Symposium: No Asbestos Inhalation for Children
名取 「一般的なアスベスト関連法令の内容と不足」。よく言われることは、「他の省庁が決めているところが不十分なのだから、うちはいいじゃないか」と文科省やこども家庭庁は逃げてしまうと思うので、まずは一般的なところでも確かに不十分なところがあるので、そこについて、名城大学の北見宏介先生より、ビデオレターの参加になりますが、よろしくお願いいたします。
北見 皆さん、こんにちは。名城大学法学部の北見と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日、会場に伺うことができませんで、その関係から、このような動画をお送りするという形でお話をいたしたく考えております。「一般的なアスベスト関連法令の内容と不足」ということで、今回のシンポジウムは、こどもに注目を向けて、こどもに関連する法令に目を向ける内容になります。その前提として、こどもに目を向けているわけではない一般的なアスベスト関連法令について、内容に不足があるのですけれども、その状況のもとで、なぜこどもに着目する必要性があるのかということに関連するお話ができればと考えております。
「はじめに」ということで、既にご存じの方ばかりかとは思いますけれども、「ストック災害としてのアスベスト問題」と書いてあります。既にアスベストは、新規の使用についても禁止されていますし、輸入も禁止されていますので、新たにアスベスト製品が出て来ることはないのですが、とりわけ建材として非常に幅広く使用されています。こどもたちがいるような場所、学校や保育園・保育所、あるいは幼稚園などでも幅広く使われていますが、甚大な被害を生じさせることになりますので、非常に困った存在です。新規使用を禁止すればいいかというと、そうではないということで、新規使用は禁止された今現在、非常に重要な時期だと言うことができます。
では、その重要な問題について、現在の法令はどのようになっているのか。アスベスト規制に関連する主な法令ということで、建築基準法、大気汚染防止法、労働安全衛生法と、これだけではないのですけれども、主な法令として、とりあえず三つを挙げてあります。一つめは建築基準法ということで、元々はこの法律のもとにある法制度に基づいて、アスベストを使いなさいということになっていたわけです。建築基準法は、建材や建築物に関連する法律ということで、建物を使っているときにアスベストにばく露してしまうという問題に対応する第一次的な法律になります。
②の大気汚染防止法ですけれども、大気の質に関する法律です。アスベストが飛散すると、その空気を吸うと体に悪いということになりますので、まさにアスベストは、大気との関係で言うと汚染物質という位置づけになります。空気を汚すものということですね。そこで、とりわけアスベストが大気中に飛散しないように、法制度が作られています。この大気汚染防止法も、そこのところでさまざまな規制に関する規定、条文を置いています。
そして、実際にアスベストを取り扱うお仕事に従事している人ということで、建築現場、かつてのアスベスト製品の工場など、労働者の安全・健康に関する法律ということで、労働安全衛生法という法律があります。この法律のもとに、厚生労働省令ということで、石綿障害予防規則、俗に「石綿則」と言われるものがありますが、これが用意されています。他にも大事な法律はありますが、このようなことになっています。
では、アスベストについて、危険が生じる局面としてどのようなものがあるのか、0、1、2、3という形で書いてあります。0については、一応なのですけれども、法律的な対応については終えていることになるでしょうか。採掘は禁止、新たなアスベスト製品の製造も禁止になっています。既に終わっているということで、横棒を引っ張ってあります。
そして、実際に既に使われてしまっているものがアスベストになりますので、その対応を何とかしなければならないということで、「通常使用」、「除去解体」、「廃棄」と書いてあります。通常使用は、アスベストが含まれた建材が使われている建物で生活をする、仕事をするという局面です。これについては、先ほど出てきました建築基準法が主に当てはまってきますが、オフィス・スペースとして働いている人たちが、アスベストの使われている建物でお仕事をする。特に取り扱う仕事ではないとしても、その局面で被害が生じることがあるということで、これに対応するものが、少し特殊といえば特殊ですが、石綿則の10条という条文があります。
そして、最も危険性が高いとされているものが、除去解体の局面です。これは、解体工事に先だって、既に使われているアスベストを除去するということです。この際に飛散の危険性があり、大気にアスベストが飛んでしまう危険性がある。石綿則については、作業現場の労働者を主眼に置いて、大気汚染防止法は、現場の外側にいる人たちに対して、アスベストが飛んでしまってばく露することがないようにという形で規定が置かれています。
そして、今回はきちんと触れているわけではなく、先ほども名前は出しませんでしたけれども、除去したアスベストをどのように捨てるかについても、実は重要な問題になります。廃棄物処理法などが関わってきます。また、アスベストを除去したあと、建物全体として解体するわけではなく、もう1回その建物を引き続き使うこともあるかもしれませんが、ここで除去が不十分だという場合については、①´の除去・改造補修後にもう一度建物を使う場合についての危険が高まるという状況となります。
アスベストに関わる三つの局面の対象となるものですが、アスベストが含有された建材は、あまりにも幅広く既に使われてしまっています。そうすると、対策が必要な建築物の数は、膨大なものになります。これらの建物について、どれも飛散を起こしてはいけませんので、くまなく対策が執られることが望ましいのですが、実際上は、さまざまな困難から法制度として、対策として不足があるという点については、否めない事実になります。具体的には、技術的なところや、あるいは違反に対する取り締まりについては、不十分です。
その対応をしようと思った場合、全ての現場に行政の職員がずっと張りついていることができれば、違反も飛散事故も起こりにくいと思います。交通違反について、警察官がもっとたくさん取り締まりに出ていれば、恐らく減るだろうと思われるわけですが、実際の自動車やオートバイの数と警察官の数を比べてみると、およそ警察官は足りないということになります。それと似たような格好で、アスベストの取り締まりを行う職員の数が十分かというと、現場の数との比較では圧倒的に不足しているので、法制度や実際の執行といいますか、運用といいますか、不足している点があることは否めない、少なくないということになります。
では、この不足されている点について、どのような形で対応がなされているのかですが、不足点の幾つかについては、先送りされた問題という位置づけがなされています。どこかを開けばそのような記載が載っているというくらい頻繁に使われていますが、これまでアスベスト関連の各種の答申のところで、「引き続き検討が必要である」、あるいは「対象となる建築物の範囲を拡大することも重要である」という記載などがなされた答申が、数多く出されてきました。
それを基にして法改正がなされてきたのですが、今の法制度は、不足していることが認識されたうえで存在していることになります。これがパーフェクトな法制度だという状態ではないということですね。これは、法律を作る前から分かっているという面があります。そのときに、法改正などが行われることによって、レベル3も加わるという形で対象建材が拡大したり、規模要件が縮小・撤廃されるなどが従来から行われてきましたが、十分かといわれると十分ではない。不足しているところは、なおも残されています。
では、アスベスト関連の法令について、究極的には何を目指しているのかということで、「アスベスト自体は無味無臭」と書いてあります。アスベストはにおいがする、臭いということであれば、「アスベスト臭くてかなわないよ、この地域」ということで、悪臭としての公害になるのでしょうけれども、実際にはそうではないにもかかわらず規制がなされているのはなぜかというと、「臭いな」という感覚被害ではなくて、まさに健康被害を生じさせるものがアスベストだと。これを防止するために、さまざまな規制が行われています。アスベスト規制の目的は、健康被害の防止だということですね。
そうだとすると、健康被害を生じさせるのは人の体になりますので、人体について注目したうえで規制を検討するとしたら、どのようになるのかということです。現在の法制度は、仕組みとして不足しているのですけれども、不足している状態でどのような対応をすべきなのかという視点として、人体の観点がやや不足しているのではないかと思われます。
どのようなことかというと、既になされている規制、アスベストに限らず行われている規制でもありますけれども、多数者が利用する施設であれば、多くの人がアスベストにばく露する危険性があるということで、強い規制を行うことにしようと。優先的といいますか、緊急性の高いターゲットになるだろうという規制がなされてきて、対象として重要度が高いものとされてはいます。コロナ初期でも、多数者が利用する施設については、営業は自粛してくださいというようなことは多々行われてきたわけですが、むしろ被害が生じる体の側に目を向ける。これは、本日の他の発表で取り扱われることにはなりますけれども、健康に被害を生じさせる危険度がこどもについて高いのであれば、そのことに沿ったアスベスト規制がなされる必要があるのではないか。人数的な、面的な観点も大事といえば大事ですが、そうではなくて、飛散が生じてしまったときにばく露した人間の側として、どのような反応・対応が生じてしまうのか。危険度がどのようなことになるのか。こどもについて危険度が高いのであれば、面的な観点ではないかもしれませんが、まさに規制の強さが求められるはずだと考えられるわけです。
これはある最高裁の判決で、昭和61年ということで、昔の判決になってしまうかもしれませんが、「視力障害者の利用度との関係から予測される」うんぬんと書いてあって、点字ブロックの設置に関連する事件です。昭和40年代に事件が起きまして、ちょうど点字ブロックが新製品として開発されて間もなくの時期でした。目の不自由な人々の安全性を高めるためもので、これが全国くまなく設置されていれば素晴らしいことなのですけれども、実際には、新製品ができて3か月後には全国にくまなく設置されたというようなことは難しい。
そのことを前提に置いたうえで、視力障害者の利用度との関係から予測される視力障害者の事故の発生の危険性の程度、事故を未然に防止するために点字ブロックを設置する必要性を考慮したうえで、点字ブロックは設置されていると。このような前提に立って、最高裁は結論を導こうとしているということです。つまり、視力障害者が集まる施設の最寄り駅であれば、点字ブロックを設置する必要性は非常に高いということになるのでしょうけれども、1日に乗降客が1人いるか、いないかという駅で、恒常的に視力障害者の人が使っているわけではない駅の場合、そこに点字ブロックを設置する必要性は、それほどではないだろうと。
この観点で、アスベストにばく露した時の危険度が高いこどもについて照らし合わせて考えてみたのですが、「視力障害者」を「こども」と言い換えることができるのではないかということです。具体的には、「こどもの利用度との関係から予測されるこどものアスベストばく露による健康被害の発生の危険性の程度、アスベストばく露によるこどもの健康被害を未然に防止するために重点的なアスベスト規制を行う必要性」。こどものための施設、こどもがよく集まる施設では、重点的な規制を行う必要性は高いだろうと考えられるわけです。法制度として不足しているとしても、どこから手をつけていくか。最も緊急性が高いのはどこかを考えてみると、健康被害の発生の可能性・危険性という観点からすると、こどもになるのではないかということです。
「おわりに」ということで、そうだとすると、アスベストに関連する法制について、こども関連の法制が近年において整備が図られているところではありますが、これを結びつけて考える必要性は、とりわけ高いだろうと考えられるわけです。こども関連の法令・政策と、そこでの目標・目的、さまざまな理念。さらに、法制度のもとでの担当組織が有する任務などについて、こどものアスベスト被害の防止の観点から見ていくことが重要だと考えられるということで、以上でお話は終わりとなります。ありがとうございました。
名取 ありがとうございました。質問は、最後にお受けすることにいたします。