Symposium: No Asbestos Inhalation for Children
名取 続きまして、「アスベストからこどもを守る法の枠組み」。ここについては、今まで石綿則、大防法、建築基準法などしかなかった。ここに更にこどもを守る法律を作らなければ足りないのではないかという観点で、今のこども関連の法律はどのようになっているかというまとめを、早稲田大学の下山憲治先生にお願いしております。ビデオレターでのご参加になりますので、よろしくお願いいたします。
下山 皆さん、こんにちは。早稲田大学法学部の下山と申します。よろしくお願いします。本日は、所用のため、皆さんに直接お会いして、アスベストからこどもを守る国・自治体の法的枠組みや義務についてお話しすることができないのが残念ではありますが、このビデオを通じて、私のお話しする内容を簡単に紹介していきたいと思っております。よろしくお願いいたします。それでは、共有をしつつ、お話に入りたいと思います。
はじめに、目次がございますとおり、基本的にはこどもの権利とそれを保障するための法制度、法的枠組みについて概観します。日本国憲法をはじめとして、子どもの権利条約(正式名称は「児童の権利に関する条約」)、これらを基本にした「こども基本法」について、お話を進めていきます。
また、こども基本法が制定され、現在、こども家庭庁が内閣府に設置されておりますので、その業務内容についてご紹介します。そして、国あるいは自治体が具体的にどのようなことをする必要があるのか、すべきなのか。このような点を考えるために、児童福祉法、教育関係の教育基本法、学校教育法、学校保健安全法について、概要を見ていきます。そのあと、文科省から教育委員会に出されている通知の内容を参考までにごらんいただき、最後に、こどもの安全と国・自治体の責任について、裁判所の判決などを通じて、具体的に検討していきます。
まず、こどもの権利と法的枠組みについて、全体像を確認します(スライド3頁)。日本国憲法は、最高法規として存在しています。ですので、条約や法律よりも強いもの、優先するものです。日本国憲法では13条で、個人の尊重、それから、生命、身体、健康も含まれるものですが、そのような権利の保障を定めています。そして、25条で生存権、26条で教育を受ける権利についても定めています。こどもの権利の基礎となる憲法の主な規定は、今、申し上げたような内容となります。
ただし、どうしても大人とは、権利の保障のしかたなどについて、少し異なる点があります。それが具体的に認められるのが、憲法よりも弱い、憲法よりも下にありますが、法律よりも優先する「子どもの権利条約」というものがあります。子どもの権利条約には4原則あるわけですが、そのうち、アスベストからこどもを守るという観点から見たときに重要になるものは、スライドにある2番目の、こどもの最善の利益を追求するという原則。これは、こどもに関わる国内的な政策、あるいは法律も含めてですが、そのようなものを決定するに当たっては、こどもにとって最善は何なのかを最も重要視していきましょうという基本的な考え方です。それから、3番目に、こどもの生命、生存と発達する権利をしっかり保障していく。このような観点が、4原則のうちの二として挙げられています。
次に、憲法と子どもの権利条約の精神にのっとって制定されたものが、こども基本法になります。これは、次代の社会を担う全てのこどもが、生涯にわたって人格形成の基礎を築き、自立した個人として等しく健やかに成長することができる。そして、こどもの心身状況や置かれている環境にかかわらず、その権利が守られ、将来にわたって幸福な生活を送ることができる社会の実現を図る。そのようなことを趣旨・目的として制定されています。
後ほど申し上げますが、こども基本法の制定とこども家庭庁の設置に合わせて、従来、厚生労働省が担ってきた児童福祉法の、特に保育園等の業務の多くが、こども家庭庁に移管されております。スライドの左下に書いてあるような業務が、現在、こども家庭庁で行われています。一方で、文部科学省が担っているのが教育です。つまり、教育基本法や学校教育、学校での保健安全。このようなものは文部科学省が従来と同様に担っていくわけですが、こども家庭庁と文部科学省、それから、厚生労働省も一部含みますが、それぞれの省庁間でしっかりとした連携を取っていくが重要となります。
では、スライド4頁目、こどもの権利条約について、具体的な内容を見ていければと思います。正式名称は児童の権利に関する条約ですが、公・私の社会福祉施設、行政機関と立法機関は、児童の最善の利益を主として考慮すべきであるということが、一つの重要な原則として挙げられています。国は、児童の養護・保護のための施設、サービスの提供、そして設備が、特に安全および健康の分野で、立法機関あるいは行政機関が作った基準に適合すること、国はしっかり確保するように、条約は求めています。
次に、こどもの権利の実現と、そのために利用可能な手段を最大限に活用するということも、こどもの権利条約の中で定められています。「権利の実現」というときのこどもの権利の具体的なものとして、6条と24条で、生命と発達する権利、健康権が挙げられています。生命というものは、児童だけではなく、人として活動する上で前提として必ず保障し、あるいは保障されなければならないものになります。ですので、とりわけこどもの権利条約では、国は児童の生存・発達を可能な最大限の範囲で確保することを、条約は求めています。
また、健康権については、重要な水準が定められています。こどもは到達可能な最高水準の健康を享受できる権利を持っている。したがって、この権利をしっかり保障するために、日本国内で見た場合、地方公共団体も含めて、国はこのような保健サービスを利用する権利が奪われないよう確保するために、いろいろな法制度を作ったり、政策を実行していかなければいけないことになります。児童の健康権は、完全な実現を追求しなければならないとこどもの権利条約でも確認されております。
以上の日本国憲法とこどもの権利条約の精神にのっとって、スライド5頁のとおり、こども基本法が制定されております。その中でも、こどもが、自立した個人として等しく健やかに成長すること、そして、権利が擁護され、将来にわたって幸福な生活を送ることができるような社会の実現を目標にして、こども施策を総合的に推進する。これが国の役割ということで、こども基本法が作られています。先ほど申し上げた基本的人権が保障も、当然、基本理念の中に入っています。さらに、適切に養育され、生活が保障されること、また、こどもの権利条約の中でも原則となっておりましたが、最善の利益が最優先で考慮されること。このようなことが、こども基本法の中で基本理念としてうたわれております。
スライド5頁の「こども基本法の概要」で、基本施策などもありますが、今回は、特に国と自治体の責務を確認しておきたいと思います。国・自治体は、基本理念にのっとって、こども施策を実現する責任を負うということになります。
次に、スライド6頁のように、こども基本法を実現するための重要な機関として、こども家庭庁が設置されています。こども家庭庁の業務の主たるものですが、先ほどの法律でも掲げられていたとおり、こどもが健康であることを当然前提にしますが、健やかな成長のための環境を確保するということが、非常に重要視されているように思います。安全・安心な生活環境の整備、保健の向上、こどもの権利の擁護。これは、文科省で教育を受ける権利がありますので、関係機関で調整しながら、こどもの権利利益を擁護していくということが、こども家庭庁の重要な役割、業務・事務になっています。
では、こども家庭庁ですが、どのような組織になっているのか、スライド7頁をご覧ください。こども家庭庁自身は、今年の4月からできた機関です。先ほど申し上げたとおり、児童福祉法など、従来は厚生労働省が担当していた業務のこどもに関する部分は、多くがこども家庭庁に移管されて、主として「成育局」というところが担当しています。
成育局の担当業務のうち、特に上から二つめの部分で、「全てのこどもの育ちの保障」。それから、認定こども園の教育保育要領や保育所保育指針の両方を文科省と共に策定するということが、代表的な業務の一つとなっています。また、こどもの安全を確保していくような施策を実施していく。このようなことも重要な施策として挙げられています。保育所の保育指針やこども園の教育保育要領の中に、幼稚園の場合も類似のものがありますが、健康・衛生や環境という項目が挙げられています。その中にアスベスト対策などを入れていって、しっかり対応する必要があると申し上げたいと思っております。
さて、先ほどからお話ししているこども家庭庁が担う重要な役割について、重要な法律上の根拠としては、児童福祉法があります。スライド8頁をご覧ください。児童福祉法をみると、全て児童は、「児童の権利に関する条約」の精神にのっとり、心身の健やかな成長・発達を等しく保障される権利を持っている。従って、国・自治体、もちろんわれわれ国民もそうですが、このような権利をしっかり保障するような社会づくりをしていく必要があるということになります。それが、「2条関係」として児童の育成責任についてです。国民、同時に国・地方公共団体も入りますが、児童の最善の利益を優先して考慮すること。そして、健やかに育成するよう努力する義務がある。併せて国・自治体は、健やかに育成する責任の一端を負うということになります。
この1番と2番が基本原理となって、児童福祉法ができております。これは、全て児童に関する法令の施行に当たって、常に尊重されなければならない。従って、国・地方公共団体などは、児童を心身ともに健やかに育成する責任を負うことを全うするようにいろいろな法律を実施し、常に心掛けておかなければならないことになります。
より明確に、現在の児童福祉法では、国・自治体の責務規定が置かれています。この「責務」というのは、責任と義務、あるいは国・自治体が果たすべき任務。責任と義務、責任と任務という単語を一つにまとめたものになります。市町村の責務として、基礎的地方公共団体、つまり身近な地方公共団体として、児童が心身ともに健やかに育成されるように、児童の福祉支援業務を適切に行わなければならない。都道府県は、市町村に対して助言・適切な援助を行うと同時に、都道府県自身も、児童が心身ともに健やかに育成されるように業務を遂行しなければいけない。国は、市町村・都道府県が先ほど申し上げたような業務をきちんと遂行できるように助言・情報提供を行わなければならないと、明確に果たすべき責務が規定されています。このような点は、最後にお話しする責任の問題、義務の問題と関連してきますので、ご注意ください。
次は、スライド9頁、こどもに関連して、文部科学省が中心になりますが、教育についてどのようなことを基本理念にしているのか、教育基本法を中心にして見ていきます。今回のご報告では、アスベストからこどもを守るという視点から、幾つか共通するキーワードとして重要となるのが、「健やか」、「健康」、あるいは「安全・安心」という単語。そして、「環境」という単語。このようなところが、それぞれの法制度、枠組みの中でどのように位置づけられ、誰がどのように責任を負っているのか、役割を果たさなければいけないのかということを決めております。これからも同様です。
教育は、とりわけこどもの心身、そして、健康な国民の育成を期して行われることですので、先ほどから申し上げているとおり、健やかな身体を養うこと等の目的を達成するように行わなければならない。このような教育は、国・自治体だけではなく、私立学校も担います。ですので、私立学校は公の性質を持っている。学校教育において、社会の中で重要な役割を果たしています。ですから、国・地方公共団体は、私立学校の自主性を尊重しつつも、先ほど申し上げた目的や目標を私立学校も達成するように、いろいろな振興策・助成等に努めなければならないということになります。
とりわけ幼児期の教育についてですが、国・地方公共団体は、幼児の健やかな成長に資する良好な環境を整備すること。そのようなことに努めなければならないと書かれています。先ほどの(3)もそうですが、「努めなければならない」と書かれています。これは、あることを明確かつ具体的に義務付けるわけではないですが、適切なタイミングで、適切な環境の整備や振興を実施する義務があるという趣旨が入っていると考えられます。これは、最後の事例の中でも出てくる部分です。
次に、教育基本法のもとで学校教育法があります。スライド10頁をご覧ください。例として幼稚園を挙げておりますが、幼稚園は学校の一つで、文部科学省と、都道府県あるいは市町村の教育委員会が所管します。幼稚園は、国・地方公共団体と学校法人が設置できる。学校・幼稚園の設備については、設置基準に従って設置する義務が、学校設置者にはあります。設置基準の一例をスライドの下の方で挙げておりますが、後で確認します。幼稚園では、健康の保持増進など、必要な措置を講じる義務がある。幼稚園は特に、幼児の健やかな成長のために適切・適当な環境を与えて、心身の発達を助長することが目的になっています。
幼稚園の先ほどの設置基準の一つではありますが、幼稚園の施設・設備は、保健衛生上、安全上、適切なものでなければならないとなっております。この「適切なものでなければならない」というのは、その時代に応じて、技術の発展や、アスベストに関係する医学の発展や調査技術の発展、技能の発展など、このようなものにしっかり対応するものでなければならないということになるだろうと思います。
参考までに、スライド11頁をご覧ください。文部科学省については、皆さんよくご存じかと思います。幼稚園等の監督などをする教育委員会について、「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」で定めております。教育委員会の職務権限として、児童、生徒、幼児の保健・安全に関する事項は、教育委員会の業務になる。その中には環境衛生も入ってくるということです。
文部科学大臣と教育委員会についてですが、文部科学大臣は、都道府県・市町村に対して、業務を適正に処理するために必要な指導・助言ができます。都道府県教育委員会は、市町村に対して、事務の適正な処理を行うために必要な指導・助言ができるということになっております。その必要な指導・助言の内容として、例えば、学校における保健・安全などについて、指導・助言を与えることができるということになっております。ですので、文部科学大臣、文部科学省、あるいは都道府県は、都道府県や市町村に対して、学校における保健・安全に対して指導・助言をする権限があるということになります。
次に、スライド12頁をご覧ください。学校の安全や健康のために重要な法律として、「学校保健安全法」があります。これは、健康保持、安全な環境などを確保するための法律です。国・自治体に、スライドのアンダーラインを引いている所が重要なのですが、最新の知見、あるいはいろいろな新しい事例を踏まえて、財政措置等、必要な施策を講じるよう求めております。ですから、アスベストに関係した最新の知見、いろいろな自治体の実例・事故等を含めた問題を踏まえた、いろいろな施策を講じる必要が出てきます。
学校の設置者の責務として、先ほど申し上げた健康の保持増進などが挙げられております。また、文部科学大臣は、幼児を含めた児童生徒の健康を保護する上で維持されることが望ましい基準として、「学校環境衛生基準」を定めています。学校の設置者は、学校の適切な環境維持のために、この基準を遵守するように求められます。学校環境衛生基準の一つの例として、スライドの赤字記載のとおり、浮遊粉じんについては規定がありますが、アスベスト等については、明示的な規定はないようです。
次に、スライド13頁をご覧ください。学校保健安全法に更に関係してですが、学校設置者は、安全を守るために危険を防止すること、設備をしっかりしておくことが求められています。学校環境の安全の確保、改善を図るために必要な措置なども講じるように、学校長に求めています。学校長がしなければならないということは、結局のところ、学校設置者も同様に、そのような措置を講じるよう努めることになります。後ほど津波災害の事例を扱う際に出てくるものですが、「危険等発生時対処要領」というのは、地震や津波などの災害が起こった場合の対応マニュアルが一つの例です。私立学校を含めて、学校では、児童生徒の安全確保のためにマニュアルを作成する。最新の知見・事例を踏まえて自治体も関係してきます。
アスベストに関連してですが、スライド14頁にあるとおり、以前、文部科学省から、都道府県の私立の学校等について権限を持っている、これは公立学校についても同様ですが、通知という形で、先ほどの助言・指導が行われています。ただ、平成18年で、それ以降、対策の実施状況等に応じた通知がどれくらい出されているのか、確認する必要があるかもしれません。
そして、私の報告の最後の部分です。スライド15頁をご覧ください。保育所や学校の設置者の、こどもの安全と責任についてです。自治体や私立学校等を問わず、保育所の場合は認可・無認可にかかわらずですが、こどもが心身を発達・成長させるにふさわしい場でなければならない。これが前提になっておりますから、そのような場でけがをしたり、化学物質等にばく露し疾病にかかることがないように、こどもの最善の利益を追求することが必要になります。こどもの生命・身体、健康を保護する義務が、学校設置者、学校等で働く者に義務づけられていると考えられます。それは、指導監督する自治体・国も併せて、安全・衛生の確保のために万全の注意を払う必要と義務があると考えられます。今後これを「安全確保義務」と申し上げたいと思います。
では、スライドに沿って、幾つか具体例を挙げつつ、この点についてお話しします。➀まず、大川小学校事件です。有名な東日本大震災の際に、大川小学校で、津波が発生したあと避難が遅れてしまったために、児童・教員の多くの方が亡くなった、非常に悲惨な災害がありました。この大川小学校事件について、最高裁で自治体の責任が認められています。その主な理由は何かというと、災害対応マニュアルに不備があった点です。津波による児童の被害発生は、学校長、教育委員会、防災部局などが、予防の観点からあらかじめしっかりとした準備をしておけば、被害は防げた可能性が高いという考え方を基にして、自治体の責任を認めたものであります。このような観点は、体育等の事故の場合でも、安全確保義務に関連して、教員の監視、安全確保義務などが問題になる場合があります。
大川小学校は公立学校でしたが、次に、②私立幼稚園園児感染死亡事件です。私立の幼稚園で、園児が感染症に罹患してしまって死亡したものです。その原因は何かというと、幼稚園で使っていた井戸水に、トイレの汚水タンク、浄化槽から水が漏れて地下水となって流入し、それを用いたために感染症にかかってしまったことが問題になったものでした。なお、この井戸水については、使用前に保健所が検査し、滅菌が必要だということは指示していました。ただ、保健所は、この井戸が幼稚園で使用されることを知らなかったものであります。この事件について、県の責任と設置者の責任が問われました。
先ほど申し上げたとおり、県は、幼稚園で井戸水が使われることを知らなかった。知らなかったということは、予見可能性の問題になるのですが、予見可能性が否定されることになります。県は指導監督権限があったわけですが、予め分からない、知らないと、指導監督権限は行使できないことになります。一方で設置者は、安全管理義務があって、幼稚園に入る際に結ばれる契約に付随する安全管理義務に違反することになるので、設置者の責任は認められていくことになります。
次に、スライド16頁に入ります。③山元町立保育園津波事件です。これは、自治体の責任は否定されました。どのような点が否定される原因になったかというと、応急対応、つまり、地震があったあと、どのような対応をすべきだったかが争点となりました。大川小学校の場合は、あらかじめどのように災害を想定し、マニュアルを作成すべきだったかという点が問題となりましたが、山元町立保育所の場合は、いざというときの対応が争点になったものです。これも実際のところは、予見可能性が満たされないというところがポイントになりました。
ただし、重要なことが高裁の判決の中で述べられています。保育園児は、自ら危険を予見したり、回避する能力が発達していない。ですから、園児の生命を守るため、可能な限り迅速かつ適切に情報を収集し、その当時の一般的な科学的知見に照らして、園児らの生命・身体に対する危険を回避するための適切な措置を執るべき法的義務が、設置者、つまり山元町にはあった。この指摘は重要です。ただ、津波到達をあらかじめ知ることが難しかったということで、結局は、責任が否定されています。
次は、④無認可保育園園長虐待事件についてです。自治体の責任を肯定した珍しいケースなのですが、園児の生命・身体に対する具体的な危険が切迫していること。その具体的な危険を予見できたこと。公務員が権限行使をすれば回避できたこと。公務員の権限行使でなければ、被害発生が防止できないこと。このような四つの基準を使って、裁判所は、認可外保育施設の指導監督に関する厚生労働省通知などを重要な評価要素として、園長の虐待について県は適切に調査し、指導監督権限を行使していれば、重大なけがや死亡事故は発生しなかっただろうということで、自治体の責任を認めております。
ここで重要になることは、「適切に調査すれば分かったはずだ」と言われることです。これは、建設アスベスト訴訟最高裁判決でも国の調査義務を認め、予見、つまり調査し、知ること。これが権限行使にとって非常に重要だということが指摘されていました。
最後に、⑤佐賀基山町集団肝炎事件です。これからお話しする内容は、設備に安全性の欠落がある場合の問題です。佐賀県の町立小学校で、先ほどの②のケースに類似しているものですが、町立小学校の浄化槽から漏れたし尿によって井戸水が汚染され、たくさんの児童が肝炎になったものです。浄化槽から漏れた汚水による井戸水の汚染は、井戸の設置・管理の瑕疵に当たるとして、賠償責任が認められています。
重要なのは「瑕疵」という表現です。それはどのような意味かというと、小学校に設置された井戸が、小学校で使うことを前提として考えると、通常有すべき安全性を欠いていた。つまり、浄化槽から汚染水が井戸に入るような構造になっていた。井戸そのものの設置・管理にミスがあって、持つべき安全水準を満たしていなかったという判断になっています。なお、②の事例でも、法律の根拠は違いますが、学校法人は井戸の設置・保存に瑕疵があったとして、通常有すべき安全性が欠けているという観点から、これを工作物責任といわれる物が問題となりえます。
学校や児童福祉施設等が通常有すべき安全水準を持たなければいけないということは、ある種、当たり前のことです。アスベストについて、こどもたちにばく露させないということは、最低限の安全水準ではないかと現在では考えられると思っております。従って、国・自治体の役割も非常に重要です。
最後に、先ほど申し上げた損害賠償というような対応も必要ではあるのですが、被害が出ないように適時適切に調査し、予防することが最も重要だろうと考えております。そのための国・自治体の役割も、非常に重要だと考えております。以上をもちまして、私の報告を終わりにしたいと思います。ご清聴、まことにありがとうございました。