シンポジウム第2回 石綿(アスベスト)含有建築材料

Symposium 2004 : 2

基調講演

 初めまして、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの名取と申します。最初に、アスベスト含有建築材料とはどういうものか、写真でおしめします。石綿(アスベスト)含有建築材料は、吹き付け石綿以外の石綿含有の成型品の建築材料(以下建材と略します)、英語ではACM(Asbestos Containing Construction Material)とも言います。石綿とセメントを主な材料とした成型品には、波形スレート、平形スレート、ケイ酸カルシウム板、フレキシブル板、屋根用の化粧石綿セメント板、岩面吸音板、サイデイング板、押し出し成形板があります。プラスチック・ゴムと石綿の成型品ではPタイルがあります。

 鉄道の駅の屋根とか工場の屋根や壁に、波形スレートはたくさん使われています。

 この20年民家の屋根に大変よく見る化粧された石綿セメント板が、いろんな商品名で売られています。屋根材は、石綿含有セメント板の典型ですが、実際に屋根材を切断した後に白い粉が残っているのが見られます。板金の屋根の上に石綿の入った瓦を乗せるタイプの製品もあります。

 こちらはサイデイングで、外壁材として使われます。このサイデイングが貼られた家が解体される所ですが、こういう形で解体されることが多いのです。

 こちらはトイレなどの天井等に使われているフレキシブルボードと言われる板で、非常に固くて施行性も良い石綿製品です。

 良く天井等に使われているのですが、実際に多くの改築や解体の現場で手ばらしでなくハンマーを使って解体している所です。

 こちらも良く見かける石綿入りの岩面吸音板という製品です。現在はアスベストが入っていませんが、以前の岩面吸音板には石綿(アスベスト)が入っていて、比較的柔らかいタイプの製品です。

 こちらは床のPタイルです。これはPタイルを外しているところです。

 こちらは比較的キザキザした屋根に使われている石綿フェルト材です。製品名では「フェルトン」という名前が有名です。

 煙突で石綿自体は写っていませんが、煙突の内部に石綿製品が使われている場合が多いのです。

 駐車場でも、駐車場ビルの中には吹きつけや石綿ボード等、様々な形のアスベスト製品が使われていることが極めて多い場所です。

 こちらは配管部にある石綿保温材です。まっすぐの部分は、半分に割れる石綿保温筒等が使われていて、曲がる部分(エルボーとも言いますが)に保温材がいれてあり、それを石綿布等で巻いている形です。

 こうした石綿含有建築材料の改築や解体時の方法には、大きく言うと、手ばらしで解体する方法とバールで破砕する方法があります。手ばらし解体とは、釘やビスを一本一本取って、手で壊す方法です。国土交通省等も推奨している方法で、確かにそれが可能であれば粉じんの発生は少ないのです。しかし時間は3倍位かかるのです。また釘等が錆びたり固くついていて、手ばらし解体自体が無理な時もあるし、大変に高い所等簡単に出来ない場合もあります。実際の現場でこの方法が実施されることは非常に稀です。

 実際の現場では圧倒的にバール破砕が多いのです。時間が短く、単価も安くすむのですから、施主も解体費が安く押さえられるし、安い解体を担わされた業者もバール破砕は一見ありがたいのですが、石綿粉じんは高濃度に飛散します。しかし石綿含有建材の改築及び解体の実状では、バールを使うことが多いのが実情です。

 粉塵を飛散させない養生の仕方には、開口部養生と全養生があります。開口部養生というのは、窓や戸のみを養生する方法です。全養生は、(吹き付けアスベスト除去の際に行なう方法ですが)、天井や床を全てプラスチックシート等で二重に覆う方法です。しかし防塵のための養生は何もしない現場も多いと思います。大規模現場では石綿含有建材でも全養生を行う現場も増えてきました。この写真は、岩面吸音板を壊す現場で養生をし始めている途中で、まだ床は養生されていませんが、壁については養生が始まっています。

 第2にお話するのが、石綿の濃度は様々な建築作業や現場で、どの位の濃度となるのかが重要です。吹き付け石綿(アスベスト)が、建築物から自然に飛散してしまい高濃度の曝露濃度で有害である事は昔から言われてきました。今回お示したデータは1970年代の典型的なもので、吹き付けアスベストのある倉庫での様々な作業で濃度がどのくらいになるかを示したものです。吹き付け石綿のある倉庫で静かな状態では0.2f/mlなのですが(もちろんこの濃度自体が高い状態なのですが)、吹き付け石綿を誤って掃いてしまった時350f/mlという極めて高濃度となっています。倉庫で床や箱に落ちた吹き付けアスベストの清掃で11.89f/ml、倉庫で箱を移動した場合が6.4f/ml、倉庫で作業した2.7f/mlという結果です。吹き付けアスベスト自体が、建築物から自然に飛散してしまい危ない事を端的に示すデータです。

 問題はアスベスト含有建材について、「飛散しない。」という言い方がされる場合がある事です。「管理して使えばアスベスト含有建材は非飛散性で心配ない。」とう言い方をする人がいました。しかし実際は多くの測定結果で石綿含有建材が高濃度となる事が実証され、「飛散しないアスベスト含有建材はない。」事となりました。全てが場合により飛散する事が判明したのです。

 これは東京安全センターの外山さんが実際に測ったアスベスト濃度のデータです。吹き付けアスベストのある天井の下で、石綿の含有していない天井板を除去する作業で板をいじった場合で2.27f/ml。Pタイルはそれほど飛びませんが0.18f/ml、石綿含有セメント板を除去する場合4.3f/mL。石綿含有建材であるPタイルやセメント板を改築解体する時に、かなり高濃度が出ることが実際に示された訳です。実際に別の現場でPタイルは結合が固いので0.24f/mlですが、石綿含有天井板をバール破砕すると3.84f/mlと極めて高濃度である事が分かります。しかし充分な対策をすると低くなる事が分かります。

 今までの話は改築の話でしたが、実際に新築の場合に電動鋸等を使ってアスベスト含有建材を切断・加工すると(久永先生が新築の場合に調べたデータですが)、146〜787f/mLと極めて高濃度であることが報告されています。新築で加工する時は、低い場合でも0.1f/ml、高い場合は12-48f/mlです。石綿含有建材を新築で加工するときは極めて高濃度であることが示されてきました。今度は改築時はどうなのかです。

 岩面吸音板で、外山さんの最近の結果ですが1-2f/mlと、対策のない場合岩面吸音板を壊す事自体が極めて高濃度の石綿が飛散することが示されました。ケイ酸カルシウム板ですが、3-5f/mlと非常に高い濃度が出ています。石綿含有耐火被覆板でも高い濃度がでていますね。サイデイングですが、新品に釘を打つと0.02f/ml、電動ノコで切ると1-12f/mlですし、切断後に1〜2m離れたところでも5f/mlと非常に高いのです。吹き付けアスベストだけでなく、石綿含有建材を改築解体する際に、高濃度の石綿を吸入する事がはっきりした訳です。「石綿含有建材は管理が出来ない。だから禁止するしかない。」というのが世の流れだと思います。

 第3に石綿による健康障害の事をお話しします。長年で高濃度の石綿を吸入した方におきる石綿肺。より低濃度で短期間の石綿吸入で起きる、肺がん、悪性中皮腫、胸膜肥厚斑、良性石綿胸水などが知られています。

 粉塵を吸入してなるじん肺の一番軽いものは1型のじん肺です。今回お示しするのはそれより重度のじん肺の写真ですが、セメントを長年吸い続けた方のじん肺は左のセメント肺。右は石綿建材工場で働いた方の石綿肺。左は石綿の吹き付け工の方にできた石綿肺。右は溶接工の方のじん肺です。溶接の粉塵を少し、石綿の吹き付けも少し、アスベスト含有建材の石綿やセメントの粉塵をかなり吸い込んで、1型のじん肺かやや軽い程度のじん肺になっている状態が現在の建設で働いている方のじん肺ということになります。それ以外としては石綿を吸い込んで胸膜にできた胸膜肥厚斑ができます。

 建築の方の胸部レントゲン写真の所見を見ると、粒とか不整といわれるじん肺所見が15-20%位の方に認められ、1%くらいの方に1/0以上のじん肺所見が出ます。年代が上がるとその率も増え60代以上では35%くらい、胸膜の所見の方が15%、あわせて40%位の方に異常な所見が出てきます。建築従事した年数別にみて、5年以下や10年程度での有所見はないのですが、41〜50年位働いている方を見ると、じん肺の粒または不整の所見が27〜8%、胸膜の変化が12%、両方足すと32〜3%の方に所見が見られます。60代以上の方の4割位になんらかの変化が出ているという状態です。

 石綿については、石綿関連肺がん、悪性胸膜中皮腫が有名です。実際に石綿を過去に扱った方の中に肺がんや中皮腫が大変増えてきています。そうした方のなかには肺の中をよく見ると石綿小体、アスベスト小体があります。アスベストの繊維を芯にして回りにタンパクと鉄がついたものですが、これが逆に見つかることによってタバコではないと、この肺がんは明らかにアスベストのせいだということが分かります。実際に板金工の方で肺がんが見つかった方ですが、タバコによるものだということでしたが、たまたま手術をしてあって、話を伺うとアスベスト曝露がありまして、病院に伺って肺の標本をお借りして消火して調べてみると石綿小体が多数見つかったという事で労災申請が出来たのです。残念なことに亡くなられて、現在遺族補償をうけています。

 現在様々な現場でアスベスト含有建材が破砕されているのが実情で、建築関連の仕事で職業性石綿曝露があるし、その周囲で環境性の石綿曝露があります。波形スレートでは、施行したあとに経年劣化する事が知られていまして、セメントが落脱して飛散しやすい状態になる事があります。天井の内部に補修で入る場合の石綿飛散の問題があります。廃棄物をどう処理したがいいのかということもあります。こういう中で、今日はそれぞれの実状や対策について話があると思います。なかなか有効な対策は、たっていないのが現状です。

 平成14年の環境庁のアスベスト建材対策の委員会で石綿含有建材の手ばらし解体現場の検討はされたのですが、バール破砕の現場はなかなか検討しなくて、これでは現場とずれた机上の話で終わり、今後の有効な対策を立てられるようには見えませんでした。確か委員には、石綿関係の会社の方が3名位入っていたと思います。充分な対策を立てるためには、現場で実効性のある対策を立てている皆さん、アスベストについて職業性にも環境にも飛ばせたくないと思っている現場の知恵を大事にしないと、本当の対策は立たないのではないかと思います。今日は現場での経験の多い方で、今後の対策の話が伺えると期待しています。とりあえず、皆さんのご意見を伺う前に基本的な話をしました。続きましてシンポジストお一人15分程度話を伺って、その上で議論を煮詰めたいと思います。最初に大越慶二さんから「大規模物件での改築と解体時の対策」ということでお話を頂こうと思います。

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