Symposium 2004 : 2
名取: 続きまして、「アスベスト含有建材の中小規模物件での使用と対策の実情」ということで、高木さんよろしくお願いします。
高木: 全建総連の高木と申します。中小規模物件の実情と対策、実際にどのくらいのアスベスト建材が使われているのか、建設現場で働く我々の仲間にどのような健康被害が出ているのかについて話をさせていただきます。中小規模物件でのアスベスト含有建材の使用状況とのことですが、絶対量の違いは当然ありますが現場の規模の大小での差は基本的にないと思います。建築関係の方には当たり前の話ですが、建築基準法や消防法で、建物の色々な部位に防火性や耐火性の要求がされています。実際には色々こまかな規定がありますが、中小規模の物件の場合、特に木造としますと、市街地の防火地域とか準防火地域では、建物の構造自体は燃えてもいい(燃えていいというのはおかしいですが)のですが、屋根や外壁とかひさしとか、要するに外から火にあぶられる可能性のあるところは全て不燃材を使いなさいというのが法律です。そういう意味で都市部ではアスベストだらけです。地方の本当に畑や田の真ん中にある一軒家は別なので、あまり防火規定というのは厳しくないのですが。
一例をあげますと、設計図書に指定があります。昨年11月の江戸川の現場で、昨年11月に新築した2階建て鉄骨。1階が車庫で、2階が住まい。これは建築中の現場写真ですが、その設計図の中の断面図で屋根はどういう材料にしなさいよとか、天井はどうしなさいよというのがあります。この断面図の1階車庫の壁のところ、不燃材を使わなければならないところですが、材料と仕上げの指定に「石綿スレート板VP仕上げ」があります。VP仕上げとは水性のペンキを塗りなさいということです。
(写真)
鉄骨の耐火被覆戸デッキ材裏の断熱材ですが、これはさすがにアスベスト吹きつけは禁止されていますから、ロックウール吹き付けとされています。壁の石綿スレート板はまだ実際には貼っていない状況でしたが、これは仕様書通りにいけば、この壁にこれから石綿スレートが貼られる所であります。
ちょっと脱線しますが、この部分を見てください。私達が現場で、どういう風に石綿に曝露をするのか? 現場と設計図はしばしば矛盾します。天井の高さをとるために、本来設計が完璧ならばこんなことはないですが、実際にはこういうふうに岩綿吹きつけを一部削り取ってやらなければ天井高が確保できない。つまりもともとアスベストを扱うという自覚なしに、大工、電気、設備等の工事の過程でいじってしまうということです。
アスベストがどんなところに使われているかということですが、アスベストパニックだった1987年にNHK「おはようジャーナル」で放送された中で、どんなところに使われているかというのかをお示しします。これは今から17年も前の放送ですが、最近放送されたといってもいいほど石綿の使用状況は変わっていない(多少のずれはありますが)という意味でわざと古いものをみて頂きます。「多いときは3000種類の製品に使用されていた石綿、電線の被覆材、自動車のブレーキ。建材では、壁材、天井材、屋根材、波形スレート、石油ストーブの芯、魚を焼く網、トースター等」(放映終了)建材でないものもありましたが、実際に建材だけでなく私たちの身の回りには大変な種類と量のアスベストがある訳です。
これも古い資料ですが、1980年に石綿協会が出した「石綿スレートの」資料です。この1ページ「石綿スレートとは」という記載があって、「優れた10の特徴」としてこう書いてある。まさにここが石綿の怖さですが、「石綿は、健康な現代の建築材料です。」建材にいろいろ一長一短がありながら、「石綿スレートはあらゆる性能のバランスがとれているフェアな健康な材料です。」と書いてあります。次に「10の特徴」とあり、「燃えない。だから不燃材に使われる。水に強い。だから風呂場や洗面所の壁に使われる。丈夫で長持ち。腐りません。施工も簡単。柔らかくて簡単にのこぎりで切れます。軽い。ネズミや白アリに負けない。遮音性、防音性、断熱性がある。耐侯性がある。従って、外壁とかに使われる。そして何より安い。経済性がある」と書いてあるのです。こうやって70年代に輸入のピークを迎えて、その多くが建材に使われたといわれていますが、まさにこういう認識のもとで使われてきたのだと思います。このパンフレットの10の特性ゆえに、さまざまな部位で石綿建材は使われてきました。大規模な物件では、一定規模でアスベスト含有を特定できますし、石綿含有建材の対策も講じやすいと思います。仮にこの会議室の天井がアスベスト含有で、わかっていれば養生して剥がすことができますが、中小規模物件では、石綿含有建材の徹底した対策をとることはきわめて困難であるのが現状です。
どうして困難かと申しますと、第1に石綿含有が予想されていても、特別な処理をするには費用と手間がかかります。ちょっとした改修やリフォームで例えば工期1週間100万円の工事、この会場の天井を張り替える位の工事ですね。その時にアスベスト含有建材ではないですかという疑問が、業者から出ても、発注者から出ても、まずアスベスト処理にかかったらどうなるでしょうか?本来法律では本工事前に事前に調査をしなければならない訳です。解体のために仮に吹きつけ石綿に準じた対策を講じると、数倍の工期と処理費用がかかると思います。誰がその費用と責任を取るのでしょうか。そういう実態の中でアスベスト曝露が野放しになっています。
第2には、石綿の危険性の警告が全員にいきわたっていません。職人も知らないままアスベストに曝露している。多少埃っぽい程度にしか考えていない人が多いのです。
これは私どもの組合員から3年前に提供していただいた写真ですが、鉄骨の建物の1階のテナントのリフォームを頼まれた。これが一見普通の天井と壁ですので、照明器具をはずしてリフォームの準備をした。養生していますね。20-30年前の建物で、この写真をくれた仲間はたまたま労働対策部の役員さんでしたので、石綿に詳しかった。天井を一部切り抜いてみると、明らかな吹き付け石綿でした。施主に話をしたのですが、職人のためも含めてきちんと処理をしなければこのままでは工事は続行できないとして、で仕事が流れた。
一昨年11月に組合のそばで解体がおこなわれていました。たまたまシートが開いていて、ひょっと見たらこういう状況だったので、すぐに写真を撮りました。吹きつけアスベストに違いありませんが、何の対応もしていません。水でぬらしてもいません。私は仕事で行ってしまったので、組合の書記さんが「これは吹きつけアスベストではないでしょうか」といったら、監督が「これはアスベストは含まれておりません。もしアスベスト含有のものだったら、こんな壊し方はできません。」と答えたそうです。知っているんですね。知っているのですが、対費用効果かわかりませんが、実際には壊れてしまえばわからなくなるということがある。
今、建設職人に石綿による健康被害は続出しています。昨年の報道の一部です(上映)。「板金工の石綿肺癌の方の報道」本当に何も知らされないまま石綿を吸い続けた結果が数十年を経てガンという死病にかかってしまったという悲惨な1例です。
結論を申しますと、今年10月からアスベスト含有建材使用が禁止されるということですが、役所は「原則禁止」といって「全面禁止」とは言っておりませんが、「1987年の学校アスベストパニックで石綿の問題が終わった。」と思われているのと同じように、この10月からの法施行で「これでもうアスベストの危険はない。」と皆さんが思うような現状があります。「これは真っ赤なうそですよ。」と申し上げたい。
これは東京労働局が出しているパンフレットです。「石綿含有製品の製造使用が禁止」確かに全面禁止とは書いていないが、これを読んだだけで、「もう石綿は大丈夫だな。」とお客さんは思います。実際に禁止されるのはこの10品目だけです。特化則によれば前条がありまして、クロシドライトやアモサイトはすべて何でも使ってはいけないとなっていますが、クリソタイルはこの製品に限っては使ってはいけないというふうになっています。
左官用モルタルが今問題になっていて、最後にこの問題を申し上げたいのですが、これはテーリングといって、混ぜてのびを良くしてひび割れを防ぐもので、去年3月に買ってきたものです。クリソタイル45%含有で、しかも粉体、粉のままの状態です。左官屋さんの作業をお分かりかと思いますが、モルタルに混ぜて使うものです。この製品の主要なメーカーは昨年夏くらいから自主回収して、ノンアスベスト製品に変えたようでした。ところがこの7月厚生労働省は、「左官用モルタル混和材の石綿含有について」という資料を出しました。ノンアスベストを唱っている左官用モルタル混和材に、石綿含有が現在もあることが判明したというのです。「今までの成分分析法では、石綿のクリソタイルは発見できなかった。しかし違う方法で分析をしたら、今まで無石綿表示していたものに(はなはだしいのは「ノンアスエース」という商品名で)、実は90%クリソタイルだという製品も判明した。」と言うわけです。しかもこのモルタル混和材は、今度の10月から製造も使用も禁止される製品10品目に入っていないのです。「石綿含有製品の製造使用が禁止」といっていながら法の網の目からこぼれている製品の1例です。
中小規模物件の現場でのお客さんは、石綿による健康被害の恐ろしさを十分にわかっていないし、職人も僕たちもまだまだ認識や啓蒙が足りないと思っています。中小規模物件の現場で系統だった対策が無きに等しく、アスベストということでなくても、一般常識として埃がたてばマスクをし、吸塵措置を使うというのがようやく始まったところだろうと思っています。最後にレジメに書いていますが、建て直しや改修が必要な建物の大部分は今から20年以上前に建てられています。そこで不燃材として使用されている建材のほとんどはアスベスト含有建材です。ちょっとしたリフォームでも大規模な改修工事でも、対策をたてなければ石綿曝露の危険性は変わりません。現場で作業するわれわれ職人だけの問題なら、マスクをすればよいのですが、「さしがや保育園」の例でも明らかなように、周囲の人たちや環境汚染が実は問題ですから、工事の規模の大小を問わず対策考えないといけない。しかしそれには費用もかかる。発注者であるお施主さん、仕事をする我々職人も含め、全国民の常識としてのアスベスト対策が求められていますし、すでに曝露している人たちの深刻な健康被害は「国家賠償」ものだと思っています。