石綿関連疾患の診断・ケア・飛散防止対策 石綿関連疾患総論(10/12)

Lecture by Dr Natori 2005

石綿関連疾患総論(10/12)

 保護者の石綿対策をとって欲しいという要望に係わらず、ベニヤ板1枚で保育室との間を囲い目張りもしないで、写真の手前では児童が遊んだり食べたり昼寝したりの状態で、ベニヤの向こう側で改築工事が行われました。普通は違法工事自体が発覚しなかったと思うのですが、石綿について詳しい保護者が工事現場を毎日チェックされて、吹きつけ石綿の飛散が判明しました。周囲の方が工事現場を見る事の大事さが、実証された点でも典型的な例です。

 保育室の反対側では、赤い鉄骨に吹き付けられていたアスベストが飛散し、赤い鉄骨が確認出来る部分が、左の写真の柱にも、右の写真の天井でも、よくわかると思います(56)。その後保護者の要望から委員会がつくられ、健康対策が始まりました。

 環境曝露では、建物の吹きつけ石綿からの中皮腫の発症が知られています(57)。この方は右の肺の外に胸水が溜まっていて、悪性胸膜中皮腫と判明しましたが、アスベストの職歴がありませんでした。

 アスベストとの接点を医師から聞かれて、30年以上仕事をしていた文具店が気になったそうです。

 おつとめしていた文房具店は、1階に文房具店があり、2階が倉庫でした(58)。どこかでアスベストを吸っていないかと聞かれ、「そうだ2階に青いものがある。」と思われたそうです。実は文房具店の2階の壁に、青石綿=クロシドライトが吹き付けられていました。写真の文具の棚の後ろに青石綿が見えます。

 東京労働安全衛生センターの外山尚紀さんが測定したのですが、屋外はほぼ大気中と同じ(59)。1階と2階はわずかだけど石綿濃度が上昇している。濃度の高い搬入後の清掃は月1回のわずかな作業でした。30年間、彼は2階に大体1日1時間、在庫を取りにいったり帳簿をつけたりしていたそうです。

 上の写真は、この方の肺を調べたフィルター上の石綿小体のものです(60)。石綿小体は乾燥肺1グラム中に72本で、職業性の場合は1グラム1000本以上、職業や原因のわかる環境の曝露が全くない方が35本ですから、2倍程度でした。石綿繊維を電子顕微鏡で調べると1900万本/gでしたが、ばく露なしの10倍で、繊維の中心はクロシドライトでした。大気中からクロシドライトは検出されませんし、詳細な調査で職業やその他の石綿曝露が十分認められず、この倉庫で青石綿を吸った中皮腫ということがわかりました。

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