アジアでも遅れる日本のアスベスト規制・対策

Panel Discussion 2020

 まず、こちらは1月20日に載った新聞記事といいますか、ネットの記事ですが、鹿児島市の工事現場で届け出をしないで工事をやったということで大成建設が書類送検されたというもので、これは国会でも問題になっている案件です。これはどういうことだろうと思ったのですが、石綿障害予防規則の届け出義務違反という、アスベストの除去、吹付け材の除去をしたのに届け出をしなかったということで問題になったケースですが、届け出だけをしないなどということがあるかということで調べたところ、実際には、これは場所も公開されていなかったのですが、作業員がアスベストを洗い落とすエアシャワーや、更衣室なども含めた前室という、セキュリティーゾーンともいわれるものですが、これを設置していなかったという手抜き工事でした。つまり、アスベストが漏れる工事だったのです。

 これは鹿児島市にある山形屋という百貨店だったのですが、まったく営業中の百貨店でアスベストが飛散したと見られる工事であるにもかかわらず、現場については一切公表されていませんでした。ですから、私がこのような記事を今年3月になってから書いています。

 情報公開請求をして調べましたところ、大成建設が鹿児島市に報告書を出しており、2019年の5月14日から6月25日までの間に工事をしていて、「プラスチックシートで覆って負圧除じん装置を使って」云々となっているのですが、よくよく見ると、「法令上必要な前室の設置をしておりませんでした」と、はっきり認めているのです。それに対して届け出義務違反だけの立件でした。これだけ証拠がはっきりしていて、自分で認めているにもかかわらず、明らかな手抜き工事なのに、この件についてはまったく法的な措置が、指導しか取られなかったという、悪質事例でも放ったままであったというひどい案件でした。

 このときは1カ月以上、その百貨店内でアスベストが飛散したとしか思えないのですが、実際に、前室がなければ作業員が自分の作業服に付いたアスベストを洗い落とすことはできませんので、間違いなく外に持ち出したということになるのですが、これについて、結局、アスベストを飛散した可能性があるのだ、そこにいた人たちがばく露した可能性があるのだということを、鹿児島労働基準監督署も鹿児島市もまったく公表しませんでした。結果として飛散事故が隠ぺいされてしまったという、悪質な、非常に問題のある案件でした。大成建設と現場の作業所長が書類送検されましたが、無届けの工事だけ。結局、起訴もされましたが、作業所長だけでした。会社の関与の方は何も立件されず、最近になって30万円の罰金刑の略式命令が(作業所長に対して)鹿児島簡裁から出たということで、届出義務違反だけで、結局はアスベストを飛散させたことについては放ったままだったことになります。アスベストを飛ばし放題だったのに罰則も適用されないということです。

 

 今の事例がきわめて例外的なのかどうかというところを少し見てみたいのですが、これはアスベスト除去作業の届け出件数と指導率を示す、環境省が集めた都道府県など指導・監視権限を持つ自治体の調査結果です。1990年代はそもそも工事の届け出がきわめて少なく、2005年のクボタショックが起きてから急増し、1万件を超えます。(2006年に)2万件を超え、そこからまた徐々に減って(リーマンショック後)1万件ぐらいまでになり、最近また(吹付けアスベストを使った建物の解体ピークが近いからか)1万5,000件ぐらいまでになっています。当時、2005年ぐらいからの工事などにおいて指導率は1%を切っていました。そこから東日本大震災の後に、ようやく徐々に指導率が上がって、最近では2割を超え、その後17%ぐらいになったところです。じつは、当時、指導率1%未満だった頃、環境省は「現場は適正」なのだとずっといっていました。「指導率は問題ない。現場はきわめて適正だ。不適正な工事なんてほとんどないんだ」といっていました。ところが、実際には、これが2割ぐらいまで上がってきました。以前から指摘されていた方は指摘されていたのですが、立入検査をする行政職員に十分な知識や経験がないため、自治体の人たちはほとんど、何がよくない現場なのか、どこがおかしいのかと指摘できない、あるいは立ち入りもろくにしなかった状況だった。それが、2011年の東日本大震災のあたりから、このような被災時の解体におけるアスベスト問題がかなり報道されて注目されたことにともなって立ち入り件数が増えていったという状況だと思われます。その結果、ようやく、少しずつ自治体の人たちもわかるようになり、指導率も上がっていったということです。

 

 監督署では、このような(立入件数や指導件数を示す)資料すら公表していないのですが、厚生労働省が、民主党政権の事業仕分けのときに、一度、2009年度のデータを出していて、そのときのものを見ると(全国平均で)14.6%と約15%でした。立入件数は3000件ぐらいでした。(以前から監督署のほうが指導率は高いといわれてきましたが、)ようやく最近になって(自治体の指導率が監督署と)同じぐらいになってきたことになります。これにしても、じつは監督署の業務の中の1%に満たないという状況で、アスベストの現場などはほとんど見ていないというのが実態です。それでも、たまに行くだけで15%となるわけです。しかし、これでも実際は氷山の一角です。

 こういうことがかねていわれていましたが、はっきりと裏づけが取れたものが熊本地震のときでした。このとき、熊本県と熊本労働局がかなり真面目に立入検査をしまして、熊本市と熊本労働局(熊本労働基準監督署)で、ほとんどすべての現場に行くと決めていて、熊本市などは毎日現場に行っていましたし、熊本県もかなりの頻度で行っていました。熊本労働局もアスベスト対策を最重要課題に位置づけまして、ひたすら立入検査をしています。それまで、前年度までは40件ぐらいしか立ち入りをしていなかったものが、800件を超えるぐらいまで立ち入りをして、結局、指導率は50%近かったですし、熊本県に至っては、口頭指導を含めると73%ぐらいになります。熊本労働局は、こちらは口頭指導を含めていない数字なので50%ぐらいにおさまっています。このように、立ち入りをすればするほど多くの不適正な現場が見つかりますし、しかも、「アスベストの見落としがとにかく多かった」ということを熊本労働局がはっきりと認めています。(これは熊本だけの状況ではなくて、復旧・復興で全国から熊本に業者が行ってますから、全国的な状況を反映しているはずです。)

 

 それだけではなくて、では、きちんとアスベストを除去するという届け出があった工事はどうだったかということですが、環境省が、全国のアスベスト大気濃度調査をしていて、そのなかで何カ所かずつ除去現場の測定をしています。累計の漏えい率を見ると、大体4割ぐらいでずっと推移しています。4割から5割ぐらいという状況です。この間、環境省が調べた68工事のうち28工事でアスベストが実際には空気1リットル中1本以上、外部に飛散していました。こちらはすべて、事前に、元々協力を求めて、「測定していいか」と尋ねて、「いいですよ」と協力を得られたところに対して、「いつ行きます」と事前に通告した上で測って4割が漏えいしているということがはっきりと出ているということです。(抜き打ちでやったらもっと悪いだろうと思います。)つまり、先ほどのように指導率も実際には約半数から7割超ときわめて高いのが現場の状況ですし、真面目に届け出て、除去するといっている工事でも4割ぐらいは漏れているということで、結構、とんでもない状況だということが、これでおわかりいただけたと思います。

 

 では、日本が異常な状況にあるということで、ほかの国はどのようになっているかということで、韓国の方を少し見ていきたいのですが、お隣の韓国では1981年に、日本の労働安全衛生法に該当する産業安全保健法というものを作っていて、じつは、既に1990年にアスベストを扱う取扱業者の許認可制を導入しています。その後、2009年に1%を超えるすべての石綿の使用を禁止して、その後、国が指定するアスベスト調査機関によるアスベストの調査や、登録されたアスベスト除去業者による施工の義務づけなどをしていて、通常使用時のアスベストの調査がきちんと義務づけられています。さらに2011年にアスベスト安全管理法というものを作っていまして、このときに一定規模以上の建物の所有者に対しては、国が指定する調査機関によるアスベストの調査を義務づけています。

 

 通常使用しているときの、保育所や幼稚園や小学校などの公共的な建物や、商業施設などで一定の規模という条件があるのですが、それについては国が指定する調査機関がきちんと調査しなければいけないことになっています。その上で、アスベストが存在する場合は所有者が8時間以上の講習を受けた管理者を指定し、しかも、その人には2年ごとの4時間以上の再講習などもあって、その管理者が管理基準をきちんと遵守して建物を安全に管理するという義務が設けられています。この管理者は6カ月ごとに現場のアスベスト建材についての損傷状態などを調査し、きちんと台帳などで管理することになっています。またアスベストが使用された部屋については、吹付け材に限らず2年ごとに空気中の測定をしなければいけない義務があります。その測定結果に基づいて、具体的に何をしなさいという義務づけもあります。この調査結果については1カ月以内に地元の行政に報告しなければいけず、しかも、これは「遅滞なく」誰でも見られるように(自治体のウェブサイトで)公表されることになっています。

 

 改修・解体工事についても、同じ頃に義務を非常に強めています。このとき、建物の設備も含めてですが、アスベストのあるものを撤去・解体する場合、50平米以上などの一定規模の建物の解体の場合には、国が指定するアスベスト調査機関、つまり、きちんと資格のある機関が調査しなければいけないと義務づけられています。その結果、吹付けアスベストが少しでもある、もしくは一定規模以上のアスベストを含む建材の除去をする場合は、登録された適切な業者が除去をしなければいけないということになっています。そのような吹付けアスベストを含むような建物の場合は、日本でもあるような隔離養生や集じん・排気装置による負圧除じんなどはもちろんのこと、日本よりもさらに厳しく、湿式で、日本の湿潤化より非常に濡らして(びちゃびちゃに)湿潤をし、日本と同じような加圧式全面防じんマスクや防護服なども使います。さらに衛生設備として、エアシャワーではなくて温水シャワーを使うことが義務づけられています。エアシャワーを使っているところは日本ぐらいだそうですが、これが標準になっていて、日本でいう成形板等、いわゆるレベル3建材でも、屋内で、なおかつ破損もともなう、割ってしまうような時には、日本の工事はほとんどそうなのですが、その場合には吹付け材の対策とまったく同じ対策をしなければいけません。屋外でまったく割らないで、一切割らないように、落としたりもしないというようなときでも、半面マスクだけではなく、日本と違って防護服もきちんと使います。この際にも温水シャワーの衛生設備も使うことが義務づけられています。そういうことで、日本より韓国の方がはるかにアスベスト規制が厳しくなっています。ただし、労働者のばく露管理のための測定というものが、普通の国といいますか、義務づけられているところが多いのですが、韓国の場合、これは不要となっています。ただし、作業場の外への漏えいについては測定義務が設けられています。さらに、除去が終わってから、アメリカとほぼ同じ方式で、取り残しがないかを有資格者が目視できちんとチェックすること、プラス、ブロワという大きな扇風機で、ずっと発じんさせながら測定して、一定の基準以内におさまらなければいけないという義務づけもしています。これも、日本では義務づけられておらず、これからも義務づけないといっているものです。

 

 さらに、先ほどの測定義務のことですが、除去作業時の測定基準について少し説明します。吹付けアスベストの除去、もしくは床面積500平米以上の、そのほかのアスベスト建材の除去のときには測定が義務づけられます。国が指定した調査機関で測定し、それだけでなく有資格者が実施しなければいけない。しかも測定は毎日実施です。日本は、条例で週に1回、国レベルでは一度でも測定させるということすら義務づけを嫌がっているわけですが、韓国では毎日測定します。しかも、敷地境界4カ所だけではなくて、日本でいう負圧除じん装置の排気口の出口や、衛生設備、セキュリティーゾーンですね、その出入り口のところ、しかも0.3mから1メートル以内と細かく指定があって、そのようなところなどはもちろん、作業場周辺の別の部屋、隣の部屋など、また、屋外5メートル以内の地点で居住者がいない場所を除いて1カ所以上、また、廃棄物置き場の周辺なども測定します。この廃棄物出口は、日本ではないのですが、廃棄物を持ち出す搬出口が別に作られているので、そこも測定するとか、もう測る箇所数が格段に多いです。それを毎日しています。しかも、その測定結果は自治体に「遅滞なく」報告し、その結果を自治体は「遅滞なく」自治体のウェブサイトで公開するということになっていて、これまた日本ではまったくやっていない、非常に進んだ制度だと思います。

 除去が終わった後に、除去が大丈夫だったか、適正だったかということを確認する完了検査ですが、この際にも測定義務があると先ほどいいましたが、そこの内容についてもう少し説明します。完了検査において目視で取り残しがないことを確認するのも、測定についても国が指定するアスベスト調査機関に所属する産業衛生管理産業技士以上の資格を有する者が目視による取り残しの確認と測定の両方ともやると義務づけられています。さらに、空気が乾燥した状態で、作業場内に沈降した粉じんを飛散させて、先ほどいったブロワという大きな扇風機でずっと飛散させながら測定をします。それが一定の濃度におさまらなければいけないということになっています。

 

 さらにもう一つ、第三者性ということも時々出てくる話ですが、じつは第三者による監視も韓国では位置づけています。吹付けアスベストの除去、もしくは先ほどの一定規模以上の工事の場合には、アスベスト解体作業監理者を配置するという義務づけがあります。この監理者は、工事が適正に管理されているのか、適正な工事がされているのかを監理する、確認する義務があります。まず一般監理者という者がいて、先ほどの一定の有資格者がアスベスト関連の経験を3年以上持っていて、なおかつ、その調査機関での条件を満たしているような人が、実習6時間を含む35時間の講習を受けて、ようやく、これが取れます。さらに、その上は上級監理者となっていて、一般監理者で5年以上の経験を持つ人がやらなければいけません。しかもアスベスト関連の経験を8年以上持ち、さらにそこでまた35時間の講習があります。そのように上級監理者の方には70時間の義務があるということです。また3年ごとの更新講習もあります。このような、日本にはまったくない、第三者が監視する仕組みもきちんと位置づけているというところは非常に優れていると思います。その監理者の第三者性については、例えば、アスベスト除去をする業者やアスベストの調査を実施した業者は、その現場についてやってはいけませんし、同じ現場で測定を実施する機関もやってはいけません。測定結果に対して、それが適切であるかどうかを外部の人がチェックする仕組みなので、測定した人がチェックしてはいけません。こういう意味でも非常に厳しいものです。さらに、完了検査における測定をやった人もやってはいけない。しかも系列会社もやってはいけないなど、第三者性の確保についてはかなり細かく気を使っています。

 

 韓国が優れていると思ったところはこれだけではなくて、2018年には、学校においてさらに厳しい対策をしていくことを決めています。「完了検査で室内のアスベストの残さの検査をする」ということを発表しています。これはどういうことかというと、保護者や市民団体など外部専門家が参加する「学校アスベスト監視団」を地域ごとに創設して、その人たちが全部の工程をチェックする。監視団が工事前の機器の移動から事前清掃、隔離養生の確認、作業中の負圧管理、測定状況の監視、完了検査、アスベスト残留物確認と、もう最初の工程から最後まで全部見るというもので、2018年の5月から5,000人ぐらい募集して、その見る人たちには保護者や専門家にも入ってもらい、なおかつ、その人たちにも講習を受けてもらった上で現場に入ってもらってチェックするということです。先ほどいったように、第三者による監視があるにもかかわらず、さらにそのもう一段上のダブルチェックの仕組みを作ろうとなっています。こういうことで、韓国では、学校の場合は除去作業時の監視体制は、アスベスト解体作業監理者だけではなく、学校アスベスト監視団による二重の監視になります。完了検査にいたっては、先ほどいった国が指定する測定者がそもそも適正にやっているかをチェックし、さらにアスベスト解体作業監理者がチェックし、それがまたさらに適正なのかを学校アスベスト監視団がチェックするという三重チェック体制という、考えられないぐらい厳しいチェック状況です。

 これは、元々ソウル市が始まりだったのですが、ソウル市は2017年から同じようなことを実施しています。その残留物検査とはどのようなものかというと、各部屋2、3カ所で、ほこりがあるところをウェットティッシュで拭って、そのウェットティッシュに含まれているアスベストを電子顕微鏡で見るという方式になっていて、それで少しでもアスベストが検出されたら清掃をやり直しです。日本はそもそも完了検査自体に基準がなく、義務も、地方自治法上や、会計法上では(工事の適切な履行の確認という)位置づけがあるけれども、(石綿障害予防規則や大気汚染防止法では義務づけも)明確な基準もない。ほとんど何も、先ほどの冨田さんの話では、「かなりひどいケースがいっぱいある。どんどん、まったく、ほぼノーチェックで抜けてしまっている」というご指摘がありましたが、まさにそのようなひどい状況です。お隣の韓国では学校については、三重にチェックした上で、さらに実際に空気の測定をして、ほこりの分析までして清掃のやり直しとなるわけです。(実際にソウル市から話を聞きましたら、)3回ほこりを調べて、その度に清掃をやり直したということもあるということです。だから計4回、同じ部屋を清掃したケースもあったということです。しかも去年の1月にガイドラインを、これはあくまでガイドラインで対応しているのですが、ソウル市では、これを条例化して、明確な規制にしているというところも非常に先進的だと思いました。

 

 では、韓国と日本の制度を比べるとどうなるかということですが、先ほどの、建物の通常使用時、普通に使っているときの調査業務などは、韓国についてはきちんと制度があるのですが日本にはありません。資格規定については、日本ではこれからようやく作られるということですが、韓国にはもちろんあります。管理義務については、一応、労働者だけはあるので三角ですが、韓国はきちんと(リスク評価や)措置まで義務づけています。測定については、韓国には(除去現場外だけ)あり、日本にはありません。測定実施者の資格規定も日本にはない。

 除去においても、日本では事前調査は現在誰がやってもよいことになっていて、これから有資格者になります。韓国ではそういうことは当たり前だということです。また事前調査について日本では、何をやってもよかった、何となくフィーリングで(好きなように結果を決めて)よかったものが、これからはきちんと全体を見るようにということになります。(これまた韓国では当然のことです。)除去業者の許認可・登録については、韓国はあるけれども、日本にはありません。第三者による監視も韓国にだけあります。作業中の測定については、作業場内は日本も韓国も両方ともないが、韓国は外についてはきちんと毎日実施。分析・測定実施者の資格規定なども、日本にはなく、ようやく作られますが、韓国にはあるという状態です。

 完了検査も、同じように日本にはなく、ようやく義務づけられるということですが、韓国はしっかりしていて、学校においてはさらに進んだワイプテストなどまでやっていたりするというように、日本の制度がどれほど遅れているかということが、お隣の韓国と比べるとよくわかると思います。

 韓国は、アスベストの使用量が日本に比べて5分の1ぐらいで、学校の吹付けアスベストなどもほとんどないという状態。いわゆるレベル3建材ばかりなのですが、それでも、ほとんど隔離養生した上で除去工事をやっています。制度は日本よりはるかに上で、さらに子どもを守るためにガイドラインで上乗せまでしているという状況です。ところが、日本は韓国の5倍ぐらいアスベストを使っている上に、学校などは吹付けアスベストだらけ。先ほども指摘があったように、学校の中でも飛散していたり取り残しがあったりしていて、それも放ったままになっています。制度は韓国よりも数段遅れていて、子供を守るための独自の制度もありません。先ほどの学校のひどい状況などでも見たとおりで、実態もひどくて監視もほとんどなく、規制強化も残念ながら今回の改正でもほとんどないという状況です。

 

 じつはほかの海外の国々も、(とくにアスベストの使用を禁止した国では)だいたい似たような規制をしていまして、海外の規制はこの図のようになっています。アスベストの採掘をして、輸送して、製造して、大半を建物に使っているわけですが、日本では8割がた、加工・使用して建物に使った。では、それを今後どのようにしていくのかということで、だいたいの国ではまずは調査・分析して、リスク評価をして、それに基づいて維持管理をします。さらに、除去の前にはさらに調査・分析して、(実際に過去の調査と違いがないかを確認した上で)除去します。そして、完了検査もして解体するということで、ようやく、そこまでのプロセスということになっています。しかも除去のときには測定して、完了検査も目視だけではなくて測定までするという、海外はだいたいこのような仕組みです。ところが、日本の場合はそもそも、この維持管理部分の調査・分析・リスク評価の位置づけがありません。今回も何も規制しません。維持管理は労働者だけ位置づけが一応あるけれども、基準もないということで、実態としては機能していません。また、除去前の調査・分析は一応あるけれども、除去のときの測定はありません。完了検査も法的位置づけはようやくするということですが、目視検査の基準や測定なども義務づけしません。こういう意味で、日本は規制の重要な部分がいくつも抜け落ちてしまっています。大体の国では、建物があるときからの維持管理からなのに、日本は改修・解体に偏ってしまっています。こういう意味でも非常に遅れていて、海外の進んでいる国などにいわせると、もう日本の規制というものは15年から30年ぐらい遅れているということで、「1990年ぐらいのうちの国と一緒だね」というようなことをよくいわれます。

 (いまお示しした規制も)別に韓国に限らない話でして、イギリスのようにアスベストを禁止した国などでは軒並み、そのような規制になっています。アメリカは禁止していませんが、イギリス、アメリカ、オーストラリア、ドイツ、カナダなどは、またEU指令も含めて、おおよそ先ほどの内容があります。アジアでも、ニュージーランドやシンガポールはほとんどオーストラリアと同じ規定になって、非常に厳しいです。韓国も先ほどいったように非常に厳しくなってきているという状況で、日本の規制というものは、アスベストをいまだに使用している国と比べるレベルになっています。例えば除去作業における測定の義務などは、フィリピンなどでは2000年から義務づけています。日本では「技術的に難しい」などといっていますが、フィリピンなどではじつはもう20年前から義務づけられてしまっているということで、その意味でも、日本はもうアスベスト使用国と比べて、しかも、使用国と比べても遅れているという状況になっており、これは相当恥ずかしいですよね。

 

 なぜ、ここまでひどい惨状なのかということですが、残念ながら、いいかげんな対策を許して、規制の不備が放置されています。その規制の不備によって、適正な対策が不要となってしまっていて、結果として対策の不備が放置されています。規制や対策の不備を是正する執行の不備がまた放置されている。このような機能しない仕組みがなぜできているかというと、結局は経済最優先だからです。結果として、というより、何もしない理由を探しているというような、人を救うつもりがあまりないのだろうなということです。あるいは、最近のPCR検査ではありませんが、見なかったことにして放置しようとしているとしか思えません。

 これからもずっとしばらくといいますか、例えば完了検査などを放ったままにしておけば、最終的に土壌にも入っていきます。建物などの対策ではもちろん、アスベストを工事のときにどんどん飛散させて、いろいろなところで人にばく露させ、被害が出ても、(尼崎のクボタ旧工場周辺でいわれたように)「風土病だ」というような話が出かねません。あるいは、土壌に入ったものなどから少しずつ被害が出るようなことになったら、またそれで「日本は何か被害が多いけど、地域性かねえ」というようなことをいい出すのではないか。調べないで放ったままにしようというようなものが非常に強いと感じています。このままではまだまだ被害がずっと続くという状況が放置されるのだろうと思います。今のところ、国会の状況を見ていても、残念ながら、その方向に向かってしまっていると感じています。以上です。