石綿(アスベスト)関連疾患と日本の石綿(アスベスト)

Lecture by Dr Natori 2004

日本の現在の石綿問題

 現在の日本における石綿問題を簡単に申し上げますと、健康対策はまだまだ不十分です。吹き付けアスベスト対策も不十分です。吹き付け以外のアスベスト含有建材対策は殆ど何もしていません。アスベスト含有建材も、新築や改築や解体時に飛散するので、諸外国は規制し日本も今後規制すると思います。「アスベスト含有建材は非飛散性アスベスト」といった表現は誤解を招くので、最近ではこうした表現は使用されなくなっています。アスベスト廃棄物の対策も不十分です。特に問題なのは、1988年の学校での吹き付けアスベスト対策で日本のアスベスト対策はもう解決したのではないか、という大きな誤解があります。これはかなりの方にありますので、色々勉強して頂き今後のリスクに十分注意する事が肝心です。

健康対策で、いま何が必要か?

 健康対策では、まず過去に石綿(アスベスト)に曝露された方の調査が殆ど何も行われていません。疫学調査も日本では、一部以外はされていません。本来退職後の健康管理に、数十万〜数百万の単位でいると思われる石綿(アスベスト)曝露を受けた方全てに、労働安全衛生法に基づく石綿管理手帳制度で配布されると良いのです。しかし現状の石綿管理手帳は、石綿肺もしくは胸膜肥厚斑がある方のみを交付する条件にしており、他の職業性発癌物質が曝露10年等と規定しているのに比べて、著しい制限があります。また手帳により健診ができる医療機関は、厚生労働省が認可した都道府県2、3カ所に限定されています。それでは多くの方が近くの病院に罹ることはできません。2002年で510件しか手帳の交付がないのは、以上の理由が複合しています。

 治療方法や診断の方法を重点的に研究する事は多くの患者さんや家族にとって切実な願いです。治療のみならず、本人とご家族のケアの体制を確保することも必要です。中皮腫の方の全数調査をし、がん登録制度を実施する必要もあります。中皮腫を見ている国立がんセンター等が労災保険の非指定医療機関というのはおかしいと思います。石綿関連疾患の労災補償の認定基準の周知を、大学病院やがん関連病院に行う事も重要です。

健康障害の予見

 日本では、昭和10年台に既に「石綿は衛生的に問題が多い。」ということが指摘されていました。ドイツでは1940年代に、石綿(アスベスト)に対する防塵対策をたて、石綿肺がんが労災と認定されました。ドイツの防塵対策は、日本でも紹介されています。中皮腫についても、1950年代から60年代にかけて報告されています。石綿(アスベスト)による代表的な被害は、みんなが知っていた事ですが、残念ながらその対策は十分なされないまま、今多くの被害が出てきている訳です。

今後も続く新規石綿使用

 2003年に規制が設けられ、2004年の10月から原則禁止です。1%以上含有するアスベストについて、建材や自動車部品が禁止されました。しかし、全部ではないのです。シール材ヤガスケットや石綿布等については今後も使用できるのです。ですから、他の国の石綿規制とは厳しさが異なります。規制を強めていかないと本当の意味での規制にはなりません。また現在でも岩綿(ロックウール)のなかに吹き付けアスベストが含まれている学校があります。吹き付けアスベストすら十分な対策がとられていない自治体も多いという事を、是非覚えておいてください。

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改築解体時の職業性・環境性曝露

 アスベスト含有建材は、何気ないビルの中で改築、解体工事中で使われています。アスベスト建材について改築解体の事前に記録するという規制(特化則)はありますが、殆ど守られていないのが現状です。吹き付けアスベスト同様に、石綿(アスベスト)含有建材をバール等で破砕すれば、吹き付けアスベスト同等の濃度になる事が報告されています。きちっとした対策ができる中で、十分な手ばらし解体ができる、時間と工賃を保証する仕組みがないといけないと思います。

廃棄物としての問題

 廃棄物についても、いままでは安定型、管理型処分場で処理されてきましたが、現在は吹き付けアスベストは、溶融処理に変わり始めています。建築リサイクル法ができて、アスベスト建材は窯業建材の中に混ぜて処理しています。セメントや石とアスベスト含有建材が混合する訳です。廃棄物問題も問題が続きます。日本の阪神・淡路大震災時でも吹き付けアスベストが飛散し、十分な対策がなされない中での解体作業が続けられました。アスベストの地震時の際の対策は現在でも十分に立ってはいません。

2004年世界アスベスト東京会議へ

 今度2004年世界アスベスト東京会議が開催されますが、国際的、学際的な会議です。被災者の方も参加します。2000年にブラジルで開催され、アジアではこの規模の会議は初めてです。アメリカやヨーロッパで規制があったとき、アスベスト関連の会社は、あまり危険を感じていない国へアスベストを輸出していったと言われます。アジアでは現在アスベストの使用が増加していますが、アスベストがどういう被害をもたらすか40年後のことを知らないで使用している人が多いようです。今度の東京会議にアジアの方にたくさん来て頂くことは、日本がアスベストを使わないだけではなくて、アジアの人が石綿のリスクに気づくために大変重要なことです。どうもご静聴ありがとうございました。

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