Symposium: No Asbestos Inhalation for Children
名取 それでは、「吹き付けアスベストなどの調査が進まない学校や児童施設の実態」ということで、ジャーナリストの井部正之さんにお話をよろしくお願いします。
井部 こんにちは、井部と申します。フリーランスで取材をしておりまして、今日は、公共施設のアスベストの調査がきちんと進んでいないという話で、最初はもう少しタイトルがおとなしくなっていたのですが、書いたら腹が立ったので「!」をつけたのですけれども、調査が全く進んでいない。それも、こどもがいる学校や児童施設などで、実にいいかげんなことがされているというお話をしたいと思います。
2020年に法改正がされたという話が名取先生からも冨田さんからもありましたが、今年(2023年)10月に(建物などの改修・解体時において)有資格者によるアスベストの調査・分析が義務づけられて、何も知らない素人がやってはいけないことにようやくなりました。本来は、2005年に石綿則(石綿障害予防規則)で(成形板なども含めた)アスベストの調査が義務づけられた段階で、このような制度ができていないとおかしいのです。それにもかかわらず、ずっと放っておかれて、20年近くたったところでようやく有資格者による義務づけがされたという状況にあります。
さらに、もう一つ大きな改正としては、事前調査結果を、工事の開始の前までに都道府県や各地の監督署に報告するという仕組みができました。立ち入り検査は、やはり現場が分からないとなかなか難しいということで、(立ち入り検査を容易にするため)報告するようにしようということで始まったものです。さらに、吹き付けや保温材のアスベスト除去後に、さらに成形板の除去後においても、有資格者による完了検査。きちんと取り残しがないかという検査が義務づけられています。2021年4月から施行です。先ほどまさに冨田さんが言っていたような状態があるのですが、(アスベストを飛散させる)成形板の切断・破砕が東京都板橋区・上板橋駅周辺の再開発にともなう解体でも問題になっているのですけれども、そのようなことをしない、成形板などを割らずにネジを外したりして除去する原則「手ばらし」の義務も位置づけられています。これは2020年10月から施行になっていますが、ほとんど無視されています。
この(手ばらし)規制があるのですが、実際には有資格者による調査・分析が遅れていて、(アスベスト建材を)見て分からない人が見ても結局分からないという話がありましたが、きちんと分析できているのか、分析ミスがないのか。また、調査についても見落としがないのかというところも、きちんと腕がある人がやらなければいけないのですが、諸外国で当たり前になっている精度管理、調査や分析の会社の認定・認証のようなものが他の国では義務づけられているのですが、日本にはありません。事前調査結果の報告の関連では、今、自治体からは非常に使いづらいと大評判でございまして、早くも(報告システムを)改修するという話になっています。
吹き付け関係の完了検査ですけれども、先ほど冨田さんが非常に分かりやすく写真で教えてくださいましたが、ようやく有資格者がやることになったのに、完了検査の講習がないのです。アスベスト調査の資格者が、(講習も受けていないのに)突然できることにされてしまったのですね。また、除去工事の現場監督をする作業主任者も、(同じく)突然検査ができるようになりました。皆さん、すごいですね。教わっていないのにできるのです。「日本人は素晴らしい」というくだらない話です。
ここについても、アスベストが飛散していないか、他の国ではクリアランス測定というものが義務づけられていますが、日本はそもそも測定が義務づけられていません。他の国は、さらにこれを電子顕微鏡でやっていこうという方向になっていて、つい先頃もEUで、10月に労働者のばく露基準を(8時間加重平均の最大値で)1リットル当たり10本までに下げましょうと。これは電子顕微鏡を使って、位相差顕微鏡で計測できない微細な繊維まで計測する場合です。電子顕微鏡ではなく、従来どおり位相差顕微鏡で計測する場合は、同2本まで下げようということが決まっています。これから各国で法律になっていく段階です(2023年11月22日に最終案に署名され成立。その後各国で法制化。同10本のばく露基準は即時適用で、電子顕微鏡の使用ないし位相差顕微鏡の場合、同2本までの低減は最大6年間の移行期間)。
そして、先ほどの成形板の切断の件は、現場が変わっていないということを言いましたけれども、そのような状況にあり、実際にどのようにやったらいいかという講習も全くないし、周知もきちんとされていないので、機能していない。プラスアルファで、立ち入り検査などもまともにされていないという状況にあります。
先ほど日本の規制がいろいろとおかしいという話がありましたが、日本の規制は、残念ながら周回遅れです。何十年遅れの状況にあります。吹き付けなどの除去業者の許認可制がない、ライセンス制がないと再三ご指摘がありましたけれども、そのとおりです。さらに、除去作業時のアスベストの濃度の測定、労働者がどれくらい吸ってしまうのかという、ばく露濃度の測定の位置づけもありません。その記録の保存も、もちろん測定しないので、あるわけがない。周辺への飛散がないか、こどもが吸ってしまわないかといったことを調べる漏洩監視の規定もないという状況になります。
さらに、建設業の現場は臨時作業場扱いなので、(クリソタイルだけの基準ながら)管理濃度があっても適用除外になっていて、測定義務がない。これもずっと放っておかれたままです。また、労働者のアスベストのばく露を、他の国では、合理的に実行可能な限り減少させなければならないという規定がどこかに入っています。これもないという状況です。アスベストにばく露しかねないような人たちに定期的な訓練を提供しなければならないという規定が、大体他の国にはあります。日本にはそのような規定がありません。
除去業者の許認可制については、ILOで石綿条約を1986年に作っているおり、89年から発効しています。日本でも2005年に批准しているのですが、(吹き付けなど「もろい」石綿断熱材などの除去は当局が許認可した業者しか実施できないことを定めた)条約の17条違反です、明らかに。除去作業時のばく露濃度の測定と記録保存についても、20条違反です。さらに、合理的に実行可能な限り、石綿のばく露を減らさなければいけない。これについても、ILO条約の15条違反です。労働者の定期的な訓練も、22条違反。つまり、89年採択で35か国批准の国際標準に2005年に批准しながら、ずっと違反し続けているのです。国はもちろん知っています。知っているうえで、ずっとそのようなことをやり続けているという状況です。
ひどい実態の具体例に行きますが、大阪・堺市の残念な話をします。2021年9月に小学校4校で、吹き付けアスベストが見落とされていたことが分かりました。これまで分かっていない吹き付けアスベストがあったという発表です。このとき、経年劣化だけなので、劣化は見られないと発表しています。さらに、先ほどの有資格者の建築物石綿含有建材調査者、今で言う「特定調査者」というランクが一番上の調査者を堺市の職員は何人か持っていまして、その有資格者が調査して、経年劣化程度なので大丈夫だと判断しました。
これはその現場の一つの学校なのですけれども、天井板が、点検口がずっと開きっぱなしで、吹き付けが見えるという状況があります。ここも、ずっと何年も割れっぱなしだった。吹き付けは劣化していないそうで、特に散乱等も見られなかった市はと言っているのですが、(写真を示しつつ)これくらい画質が悪くても、落ちていることが見えます。これで落ちていないのですね。これは長さ90cmにわたって落ちています、巨大な塊が。これで「劣化なし」なのだそうです。堺市の専門家は基準が違うのかなと思いますけれども、さすがに問題になりまして、こどもたちのばく露を検証する委員会の中で専門家に再チェックしてもらったところ、「劣化・やや劣化・劣化なし」の3段階のうち、ほとんどが「劣化」だったことが分かりました。
その後、この件を受けたあとで、別の公営施設に吹き付けアスベストが見逃されていたことが分かりまして、そのときにさんざん指摘しましたら、市の施設全てを再チェックしたのです。これまで見ていない所も見ましょうということで、調べることにしました。そのときに、素人調査ですが、先ほどあほな判断をしたような有資格者が、「こういうものを見つけるんだよ」と講習をしました。少し講習をしてやった結果、更に吹き付けアスベストが9か所見落とされていることが分かりました。この四角く赤く囲っている所と、1個ここに書いていないものがあるのですが、さっと発表する前に除去して、知らない間に除去して、公表しなかったのですね。過半数が小学校や幼稚園など、5か所はこども関係施設だということが分かっています。
ようやく本題の学校側の話に入りますが、学校施設で吹き付けアスベストなどの調査をしています。お手元の資料にあると思いますが、2005年以降に吹き付けの調査をしていて、下の丸くしたところにありますけれども、こちらは学校ではなくて、社会福祉施設です。全部で25万ぐらいの施設がある中で、23万ぐらいについてはアスベストの有無を調べた、調べていなくて、これから分析予定のものが、1万9,000何か所あると書いてあります。25万のうち22万ぐらいはアスベストが使われていないことが分かって、7,800ぐらいに使われている。除去済みが1,600ぐらいで、5,000ぐらいが、対策を全くしていないまま放っておかれている。ほとんど対策が進んでいないという状況にあります。さらに、この「分析予定」となっているところは、アスベストが入っているかどうか、露出していても調べてすらいない。放っておかれたままになっているところです。これが1万9,000あるのですね。
こどものいる施設はどうかと見ていきますと、こちらの社会福祉施設ですとこのようになっていて、児童関連、障害児、高齢者施設、その他施設で2万近くあるのですが、そのうちの上の二つですね。児童関係・障害児関係を見ると、1万3,000ぐらいが未調査だということが分かります。これは吹き付けだけではなくて、保温材や煙突の断熱材なども含めたものになっています。学校については、これは吹き付けだけですけれども、私立学校で4か所だけ未調査のところが残っている。さすがに1980年代から吹き付けアスベストの問題は言われていますので、その頃から30年、40年の話なので、かなり減ってはきているところだと思います。ただし、断熱材や保温材については797か所見られて、きちんと調査がされていないという状況が続いています。
現状としては、児童関係・障害児関係の施設の1万3,000強と、学校施設の1,900ぐらいで、吹き付けアスベストや保温材・断熱材、レベル1、2と分類されるものについて調査・分析がされていないという状況にあって、合わせると1万5,000施設ぐらいが、きちんと調査されていないまま、クボタの問題が起きてから十何年間、放ったままになっている。さらに保温材・断熱材については、2014年に管理規制が導入されていまして、飛散しかねない場所にある場合は対策しなければならないということが、石綿障害予防規則に義務づけられています。そこから、もう10年近いのですね。ということは、1万5,000ぐらいの施設で、石綿障害予防規則の10条が管理義務なのですけれども、違反のままの可能性がある。飛散しやすいアスベストの可能性があることは分かっているのに、調べもせずに放置しているという状況で、これでアスベストがあれば、本当に人権侵害だと思います。
まとめです。国際的に30年遅れであったり、あるいは何周もの周回遅れということが、今の日本の規制やアスベスト対策の状況でして、更なる規制強化が必要な状況にあります。残された課題の一つとしては、建物使用時の有資格者によるアスベスト調査を義務づけて、きちんとした管理をしていくことが必要になるのですけれども、いまだ素人調査が続いているという状況にあります。素人調査で頑張っているところでも、ぽろぽろと見落としがある。調べれば、恐らくいろいろなところで見落としが見つかると思います。
このような状況で、こどもの施設で、飛散リスクの高い保温材・断熱材などで特に放置されているところが続いている。こどもたちが長時間いる施設で安全管理がされていないことになりますので、やはり石綿則違反の可能性があって、このような状況は早急に解消されなければならないのではないか。似たようなケースできちんとやっていない病院については厚労省が病院名を含めて公表しているのです。学校やこども関連施設も同じような措置が必要なのではないかと思います。以上です。ありがとうございました。
名取 ありがとうございました。要望書の17ページを見ていただきたいのですが、私たちは何を要望したかというと、2023年の10月から、建物の改修・解体時の事前調査は全て、国が定める有資格者による実施が義務づけられています。これは改修・解体のときだけなので、通常使用時にまで義務づけられているわけではないのですが、その10行めでは、通常使用時における保育施設や小・中学校などのアスベスト調査は、国が施設管理者に対してアンケートを出して、無資格の施設管理者が回答するやり方を言うのです。この結果は、無資格の人がアンケートに答えて、1万ぐらいがやっていないということなのです。
この前、この要望を出した時にこども家庭庁と文科省の方が言ったことは、今年もう1回、同じように無資格の方が調査をしているから大丈夫だと言われました。他の省庁は、通常使用時にも絶対に一定の資格者がやれとまでは決めていないけれども、大体は有資格者がやるという方向になっている中で、相変わらず文科省とこども家庭庁は、通常の使用で、今すぐ改築・解体するわけではないのだから、無資格の園長先生が見ればいいだろうという調査をやっていらっしゃることが判明したのです。この人たちに言ってもしかたがないので、「厚労省や環境省が、どのくらいまで進んでいるかご存じですか」と言ったら、パンフレットが来ていないから見ていないと言っていました。そのような状況です。
ということは、こどもは、改築や解体するまでは、吹き付けがあろうが、レベル2があろうが、そのような環境にいてもいいのだということになってしまうので、そのようなところにうちのこどもや孫は預けたくないですね、はっきり言って。危なすぎる。このような状態なので、こどもの施設については、一定の国の有資格者だけにアンケートをさせると。これは、ぜひ何らかの形で、趣意書なり、実際の答弁でもけっこうでございますが、追い込んでいただきたいところですので、よろしく先生方にお願いしたいと思います。