石綿関連疾患の診断・ケア・飛散防止対策 石綿関連疾患総論(6/12)

Lecture by Dr Natori 2005

石綿関連疾患総論(6/12)

 アスベスト肺ガンは、特にタイプや組織系や治療が、一般の肺がんと大きく変わることはありません(31)。石綿(アスベスト)関連疾患の診断基準を定めたヘルシンキ・クライテリアは、中皮腫の1〜2倍石綿(アスベスト)関連肺ガンがいるとしています。数が多いのに見逃されやすい疾患で、今後注意が必要です。特にクリソタイルばくろの場合、なかなか石綿小体ができないので、手術や解剖の際も含めて石綿小体が見つからない場合、診断が難しい例が多いという問題があります。


 中皮腫の原因ですが、前述のヘルシンキ・クライテリアといって、1997年に書かれた石綿関連疾患の診断根拠となる論文があります(32)(33)。ヘルシンキでいろんな学者が集まって討論し、いろんな論文や疫学調査を集めてみると、ほぼ8割が職業性石綿ばく露だと考えるのが妥当だろうという報告を出しました。もちろん論文には、石綿(アスベスト)関連が100%〜50%とありますが、職歴調査が不十分だとかいうものを除いていくと、このくらいと言われています。それ以外に中皮腫には、石綿による家族ばく露と環境ばく露があります。ここら辺のことは1959-60年のJC Wagner論文にも書いてあることです。石綿鉱山や工場、造船所の周辺での環境曝露の報告例があります。最近では吹き付け石綿のある建物による中皮腫例が出てきて、世界で20数例以上の報告例があると思います。幹線道路や地震による中皮腫の発症は、調査や検証は今のところないと思いますが、石綿(アスベスト)濃度が高かったといわれます。タルク等でも石綿(アスベスト)混入があります。

 他の原因はないですかと良く言われますが、もちろんあります。放射線同位元素や遺伝などあります。ただ他の原因とする論文は全世界で集めても20例とか、5例とか少数です。石綿鉱山では一つの鉱山で中皮腫で1000人亡くなっている状態ですから、圧倒的にアスベストの影響が強い訳です。ウィルス説もいろいろありまして、SV40というウィルスが関係しているという実験レベルでの報告も増えていますが、人間レベルではなかなかその証明が出来ない。実験室でのウイルスの混入とか小児ワクチンの混入とか言われています。今後何らかの形で、中皮腫の発症過程にウイルスが関与していることが証明される事はあって良いと思いますが、原因の主因はアスベストで発症過程にウイルスが介在するという形になるかと想像しています。

 中皮腫のレントゲン写真で、左の写真は発症時の右側の胸水像です(34)。右のCT写真は、発症後1年の左胸膜に全周性に腫瘍が浸潤する像です。詳しくは後の演者から出るでしょうから省略します。

 横須賀共済病院の三浦先生のデータですが、悪性胸膜中皮腫の生存曲線です(35)。残念ですが中央値は15.2ヶ月です。

 中皮腫死亡者は、1995年は500人でしたが、だんだん増えてきて、2004年は953人でした(36)。

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