Report 2007
昨年一番の成果では、労災認定事業場名の公開があげられます。片岡運営委員の努力の成果が毎日新聞等に報じられ、さらに、私たちを含めた諸団体の要望に押され、2007年12月に厚生労働省は再度事業場公開の方針を決めました。その後2008年3月に、不十分な内容であるものの事業所名の公開を実施しました。石綿関連疾患の認定・事実の周知の為には、事業所名の公開が大変重要です。
最近は、中皮腫の多くの方がご自分で労災申請をされ認定を受けられる様になりましたが、石綿ばく露量等が少ない中皮腫事例での業務外決定が問題となっています。石綿肺がんは認定されにくい状態が続いており、相談比率の増加と共に不支給後の相談も目立ってきました。
石綿救済法関連では、民主党および自民党により、この法の隙間をなくす改正案の提案が、年度末にされています。現状より前進の提案であり、私たちは労災時効撤廃の実現を強く要望しています。基本的には、対象疾患の拡大と共に、「救済でなく補償」の法律に抜本的に改正すべきと思われます。
石綿の総合的対策では、総務省が12月に、国土交通省・厚生労働省・環境省・総務省に対して、行政勧告をおこないました。
国土交通省は、公共建築でのひる石吹き付け建物調査もダクト内アスベスト調査も実施していない状況です。公共建築物での吹き付けアスベストの除去期限も決めずに、多くの対策は今後となっています。
吹き付け以外のアスベスト建材について問題は山積しており、飛散防止対策は石綿則の実質化と共にまさにこれからです。
主要3石綿以外に、トレモライトの商業的使用が問題となっていますが、アンソフィライトの輸入も石綿協会紙上に明記されています。米国モンタナ州リビーでの調査等から、アスベスト繊維は8〜9種類あると考える流れが電子顕微鏡的検討からでてきています。アスベストの定義の再検討が世界的に始まりつつあります。日本での使用量や流通量の調査が必要と思われます。
廃棄物対策では、目立った進展は見られませんでした。
2007年11月の横浜国際会議には、海外ゲストを含め多くの関係者が参加しました。2008年3月の石綿対策全国連主催のシンポジウムでは、若手の社会科学者による講演が行われ、今後の新たな領域の拡大を予測させました。
北海道ホテルボイラーマン中皮腫裁判の札幌高裁での審理、泉南地区・首都圏の建設労働者の国家賠償裁判の審理等、全国で石綿関連裁判の提訴が広がっています。法的な変更にもつながる長い闘いも始まった年でした。環境被害の顕在化も、大阪・奈良・岐阜・神奈川で明らかになりました。私たちも埼玉の石綿管工場跡地での環境被害の顕在化に協力し現地相談会を数回開催しましたが、十分な成果はあがりませんでした。
緊急交渉として第5回省庁交渉に取り組みました。厚生労働省には、労災認定事業場名公表や、労働基準監督署保有の個人情報の遺族への開示などを要求しました。環境省には、救済給付の死後申請不認定などを改めるよう要求しました。
その結果、労災について2005・2006年度の認定事業場名公表と、死後認定の復命書の遺族への開示、救済給付の初診日への遡りなど、救済法改正法案といった成果を得ました。
当センターの基礎的な活動として電話相談を毎日継続してきました。全国へ相談員を派遣し、個別相談と地域の支援体制作りを援助してきました。相談事例と対応を見直す検討の場や研修を毎月実施してきました。
電話相談やホットライン・相談会に対応し、安全センターと連携して取り組みました。中皮腫の労災困難事例(クロス職人の再審査、ベビーパウダーばくろ作業による原処分取り消し)での認定や、労災や救済給付の不服審査事案など、一筋縄でゆかない相談対応がふえました。特に、低濃度ばく露事案については、チームを組んで対処しています。2007年の労災相談件数は、62件で、中皮腫33件・肺がん10件でした。
昨年度も引き続き、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の事務局活動に協力しました。毎月の全国事務局、会報の発送、ホームページの更新も軌道に乗っています。岡山にも支部が誕生し、各地の連携の重要さが増してきました。尚、昨年度から事務所経費として委託費をいただくことになりました。
藤沢市H保育園で、旧遊戯室の天井裏の吹き付けアスベストが、天井板をずらした時に粉じんとして発生したのではないかという保護者の懸念を確認するために、除去工事の際にシミュレーションを行い、粉じん濃度測定を行いました。その際に、昭和59年に天井版を張った工事において、天井の吹き付けアスベストが相当に引き剥がされ、傷ついた状態であったことが確認されました。市は、この当時の保育園在籍者の健康対策を検討しています。
藤沢市はこの保育園のアスベスト問題に端を発して、市としてアスベスト対策に取り組むことを表明し、公共施設の管理運営者に広く声をかけ、アスベスト建材についての講習会を開催しました。施設の修理など直にアスベスト建材に接する方たち150名ほどに、アスベストを知っていただく機会を持ったことは意味深く、他の行政にも広げていく必要があると思います。また、同市の要請を受け、東京労働安全衛生センターは、市職員向けに石綿作業主任者講習を行いました。
廃墟化したトーヨーボールのアスベスト除去・解体工事は、業者が住民との間の十分なリスクコミュニケーションを拒否してきました。本来このような大規模な周辺汚染が予想される工事では、住民と業者間の協定書に基づき安全性が確認されるべきですが、実際には安全性が十分には確認されないまま不安な工事が行われました。愛知県や地元稲沢市の行政は、住民からのリスクコミュニケーションの要請に答えることはなく、業者の主張を鵜呑みにして住民の声の沈静化に努めました。工事の詳細や、安全性の確保状況を被害にさらされる近隣住民に事前に知らせることは当然のことで、この点のリスクコミュニケーションの普遍化、行政の理解、業者への指導等が今後の課題です。
アスベスト除去工事について、工事単価のダンピング等が原因で、ずさんな工事が横行しているとの情報が寄せられています。これはアスベスト除去業者の急激な増加に反し、除去工事が激減している現実が影響しています。
浜松ではアスベスト廃棄物の最終処分場の周辺濃度測定を行いました。
佐渡市両津小学校の、アスベスト粉じん発生に伴う児童ばく露の検討会に当センターから2名が参加し、継続して対策を検討しています。
関西・関東の弁護団に寄せられた訴訟に取り組みました。札幌のボイラー従事者の控訴審は、08年の夏から初秋にかけて判決を迎えるよう精力的に取り組んできました。この判決は他の関連する裁判へ影響することは確かで、旧国鉄・JRに働き中皮腫で亡くなられた2件の損賠訴訟は、札幌の控訴審判決が良い波及効果をもたらすよう、結審を控訴審判決後とするよう進めました。同様に、近鉄高架下の文具店吹き付け被災訴訟などにも波及するよう進めています。
国家賠償裁判は、泉南地域をはじめ審理中ですが、加えて首都圏の建設労働者を中心にした、国と建材メーカーに対する集団提訴など準備も進んでいます。
2006年度の国土交通省が日本建築センターに委託した「公的賃貸住宅等のアスベスト含有に関する調査」(ひる石に関する調査)に、当センター運営委員の外山が、委員として参加しました。飛散が明らかとなったのですが、報告書の作成が著しく遅れており、その完成と提言の早急な実施が待たれます。
厚生労働省「石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会」は、2007年度には開催されませんでしたが、飯田・名取が委員として参加しており今後の改定が待たれます。
厚生労働科学研究費の研究委託で、リスクコミュニケーションマニュアル作成等に協力しました。
東京労働安全衛生センターの空気中アスベスト濃度測定、アスベスト建材の有無と含有率分析等に全面的に協力しました。
中皮腫・アスベスト疾患・交流会は、昨年は開催されませんでした。ビルのアスベスト建材、天井内吹き付けアスベスト濃度測定、駐車場の吹き付けアスベスト問題は十分な調査ができませんでした。石綿障害予防規則に関する現場実態の改善状況把握調査、医療論文翻訳は実施できませんでした。
ホームページの月間アクセス数は、2006年16000件、2007年8000件、2008年8000件でした。基礎的な情報が広く行き渡る一方で、一定のアクセス数が続く結果となっています。法律や報道通達等の内容の充実は実施できませんでした。5月と2月に機関紙を2回予定通り発行しました。
建材に関する相談は、全体として減ってきています。その中で、今年度は、我が国で工業的に使われてきた3種類以外のアスベストが公共施設に使用されていたという報道を受け、今までの調査分析で漏れていたアスベストの相談がありました。これは従来の、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)以外にも、アンソフィライト、トレモライト、アクチノライトなどが我が国でも使用されてきたというもので、輸入量やどこに使用されているか等の実態はまだ十分には調査されていません。これ以外にも、4000種類以上あるといわれる鉱物の中には、「綿」状の鉱物の存在も否定できず、国の調査と情報の公開が重要です。
また、解体工事の際の建材の取り扱いについて、具体的、専門的な相談がありました。劣化した波形スレート屋根の工事では、突き抜け落下の危険性、衣服等への二次ばく露、表面塗装の為の高圧洗浄でのアスベスト飛散など注意すべき点が問題となりました。
地震と防災体制に関するシンポジウムは、昨年度は開催できませんでした。2007年7月の中越沖地震の被災地には永倉が訪問し、現地を視察しました。
東日本の中皮腫等の被災者ご家族の写真撮影を実施しました。
常勤職員2名による体制が定着した年となりました。
アスベスト基金は、石綿の歴史の調査、電子顕微鏡等技術支援を中心に運用しました。石綿の歴史の関連では、公文書館や各種図書館に非常勤職員を派遣し資料収集とその集計を行ってきました。電子顕微鏡と石綿小体の関連では、常勤職員による研修を実施すると共に、NPO法人東京労働安全衛生センターの技術研修に協力してきました。中越沖地震で現地調査を行いました。
労災・救済法認定支援の全国化の成果として、アスベストセンター北海道を設立し活動してきました。
石綿対策全国連絡会議、全国労働安全衛生センター連絡会議、(NPO法人)東京労働安全衛生センター、三多摩労働安全衛生センター、(社団法人)神奈川労災職業病センター、(NPO法人)じん肺アスベスト被災者救済基金、名古屋労災職業病研究会、関西労働者安全センター、尼崎労働者安全衛生センター、(NPO法人)ひょうご労働安全衛生センター、(NPO法人)愛媛労働安全衛生センター、広島労働安全衛生センター、(財団法人)新潟県安全衛生センター、(社団法人)大分県勤労者安全衛生センター、鹿児島労働衛生センター準備会(姶良ユニオン)、沖縄労働安全衛生センター、(医)ひらの亀戸ひまわり診療所、じん肺患者同盟(北茨城・高萩・東京東部・横須賀・建設東京の各支部)、建設じん肺被災者の会東京、横須賀地区じん肺被災者の会、全建総連東京都連、労働者住民医療機関連絡会議、アスベスト訴訟弁護団・関東及び関西、ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議、新化学物質政策NGOフォーラム等の諸団体と協力して活動してきました。
個人正148人・個人賛助50人・団体正27・団体賛助10です。