Lecture by Dr Natori 2005
悪性中皮腫の診断は、主にレントゲン写真の所見で胸水とか胸膜腫瘍として診断をされます(37)。レントゲン写真の時点でアスベスト肺の所見と胸膜肥厚斑はないかチェックし、患者さんに職歴等をちょっと聞いていただくと良いです。アスベスト吸入歴の聞き方ですが、最初は「石綿を吸ったことがありますか?」と聞いて、「お仕事は何でしたか?」と聞くのが良いと思います。「次回もう少し詳しく聞くから、昔の事を思い出して教えてね。」というのが実際的です。最初から過去を全部思い出す方は本当に少ないです。その後胸部CTを撮って検査は胸水穿刺とか胸腔鏡下生検に進みと思います。
肺ガンや中皮腫の疑いが濃厚になってきた場合、石綿吸入歴はかなり詳しく聞いていただきたいと思います。「学校を出てどこに仕事に行った?次の仕事は?」と、職歴をすべて聞いていただく必要があります。肺がんや中皮腫の病理組織検査報告書が出る際に、病理の内容のチェックを臨床の先生からもしていただく必要があります。
中皮腫の診断は最近免疫染色等の精度もあがって良くなってきましたが、免疫染色の数が少なく二つしかやっていないとかいう病院があります。言いにくいですが、免疫染色を追加して行うと病理診断が変わる病院が私達に相談のある全国の病院で10%はあるのです。臨床医サイドから病理検査結果報告書を見て、少な目のときは免疫染色を追加してもらうよう、病理医に働きかける事も必要と思います。
病理結果を踏まえて患者家族に説明の準備をすることになりますが、治らないらない病気と急に言われ大変なショックを受ける方が多いです。説明には十分な時間をとっていただきたいのと、看護の方と共同して病気を告げ,告げた後のこころのフォローを看護ともども是非やっていただきたい。また職歴については、なかなか臨床医だけで行うのは難しい。非常に詳しいという方は良いですが、自分だけでは吸入歴の調査が十分できないと思ったら、MSWやNPOの方と協力する必要があります。労災保険制度について病院で詳しい人がいない場合は、やはりNPOの協力が必要です。最初に説明した時はご本人もご家族も頭が真っ白になってしまい、説明のすべては分かっていない場合も多いと思うのです。その際に例えば看護の方が一緒におられれば、後で説明はどうでしたか、と確認も兼ねて聞いていただくようなチーム形成が大事かなと思います。
病理診断のチェックについても、気になる場合は信頼できる別の病理医にコメントをうかがうことも大事です。
中皮腫の治療については、話すと長い事になってしまいますし、良い治療方法がなかなか無い実情がありますので、今回の講座ではあえて触れておりません(38)。
今回はCDDP+Pemetrexed(アリムタ)の治験の話だけを致しますが、この薬は欧米で承認されています。単独投与での延命効果はなかなか無い。CDDPだと6ヶ月ですが、CDDPとPemetrexedで9ヶ月というデータがあります。現在は治験進行中です。2005年の4月から6名、7月から6名、10月から12名に投与されると聞いています。おそらく来年で治験が終了します。少なくとも今までは延命が十分にされる薬が無かったので、これが早期に審査・承認を受けることは患者の強い願いである薬です。
心理的ケアについては後で詳しい話があるので、省略します(39)。ケアが問題になるのは、大きく3回あり、病名を告げて治療法を選ぶ時期、今までやってきた治療がうまくいかず再発したり症状が悪化した時期、病状が末期に入られた時期に、患者さんも御家族も非常に悩まれます。
胸膜中皮腫の死亡者は、早稲田の村山武彦先生が、過去の死亡診断書を基にして、数学的モデルに基づいて予測したデータです(40)。2039年までの40年間に悪性胸膜中皮腫で、日本の男性だけで10万人くらいの方が亡くなるだろうというデータです。
使用量と人口を考えると、他の国も似たようなところにあります(41)。イギリスでは現在毎年2000人くらいの方が亡くなっています。日本も今後人口からそれ以上にいく可能性が高いと思います。
中皮腫はアスベストを使用してから40年の潜伏期で出てきます(42)。日本が今まであまり発症が少なかったのは、戦前の使用量が少なかった事と、1940〜50年当時連合国のアメリカやイギリスは、自分の船や建築に石綿をたくさん使用した反面、当時日本は敵国で軍事力を落とすために石綿輸出を制限した。実はそれが幸いし日本はこれまで被害が少なかった。しかしその後1950〜60年から石綿を多用してしまったので、これからピークがくると言われます。