2023年 こどもたちにアスベスト−石綿−を吸入させないシンポジウム

Symposium: No Asbestos Inhalation for Children

質疑応答

名取  それでは、今日の五つのシンポジストからの発表が終わりました。今、会場にはいらっしゃいませんが、北見先生、下山先生ともZoomでつながっておりますので、どの発表者向けでもけっこうです。あと15分ぐらいありますので、各演者に質問等があればお受けして、残った時間があれば、今後の提言といいますか、どのような方向で進めていこうというご意見をいただきたいと思います。まずは、何先生向けでもけっこうですので、ご質問のある方。いかがでしょうか。シンポジストの方でもけっこうです。では、井部さん、どうぞ。

井部  井部です。下山先生に質問なのですが、先ほど被害が発生しないことの方が大事だから、アスベストの調査・管理をきちんとしていくことが重要だとおっしゃいましたけれども、そのために、こどもを守る制度の中で、どのようにしていく必要があるのかというあたりを伺えたらと思います。

下山  ありがとうございます。恐らくお手元に資料があると思いますが、例えば7ページめで、こども家庭庁の組織体制の概要があるかと思います。その一番左下に、成育局の業務の内容として、こども園教育保育要領や保育所保育指針など、これが特に児童用ということになります。それから、資料の6ページ、スライドで言うと12枚めになるかと思いますが……。

名取  学校保健安全法ですか。

下山  そうですね。学校保健安全法の中の学校環境衛生基準。その他にも設置基準などがありますが、このようなものについて、例えばアスベスト調査などを推進するような定めを置くということは一つあるのですが、より早く対応するためには、学校であれば文部科学省。保育園等であれば、こども家庭庁。そのような担当の部局の方に、指針あるいは通知などを早めに出していただく。併せて、可能であれば予算措置ですね。そのような対応をすることで、自治体だけではなく、民間の保育所や幼稚園などのアスベスト対応、調査を含めて、そのようなものを推進することがまずは必要なのではないかと考えております。以上です。ありがとうございました。

名取  はい。他のご質問等はありますでしょうか。司会の私から下山先生にご質問ですが、死亡事案を出した他の例もあり、アスベストなどはまさに工事による災害的なものですが、それについての罰則規定がついている法律が増えてきているのか、まだそこまでは至っていないのか、罰則による抑止効果のようなものは、どのようにお考えでしょうか。

下山  ありがとうございます。これは、後ほど北見先生に、建築物等についてお話しいただければと思います。

私が今回報告した内容は、どちらかというと、教育施設や保育園の設備をしっかりしておかなければいけない。そのための、教育・保育をよりよくするための枠組みについてご報告いたしました。いろいろな法律があるわけですが、私が今回お話ししたものの中で、罰則はほぼございません。というものも、設置基準であれば設置基準で、最低限度の基準をクリアすれば、学校あるいは保育所として設置してもいいということが規定されていて、そうでなければ許可されないわけです。ですから、許可を受けた所は最低限の基準はクリアしているということになるので、特にアスベストなどの環境関係、あるいは災害対策についての罰則は、全くないわけではないのですが、あまり有効ではないというか、準備されていないと思っています。

一方で損害賠償は、間接的には、将来起こるような被害発生をあらかじめ抑止する効果があると考えられています。損害賠償金を支払うことは誰もやりたくないし、こどもたちに対して被害を及ぼすようなことは、誰もしたくないわけです。それを、もし過失があって、あるいは瑕疵があって被害が発生した場合には、賠償金も支払わなければいけないという制度を準備することで、あらかじめ抑止をする。このように、刑事罰ではないのですが、損害賠償制度というものも、抑止効果が間接的にはあるといわれています。

その他の点について、特に建築物等に関しては、北見先生からお話しいただければと思いますが、いかがでしょうか。

名取  分かりました。北見先生、今の下山先生に補足して、ご意見をお願いします。

北見  はい。建築基準法ということで、建物一般についての法律ということで、一応なのですけれども、罰則そのものについては、ありうるという形にはなっています。ただ、それに先行する、建築基準法に基づく命令のようなものについては、昔からめったに使われない伝家の宝刀的な条文として位置づけられていて、そのような研究対象として見られているようなものでしたので、有効に機能するという形で位置づけられるかというと、難しいだろうということになります。また、罰則について強化されているかという話の関わり合いで言うと、特にそれが図られているわけではありません。

他方で、建築基準法ではなく、除去作業について、廃棄に対して飛散させてしまうという関わり合いで言うと、罰則について強化されているところではあります。ただ、煙突を落としてしまったというような事案で、ほぼ間違いなく罰則が使えるだろうというところなのですが、それにもかかわらず、どうも検察官送致はされていないという報道を見ていると、罰則として用意されているのだけれども、規定のされ方によって、抑止のための武器として使えなくなっていないかどうか。こどもも含めて一般の話としても、罰則が果たして機能して怖がらせることに使えるのか、既にできている法律ではありますが、再検証が求められるのではないかと考えております。

名取  ありがとうございました。大気汚染防止法も、改正はされたけれども、実際に送検できるところまで行っていない。そこをどのように工夫していくのかということが、今後の一つの課題ではないかと私どもも思っております。

それでは、時間があと7、8分なので、ご意見を含めてでけっこうですから、こども対策、もしくは一般的なアスベストの飛散回避も含めて、どうしてもこの点は言っておきたいというご意見がありましたら、どなたでもけっこうです。会場に二十数名いらっしゃいますので、ご意見をお願いします。では、斎藤からどうぞ。あと恐らくもうお一方ぐらいだと思いますので、ご意見、ご質問のある方は、ご準備をお願いします。

斎藤  ありがとうございました。井部さんに伺いたいのですけれども、アスベストの調査が進まないということで、周回遅れの日本ということでご指摘いただいたのですが、公共施設の場合は割と情報も入手しやすいし、「こういうことをしてください」と言いやすい。説明会も求めやすいのですが、民間の私立幼稚園や保育園の場合に、非常に大きな壁を感じていて、例えば保護者から相談を受けるのだけれども、直接幼稚園の園長と話し合うことが非常に難しくて、行政を介してお願いすることが多いのです。そこで、「先進国ではこうだ」ということをご存じでしたら、比較の上でご紹介していただきたいと思うのですが、いかがでしょうか。

井部  今、ご指摘いただいた内容は、本当に日本では大問題でして、東京・上板橋の再開発の件もそうですが、公費が突っ込まれていて(再開発の解体はほぼ100%補助で税金)も何をやっているのか分からない。裏づけになる資料を見せてくれないということが残念ながら起きていて、アスベストの調査が適切にされているのか分からないということで、「ちゃんとやってると言ってるのだから、信じろよ」と逆ギレされて言われるような、むちゃくちゃな状況にあります。

ご質問の海外での規制状況についてですが、明確に、例えば工事のときに「このように説明しなければならない」ということを位置づけている法律は、今のところ見たことはないです。ただし、イギリスの労働安全衛生法。1974年に決められたものですが、ここでは、そもそもの話として、労働者だけではなく、一人親方も含めて、一般の人でたまたまその場所に来てしまった人も含めて保護しなければいけないという規定があります。ただし、工事のときごとに説明しなければいけないことになっているかというと、必ずしもそうではない。

一方でオーストラリアの場合には、今回のようなケースに限らず、問題が起きたケースも含めての話ですけれども、きちんとコミュニケーションしていくためのガイドラインが作られています。日本でもガイドラインはあるのですが、かなり内容が違います。向こうも、どちらかというと、不適正な事案があって大問題になって、住民から大変な追及を受けたりするということで、ガイドラインが作られているといったことはあります。ただし、法令で明確にというものは、今のところきちんと確認できていない状況です。ありがとうございます。

補足: 韓国では法令による「規制」ではなく「要綱」だが、学校などのアスベスト除去で保護者や市民団体など外部専門家が参加する「学校アスベスト監視団」を地域ごとに創設し、工事前の機器の移動から事前清掃、隔離養生の確認、作業中の負圧管理、測定状況の監視、完了検査、アスベスト残留物確認までチェックする仕組みがある。

名取  はい。落合さんからご意見があるようで、こちらにどうぞ。

落合  落合と申します。アスベスト業務に従事して60年。最初の30年は、アスベストを一生懸命売り込みましたが、残りの30年はアスベストの除去工事をやっているという、矛盾に満ちた人生を送っておりますが、意見です。

ここに来るときに、何十年ぶりかに来たなと思っていたのです。2、30年前にテレビで、チャンバラで「木枯らし紋次郎」という番組があって、中村敦夫というスターがいて、彼がアスベストで国会で質問をするということで、私は会社員でしたけれども、上司から「質問主意書をチェックしてくれ」という話がありました。あれから30年、この国はなんとアスベスト対策が遅い国なのかと思いました。うさぎと亀の話がありましたけれども、後から来たうさぎさんチーム、韓国は、日本が中止になっている時にまだ作っていましたからね。それが今では、韓国の方が進んでしまっている。悲しい国だと思いました。国会の先生も来ているということで、この遅さは悲しいなと思いました。以上です。

名取  ありがとうございました。最後に、要望を三つ出しています。18ページから20ページです。もっと厳しく要望せよという声も多かったのですが、私どもが相手と話す中で、せめて有資格者によるアスベスト調査の実施を、こども関連の施設長に送りなさいという1番。2番目は、保育施設、連携こども園などで未対策のところについては、せめて資格者によって早急な実施をして公表しなさい。これは当たり前の要求ですよね、極めて。

3番はなかなかハードルが高い除去工事のことが載っているのですが、私たちは、回答は求めませんでした。とりあえず今日、2時間でもいいから、勉強に4人で来てくださいと。文科省の3人とこども家庭庁の1人には、何も責めたりしないから、勉強に来てくださいと言いました。そして今日は、誰もその省庁から来てくれない。「やはりな」と。ここから始めなければいけないという、2周回遅れになっている可能性がありますが、今日ここに来ていただいた皆さんは、日本の宝だと私は思います。ここから頑張ってもう少し巻き返し、少しでもこどもがアスベストを吸わないように頑張っていきたいと思います。今日は、本当にご参加ありがとうございました。