パネルディスカッション

Panel Discussion 2020

司会 直罰の抑止効果や事前調査の問題点、終了検査含めて第三者性の確保や自治体の支援、その財政、その他いろいろ論点は多くあると思うのです。時間が40分なので、1論点6、7分、1人1~2分ぐらいしか話せないかもしれませんので、そういうことでお願いしたいと思います。では、パネルディスカッションを始めさせていただきます。司会のアスベストセンターの名取でございます。
 大気汚染防止法改正案の中で一つ、ある程度今までとは違った部分として、間接罰ではなくて直接罰になったということが、少なくとも何歩か分かりませんが、前に進んだ部分であると思うのです。そこについてのご意見、もしくは今後さらにどのような形のより改正の動きが必要かということも含めて、順番にお話をいただきたいと思います。では、まず外山さん、井部さん、北見先生の順でお願いします。

外山 何についてですか。

司会 直罰が一番入ったということが一つの改正のプラスの点だと思うのですが、そこについてどのように感じていて、今後どのような視点をさらに拡充していくべきだと思っていらっしゃいますか?

外山 半歩前進ぐらいで、井部さんの報告にあったことが大変興味深かったのですが、届け出の件数と違反率ですか?

井部 いえ指導率です。立ち入り件数ベースの指導率です。

外山 あれが2011年の東日本大震災以後、指導率が急に上がっているということは、自治体がきちんとそのような認識を持ち始めたのかということを示していて、そういうことがあったので、やはり罰則や指導の実績をきちんと上げていくというところにかかっているかと思いました。だから、やはり範囲が狭いという弱点はあるけれども、うまく活用していく必要があって、さらに次の改正でもっと拡げていくと。

司会 ありがとうございました。井部さん、いかがでしょうか。

井部 さんざん批判する記事を書いている身としては、非常に残念な改正だと。直罰をつけることはいいのですが、専門的な立場の方、例えば北見先生の指摘を聞く限り、ほぼまったく隔離養生をしていない、あるいは負圧除じん装置を設置)していない以外、やはり機能しないだろうというところです。具体的な定義も何もないわけですから、罰則の適用は、今回、小泉環境大臣が養生の破れなどでも適用できると強弁していましたが、養生の破れで本当にできるのだろうかということはきわめて疑問だと感じました。また、故意犯にしか直罰を適用できないということは認めていましたが、ですので、過失は無理だと。ただ、養生の破れについては過失と普通は判断せざるを得ないし、客観的な状況があればできるのだと小泉大臣はいっていたけれども、客観的な状況といっても、自治体の人は現場に行かないのだから、わかるわけがないのです。また現場に行っても、せいぜい養生検査だけですから、除去している作業のときはほとんど現場に行かないわけですから、これはまず機能しません。その意味では、よほどひどい業者がたまたま見つかってしまったというぐらいしか、やはり機能しません。狡猾な悪徳業者ほど、不適正工事が発覚しないという意味でも飛散事故は続くだろうと思います。

司会 次の改正に期待したいという気持ちの方向が強くなってきているのでしょうか。

井部 期待したいというより、すべきだと思います。

司会 もう少しきちんとした改正をしたいということですね。

井部 本来今回すべきですがね。

司会 今回は難しいということだとするとね。

井部 ずっと前から本来すべきだと思いますけれどもね。

司会 今の段階では、どのように思われますか。

井部 今回やらない以上、残念ながら、次回にするしかないでしょうね。

司会 北見先生、この間、法的な立場からいろいろと示唆をいただいていると思うのですが、その点で、今回、直罰のところについて多々問題があるものだと思うのですが、先生の立場からはいかがでしょうか。

北見 名城大学の北見です。環境法令のところで直罰制が入るには、一般的に非常にハードルが高いと言われているところです。それがこのように規定として作られたということについては、ものすごく大きな一歩であることは間違いないと思います。それで、委員の先生方の答申のところでの頑張りについては、とてもよかったと思ってはいるところです。ただ、その一方で、今回の直罰の範囲がごく限られたものにならざるを得ず、先ほど、よほどばかなというお話がありましたが、本当にそのようなごく限られた、非常に悪質なものについてしか機能しないだろうというところを感じていることと、それから、警察の方の対応といいますか、きちんとした知識についても重要になってくるということになりますので、まさにこれで十分というわけでは全くなく、これがまずは第1歩であり、井部さんが先ほどおっしゃったような不十分さというのでしょうか、それに向けてきちんと、次の改正のところで自治体が実際に現場に行かないといけない、警察官が実際に現場に行かないということは間違いありませんので、さまざまな問題と一緒にこの直罰のあり方について、さらに前進しなければならないと私は考えているところです。

司会 先生の方から、例えば自治体の職員もしくは警察OBを含めたというところで、このような環境の事案を少し応用できるのではないかというような示唆はありますか。

北見 まずは、警察の方の対応ということですが、やはり外山さんの最初のスライドの頭のあたりにあった、目に見えないという石綿の問題がとても重要になってくると思います。現在、前室がない、あるいは隔離していない場合が今のところ、直接罰の対象と限定されざるを得ないというところになると思うのです。(対象を)拡げるという場合については、きちんとした取り締まりを行うためには、直罰が仮に科される規定が増えたとしたら、違反があったということをきちんと示すことができるように、きちんと測定して、その数値違反があったことについて、きちんと処罰、取り締まり対象にすることができるようにということ、直罰のところの問題に限らず他の問題についても、直罰のあり方についても出てくることにはなるのだろうと思います。その時ですが、警察官の人が自治体の職員の人と一緒に行動することと同じような形で、石綿の専門家の方が自治体職員を教育すると言うと少し強い言い方かもしれませんが、一緒にさまざまなことを行うことができる法制度を考える必要があります。
 一応枠組みとしては使えるのは地方自治法などと思いますので、そのようなものを含めて、どのような形にしていけばいいか、もう少し色々な法学者の人にも加わってもらい考えていく必要性があり、その中に私も入っていたいと考えております。

司会 ありがとうございました。ここだけでも長くなってしまうので、この論点についてはこのあたりで終わらせていただいて、2番目に事前調査についてです。今回不十分かもしれませんが、事前調査の一定の要件は盛り込まれた部分はありますが、これで本当によいのだろうかという課題もまた、皆さんからご指摘があったところと思います。事前調査の問題点と今後の課題について、外山さん、井部さん、北見先生の順でお願いいたします。

外山 事前調査に関しては、調査者は、現状は講習と試験を終えた者でしかないわけです。これだと石綿作業責任者と変わるところがありません。資格制度にするということは、間違いや不正に関して罰則が適用できることにしていかないと、調査者の質を保つということには当然ならないことになります。もう少し細かい話では、戸建て住宅の調査者は30万人必要となってきて、これを何とか養成しなければならないということになっているわけです。しかし粗製乱造になってしまう懸念が大変あり、全国の試験機関、養成機関が複数できて、独自に勝手に講習と試験をすると、どんどん調査の質のハードルが下がることが懸念されます。試験だけは統一するというようなこと、それも実施できるか分かりませんが、少しでも正確さ、中立さ、公正さを確保する制度にしていく努力は、これからも続けていかなければいけないと思っています。以上です。

司会 大きな論点と細かい点も含めて課題を言っていただきました。井部さんはいかがでしょうか。

井部 調査については、これまで「誰がやろうと構わない」「何をしようと構わない」、「どう判断しようが構わない」ことに対して、ようやく調査方法と資格者が位置づけられます。ただし現状を見ていると15年前と同じだと思うのです。15年前に(アスベスト除去工事で中心的な役割を果たす)石綿作業主任者が作られたとき、アスベストのことなど知らない人たちが2日間講習を受けて、みんな作業をできるようになった。その人たちが今度は2日講習を受けたら試験はあるということですが、(まず落ちる人もいないので)誰でも作業できるとなって(ずさんな工事が繰り返されて)いる。15年前と全く同じ状況を作ろうとしているわけです。全く同じ、いいかげんな調査が繰り返される状況にしか見えない。しかも、その人たちが工事の適正な終了、除去が適正に行われたか、アスベストの取り残しがないかという完了検査まで、講習も受けないのに今回やっていいということになりそうです。本当に15年前とまったく一緒です。何も講習を受けていない人にお墨つきを与える。どう見ても良くなる兆しが見えない、というのが現状の評価です。

司会 そうすると、一応法的な形を取ったかのように見えるが、内実がないものだということでしょうか?

井部 内実がきわめて薄いといわざるを得ません。とくに完了検査については調査する人がやることになっていますが、講習も受けておらず内容がゼロですので。

司会 終了検査の透明性の確保がされず、実力がない方が結果的に資格者になっていく事態が予測されるというお考えだということですね。

井部 そうですね。やはり外山さんもおっしゃっていたように、そこは透明性も確保されないだろうという状況にしか見えませんね。公正性、透明性、実力もそうですね。

外山 全般的に井部さんの言っていることはもっともで、私はもう少し何とかできる部分を指摘したいのだけれども、例えば今、政省令改正の中でレベル3の終了確認を誰がやるかという話も聞いていて、一部は作業主任者までいいという話も出てきてしまっている。それはだめだろう、これから改正を踏まえて細かな点で詰めていける部分もあるので、最初からだめだと言ってしまうと話にならないので、少しでも、わずかかもしれないけれど良くなる方向でということが私の考えです。

井部 そこはぜひ頑張っていただきたいですが。ただ、どのようにして適正な状況を担保するかという意味では、例えば今回自治体の支援をするということが国の努力義務として定められるということなので、一定数の例えば調査などを国のお金でやるということをダブルチェックさせるような仕組みなどを本来検討すべきと思うのです。今のところノーチェックで、どれだけうまくいっているか分かりませんし、モデル事業でやるというにしてもそうですね。調査したものをダブルチェックするような仕組みをすべきですね。韓国などでまさにそれをやって、相当な5割がた見逃しがあったということがはっきりしているわけです。それも専門家によって徹底的に調査していく、取り残しの監視なども同じようにやっているわけです。韓国ほど網羅的には無理かもしれませんが、ある程度の、一定の数の抽出検査をやる仕組みをしっかり作るということが大事だと思います。

司会 今のご意見だと、規模要件であったり、リスクをあまり与えてはいけない建物の方を守る、そのようなところで一定程度資格要件のある人を充てるなどのような、ダブルチェック的な制度設計はもちろんご提案の通りだと思います。北見先生、事前調査の点については、法律的な立場も含めて、現実の今後の進行も含めて、どのようにお考えでしょうか。

北見 今制度が動くことになるのか、パブリックコメントが出ていたと思うのですが、これを見ていると大防法の答申の中でも、やはり人の数が必要になってくるということです。その一方誰でもできるという形にしてしまうと、制度そのものの意味がなくなってしまいます。一応制度ができて、しっかり動いたというだけではなくて、きちんとした制度として有効に作用するということが必要になってきます。ただ数だけで間に合うようになりましたという形で、しっかりやっているという評価はしないように、きちんとしたことがきちんとできる形にならないといけないということです。井部さんがおっしゃっていましたが、この話は15年前と何も変わらないというお話がありました。きちんとしたことをできるだけ早く実現しないといけないということについては間違いないことですので、今回のこの仕組みづくりのためにどういうことを今行っているのかということについて、きちんと検証し続けるということでしょうか、それが重要になってくると私は考えております。

司会 やはり調査者制度を作ったら、特に2年ぐらいの段階できちんとした一定の資格のある人がモニタリングをしておかないと、絶対にその制度がうまくいっているかが分かりません。そのチェックをぜひ誰かが担っていく必要があることは特に感じます。
 第3点目に移りますが、今回第三者性の確保という点について、調査であったり、終了検査であったり、他の点でも十分担保できたかという点は、なかなか難しい点があったように思いますが、その点について、外山さんからご意見があったらお願いいたします。

外山 全くといいますか、ほとんど、早急に検討すべきというだけで、実質的には何もないというところです。この点がやはり非常に大きな弱点になると思っております。調査の部分、事前調査、それから完了検査は特に第三者性は非常に重要なので、この部分の法改正もそうですが、実質的な取り組みとして、こうすればうまくいくというような取り組みも必要で、例えば完了検査は基準も何もないわけですね。多分色々な人の色々な意見があって統一することさえ難しい状況ですが、そのようなところ一歩一歩、マニュアル的なものをきちんと作っていくというところから始めるしかないのかなと思っているところです。

司会 井部さん、いかがでしょうか。

井部 第三者性の確保は非常に大事なことだと思うのですが、環境省の2013年の答申もそうですし、今回の答申でも、じつのところ毎回だいたい同じように書いてあるのです。前回からむしろ、完了検査の関係などでは若干後退ぎみの記述になっていて、そういう意味では、本当にこれは前進しているのか疑問に思うようなところもあります。結局、だから、具体的には盛り込まれなかったわけです。先ほど言いましたように、実際にその調査がどうであったのかを、品質確保する、調査が適正な内容であるということをダブルチェックするという意味合いで、第三者性は大事で、韓国の場合だったら、そもそも調査と除去と、さらに監視は別々の人がやる仕組みになっているわけです。そういうことは当然参考にするべきだと思います。日本は、これだけ不適正な、いいかげんな調査がずっと15年間続いてきた。非常にきちんとしている調査もあることも事実ですが、非常にいいかげんなところが山ほどある状況が続いてきた。本当に適切になっているかというところを第三者の目でチェックすることがまず必要です。
 例えば大阪府の守口市の案件などは、(吹付けアスベストの取り残し含め)160カ所以上見落としていたのです。そこも、以前調査した会社は元々断熱材の製造企業が、除去や調査などもするようになったところ160件以上の見逃しをした。しかも、自分たちが製造していたはずの煙突の横引き煙道のところまで見逃していたなど、きわめてずさんだった。それも第三者的な立場の人たちがダブルチェックしたからようやくわかったのです。そのような業務を、例えば自治体が今回災害時対策で通常使用時についてしっかり平時に調査していくということが努力義務で入ったわけです。調査を第三者的なところがチェックする仕組みなどを、例えば補助金なども含めてやる、モデル事業でそういうことを大規模にやるというようなことが本来必要なのだと思います。

司会 自治体なり省庁なりが、第三者的な団体も活用するということの必要性ですね。

井部 そうですね。そのダブルチェックをいいかげんな人がやってしまうと結局同じことになってしまうという事情もある。容易ではないのでしょうけれども、そういう意味では。そのようにチェックする人たちの認定制度、どれくらいの実力があるのかということがわかる仕組み、あるいはその品質を保証する仕組みも本来は必要だと思います。

司会 北見先生、いかがでしょうか。

北見 やはり業界の構造上きちんとやらないといけないことがあり、きちんとやったことについてのチェックはやはり外部性、外部からの目が不可欠になるだろうと思われます。そのような点から、何かを決めたときにそれがしっかり守られるかどうかに関連して、これは不可欠の条件だと思います。この点は、人的リソースの問題があるということは分かるのですが、先ほどの調査者の人のことも含めて、第三者的なことを試験的に行った上で、立法改正に向けてアプローチしていくか、前進しなければいけないことですので、チェックし続けることがやはり重要になってくると思います。

司会 ありがとうございました。それでは、第4点目にまいります。
 今回オンラインも含めて自治体に大防法のいろいろな申請が出されることも予想されます。さらに直接罰も含めて、自治体としてどのような形できちんとしたチェックをしていくか、自治体による責任となってくるわけです。なかなか自治体の方で自らできる部分と、専門家の協力が要る部分もあろうかと思いますし、当然住民の参加も大事と思うのです。どのような形で一定の役割を今後担うことになるだろう自治体、大気汚染防止法における自治体の役割と支援ということについて、外山さんの方からお願いします。

外山 自治体への支援がないという課題があって、大防法、環境全般そうですが、環境省は、法律は作るけれども、あとは全部自治体にやれと言っているだけにすぎなくて、自治体には資金もありませんし、人もいないという状況です。ごく一部の自治体だけが一生懸命やっている状態で、正直に言って圧倒的多数はきちんとできていないと見た方がいい。その部分をまず何とかしないと、話にならないということです。これは大防法の枠組みといいますか、そのような問題なのかもしれませんが、そこがまず1点目です。
 自治体がどうするかということですが、条例を作っているところもありますし、温度差が非常にありすぎるというところです。全くできていない、何もしないというところと、かなりきちんと全部立ち入りするというところなど色々あるので、もう少し全国統一的な制度にしていくということが必要です。自治体が何をすべきか、これはきちんとやるとしか言いようがありません。きちんとやる枠組みを国が作ることに尽きるのではないかと思います。

司会 例えば、地域の住民、議員の方々、自治体の職員そのようなところに対する、何かのこういうことを一緒にという点では何か提案がありますか。

外山 つまりグッドプラクティス的によくやっている自治体、あるいは専門家を配置して、きちんとやろうとしている自治体はいいのですが、そのような自治体が少数派だというところが大問題で、そこをきちんとボトムアップしていく仕組みを作らないとしょうがないのではないかと思います。

司会 井部さん、いかがでしょうか。

井部 そうですね、自治体の業務が増える一方というのはまさにそのとおりで、今の新型コロナの関係で保健所がPCR検査や聞き取りなどでぼろぼろになっていますが、実はアスベスト関係の大気部門は保健所です。保健所は自治体の中でいろいろな業務を担っていて、このようなコロナのようなケースがあると、実は応援で電話の聞き取りなどをやっていたりするのですが、そこは業務によってある程度融通を利かせながらやるのですが、全くできない業務もあります。
 大気関係をやっている部局はたいがい保健所の中でも廃棄物など含めて環境7公害全部やっているわけです。それを数人で、場合によっては1人でやっている状況で、騒音関係など苦情がとにかく多い事情がある中、大気のいろいろなものの中のアスベストをやっているという中で、専門性を上げていくということはかなり厳しい状況にあります。とくに都道府県、政令市ならまだしも、中核市になると本当に厳しい。全くわかっていない人ばかりという状況も珍しくないので、残念ながら機能しているとはいいがたい状況です。
 専門家の集まりであるはずの監督署はどうなのだというと、監督署は全体の中で1%もアスベスト関連はやらない。1%よりもはるかに低いという状況なので、自治体がアスベスト関係の養生検査にまだ比較的行っているところは行っているぐらいで、自治体の方はむしろ現場には行っているぐらいです。だから養生検査に割くリソース、養生検査でもひどい案件が見つかったりするのでそれもあるのでしょうけれども、そこのリソースをもっと、いろいろな形での抜き打ちや、あるいは、残念ながら専門性が確保できないことが多いのであれば、外部の専門家と一緒に動くことで自分たちのレベルアップも図ると。ボトムアップももちろんだし、全体のレベルアップ、残念ながら全体がボトムに近いぐらいの状況なので、上げていかなければいけない。また除去でアスベストが飛散しているような案件で、これまで外部の調査や清掃を命じることはあまりないのです。アスベストは除去しないといけないわけですね。(当然作業時に外部に飛散したものは取り除かないといけない。外部に飛散したら、周辺を調査させて除去させるべき。大気部局がどれをできないとしても、)隣の建物に落ちたら不法投棄に場合によってはならないかと思うのです。廃棄物部局と連携し、みだりに捨てるのは不法投棄だと扱うことも必要ではないか。そのようなところをうまく使い、もう少し取り締まれるのではないかという気もするのです。制度をうまく使ってほしいなということで、使うのにまた知識が要るというところだろうと思います。

司会 なるほど。不法投棄との兼ね合いのところで、そこの応用ができないかというご意見があったと思いますが、北見先生、いかがでしょうか。

北見 外山さんと井部さんのお話を聞いて色々考えたのですが、アスベスト絡み、大防法に限った話でなく難しいと思うのです。まず井部さんがおっしゃっていた今の保健所の状況ですね。これを前提にきちんと法が機能するにはどうしたらいいか、非常に難しい問題です。廃棄物についても実際そうでしたということもあるのですが。その一方法律が変わって仕事だけは降ってくる。リソースは増えるわけではないということになっています。今回の法改正で自治体が仕事をするようにというような話になってはいるのですが、国の側も実際の執行の現場に対してどういうことができるのか、もう少しきちんと課題として認識した上で書いておいてもらえたら本当はよかったと思っています。
 課題として存在しているということは、法がきちんと執行されることについてどのように実現するのか、単に法律の条文のところで仕組みだけを見て、これで十分だこれでは足りないという形だけで終わりではなくて、いざ実際に動いたときのことについても見ていくことが重要になってくると思われます。本当に難しい問題だとは思います。これは日本における規制を行う法律全てにかかわってくる問題とも思いますが、まさにこの大防法のところでそれが出ているのだということです。

司会 先生、すみません、基本的な質問で申し訳ないのですが、例えばその規制を行う法律を、若干規制を強めたときのモニターの仕方は、研究ベースでもある程度できるものでしょうか。

北見 実情についてチェックするということは、法律学のところでもやや遅れているかなというところです。もう少しいろいろな法律学者に加わってほしいという話もしましたが、アスベストについての関連法規の抜本改正が単に法律に関する話だけではなく、現場の声についてどうなっているのかなど全て集めて、今の現場がどうなっているのか、例えば学問で言うと社会学になると思うのですが、多くの人のアスベストの状況について目を向けてもらって、あらゆる知見について集めてもらってどうしたらいいのか考えていく必要性があるのだろうということで、モニタリングについて法律だけで言うと非常に弱いと言えると私は考えているところです。

司会 もう少し他分野の色々な専門家と含めたチーム、集団が必要だということですね。

北見 そうです。学問もそうですし、ジャーナリストの方もそうですし、現場の業者の方の声もそうですしということです。

司会 分かりました。ありがとうございます。ほぼ今回は論点にもならなかった可能性がありますが、除去業のライセンス化です。これがない国があまりない中で、日本はないままです。日本は建設業法も他省庁の法律規則でも「除去業」という定義すら実はないわけです。どこかでもういいかげん誰かが決断していかないといけない課題と思うのですが、外山さん、これは今後どのようにしていかなければいけないと思いますか。

外山 難しいですね。どう実現するのかということで言うと、国交省の建築業法でやるという手もあるし、環境省で言えば廃棄物処理の関係のそのような枠組みを似たようなもので作るというやり方もあるかもしれません。厚労省で言ったら製造許可や許認可があるので、そのような枠組みを使うということになってくるのかと思うわけですが、やはりライセンス性はILO条約です。やはり厚労省で何とかしてもらわないと、他で動くとは思えません。枠組み的にはその部分なのかなと思ってはいます。私も厚労省のワーキングの方は委員で参加しています。その中で主に主張したことは、やはりきちんと濃度測定をやるということと、ライセンス性については、一応そのような意見も言ったかと思うのですが、ライセンス性をやらなければだめだという話を厚労省はかたくなに拒否しているのです。濃度測定は絶対やらないとおかしいと思いますし、私の方が理論的には絶対勝っていると思うのですが、一切やらないということなので、厚労省もう少し体制をといいますか、変えてもらわないと困ると思います。石綿則も15年前にできる過程も、よく分からない不透明な部分もあって、しっかり議論して作ったのかどうかよく分かりませんからね。厚労省改革を進めなければいけないというところで、何とか厚労省にやってもらいたいという気持ちはあります。

司会 ありがとうございました。では、井部さん、いかがでしょうか。

井部 ライセンス制についてはILO石綿条約の中で明確に義務づけがあって、実は厚労省はそのような部分が課題だから条約を批准してこなかったのです。内部文書にきちんと書いてあります。測定についてもそうです。3つほどが課題で、この課題があるから批准できない、するつもりもないのと。ILO条約が作られるときも、国際会議の中で日本は、行政的負担が大きいからということで反対したのです。だから一切、作る気がないまま放置しています。2005年2月にILO条約は批准しているわけですが、このときにもILOの事務局に「中身について実施できていない場合はいいのですか」と聞いているのです。聞いた上で、「その中身について私たちがチェックするものではない」という回答を得て、内部資料を見る限り、要するに批准しても履行しない意思が最初からあったといっていいと思うのです。そのまま放置してきて15年たっていまだにその状況であるわけで、さすが「強制労働省」と呼ばれることもある厚生労働省らしい、経済最優先のお立場だと私は思っています。

司会 北見先生、いかがでしょうか。

北見 外山さんのスライドで、業界団体からも必要性が出ているというご紹介があったと思うのですが、ライセンス制度がない中で、最初の現場の映像にありましたが、不正をすると儲かるというのですか、不正をしても大した処罰、不利益はありません。
 きちんとした能力を持って、ずるいこともしない業者からしてみると、このような業者と我々が同じカテゴリーで扱われなければいけないのだ、という意見もあると思うのです。 現在の不正をすると儲かるというようなところで言うと、「経済最優先ですらない」、それ以前の問題になっています。経済最優先であるならば、きちんとライセンス性を入れて、頑張っている業者さんがきちんともうかるという仕組みにしていくと思うのです。ライセンスを取った業者さんがきちんともうかる仕組みにすると思うのです。不正をした側が業界の中でいい目を見るということになってくると、きちんとした業者さんからしてみても、今の仕組みでは足りないと思われると思うのです。これは条約に関してその枠組みがあって今現在このような状況ということで、やはり重たく批判的に見ていかなければならない現状かとは考えております。

司会 このような条約違反の場合、最終的には私たちはILOに「こんな日本でいいのか」という形で訴えることもありえますが、北見先生、いかがでしょうか。

北見 北見ですか。ILO絡みだとどうでしょうか、いろいろと今の日本では守られていないことがたくさんあるということにもなります。その中の一つとして、きちんと国際的にこうなっていることについて、この条約と結びつけた上で、現状についてあるべき姿からは程遠いことについて、もっと強く主張していく必要性もあるかと考えています。

司会 国際的なキャンペーンまで必要ならばする、という気にもなってしまいますが。

外山 そうですね。

井部 手続きできますから。

司会 そのような必要性もある課題だと思います。

外山 他にもたくさんあると思うのです。

司会 それでは時間になってきました。この論点では言い足りなかったこと、この点はこうしてほしいと思われるというようなお気持ち、これから2年私はこれをしていこうと思っていることについて、問題としてここの部分をぜひとも伝えたいという点、あとはこの1、2年でやはりこの点を重点的にやっていかないとまずいということについて、最後にまとめのご発言をそれぞれからいただければと思います。

外山 7年前、2013年に前回の改正の委員会があって私も参画しましたが、当時と比べると空気が変わっていると感じています。当時はやはり国会でもほとんど議論をされずに通りましたが、今回はやはり、今日の国会の中でも野党の議員が具体的な質問をきちんとして、いい質問をしたなと思うのですが、そういうことが行われましたし、パブリックコメントも非常にたくさん集まりました。きちんと調査しなければいけないという人たち、真面目にやろうという業者も含めて、行政も含めて、たくさん出てきていますので、そのような力を合わせて石綿対策を今後進めていくということを考えたいと思います。以上です。

司会 井部さん、いかがでしょうか。

井部 この間取材していますと、これまで先進国と比べてどうかという見方をずっとしていたのですが、全然違う。既に石綿使用国や東南アジアの国々などにも負けかけたりしています。フィリピンなどにも測定関係、解体時の測定をフィリピンは義務付けていますので、日本の方が遅れています。日本の方が遅れているにもかかわらず、フィリピンに測定の仕方をなぜか講習に日本が行っていたりしたりしているというような、訳の分からないことをじつは日本はしています。
 本当に系統立てた対策ができない。今回一部規制から外すといっているくぎ打ちやねじを回すところなどアスベストは飛散しない、あるいはきわめて飛散が低いとして日本は規制から外すという話が出ているところは、むしろ海外ではどんどん規制を強めている。韓国やニュージーランドといったアジアの国々でもどんどん規制を強めているのに、日本は逆にその規制から外してしまおうという世界的にあり得ない動きをしていることが非常に気になっています。今回のコロナ対策などもおかしいことをしていると思いますが、世界の非常識にかなりなってきています。アスベストで人が死んでいても関係ないと規制をそのまま放置する方針としか思えません。嫌になってきますね。

司会 そこが一番言いたいところとすれば、ここがぜひともこの1年でやらなければと思われるところはどこでしょうか。

井部 そうですね、例えば検証です。検証がやはりありません。リスクについてもしっかり検証していません。科学的な考え方がありません。そのような当たり前のことを一つもやっていないということが一番大きいです。それをしっかり対策の手前、検討段階でそれをしないことには、その先に進みません。

司会 とにかく検証していくという、何かしたら検証するという文化に強くこれからしていくということが、絶対必要だと思いますね。ありがとうございました。では、北見先生、最後になりますが、言い足りなかった部分で、ぜひこの点はという点と、この2年ぐらいにぜひともここはしていこうと思われるような提案があれば、ぜひお願いします。

北見 個別の具体的な提案というわけではないのかもしれませんが、見る目としてですが、北見が講義したスライドのところにも書いてあるのですが、主には三つの法律(建築基準法、大気汚染防止法、労働安全衛生法)が三つの省庁(国土交通省、環境省、厚生労働省)で扱われているということになっています。井部さんのスライドの韓国のところで何々部、何々部、何々部というようなことで、それぞれの部が、学校教育の担当の部、日本で言う文科省でしょうか、日本で言うさまざまな省がきちんと前進しています。前進している省、学校に関してはとりわけ厳しくしている省があるというようなことがあると思うのですが、前に行っていると思うのです。日本の場合も、原則的にはまず三つの省がきちんとスクラムを組んで、きちんとボールを前に前進させないといけないところですが、これは工事が終わった後の話というようなことで、別の省にパスをしたり、これは労働者の保護の話ということで別の省にパスをしたり、横にパスを投げているだけで、前に進んでいないという印象があるのです。そのようなところからいずれの省もこの問題についての前進を、みんな一緒になって前に進んでいかないといけない存在だということについて、まず意識してもらって、省庁間の連携のあり方についても、これは自治体にも直接影響を及ぼすことなので、この3省がそれぞれにというような形ではないようにしなければならない、そのような見方もしていかないといけないのだろうと考えているところです。

司会 ありがとうございました。大気汚染防止法の改正案が今のところ衆議院の環境委員会を通過したところでありまして、今後一月ぐらいの間にいろいろなものが決まっていきつつ、また、現実は現実で具体的に動いていることが多々あろうかと思います。
 今回課題として残ったところをまず広く明らかにしておくとともに、ここの部分をより補っていかなければいけないことについて、今日いろいろなことを皆さんに言っていただいたと思います。皆さんと一緒にやっていくしかないのかなと思っております。新型コロナウイルスの蔓延でなかなか先が見えにくい中、あと2年ぐらいの間でウイルスも落ち着くと思いますので、その後少なくともアスベストによる被害がより少なくなるような提案ができるようにしていこうと考えております。今日はどうもご参加ありがとうございました。ご苦労さまでございました。