「石綿被害防止関連法の抜本改正に向けた改題」
―建築基準法と大気汚染防止法を中心に―

Panel Discussion 2020

 名城大学法学部の北見です。ここからは、法律絡みの抜本改正に向けた課題としてお話しいたします。

 

 まず、石綿に関するストック型災害としての特色ですが、新規使用は禁止されていますが、既に石綿は幅広く使われてしまっています。これをすぐに取ってしまうというようなことは非常に難しいというところです。従って、この先ずっと、きちんとした管理、処理をし続けることが必要になってくるということになります。

 そこで、関連する法令ですが、ここでは主なものとして三つ挙げてあります。建築基準法、大気汚染防止法、労働安全衛生法で、実際には労働安全衛生法に基づいて作られている石綿則ということになりますが、主に、ここでは①と②、建築基準法と大気汚染防止法について触れることになります。その三つの法令に関する状況の特色ですが、三つの省によって担われていることが特徴になります。国では三つの省によって所管されていますが、各自治体でも、これに沿った部局が担当するということになるのだろうということです。

 石綿が使われる場面ごとの法の関わり合いということになりますが、「0」というところで線が引っ張ってありますが、新規の採掘・製造は今では行われていませんが、もう既に幅広く、主に建物として使われてしまっている、これが①ということになります。これに対応するのが建築基準法です。また、オフィス・スペースとしての建物については、石綿則の10条が対応することになります。②は解体除去ということになりますが、これは石綿を実際に取り除く作業を行う場面ということです。作業を行う現場の労働者については石綿則が、また、その作業が行われるときの空気の状態については大気汚染防止法が対応するということです。その取り終わった石綿について、どのように処理するかということで③の廃棄ということになりますが、ここでは主に①と②の場面について扱います。

 

 

 特徴といいますか、性格ですが、①については、法では主に、その建築物の状態について規律していて、②の解体除去の作業のところについては、まさにこの作業を取り締まるという形で法がかかわっているというところです。

 石綿が使われている場面ですが、最も石綿の飛散の危険性が高い場面は、実際に解体除去を行う作業の局面ということになります。ただ、この場面以外のところでも危険性はありまして、吹き付け石綿のある部屋、建物、倉庫等での作業による石綿関連疾患ということで、これは労働者についてだけですが、2015年までの累計で相当な数に上っているというところです。しかも、その職種についても極めて幅広いということになっています。これに対応するのが石綿則の10条ということになるのですが、これと同じようなことが通常の住居で起こることはないのか、また、そこで働いている人ではなくて、そこにやって来る人については考えなくてもいいのかというような問題があります。そのようなところから、建物に関する法律としての建築基準法による対応が重要ということになります。

 

 この建築基準法ですが、なぜ、そもそも、石綿というものが建物に幅広く使われることになったのかということですが、実際には、この建築基準法に基づく法制度が石綿を広範に使わせてきたというところになります。その後、問題があることが認識されたということになりますので、2005年に国土交通省の社会資本整備審議会の建築分科会に「アスベスト対策部会」が設置されます。同年の年末には、この部会が取りまとめた「建議 建築物における今後のアスベスト対策について」というものが出された上で、これに基づいて建築基準法が改正されたというような経緯をたどっているということになります。

 その建築基準法についてですが、今現在、どのような形で石綿の規制を行っているかということですが、この建築基準法の28条の2のところで、石綿の使用について禁止ということになっています。しかし、もう既に石綿については使われているわけですが、この法律の改正以前から使われていたものについて、全て違法だから壊してしまえということもまた難しいということになりますので、この建築基準法では既存不適格というものがありまして、原則的には、「次の建て替え時に対処しなさい」ということになっています。しかし、建て替え前までの時点で問題があるというような場合についてもきちんと対処はしなければならないということになりますので、建築基準法の10条のところでは勧告命令というようなことで、その建物について、劣化が進み、そのまま放置すると著しく有害だというおそれがあるという場合であれば勧告が、著しく有害だという場合であれば命令が、また、著しく有害ではなくて単に有害なだけでも指導助言が行われるという法制度になっています。

 この法改正が行われたときですが、「勧告命令の厳正な適用を図られたい」ということで、建築基準法を所管している国土交通省の局長通知が出されています。では、どのようにして、これは問題だなという建物に対して勧告命令を行うのかということですが、この局長通知のところでは、「定期調査・報告等によって、その建物の状況については把握した上で、きちんと厳正な適用を図りなさい」ということになっています。

 

 この定期報告・検査という制度ですが、細かくは12条のところに規定が載っています。これは全ての建築物が対象とされているわけではなく、これは一つの問題ではあるのですが、規律を行う優先順位が高いものからということなのでしょうが、一定の建築物が対象になっています。問題であり、まだ不十分というところではあるのですが、昨年、建築基準法の施行令が改正されることによって対象が拡大されています。いいことではあるのですが、十分かというとまだ問題が残っているだろうというところです。

 この定期報告・検査制度のところでもう一つ問題になるところがありますが、では、この建物について石綿がどのような状況になっているかということを誰が調査するのか、そして誰がそれを報告するのかということですが、この12条のところでは、法改正はあったのですが、改正後の方ですが、「1級建築士、2級建築士、または建築物調査員資格者証の交付を受けている者が調査・報告をしなさい」ということになっています。もちろん、建築士の方で、石綿について強い関心をお持ちの方、熱心な方もいらっしゃるところではあるのですが、この仕組み、この条文のところで、この建築物調査員資格には石綿関連の規定は一切置かれていません。従って、石綿についてエキスパート、専門家の中の専門家がきちんと調査しますよという法制度には、今現在はなっていないということになります。

 

 そのようなところから、これは非常に、石綿対策の上では要になる仕組みということで位置づけられてはいるのですが、定期報告・検査制度についてですが、石綿の専門家が調査する制度になっていないということになります。少しこれは細かな話かもしれませんが、法改正がなされてはいるのですが、そのタイミングで、この石綿に関連する資格制度について着手されませんでした。そこで、形式的ではありますが、この資格制度について制度化しようというときの法律に関する技術的なハードルが上がってしまったという状況になっています。このような状況が続いてしまいますと、専門家による調査が担保されないという仕組みが固定化されてしまうという懸念が出てくるということです。そのようなところから、可能な限り早くに、この資格制度について法的に整備し、そのことによって、石綿の調査を専門家が行うことができる、行わなければならないという形にしなければならないというところが問題点になります。

 

 続いて、解体除去に関する場面についてです。こちらの場面についての特徴、そこから派生する問題ということになりますが、解体除去についての作業それ自体については一体的なものになります。また、その数としても非常に多いということになります。これは、例えば廃棄物処理施設などと比較すると、廃棄物処理施設については、一定の期間ずっと操業されるということになりますが、作業については作業が完了すればそれでおしまいということになります。また、その廃棄物処理施設などと違って、この作業を行う工事の対象になるものが非常に多い、桁違いに多いと言えると思います。この点が特徴になるだろうということです。それに加えて、この廃棄物処理に関しては、業許可、廃棄物処理業の許可や、その施設の許可など、いろいろな許可制度が存在しているのですが、大気汚染防止法の方では、この石綿に関連した解体除去の工事を行う資格制度のようなものについては全く存在していません。その点で廃棄物処理に関しては、もしも違反があった場合には許可を取り消したり操業を停止したりという行政処分を行うという手法を使うことができるわけですが、この大気汚染防止法については、その手法を用いることができるかというと、非常に難しいということになります。大気汚染防止法にはその規定はありませんので、さかのぼって、さらにさかのぼって、建設業法の建築業許可や登録制度など、そこまでさかのぼらなければならないということになっています。

 

 大気汚染防止法は今現在、改正案が提出されているところですが、そこで規定する制度の図式についてですが、解体除去工事を行うときに石綿の飛散を防止するために、こちらも①②③④という場面が設定されています。まず事前の調査を行い、その解体工事に関する計画を届け出て、実際にその作業基準をきちんと守った上で、さらに飛散防止において特別に取らなければならない措置について、その措置をきちんと取った上で作業を行うということになります。その作業が行われたら、きちんと取れたかどうかということについて完了検査を行うということになっています。

 この解体除去のところで、どのような形できちんと行わせるかという規律の方法ですが、表としてまとめると、このような形になります。一番左側のところに「局面」ということで①②③④となっています。特徴的なものとして、「命令」と書いてあるところがありますが、この廃棄物に関しては命令の部分についてもう少したくさんあるのですが、これがそれほどたくさんあるわけではないというところです。これは、一つには、許可制度のようなものについて、大気汚染防止法の石綿関連で用意されていないからということが背景にあります。また、一番下のところで、少し赤色で強調しているのですが、完了検査のところで、これに関連しては、義務についてもそれほど大した義務が規定されておらず、罰則についても存在していないというところになっています。

 

 解体除去の現場のところで、違反がある場合にどのように対処するのかということですが、先ほども述べましたが、行政罰の使用が強制力となります。実際には、届け出の局面でも実際の基準違反があったかなかったかについても、やはり、実際上、実地のところの調査が必要にはなってくるだろうということです。今回の法改正の目玉とも言われてはいるのですが、作業時の一定の措置義務違反については直接罰の規定が創設されました。この直接罰とは、命令をして、それに違反したから処罰するということではなく、違反があれば、命令を前もって課すことなく、即、処罰するということで、このようなものが直接罰あるいは直罰と言われるもので、これが創設されたというところです。

 ここでは「作業基準違反と直接罰の対象」というタイトルにしていますが、直接罰の対象になるものはごく一部になっています。作業基準に違反したときに、それを直ちに処罰するというような形にはなっていないということで、この作業基準違反については、「工事について一時停止しなさい」、あるいは「作業基準をきちんと守りなさい」というような命令があった上で、その命令を守らなかったときに処罰するという仕組みになっています。

 では、どのようなものがこの直接罰の対象になるのかということですが、この法案のところでは、一部ですが、特定建築材料の建築物からの除去の措置を、ロのところですが、当該特定建築物の除去を行う場所を他の場所から隔離し、除去を行う間、当該隔離した場所において環境省令で定める集塵・排気装置を使用する方法、これによって行いなさいという義務が課されているわけですが、この義務に違反した場合が直接罰の対象ということになります。

 そうすると、この直接罰の対象は、隔離していない、または使用していないといったような、およそ対策しようとする気がないような場合に限定的と読まざるを得ないのではないかというところです。こういうことから、直接罰の範囲を拡大するということであれば、そのために法律をきちんと明確な規定によって、これを処罰するということについて書いておくことが必要になり、また、もし、この直接罰というものは狭いものなのだということであれば、きちんと命令を行うということで、自治体がその命令をきちんと行うことができるための規定の整備が必要になってくるだろうということになります。

 

 この大気汚染防止法の執行に関する課題というところですが、石綿絡みで、大気汚染防止法の違反があった場合ですが、刑罰によって何とか言うことを聞かせようというようなことになっているのですが、そもそも、この刑罰というものは、相手方に対して非常に大きなダメージを与えるというものでもありますし、また、警察との連携も必要になってくるということにもなりますので、あまり執行を行う役所として使い勝手がいいというわけではありません。こういうことから、刑罰以外の手法を考えるというようなことも、今後の課題にはなってくるのではないかというところです。また、この石綿に関してですが、立入検査数については非常に増えているところではありますが、恐らく、他の立入検査も行わなければならないというようなことも考えると、この担当部局としてのリソースの限界にも意を払っておく必要性があるだろうというところです。

 

 もう一つ、最後の段階の完了検査についてです。ここのところについての制度が非常に不十分ということになります。結果報告をして記録を保存するという義務があるだけです。「ちゃんとやりました」と自己申告すれば、「お疲れさん」と言ってもらえる仕組みということになっています。この作業について、きちんと行ったのかということについて、きちんと専門家が公正な立場から、「これで大丈夫ですね。ちゃんとやりましたね」ということをチェックする仕組みが不可欠になってくるだろうということです。

 もしも、この特定工事、石綿の取り残しなどがあった場合ということですが、大気汚染防止法では作業の規制を行ってはいるのですが、その作業の結果についての是正手段が備わっていません。そうすると、これはどうなるのかということですが、いろいろな考え方があり得るとは思うのですが、法制度的には、これは「石綿が除去されていないという状態の建物」ということで、また、局面としては別の局面ということで、建築基準法での対応が必要になってくるだろうということです。そうすると、環境部局と建築部局の連携が求められるということにもなってきて、ますます、執行のコストとしても大きくなってくるということですが、やはり大気汚染防止法のところで、除去完了については実現されるという完結性が法制度として備わっているべきであろうということです。

 

 今のところにもかかわってくるのですが、今後の石綿関連に関する法と法の間の連動といいますか、連携についても重要になってくるだろうということです。その中でも、ここでは調査と検査について挙げています。この大気汚染防止法では作業前に事前調査を行うことになっていますが、元々、普段から使っている時点から、きちんと検査を行うということが望まれているということです。「今度、除去作業を行うから事前調査をしよう」ということではなくて、もっと前から、通常使用の時点から調査に励ませる仕組みがあった方がいいだろうということです。例えば、通常時の調査については補助金を出すけれども事前調査については自腹にするなど、少し極端な話かもしれませんが、このような形であれば、恐らく通常使用時から調査に励むということになるだろうということで、このような形で、やるべきことについては早くからやってもらうということについて促す仕組みも考えていく必要性があるだろうということです。

 

 根本的な問題ということになるのですが、専門性という話については、ここで何回か出てきたのですが、この石綿関連の法のところでは、少なくとも法律について見てみると、現状では通常時の検査も事前調査も特定工事も完了検査も、どれも法律上は誰でも行うことができるということになっています。石綿の専門家が介在しなくてもいいということになっています。このようなところから、各種資格制度についての整備が何よりも必要になってくるだろうというところです。以上となります。ありがとうございました。