石綿肺がんの方へ 名取所長の長年の経験からのアドバイス

To the Patients of Asbestos Related Lung Cancer

石綿肺がんの方へ 名取所長の長年の経験からのアドバイス

- 石綿(アスベスト)との関連の確認の仕方 -

 中皮腫の場合は、ほとんどが石綿(アスベスト)由来とされ、職業性石綿ばく露が原因の中皮腫が中皮腫全体の80%とされていますので、医師が石綿(アスベスト)と関連ありませんでしたか?と質問することが、2014年段階では多くなっています。

 原発性肺がん(胃がん、乳がん、前立腺がん、肝臓がん等、他の部位から肺に転移した転移性の肺がんでなく、肺由来の肺がんという意味)と診断された多くの方は、自分の肺がんは喫煙が原因だろうと医師から言われ、また自分でも喫煙が原因と思っていることが多いようです。最近実施されることが多い治療薬の効果に関連する遺伝子検査(ALK融合遺伝子、上皮増殖因子受容体EGFR遺伝子)の検査結果を伝えられるので、その点も関係すると考える方もいるでしょう。

 その一方、石綿(アスベスト)と喫煙は相乗(そうじょう)作用で、肺がんのリスクは乗(じょう)の掛け算で、加える足し算ではないことと疫学的にされています。

 原発性肺癌の方は、呼吸器内科、胸部(呼吸器)外科の医師から、喫煙という原発性肺がんの一番目の外的要因は必ず問診されています。石綿(アスベスト)という肺がんに寄与する二番目といっても過言でない外的要因を尋ねられなかったという場合が、まだまだ多くあります。クボタショック(尼崎市のクボタの石綿管工場の周囲住民と従業員に中皮腫等の石綿関連疾患の多発が報道された事件)後の2005年以降石綿(アスベスト)の吸入について、原発性肺がんの方に必ずたずねてくださる呼吸器内科・胸部外科医も増加して心強い限りですが、2014年段階で中皮腫と比べて肺がんの際の石綿(アスベスト)の問診はまだ不十分な状態なのです。

1. あなたの職歴を、厚生労働省HPでまず調査してください。

 厚生労働省石綿に関する健康管理等専門家会議は、2006(平成18)年10月に153ページの「石綿ばく露歴把握のための手引」を作成しました。手引は、石綿含有製品と石綿に関する作業を広く知ってもらうため、「石綿に関する作業」に多くの写真と解説に45ページをさき、石綿製品の写真と説明に9ページをさいています。労働基準監督署等で労災認定の際の聞き取りに同「手引き」は参考に使用され、現在厚生労働省HPに掲載されています。(最終閲覧日2013年12月26日)

 仮にあなたの職歴が、「18歳から30歳ガラス製造業勤務。現在65才で肺がんと主治医に言われたとする。」厚生労働省HPを、まず参照しましょう。厚生労働省HP 「石綿」 確認してみると、34の作業が列挙されていることがわかります。「〇1~19 高濃度ばく露、中等度ばく露、事例報告の多い作業、〇20~32、34 注目すべき作業」とされており、「1.石綿鉱山・石綿製品の製造に関わる作業」、「5.造船所内の作業(造船所における事務職含めた全職種)」、「7.建築現場の作業(建築現場における事務職含めた全職種)」等有名な作業が見られる中に、「15.ガラス製品製造に関わる作業」があり、「ガラス工、板ガラス成形作業と、使用する石綿布や石綿保温材、石綿耐火服等の写真と解説」が掲載され、「労災認定事例と複数の文献」が記載されていました。ガラス製造作業が石綿ばく露作業であることがわかり、肺がんは石綿関連の可能性が高まってきました。

 注目すべき作業として、「20.吹きつけ石綿のある部屋・建物・倉庫等での作業(教員 その他)」、「27.映画放送舞台に関わる作業」、「33.その他の石綿に関連する作業」。「タルク等石綿含有物を使用する作業」など15職種が掲載されています。かなりの作業、職種が網羅されている基本的な資料ですので、上記HPを見て是非ご確認してください。

2. 作業が厚生労働省HPになかったから、労災認定は絶対無理なのか?

 厚生労働省HP 「石綿」は2006年当時のものであり、「33.その他の石綿に関連する作業」に、全作業を網羅したものではありません。石綿製品の写真と説明も、全3000製品を網羅したわけではありません。稀な作業、稀な石綿製品等について具体的な内容があれば労災認定されますので、あきらめる必要はありません。お困りの方は、当アスベストセンターまでご相談ください(03-5627-6007)。

3. 石綿による胸膜プラーク(肥厚斑)の読影に詳しい医師に、あなたの胸部CT写真を見て頂き、相談をしましょう。

 日本の石綿肺がんの基準は、2004年1月時点でどうなっているか?説明しましょう。

石綿による肺がん労災認定基準 左:平成24年前 右:平成24年以降

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 複雑でわかりにくいのですが、高濃度石綿ばく露の3作業の5年以上、管理2以上の石綿肺、びまん性胸膜肥厚の3つの場合を除くと、「石綿ばく露歴」と「医学的所見」の両方満たすことが主となっています。

  3作業以外の多くの職種・作業では、「石綿ばく露歴が高濃度で1年以上(未満も個別検討)、中等度で10年以上(未満も個別検討あり)」+「医学的所見があること」となります。「医学的所見」は複数あり、「胸膜プラーク所見がある」もしくは「広範囲の胸膜プラーク所見がある」、もしくは「石綿小体が一定数以上ある」、もしくは「石綿繊維が一定数以上ある」、等になります。労災認定基準に大変詳しい、呼吸器内科医、胸部外科医でないと、判断は複雑で難しい状態です。

 最も多くの方が肺癌で労災認定されている点としては、医学的所見として胸膜プラークが認められた場合があります。石綿関連疾患に詳しい医師に、あなたの胸部CT写真を見て頂くことがまず行う第一です。第二としては、石綿関連疾患に詳しい医師のセカンド・オピニオンを受けることが大事です。

4. あなたの傍に労災の認定基準に詳しい医師がいない時は?

 石綿関連疾患に詳しいひまわり診療所の名取医師のセカンド・オピニオン外来(03-5629-1823 担当高山)に、胸部CT写真を持参して受診してください。

5. 参考

 世界的にみて日本の石綿肺がんの基準は妥当? 答えは否と思われます。厚生労働省の第10回石綿による疾病の認定基準に関する検討会(平成24年1月24日(火)で、石綿肺がんの労災認定基準の改正の厚生労働省検討委員会が開催されました。医師として唯一、医療法人社団ひらの亀戸ひまわり診療所の名取(このHPの中皮腫・じん肺・アスベストセンターの所長)がヒアリングに呼ばれ、提出した意見書に基づく意見陳述を行いました。その際の名取意見書を、以下に添付しました(20120119 石綿肺癌に関連する名取意見書  参照)。

 累積石綿ばく露に基いて、石綿肺がんを労災認定する国が多いなかで、日本は医学的石綿関連所見(石綿肺・胸膜プラーク・石綿小体)重視の道を歩んでいます。これでは石綿ばく露は多いのに、個人の生体反応、医学的所見の少ない方は労災認定されなくなってしまいます。石綿肺の基準は累積石綿ばく露量と関連するので諸外国も同様に採用しておりまだ良いのですが、日本は胸膜プラーク、石綿小体(クロシドライト、アモサイト中心の石綿ばく露では石綿小体の関連が見られますが、クリソタイル中心の石綿ばく露で、石綿小体は形成されにくいので石綿小体数がクリソタイル石綿ばく露と量反応関連になりません)等の生体反応を重視する独自の道を歩んでいます。一定の累積石綿ばく露量(25繊維・年数/ml)等を満たす原発性肺癌が職歴(石綿ばく露歴)で証明された場合は、石綿関連の医学的所見としての胸膜プラークがCT上や解剖でなくても、クリソタイル主体の石綿ばく露で石綿小体が少なくても、労災とする認定基準に変更すべきでしょう。