Symposium: No Asbestos Inhalation for Children
名取 それでは、シンポジウムの2題目に移らせていただきます。「建築物除去現場の課題」、アスカ技研株式会社の冨田知靖さん。いろいろな現場でどのようなずさんな工事をしているのか、分析の立場から、いろいろなところで見たものを正直にお話しくださる極めてまれな方なので、そのお話をいろいろと伺いたいと思います。
富田 アスカ技研の冨田でございます。私は、アスベストの分析・測定・調査を行っていますが、建築物の除去現場の課題として、現場で行われている気中濃度測定および除去残しについて、一部を紹介していきたいと思います。
まず、アスベストの除去工事における測定業者の対応です。私たちのような測定業者が要求されることは、一番に問題のない測定値。これを工事に関係するみんなが期待しています。それを達成するために、どのようなことが行われているかというと、三つを挙げてみました。
1番として、アスベスト繊維をを捕集しないように測定場所や測定内容を「工夫」する。(2)に、数値の改ざん。(3)として、除去工事業者と協力して測定業者の視点で漏洩を防ぐ。
まず、測定場所で工夫する事例です。これは、「やらせ」のような状況に遭遇したので、よく使ってしまう写真なのですが、公立高校のアスベストの除去工事の室内環境測定の様子です。捕集用のろ紙ホルダーが窓の開いた窓際に置かれ、外に向いてセットされています。このような事例の他にも、報告書に載せる写真と実際の測定場所が異なるということは、職人さんからもよく聞く話です。
次は、測定の内容で「工夫」するものです。屋外で私たちの測定がある場合、測定結果に影響があるかもしれないので、その周辺で除去工事が行われていたり、解体工事が行われていないか、歩いて確認します。そのときに遭遇したのですが、隣のビルでアスベストの環境測定が行われていました。測定器をのぞき込むと、「電源が入ったり、切れたり」を繰り返していました。これは「バッテリーが切れている状態で測定している」のです。時々様子を見に行きましたが、状況は変わらず、いつの間にか回収されていました。
別の現場ですが、夜間工事で、同じビルで異なる工事区域を、異なる業者が除去・測定していました。屋外の測定地点、私たちの測定地点の隣にあった測定器です。測定開始後1時間もたたないうちに、ポンプはバッテリー切れで、完全停止してしまっていました。ポンプは回収されるまでこの状態が続いていました。この測定業者さんは、私たちよりも30分くらい遅く測定を開始したのですが、回収は、なぜかほぼ同じ時間帯。つまり「時短」測定だったのです。回収に来た業者さんに、12時50分には止まっていることをうちが確認しているので、「1時にはポンプ止まっていたよ」と伝えたのです。そうすると、「ああ、バッテリーが弱っているのですね」と明るく答えてくれて、そのまま回収されていきました。
次は測定値の改ざんです。この写真は、集じん排気装置の排気をパーティクルカウンターで測定した結果です。除去を始める前にパーティクルカウンターで排気を測定して、集じん排気装置の整備の状態が悪いことを除去業者に伝えたのですが、対応してもらえず、除去を開始して漏洩したものです。この現場では私たちは、この図にあるように、除去計画会社から直接依頼を受けていましたので、実際に除去を実施する会社さんとは関係がなく、いろいろな制約がない状態だったです。この除去計画会社の担当者とは、漏洩させないことを目的に一緒にやってきて、今回の現場も「漏洩させることがあったら、けんかしてでも工事止めろ」と言われていました。そのとおりに除去業者からさんざん威嚇されながらも実行していたのです。そうしたら最初の工区で4日ぐらい工事が延び現場から退場させられることになりました。私たちが退場させられたあとに代わりに来たのは、この除去業者さんがふだん使っているお抱えの測定業者です。大きな現場だったのですが、そのあと工事はスムーズに終わったということです。
3番目は、私たちが目指して実践している、除去業者さんと協力して測定業者の視点で漏洩を防ぐというところです。これは、クボタショックの直後の測定のパーティクルカウンターの値ですが、集じん排気装置が除去を始める前の排気で、このような数値を示している。整備が悪いことを伝えて、HEPAフィルターを入れ直してもらいました。そうすると、排気は通常の状態になります。このようなことを繰り返していると、除去業者さんは、自らパーティクルカウンターを購入して自社で整備を行い、現場に持ち込むようになりました。この他にも、作業開始前や作業中に隔離養生の様子を確認したり、除去作業中も集じん排気装置の排気をパーティクルカウンターで常に確認するなど、特に除去の作業中は、測定に行っている間ずっと私たちができることをしています。除去業者さんは取り残しなく除去を終えることで必死ですので、私たちの視点で気づくことを伝えていき、協力して漏洩を防ぐことに努めています。
請負順位が末端の私たちのような測定業者が、楽に生き延びていくために、要求もされないのにやっていることを二つ紹介します。
何があろうと工事の石綿繊維の測定は常に「検出限界未満」だと。検出限界未満の値を常に出していくために起こった事例を二つ紹介します。
一つ目は、自治体発注の解体工事に伴うアスベスト除去工事で、分離発注に近い形で測定に行きました。ここの現場では、現場に立ち入ることに制限が加えられたため、私たちが行った時には既に除去工事が始まっている状態でした。そこで排気を確認してみると、このような大変な値が出て、だだ洩れの状態です。このときの除去業者の言い分です。「今まで集じん排気装置から漏らしたことなんてない。デジタル粉じん計は問題なかった」というようなことを言って、何をしていいか分からないような状態でおろおろしていました。今までふだん使っている測定分析業者さんが、常に問題ないという値を出し続けるので、自分たちの実力が分かっていないのですね。
二つ目は、屋上の煙突アスベストを調べず壊して問題になった現場です。分離発注で私たちが測定に入ったのです。除去業者さんは、お抱えの測定分析業者を現場に入れて全測定点で並行測定となりました。このことからも、この除去業者さんは、ふだんもらっている測定結果から自分たちの工事に非常に自信があって、私たちが誤った結果を出すのではないかと疑っていることがよく分かります。そのときの様子です。並行測定している業者のポンプ、チューブ、ここが折れ曲がっているのですね。ここが負荷がかかっているために、ポンプは停止してしまいました。停止したあとの2時間、並行測定の業者は現れないので、ここを呼んだ除去業者の方に「おたくの呼んだ業者のポンプ、止まってるよ」と伝えたのです。そうしたら、私たちの測定点のろ紙が最終的に誰かに破かれていた。この測定点は、敷地の中で工事関係者以外は入ってこない場所なのですが、このようなことになってしまった。同じ工事の違う測定点ですが、並行測定している業者のろ紙を見ると、中で外れている。
この測定分析業者は、何日か測定があるうちの初日に、私たちをかなり牽制してきています。「どこの工事のときには自治体と並行測定して、自治体が誤った測定を出したから、私たちの結果で引っ繰り返したんだ」という感じで、「自分たちはすごいんだ」ということを言ってくるのです。そのようなことを言っている所が、並行測定で勝負だというときに、このようなことをやっている。このような測定をやっているような所は、ふだん全くストレスのかからない状態での測定で、どれだけいいかげんなことをやっているか想像できると思います。このような結果しか分析業者からもらっていない除去業者さんは、勘違いしてしまう。真実を伝えない測定業者の対応は、非常に問題があると私は思っています。
実際の測定値と違っていても、建設業者のアスベスト担当者が、デジタル粉じん計で測定し「ここは高いから(石綿繊維が)出そうだ。こういうところはちょっと危なそうだな」と言われると、その部分だけ少し高めに出すのですね。そうすると、建築の担当者は、自分の思い描いたストーリーどおりなので、「こいつら信用できる」となるのです。そうすると、そのあとは、信頼された業者ですので、仕事が順次流れ込みます。
別の課題で、吹付け石綿の取り残し問題を見ていきます。私たちが建物の解体前のアスベストの除去調査をしていると、既に除去済みとなっているエリアから、除去残しを確認することが多くあります。このようなときに、「クボタショック直後は工事が多かったから取り残しもでやすかった」と言われます。実際にどうなのか紹介していきます。
2007年の工事で、調査は2015年ですが、ビルの天井の中を見てみると、ジュート巻の配管の上に青石綿が積もっています。ウレタンを除去したあとに吹き付けた、このウレタンを剥がしてみると、青石綿が出てきています。これは、2007年の除去で2012年の調査ですが、機械室に青石綿がたくさん残っているのが簡単に見えます。次は、社宅の風呂場です。天井内をのぞいてみると、クリソタイルを含有する抄造セメント板が残っています。これは、風呂場の天井を張り替えたという工事があったのですが、その中にクリソタイルを含有する抄造セメントが残ったまま、2017年に除去工事です。これも、除去されずに残っていることが分かります。
2017年、小学校の便所の天井の改修工事です。工事が終わったから測定に来いと、呼ばれて行ったのですね。そうすると、行く途中までの通路にケイカル板が散乱していて、便所の中にも散乱している。このときの測定結果は、860f/L。偏光顕微鏡で確認して、アモサイトでした。今では、ケイカル板を割って取り除く際には隔離養生が必要になっています。ですから、「今はこんなことはないよ」というようなことを言う人がいますが、実際はどうでしょう。そのようになっていればいいのですが、2019年の除去の工事の様子でも、残っているものが確認されています。2020年でも、ボルトの周りやくぼみに残っていることが確認されています。
これまで見てもらいましたが、今では、除去工事終了後に石綿の取り残しがないことの確認が作業基準に位置づけられて、施行者が行うようになっていますので、先ほどのケイカル板と同じように、「今ではそんなことないよ」と言う人がいます。実際にどうか、見てみたいと思います。
2023年の除去です。封じ込めの液が吹かれたあとなので見えにくいのですが、近寄って見ると残っているのですね。自主検査でOKになっている所です。くぼみの所にも残ったままです。このようなことが起こっています。
今まで悪い事例ばかり紹介していますが、昔からしっかりやっている業者さんはいます。私どもが最も信頼している除去班の工事なのですが、2007年に除去されました。このときに私は測定に行っています。そのあと、2019年、12年後にビルが解体されて、調査に行ったところです。非常にきれいに除去されています。折れ曲がった内側や隙間、ケイカル板で囲われている中の鉄骨の角。コンクリートにじか吹きされていた部分も、きれいに除去されています。このようなことを昔からやってきている業者もいます。
この除去業者さんの、今年の除去の一つの現場です。コンクリートの上に湿式吹付材が吹き付けられていた除去のあとです。「ちょっと見てくるよ」と言ったら、「おお、見てこい。見つけられるものなら見つけてこいや」と言われて、見てきました。このようなくぼみや、凸凹していて「ここにはあるだろう」という所を必死になって見たのですけれども、見つけられなくて。あるときもあるのですが、そのときは言えばきちんと除去をやり直してくれるので、今回は見つけられなかった。それぐらい一所懸命やっている人たちも、非常に少ないですが、いらっしゃいます。
最後に小さく「第三者の完了検査がない限り、除去残しは続く」と書いていたのですが、これは自治体の除去のあとの、自治体が完了検査したものです。古いものですが、2016年に青石綿が大量に残ったままOKが出ました。これはカポスタックですね。これも残ったままOKが出てしまいました。自治体の職員の自治体の除去なので、工期や業者さんを守るということがあるのかもしれません。利害関係があるのかもしれない。
これは除去工事の完了検査ではないのですが、公立高校でのことです。2012年に、改修工事でアスベストの問題を起こしてしまった学校です。この前の年に部分的な除去工事が行われています。2016年に私たちが、定期の年1回の環境測定を取ったときの測定の結果です。音楽室で少しだけクロシドライトが確認されたので、そのあと教育委員会が清掃に入ったのですね。清掃したあとに私たちが再測定に行った。そこで見つけたものが、電子ピアノの鍵盤の上に載っている青石綿で、ついでに渡り廊下を見ていくと、青石綿が残った状態になっている。
このようなことが起きたものですから、教育委員会は大慌てで工事業者を呼んで、学校全体を清掃しました。そのあとで、教育委員会が必死になって清掃がきれいにできているかを確認して、OKが出たあとに、学校全体を測定業者4社に分けて測定させました。その中に私たちも入れさせてもらったのですが、私たちが測定していた部屋の壁に青石綿が付いていた。つまり何が言いたいかというと、見分けられない人が見ても分からないということです。検査は、分かる人が見ないと分からないということです。
次です。除去工事に利害関係のない第三者の私たちが、解体工事や改修工事の前のアスベスト調査で、過去の取り残しを見つけてしまった。このようなことはよくあるのですが、取り残しがあることは事実なので、話はすんなり終わると思っていたのです。これはその一つなのですが、この角の部分で取った試料です。白石綿を除去したあとに半乾式のロックウールが出ています。それを実体顕微鏡で見てみると、下側に乾式のロックウールがあって、上側に半乾式があることが分かります。この乾式の部分を実体顕微鏡で細かく見ると、クリソタイルがあることが分かったのですね。これは偏光顕微鏡の分散観察写真ですけれども、これを見るとクリソタイルがある。この資料をもっと他にも付けて報告をしています。
これで勝負はあったと思ったのですが、しばらくたってから、ここの除去をした除去業者さんが、「取り残しはない」と主張してきたと伝えられたのですね。「ある」というものを見せられて、どのようにないと主張するのか。ここで現れたのが、除去業者さんお抱えの分析業者です。除去業者さんがかなり多くの場所を採取して分析し直したそうなのですが、その結果、全ての採取した試料からアスベストは不検出だった。このようなことを基に、取り残しはないと主張してきたのですね。
そのあと長く時間がかかりましたが、もう一度私たちは現場に入りました。幾つも取り直したのですが、その一部をお見せすると、上半分は半乾式、下半分は乾式になっている。これを実体顕微鏡で見ると、クリソタイルが見えるのです。偏光顕微鏡で見ても、クリソタイルだということが確認できています。もう一つは、これも除去しにくそうな場所を取っているのですが、直接見てみるとほぼ半乾式しかないのですが、先端部分を実体顕微鏡で見ると、乾式のロックウールの吹付材の取り残しがあることが分かります。これを偏光顕微鏡で見ると、この透明なものがクリソタイルで、あることが分かります。最終的にどうなったのか分からないのですが、決着はついたと聞いているのですけれども、かなり時間がかかりました。
最後にまとめですが、改築・解体工事に伴うアスベストの濃度測定について、業者は、建築・解体・除去に当たる業者と分離が必要です。そこから依頼を受けて来る業者では、だめなのではないかと思います。改ざんを行う測定業者には罰・制裁が必要だと思います。アスベスト除去に当たる業者は、国による資格制度の創設が必要ではないかと思います。漏洩防止をしない業者には罰・制裁が必要です。アスベスト除去工事では、アスベストを見分けることができる人で、利害関係のない者による目視検査を義務づけることが必要ではないかと思っています。以上です。
名取 ということは、今、ここに書かれているような分離は日本ではされていないし、除去に当たる業者の資格もないし、最後にアスベストが取り終わったことを見るのはアナリストという人がやるわけですけれども、そのような独立した資格の人も日本はいないから、今も密室の中でずさんな工事が行われているという理解でいいですか。
冨田 そのようなことを私は訴えたいと思います。
名取 そのようなことをしなければしないだけ、安上がりな工事ができるということですね。日本のアスベストの分析業と除去業は、分析業に発注するのは除去業だけです。ですから、悪い結果を出したら、その分析業には仕事が来なくなるという構図があるから、そこの部分を第三者が持っていかない限り、飛散問題は簡単になくならないという、法的強化が要るというご発表だったと思います。どうもありがとうございました。
それでは、社会民主党の福島瑞穂議員、ご発言ください。
福島 どうも皆さん、こんにちは。アスベスト被害を、日本の政治が長く放置してきた。昔々、社会党がアスベストについての法案を出そうとしたときに上程できなかった、成立できなかったという、1990年ぐらいですか。本当に残念だと思っています。諸外国のようにもっと早く取り組んでいたら、これほど被害が広がらなかった。ただ、法律ができ、かつ基金ができましたが、アスベストのメーカーの分は入っていないので、官営などではありませんが、そのような意味ではしっかり事業者の分も入るように、国会の中で更なるアスベスト救済の充実のために頑張っていきたいと思っています。
(中略)
アスベスト被害についてきちんと向き合おうとして、法律を作り、救済をする。そのことをやっているにもかかわらず、現在進行形で行われている解体作業が、ここまでずさんというか、徹底していないのか、少なくとも調査報告書を自治体に全て見せること。そして、それを私たちも全て見ることができる。判決も、判決要旨を見ただけでは中身は分からないわけですから、報告の要旨だけで事足りるとしていることも問題ではないかと思っています。
長くなってすみませんが、実際に現場でやり、行政と交渉する中で、誰も責任を取らないではないけれども、大体の感じでやっている。アスベストがあるはずなのに、きちんと解体するときに徹底していない、あるいは理解されていない。そのような形で取り扱われていない。そして、働いている人たちにもばく露するし、一般の人にもばく露するということをとても思っています。その意味で、しっかり情報が行き渡って、開示されてみんなでチェックできるように、法制度の改正やいろいろなことが必要だと痛感しています。まさにこどもたちにアスベストを吸入させないということで、一緒に取り組んでいきたいと思います。手探りでやっているところもあるので、いろいろとご教示していただければと思います。よろしくお願いいたします。