当社の考える適切な石綿除去工事と不適切な除去工事

Symposium Summer 2006

当社の考える適切な石綿除去工事と不適切な除去工事(1/3)

司会: 続きまして報告の2番目、ヤシマ工業の専務取締役の松岡忠孝氏から報告を、お願いいたします。

松岡: 皆さん、こんばんは。ヤシマ工業の松岡と申します。今、我々がすべきことは何か、これからどういう形で夏の吹きつけ石綿除去工事が動くのだろうかということを、かいつまんでお話させていただきたいと思います。

 まず、石綿除去工事の基本とはなんでしょうか。実際に工事の中で危険とされている微少な石綿繊維は、太さが0.25ミクロン、長さ5ミクロン超というもので、いくら目の良い方でも見えません。石綿除去工事は、この見えないものを制御(abatement)していくわけですね。したがって決められたことを、愚直なまでに決められたとおりにやればいいんです。発明とか、色々な事は必要ない。例えば、床はビニールシートで2重に養生してください、壁は一重に養生してください。吹付け石綿を除去する部屋の圧は、負圧(外の大気圧と比べてマイナスの圧)の状況にして、万が一シート等のシールドが破壊されても、外に飛散しないような方法にしてください。石綿を飛散させないためには、やはり濡らすことも大事です。濡らせばその時点では、石綿は大して怖いものではない。乾燥しドライな状態だと飛散するので、危険で怖い。今申し上げたことを一つずつ確実にやればよく、余計なことしなくていいのです。これが実際の基本です。

 もう一つですが、この工事は大変厳しい言い方をしますと、答えは0点か100点かしかないのですね。といいますのは、外に飛散させれば0点で、ある程度完璧に制御(abatement)していけば100点。50点という工事はないと思います。やはり一番問題になりますのは、工事中の石綿(アスベスト)濃度の管理です。これは作業場外も含め、どういう状況でアスベスト濃度が変化していったのかを示す、とても大事なものです。言ってみればアスベスト工事の通信簿です。この通信簿が、発注者の方も、我々工事業者も、適切に工事が行われましたという唯一の証明書になるわけです。この辺をしっかり大事にしていきたい。情報公開(ディスクロージャー)という所で言えば、ある現場があり完成しました。工事中の濃度並びに環境の変化はどうなっているのか、ということをオープンにできるようなシステムがあればといつも感じます。

 私は、吹付け石綿除去業をやってよい業者は、上の3つを満たす業者だと思います。

 一つは、経営者が石綿の危険性をどう理解するかです。基本的な物性で、細かくなって飛散する、これを吸い込めば悪性中皮腫等いろいろな病気が発生する。この事をやはり経営者が熟知しないと駄目です。本当にアスベストの危険性を熟知し、それを社員に通達する。除去業者は少しブームになっていて、1m2/2万円か3万円というから、うちもやってみるか、儲けたろうじゃないかというような、それはそれでいいのですが、その段階で経営者の方は勉強していただきたい。

 もう一つ、今度は現場管理者です。石綿除去に使用する、いろいろな機材があります。機材もひょっと手を抜くと、アスベストが漏れる危険性が十分あります。機材のきちんとした前点検、工事の実施にあたり完全に技能者=ワーカーをコントロールできる力、知識が実は必要なのです。

 作業員では、当然自分の体は自分で守る。自分の体を自分で守らない人は、2次ばく露を起こす危険性が必ずあります。私どもの会社も、70人くらいのワーカーがいます。時々入れ替えをします。なぜならば現場管理者(監督者)の言うことをきかない人は、退場願わざるを得ないのです。性格的にこの工事に不適切な方は、かなり居ます。君はやはりだめだ、別の仕事をしなさいということで、そのくらい徹底することです。以上3つの点が、吹きつけ石綿除去業に必要です。

 さて今度は、不適切な除去工事の現場についてお話いたします。一丁儲けたろうかという方のやった現場で、上の様な場合があります。作業区域外からとった写真で、パイプの向こうが石綿除去作業場(ダーティーゾーン)です。手前側がクリーンゾーン。ところがパイプの間は、すかすかになっていて、きちんとした養生(囲い)ができていません。ここから石綿が確実に漏れます。次の写真も同様で(写真はありません)、養生自体がきちんととめられていません。これが現実です。アスベストがなんたるか分かってない人が仕事をすると、こういうことになる。現実的にこういう工事が行われている。なかなか作業環境が厳しい場所です。志の低い会社は、こういうことが現場で起きても何が悪いのかわかっていない。監督(現場管理者)もわかっていないし、職人もそのままやっている。経営者なんて、もっとわからない。経営者には、いつ集金できるのかしか考えていない人もいるのが現状でないでしょうか。

 今年の夏の工事は、教室の天井に吹付けアスベストがむき出しであり除去する工事はほとんど無く、後でお話しますが、一番多いのは既に囲い込み工事をされている部分です。体育館とか、写真の所に吹いてあるアスベスト除去が大変多い。見ていただくとわかるように、軽量鉄骨で支えています。その間は折板ですから向こうに抜けています。それで、この養生をどうするのだということです。

 やはりこの切板の黄色い部分の養生をどう処理するか、密閉するかということが問題ですね。方法論としてはこの形に合った型枠をつくりまして、封じ込め材をあらかじめ負圧の中で加工し、貼り付け、周りをシーリングするぐらいのことをやらないと工事として成立しない。

 実際に折板屋根というのは庇が出ています。庇の裏にアスベストを吹いてあるのでどうするか。正しいやり方としては、外側に足場を組んで、密閉養生を部分的にして、やらなければいけない。ところが現実問題うまくしていないのが現実だと思います。

 もう一つ、今年学校や色々なセンターで多いのは、上の図の様に天井裏にアスベストが吹いてあって、更に天井ボードが貼ってある場合です。通常コンクリート(RC)製の建物でアスベストが吹いてあり、その上に天井を貼ることはありえません。これは恐らく20年くらい前に、石綿が問題となった時、エンクロージャー(囲い込み)をしたということです。私から言いますと「隠し込み」で、実際こういう現場がたくさんあります。

 この現場で実際に正しく工事をするには、天井ボードを解体する時点からアスベスト除去工事なのです。なぜならば天井ボードの裏に石綿が落ちていますし、天井ボードを取る際にビスを抜いたりボードを外したりすれば、振動等で石綿が飛散します。本来この段階から、下の図のようにクリーンルームや負圧等を稼動させた中で、天井ボードの解体を行なうように、石綿除去とセットで扱わなくてはいけません。

 天井ボードを撤去したら、ここでもう一度養生を天井スラブのアスベストのある所まで立ち上げて、それから除去工事を進める。これが現実的で正しい工事なのです。ところが実際には、先に養生なしで天井ボードを外す工事を行い吹付け石綿のある部分を裸にした上で養生をしている除去業者が多く見られます。その段階で石綿が飛散してしまっているから、もう遅いです。これが今年の夏、現実に多々起きる恐れがある工事と思います。

 では我々、また皆さんが、何をどうポイントで見ればいいのかということをお話しします。まず、事故が最も多いのは密閉養生が悪くて、これがはがれて漏れるということです。したがいまして密閉養生を徹底させる。それには床を0.15ミリで2重に必ず覆い、なおかつ立ち上がりを30センチくらい取る。その上から壁養生をしましょうと。これが絶対条件です。次に作業場内の負圧です。これは負圧集塵機でおこないます。大体基本的には作業エリアの空気を1時間に4回以上入れ換える。その能力がある負圧が通常通りセットされているのだろうかということが一つ。もう一つはフィルターです。HEPAフィルターが入っています。これが「何時間でお宅の会社はメンテナンスで交換しているのですか」、「そういえば、1年くらいしていないな。」ということがある。こういうことがきちんとされているかどうか。負圧状態を確認するために差圧計やスモークテストをやりながら、現実の負圧を確認していく。それから、吹き付け石綿の除去作業で最も大切なのは、濡らすことです。濡らせばその時点ではそれほど怖いものではないです。徹底して濡らすということをトレーニングしていくということが大切です。

 保護資材の管理も重要です。元請業者が、仮に石綿除去業者に丸投げしたとします。石綿除去業者はそこで利益をあげようとします。タイベック(防塵保護服)は1回使い捨てが原則で、1回使用したものをクリーンルームにおき再使用すると石綿が体につき外部に飛散します。また作業用防護マスクのフィルターを使い回してしまう。確かにフィルターは原価で3000円近くしますから、これを節約する。また、保護服を作業場外に持ち出すこともある。消耗品を惜しむ会社はこの仕事をしてはいけない。徹底が大事です。

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