といった造船所でもアスベスト曝露が高度の職種に1947年当時在籍されていた方を48年後に調査したものです。死亡者で見ますと、85%の方はアスベスト以外の理由で亡くなっていまして、老衰の方、脳梗塞や心筋梗塞、胃ガン等いろいろな方がいます。肺ガンや中皮腫や石綿肺等のアスベスト関連疾患で亡くなられた方は、全体の15%くらいでした。しかしレントゲン写真レベルで見ますと、60%くらいの方に石綿肺や胸膜肥厚斑等の関連所見がでています。注意して頂きたいのは、職業性曝露が高度な集団でも、0/1以上の石綿肺や胸膜肥厚斑もレントゲン写真やCT写真で認められない方が40%程度いるという事です。病理所見が得られた人で、石綿肺や胸膜肥厚斑等を確認すると85%くらいの人に何らかの所見が認められました。

 石綿はかなりの方に様々なレベルでの影響を与えますが、病理レベルでは85%、レントゲンレベルで60%、死亡診断書レベルで15%という関係性をご理解いただきたい。石綿の高濃度曝露の集団でもこうした比率で、逆に言うと病理レベルでも15%には石綿関連所見が認められない人がおり、レントゲンレベルでは40%に関連所見がない結果です。

 実際に過去にいろんな疫学調査がされたので、石綿のリスクははっきり分かっています(63)。この数式で、あてはめると、計算が出来る。簡単に言うと、石綿濃度と吸入時間と吸入してからの時間によりリスクが決まります。ですからあなたの作業はどうもこれと類似の仕事だから、このくらいの濃度だったんじゃないかな。そして何年経っているという話をある程度科学的にすることは可能です。しかしこの式を出してもなかなか実感として伝わらないので、こういうレベルですから心配ないとか、このくらい心配ですから定期的に健診しましょうというようなお話をしています。

 これはワールドトレードセンターです(写真はありません)。ここもアスベストを吹いていたわけです。飛行機がぶつかった後、救助を含め必死の作業が行われました。ここの部分は鉄骨で、一見綿状ではないですが、これが石綿吹き付けです。ワールドトレードセンターでは吹き付け石綿のある環境で、多くの方が作業をされました。アメリカはこの方々の希望者を疫学調査の対象とするとしています。そこらへんが立派です。日本はなかなかそこまでは行きません。やはりきちっとした疫学調査を必要な地域や産業でする必要があります。特に、石綿関連肺ガンの調査が今後、重要となります。


 あと二つだけ話します(64)(65)。吹き付けアスベストは1975年に問題になりました。重要な発癌物質ですから本来、日本のどこにどれだけ吹きつけ石綿があるのか調査が行われていなければなりません。ところが現在吹き付け石綿の量すら国が把握しておらず、現在ようやく調査しているわけです。本来1975年にしなくてはいけなかった事です。

 ある詳しい石綿除去業者の方が、2005年初頭「現在おそらく公共建築は吹いた石綿の50%は除去されており、民間建築物では90%残っていて10%しか除去されていない。」と発言しました。この数値が、一番真実味がある数値です。「吹き付けアスベストはどのくらい残っているのですか?」と国に質問しても誰も答えられない状態なのです。この国の無責任さを感じませんか?

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