石綿(アスベスト)関連疾患と日本の石綿(アスベスト)

Lecture by Dr Natori 2004

石綿の健康障害

 アスベストの健康障害は簡単に言うと、じん肺の一つのアスベスト肺、肺がん、悪性中皮腫(肺の外の膜にできるがんの一種は悪性胸膜中皮腫)の3種類があります。腹膜の回りにできる中皮腫は悪性腹膜中皮腫と言います。もう一つは、良性の変化ですが、胸膜肥厚班があります。(図2)

図2

 アスベスト建材を作っていた工場で長年くらい働いていた人の肺です(写真8)。

写真8 佐野

 次は、アスベスト吹き付け工の肺です(写真9)。肺の機能がなくなってしまっています。

写真9 佐野

 これは、正常なときと比べた石綿肺の方の顕微鏡の像です(写真10)。

写真10

 これがCTでみた胸膜肥厚班です(写真11)。

写真11

 これが肺がんです(写真12)。

写真12

具体的な例-1

 実際に多くの方が石綿(アスベスト)による肺がんになっています。この方は肺がんで(図3)、大学病院では喫煙による肺がんだと言われていました。伺ってみると建築関係で非常に多くのアスベストを吸っていた事が分かり、手術後2年後にアスベストとの関係が判明しました。大学の先生に会いにご本人と行き、病理標本を貸して頂きました。私たちが肺を溶かして調べた所、石綿小体が多数出てきました。たばこによる肺がんではなくアスベストによる肺がんという事を主治医も理解して下さり、労災申請を行い療養補償と休業補償が受けられるようになりました。こういう方は実は大変多いのですが、労災の申請を、気づかずにしていない状況におかれています。鹿児島では中皮腫は1例認められましたが、肺がんの申請はないようです。

電気工 60代 肺癌
  • 手術後2年して判明
  • アスベスト曝露あり
  • 大学病院では、喫煙による肺癌となっていた
  • 病理標本を借用、石綿小体多数
  • 労災申請
  • 療養補償・休業補償

図23

具体的な例-2

 別の石綿肺癌の方ですが、本来仕事による病気は国民健康保険等を使ってはいけません。労災保険を使わなければいけませんが、800万円程度が健康保険で支払われています(図4)。労災保険からその後支払われ、本人や健康保険に返還されました。

A建設国保が支払っていた肺癌の治療費(本来労災保険)
療養給付
本人負担
入院食事療養費
薬剤一部負担額
7,998,140円
1,599,628円
343,660円
5,510円

合計 8,347,310円

図24

具体的な例−3

 こちらの方も、どうも石綿(アスベスト)によるものらしいということで大学病院に伺いました(図5)。先生が本人に、「アスベスト(石綿)と関係がある仕事ではないですか?」と聞かれたようですが、「作業の説明が難しく、わかっていただけない。」と思い、「石綿(アスベスト)は使っていません」と答え、カルテには使用せずと書いてありました。話を聞いていくと、左官ですからアスベスト吹きつけの中でブロックを積む様な作業をされていました。最初の面会が酸素を吸ってやっと話ができるような状態でしたので、会った即座に労災の申請をしました。残念ながらその後ホスピスに移り、亡くなりました。しかし、最初の面会時に聞き取りができましたので、それを持って遺族補償をすることができました。

左官60代 悪性胸膜中皮腫
大学入院中 医師・保健婦・組合担当で訪問
アスベスト曝露あり 大学医師には告げず
病状不良。即座に労災申請。
申請中 永眠
遺族補償

図25

 悪性中皮腫は大変な病気で、関東で悪性胸膜中皮腫に詳しい横須賀共済病院の三浦医師等のデータでは、1年から2年以内に亡くなり、5年以上生存率が低いのが実情です(図6)。これは早稲田大学の村山先生や産業医大の高橋先生と私どもが一緒になって研究した、日本の中皮腫の将来予測です(図7)。今までの中皮腫の死亡者数をもとに、数学的に予測したものです。潜伏期間が40年くらいあるので、今病気になっている方は40年前にアスベストに曝露したことになります。いままで日本は大量に石綿(アスベスト)を使ってきていますから、これから40年後に病気になる方がたくさんいます。そういうものを予測していくと、2040年代までに悪性胸膜中皮腫で10万人くらいの男性の方が亡くなるのではないかという予測であります。次の図は、他の国の予測図ですが、おおむね同じような危険度の予測になっています(図8)。

図26 三浦

図27 村山

図28 村山

 日本では一昨年くらいから、中皮腫の本人や遺族の方々が集まりはじめました。建築関係でも集まりができましたし、中皮腫・肺がんの患者さんたちの会も今年の2月にできました。

<<前のページ | 次のページ>>