石綿関連疾患の診断・ケア・飛散防止対策 石綿関連疾患総論(8/12)

Lecture by Dr Natori 2005

石綿関連疾患総論(8/12)

 悪性腹膜中皮腫です(43)。今この病気も増えています。最近私達が相談を受けた13例をまとめました。自動車関連、発電所、教員、石綿パッキング製造、保険関連、父が建設業等、職種も様々で、若年化が目立ちます。

 石綿製造業や石綿吹きつけ業、配管保温等、古くから知られる典型的な石綿吸入の職種の一方で、何か新しい制度がないと救済されないような方が30代で出始めている事も確かに、裏付けられます(44)。

 悪性腹膜中皮腫は、細胞診だけで診断をつける病院も多いのですが、なるべく腹腔胸や開腹下生検が必要と思います(45)。女性の場合は特に細胞診のみの診断ですと、卵巣がん等との鑑別が難しい場合が多い様に思います。残念ですが、なかなか有効な治療法がないのが実情で、現在行われている治療としては、抗がん剤の腹腔内投与が主流でしょう。緩和ケアも重要で、IVHや腹腔内リザーバーが大事かと思います。

 村山先生の推定ですと、男性の胸膜中皮腫患者が、2000〜2039年で平均10万人と予想されています(46)。推計ですから5万人〜15万人と幅がある訳ですが、平均の10万人とします。腹膜中皮腫は胸膜の10分の1位、石綿関連肺がんは中皮腫の1〜2倍といわれていますので、日本の男性の石綿関連疾患は、2000〜2039年で22万〜44万人と推計されます。女性は男性の3分の1とすると合計29〜59万人です。男性の胸膜中皮腫を推計の最低5万人と仮定しても、日本人合計で15〜30万人の方に影響を与える疾患になってしまう訳です。低く見ると年間4000人、多ければ年間1万人というような死亡者数となる時期が推計される訳です。最近の交通事故の死亡者が7000人台と思いますが、交通事故への取り組み同様、今後国全体で対策を立てていかないといけない課題という事が十分おわかり頂けると思います。


 良性石綿胸水は、ご存じの通り、アスベストのばくろ歴があって、同じ側もしくは反対側に胸水を繰り返す良性の疾患です(47)(48)。他の病気が認められないこと、悪性腫瘍が否定できること等の除外診断が重要な疾患です。数ヶ月で自然に胸水は軽快いたしますが、癒着してしまうので拘束性の呼吸障害を起こして、呼吸困難が悪化する例も多く、あります。続発性気管支炎様症状を伴う方もいます。後述する、びまん性胸膜肥厚に発展していく方と、良性石綿胸水の範囲にとどまる方がいます。

 びまん性胸膜肥厚も、良性石綿胸水と同様の経過をたどる石綿関連疾患です(49)。良性石綿胸水がもとになりびまん性胸膜肥厚となる事も多く、胸膜全体の4分の1以上にびまん性の肥厚が見られる良性疾患です。まだら状に起きる胸膜肥厚斑とは違う疾患で、労作時の息切れを伴い拘束性の呼吸機能障害をおこし、経過の中で数年〜十年後には在宅酸素療法となる方が多い疾患です。他の外傷や感染や悪性腫瘍でも似た変化は起きますので、当然ですが鑑別診断が必要です。悪性中皮腫とも似る事がありますので、胸膜生検が必要になることもあります。

 案外見られる良性の石綿関連疾患として、円形無気肺があります(50)。それからCrow's foots' signと言われるカラスの足のサインの病変、Apical Capと言われる肺尖の胸膜肥厚病変もあります。今回はこの3者の説明は省略します。

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