シンポジウム第1回 公共建築物の吹き付けアスベスト

Symposium 2004 : 1

シンポジウム:事件の概要と現在までの経過

司会: それでは続きまして、吹き付けアスベストのある建物がわかっていたにもかかわらず改修工事の際にアスベストを飛散させてしまった、という今後もありうる話です。今のところ天井があるので落ちては来ない、しかし天井を改修・改築すれば飛散してしまう。このことは全自治体で起こりうる危ない例です。これが実際に起きてしまった文京区の保育園の保護者のお話をお願いします。

保護者: 今回の話は文京区の話です。事故が起きたのは1999年で私は2000年の父母の会長として問題に関わってまいりました。

 1999年の7月に文京区の保育園では0歳の待機児が多いということで定員を増やすために改築工事が行われることになりました。まず、保育中に工事が行われる計画を立てたのはアスベストの有無に関わらず、問題であったと考えています。現実には、工事が行われた部屋と保育が行われている部屋の仕切りはベニヤ板一枚しかなく、工事が始まった頃は目張りも無い状況でした。図面をお見せ致します。

 これは2階です。1階も同じような構造でした。ここがもともとの0歳児の部屋で、ここは1歳児の部屋でしたが、0歳児の部屋を拡げたいということで壁を抜いて1歳児の部屋を少し0歳児に分ける形の計画がなされました。

 当時の0歳児はこの食事室へ移動し、1歳児はここまで使っていたのを半分に減らして保育をしていました。ここの間仕切りが1枚のベニヤ板です。次は園庭から撮った外観の写真です。ちょうどここが工事の境目で、ベランダは続いていたので子供が行き来できないように境に壁を作ってあります。簾の付いている部屋が1・2歳の部屋、ここが工事の部屋、下に3・4・5歳児の部屋というようになっていました。

 これが1歳児の部屋から工事部屋の境のベニヤ板を写したもので、目張りをした後の写真なのでテープが貼ってありますが、工事当初は貼ってありませんでした。

 この板の向こう側で工事がありましたが、どのようなアスベストの飛散が起きたかといいますと、このようにいくつか7月の始めから8月の始めにかけて飛散が生じました。1と3は天井仕上材や調乳室の天井のボードで、中にクリソタイルなどが含まれていました。2・4・5・6は吹き付けアスベスト、特に4の所から大量に発ガン性の高いクロシドライトが飛散するという事故が起きました。

 どうしてこのようなことが起きたのかをお話します。保育中に大規模な工事を計画すること自体が間違っていた、という点があります。営繕課や保育課が0歳児の部屋の拡張計画を立てて、営繕課が実際の工事方法を決めました。図面を見ればアスベストがあることはわかったはずです。工事の最初の4月の段階で、保育園の先生から保護者へ工事の説明がありましたが、その時保護者でさえアスベストがないのかという疑問を持って、区へ問い合わせを頻繁にしました。区の営繕課の回答は『アスベストは少量あるが、天井には触らない。アスベストには関わらない工事である。』と言うので、工事が始まりました。

 つまり、疑問を投げかけただけでは工事は止められず、かつ、実際の工事では多分アスベストに触ることが予想できたはずなのにそのことを区が隠していたことが問題でした。その後、保護者がいつも問題を指摘しても、例えば、天井に触らないはずだったのに天井には穴が開いていることなど、細かいことを指摘しても区は何も対応をとらず、それに対して事実を隠していたことがあります。保護者がアスベストの飛散の証拠を突きつけてやっとそれを区が認めました。飛散してから工事を止めても、すでに子供たちはアスベストに曝露してしまっていたので、それでは遅かったとまだ怒りを感じています。どのようにするかという対応は、保護者から殆ど全て提案をしたものです。全面撤去して欲しい、ここの区の施設を改築して移動したい、など保護会から提案したものです。

 実際には、このスライドの上のほうが、これだけのアスベストの飛散があったという項目です。7月の始めから8月1日に密封するまでアスベストが飛散しました。区による保護者への大きな説明会は7月28日と8月20日の2回ありました。7月28日の段階でこれらの飛散は既に起きていたのです。区の説明では7月28日時点でも、天井の仕上材やフレキシブルボードの撤去を認めたものの、『吹き付けアスベストには触っていない』としていました。父母会はこれら4つの項目の要求を区にしました。1)天井がはがれて吹き付けアスベストがむき出しになっているから、これをきちんと密封して欲しい。2)その状態では危ないので、園児を避難させたい。3)どの様な飛散が起きたのかをきちんと事実を調査するために専門家を介入させて欲しい。4)危ないので完全に撤去して欲しい、と要求しました。

 7月28日の説明会の後に、父母が実際に現場の中に入って撮った写真が会場の後ろに飾ってありますのでご覧下さい。

 これが天井裏で、他にも何枚かあります。

 この説明会の後、7月31日の毎日新聞にこのような記事が出ました。資料にありますので読んで頂きたいと思います。

 このあと区は要求に対して8月1日には工事部の密封をしました。元の幼稚園を3ヶ月かけて改修した後に避難をするという決定がされ、園児の避難は11月になりました。11月から園児を避難させた後、半年かけてアスベストの全面撤去を行う事も決定しました。

 一段落と思いましたが、8月19日の毎日新聞の記事により『実は吹き付けアスベストも掻きとったり、撤去したりした』という事実がわかりました。

 この時点では区は1と3にしか吹き付けアスベストを認めていませんでした。2・4・5・6に関しては何も説明していませんでした。翌8月20日に説明会が再度行われ、そこでやっと吹き付けアスベストを工事の際に落としたり掻き取ったりしたこと、特に4番の8月10日と15日に大きな工事が行われていてアスベストが飛散した事がわかりました。これらの事実は7月28日の説明会以前に、営繕課に報告がされていたことで、それを説明会の時に隠していたことになり、このことで父母はかなり区に強い不信感を持ちました。

 専門家の介入については、10月25日に『アスベストばく露による健康対策等検討委員会』というものが文京区の諮問機関としてスタートしました。そのメンバーで実際にどのような曝露があったのか検討に入りました。工事は、7月28日時点で密封を要求し8月1日に行われましたので、この時点で止まっていました。その頃父母から要求しましたのは、きちんと曝露量を明らかにするためにシミュレーションをして欲しい、父母の意見をきちんと聞いて欲しい、ということです。このうち、スライドで丸が付いている上の二つは検討委員会で実際に実施されました。

 検討委員会の経緯はこのようになっており、スタートしてから2003年12月に区長に答申をしました。検討委員会は4年以上続きましてやっと報告が出ました。検討したものはシミュレーションにより曝露量を推測する、そのうえで、子供たちのリスクがどうであるかを考える、さらにどうやってケアをしてゆけば良いのか、を考えるというものでした。当時の子供たちで一番上の子たちは今小学校5年生で、0歳だった子は保育園最後の年です。将来にわたって子供達にどのような健康対策を行なえば良いのか、もちろん親の精神的ケアも必要です。このようなことを検討委員会で行ってきました。ここに最終報告を持ってきましたが、実際の検討事項が載っています。文京区のホームページからも全文をダウンロードできます。

 この委員会で検討している間、父母はどうしていたのかというと、4年半の間ただ待っていたのではなく、いろいろな働きかけを検討委員会にして来ました。特に父母の要請で3人の保護者推薦委員が委員会に入っていただいたこともあり、父母たちが納得できるような内容に答申が出来上がったと思います。それを受けて本当に全部実行してくれるのか、せっかく検討された事が実施されないのではないかという不安が保護者に出てきています。

 最終報告では、108人の園児がいましたが、全てが健康管理をしなければならない対象者として挙げられました。園で働いていた職員の方も全てその対象になっていました。報告の中で、健康対策を本当に実施してゆくための委員会が提唱されています。この実施委員会を早期に立ち上げて健康対策を採る事が盛り込まれていますが、実施する権限を持つ委員会は出来上がりませんでした。

 今、専門委員会が設置されていますが、これは実施の権限を持たない諮問委員会になっています。こちらは今年の4月にスタートしました。リスクを考える上で当事者が加わるということが提唱されていますので、保護者が2人、委員として加わっています。保護者がどう思っているのか、こうして欲しいという意見を区に伝えています。健康対策や相談・心のケアなど赤い線を引いたところは実際にスタートしています。ただし、この委員会では実際に継続的に対策をとって行く保証はされていません。当初望んでいた、費用の負担もまだ保証されてはいません。区の施設において適切なアスベスト対策をとって欲しい、子供たちが生活してゆくうえでもうこれ以上アスベストに曝露しないようきちんと対策をとって欲しい、と言ってきましたが、それに対する保証はまだできていません。

 三角の所は、専門委員会でやってもらえそうな項目です。ただし、健康対策費用を区が負担することや、生涯に渡るケアをしてもらえる、万が一発症した場合の医療費を負担するなど、将来に保証して欲しいことのシステムはまだできていません。

 今後の課題は、専門委員会で検討した内容をきちんと実施してゆくシステムを早く作ってもらうことです。専門委員会と並行して、保護者と区はこれらのことを協議するとなっていますが、実際にはまだ全然進んでいません。特に、保護者が望むことは、もう吸ってしまったアスベストは取り除くことはできないので、これ以上は吸わない対策を一刻も早く立ててもらうことですので、この点を将来にわたる健康対策・診断・ケアとともに、お願いしたいと思っています。保護者が自分でできることからまず始めようということで、近隣の工事を見かけると、区に電話をするなり、永倉さんに行ってもらうなり、まず身近なところから自分たちも努力しながら、このようなことが繰り返されないように活動しているところです。

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