アスベスト被害者の声を伝える:追加資料

Appendix

第I編 第1章 複合型ストック災害におけるアスベスト(石綿)被害

1 複合型(の社会的)災害としてのアスベスト被害

アスベスト被害の特徴は、多様なばく露形態という点にあります。具体的にいうと、

  1. 職業性ばく露(石綿鉱山・製造工場や造船・建設現場などでの直接ばく露)、
  2. 輸送・流通過程でのばく露(港湾作業員や運輸労働者などへのばく露)
  3. 石綿含有製品を使用する工場でのばく露(鉄道製造、化学製品工場、ガラス工場、他)
  4. 家庭内ばく露(労働者の衣類・靴等を介した家族へのばく露)、
  5. 工場近隣の環境ばく露(工場周辺住民での飛散によるばく露)、
  6. 建物ばく露(吹付け石綿ある事務室・倉庫・工場・スタジオ・ボーリング場・デパート・ホテルでのばく露)、
  7. 解体・改築(改修)時のばく露(建物のリフォームや解体時に発生する作業者および近隣住民へのばく露)、
  8. 廃棄過程(中間処理場や最終処分場でのばく露、震災での建物解体に関するばく露) など、多様な経済活動を通じて、アスベストが拡散された結果によります。

アスベストによるばく露は、採掘、石綿製造、石綿含有製品の生産、流通、消費、廃棄といった製品のライフサイクルの全ての過程で生じるため、その影響は長期間かかり広範囲に及び、「静かなる時限爆弾」とも呼ばれてきました。アスベスト被害は、単なる労働者の災害と工場周囲での公害との二つとして分類をしきれません。複合型の災害構造を有していることから、「複合型災害」と位置付けることができます。

この「複合性」は、職業、性別、地域、年齢などの社会的属性によって、被害の「多層性」や「広域性」などを特徴とする災害の属性として捉えることができます。また、情報公開の不足(情報バイアス)、被害者の声の軽視などの要因が重なることで、アスベストの使用と健康被害に対する制度的な対応の遅れなどで、アスベスト被害は「社会的に引き起こされた災害」あるいは「社会的構造による災害」としての側面が強いとされています。