第3部 パネルディスカッション
「適切な吹付け石綿除去工事のため」

Symposium Summer 2006

司会(名取): 第3部のパネルディスカッション、「適切な吹き付け石綿除去工事のために」を、始めさせていただきます。パネルディスカッションでは、先ほどの報告者3人の方に加え、東京労働安全センターの外山尚紀氏、環境コンサルタントの大越慶二氏、中皮腫・じん肺・アスベストセンター事務局長の永倉冬史氏が加わります。最初に、新しく加わられた3名の方から、現在の吹き付け石綿除去工事の技術的な問題点等について、お話しいただきたいと思います。最初に大越氏、お願いいたします。

大越: 大越でございます。吹き付け石綿工事の技術的な問題はということでございます。昨年の7月までと、それ以降ではアスベスト除去及び処理業界は大幅に変わっております。私の推測ですが、昨年7月までアスベスト処理の専門職人は全国でざっと数えて2000人くらいだったと思います。現状では恐らく、2万5千人から3万人くらい居るのではないか。アスベスト処理の専門職人は、全国で10倍から15倍くらいになっていると思うわけです。その中には、この1年新しく石綿除去工事を始められた方も多いのですから、当然技術的な問題が大いにあるでしょう。ただ長年やっている熟練者がいらっしゃるアスベスト除去業者さんが、すべて適正か?と申しますと、そこにも問題があります。つまり慣れからマンネリ化した中で、ミスを起こしているという危惧の事例もあります。当然新規の業者さんにおきましては、新しい仕事でございますから、なかなか形通りマニュアル通りにいかない中でのミスが今年の夏大いに起きる危険性があるだろうと、危惧しております。

外山: 私は作業環境測定士として、石綿除去現場の濃度を測るような係わり方をしています。その立場から発言したいと思います。よく、「除去現場の石綿濃度を測ってください。」と言われます。皆さん判で押したように、「敷地境界の濃度、作業場の中の濃度、開口部の濃度を測ってください。」とおっしゃいます。少し気の利いた所ですと、「除去後の濃度で十分に濃度が下がっていることを確認して、養生を撤去したいから測定したい。」と言うところもあります。皆さんが一番関心を持っているのは、敷地境界の濃度です。私どもの報告書を見て、「10f/Lという、環境省の(大気汚染防止法の石綿工場の敷地境界)の基準値を下回っているから、これだったら大丈夫ですね。」と言われる方も案外いるのです。実は、それは、間違いであり、勘違いです。

 まず実際に、敷地境界で10f/Lを超えるというのは稀です。実は1回だけ、測定して超えたことがありますが、まずありえません。次に、日本には本来のアスベストの環境濃度の基準も建物内の規準も無いわけです。敷地境界の10f/Lというのは、アスベストの工場の境界での濃度基準値でして、除去の現場にそれを適用することは正しくない。何を見るべきか、というとアスベストのリスクがどうかということなのです。現在の日本のアスベスト濃度の基準として、産業衛生学会のクリソタイルの許容濃度150本/Lという数字があり、これと比べてリスクがどうかということを見るのが正しいと思うのです。産業衛生学会は、150本/Lのクリソタイル濃度を、18才から1日8時間、50年間吸入した場合に1000人に一人が肺ガンか中皮腫で死亡するとしています。10f/Lという濃度は、産業衛生学会によると15000人に1人が、肺ガンか中皮腫で死亡するリスクがあるということなのです。石綿濃度が、10分の1の1f/Lになったとしても、15万人に1人が死亡するリスクがあると捉えるべきです。そのリスクを十分に抑えていくということを、考えないといけないのです。「10f/Lより下だから、安全です。」ということでは決して無い、と考えていただきたいと思います。

 また、いろいろな石綿濃度を測っていますと、現場で漏れていれば必ずわかります。敷地境界基準より上がっていれば、どこかで石綿が漏れているわけですし、負圧の局所排気装置の排風口の石綿濃度が高ければ、排気口から漏れているわけで、HEPAフィルターの破損等が考えられます。石綿除去作業場の中が高い濃度になっている時、1リッターあたり1万本を超えるような状況になっていると、HEPAフィルターで捕集しても排気口から、少し漏れることになります。吹き付け石綿除去作業場の中も、飛散防止抑制剤の散布をしながらの除去であれば1000本/L以下、あるいは500本/L以下に、抑えることは十分できます。そういうことを目標にしながら、石綿濃度を測ったらきちんとそれを活用しリスク評価をし、今後の改善に活かしていただきたいと考えています。

永倉: 中皮腫・じん肺・アスベストセンター、事務局長の永倉です。技術的な問題で言えば、きちんと工事ができる石綿除去業者に工事をしてもらうことが必要で、どのように判断するのかが、一番難しいと思います。先ほどから行政と業者の話が出ていますが、被害者になる住民の視点の話がこういう話の場でもなかなか出てこない。そこが一番大事と思っています。リスクコミュニケーションという言い方をしますが、被害者に成り得る人たちの意見や質問、疑問がどこまで事前の話し合いの中で解決されるのか。工事が始まってからでは遅いのですから、工事が始まる前に石綿除去業者が、アスベストがどことどこにある、というきちんとした事前調査をどこまでやったかを住民の方や施設の利用者に説明する、住民や利用者がどれだけ知りうるかという点が、たいへん大きな要因になると思います。

司会: この間、多くの石綿除去業者が新規に参入されているということです。大越氏、落合氏、松岡氏、それぞれ石綿除去のお仕事にたずさわられて、実際に働いている作業員の方に対し、どういうご指導・教育をなさっているのでしょうか? そこが十分できているかどうかが企業として大切だと思うのですが、いかがでしょう。

落合: 私が所属している会社では、1年に1回とにかく作業者の末端に至るまで、全員東京に参集して教育いたします。毎年毎年教育を受けさせているわけです。それとは別に各人一人ひとりが母子手帳のような大きさの「石綿管理手帳」を持っています。教育事項、健康診断受診日の記録、また1物件ごとにいつからいつまでどんな現場に入っていたかの作業記録をつけさせます。これで、「あなたがもしアスベストに関する疾病にかかった時は雇われていた会社を、それが潰れていたら当社を、更には元請けや労基署に駆け込みなさい。」と、私は言っています。「もし手帳が無いなら、汚い字でも鉛筆でもいいから、パチンコで幾ら負けたということと同じように、その日には何々ビルに行ったという記録を書いておきなさい。それがいつか自分自身を守る手ですよ。」と言っています。いつも講習や教育で言っているのは、「アスベストを外に漏らすとあなたは加害者なるのですよ。」ということです。そして同時に、「あなた自身が何十年か後に被害者にもなりえますよ。」と。「あなたは、加害者にもなるし被害者にもなる。」それがアスベスト除去工事の本質です。強く、本当に口酸っぱく言っております。

松岡: 冒頭に大越様がおっしゃったように、私どもは20年近くアスベスト除去工事を行っていますが、ベテランのワーカーほど慣れから来る油断があります。もう一つは、一般的に教育といいますと座学ですが、本当に座学だけでいいのか。私どもの会社では、アスベストアカデミーというアスベスト除去を中心とした学校をつくりました。そこでまず座学、1回の勉強会で4時間。それからアスベスト除去の現場環境を再現したスタジオの中で実技のトレーニングを行っています。大体ワーカーは、とても発明熱心で、黙っているとどんどん作業効率を高めるために勝手な解釈で生産性を上げてくれます。しかし、このことを放置しますと最終的に事故に結びつく可能性があります。これを防止するためにトレーニングを繰り返すことで基本を守るよう徹底しています。往々にして、「初心忘れるべからず。」なんて言いますが、大体初心は2ヵ月もするとどこかへ行ってしまいます。そのために1月に一度、月二回グループを組んでくり返し実施、座学の講座を開きます。これはワーカーだけでなく現場管理者のものも含めまして行っております。

大越: アスベスト環境コンサルタントという堅苦しい肩書きを頂戴して、4,5年活動させていただいておりますが、松岡氏や落合氏と同じに、アスベスト処理会社にも属しております。昨年の夏以来、アスベスト除去業で今後活躍したいという企業さんが、当社に来てアスベストの勉強をしたいということで訪ねられてきます。私はできるだけ協力させていただいていますが、私どもの場合はスクでの勉強はやめていただき、実務で考えているわけです。私の持論としまして、アスベストの処理の現場は、同一の現場は絶対ありません。作業環境は必ず少しずつ変わってまいります。その環境に応じて仕事するのは、一枚のテキストやマニュアルですむものでは無いと思います。そのために、実務の中で習得していただく必要があるということでございます。当社では数社、電気屋、解体屋、内装屋、ダイオキシンの処理会社さんから数名来ていただきました。「私どもの現業で3ヶ月習得していただき、その後皆さんは新規に石綿除去業をやっていただいたらどうですか?」とお話しし、御理解いただいた方だけに勉強していただいております。しかしマニュアルや聞きかじりだけで始めている石綿除去業者さんが、多々あるように感じております。そういう点に非常に危機感を持っております。この夏場はそういう業者さんが活躍しそうなので、十分留意しないといけないと危惧しております。

司会: 今日は会場に、石綿除去工事の発注者の方もいらっしゃっています。もう発注してしまったという方もいると思いますが、どういう業者に施主は発注していけばいいのか、脇坂氏いかがでしょうか。

脇坂: 実はこれは難しい問題で、核心の問題になると思います。先ほど私なりの認識といいますか、把握させていただいている範囲の中でご報告申し上げました。まず発注者が現行の公共工事発注システムの中で何ができるのか、というところをもう一度点検する必要があると思います。怖いのは、既に諸先生方がお話しになっているように、単純にアスベスト除去工事がビジネスになるという考え方を元に業者さんが新規に参入されることで、競争環境が著しく悪くなっているのかなという気がします。ご存じのように建設業界は構造不況と、小泉政権の下での公共投資の大幅な削減がありまして、アップアップの状態になっております。多くの建設業者が必ずしも公共工事を受注しているわけではないのですが、地方ほど公共事業への依存度が非常に高いとご認識いただいたほうがいいと思います。そういう状況の中で、今何がおこっているのかというと、ダンピングです。独占禁止法でいう廉売の問題が、今業界の最大の懸案事項になっています。アスベスト対策の分野でも不当廉売、ダンピングの傾向が既に現れ始めているという話を聞いておりますので、発注者が施工の安全性を考えた業者選定をしていかないことには、なし崩し的な不当な低価格による受注というものを防げないのではないでしょうか。この点を非常に危惧しております。

永倉: 発注の問題は、難しいと思います。発注の問題でよく石綿除去業の方から話があるケースとしては、工事単価があります。工事単価が低くなると、十分な工事ができない。解体工事のアスベスト除去は、一括した解体工事の予算の一部という扱いを受けてしまう。そのことによりアスベスト除去工事に十分な予算を受けられない場合があると聞いています。今後大事なのは、分離発注の導入です。アスベスト除去を単独工事とし全体の解体工事や改修工事と分離し、当然の工期と価格で発注し、一定の経験のある業者を選んで欲しいという声を聞きます。

 被害者になりうる住民や利用者の立場からいいますと、工事が始まる前にどれくらいアスベスト調査ができているか、そのあたりをきちんと説明をする、説明を受ける。住民や利用者の方なら、説明会の中で手を挙げて、「今説明されたアスベスト以外に、建物の他にないのか?全部調べたのか?」しつこく聞く事が非常に大事です。その際、 書籍「図解 あなたのまわりのアスベスト危険度診断」(朝日新聞社)が参考になると思います。そのやりとりで石綿除去工事の質が、どんどんあがります。そういう現場を、私は何度も体験して知っています。これをぜひ、全国の学校でやって欲しいと思います。公共事業の場合は、公共工事事業が発注される前に、まず行政に説明会をさせるべきです。公共事業で発注された場合に、事前のアスベスト調査が不充分なまま発注されますと、その予算内の工事しかできないことにより、十分なアスベスト工事に結びつかないというケースを何例も見ています。発注前に行政にまず説明会をさせる。業者が決まってから、業者を交えた工事説明会をさせ、そこで十分に利用者や住民が納得いく説明を受ける。それから工事をしてもらうことが大事です。この夏各公共事業や民間の工事で、その点をきちっと踏まえればきちんとしたアスベスト除去工事が全国に行き渡ると思います。逆にこれができなければ、先ほど0点か100点かという話がありましたが、全国的にアスベスト粉じんが舞ってしまい、子ども達や地域の住民達がアスベストを吸ってしまうという事態もあり得ると考えているところです。

司会: さて現在に即した問題もありますが、業界全体を見られてきたお立場で、石綿除去業の質を担保しながら、業として経済的なことも成り立たせていくには、どういう制度があるべきか、という点で脇坂氏より、ご意見をお聞かせ願えませんでしょうか?

脇坂: 一番難しいテーマを振ってこられていると思いますが、今、国の石綿の総合対策に基づいて公共工事のフィールドで対策工事が進められようとしています。民間は大企業、外資系で、不動産流動化などの要素を背景に必要性が生じていて、厳しいアスベストに関するリスク管理の目が届きだしてきています。しかし、なぜか公共工事の分野には届いていない。なぜか。私は、公共工事の分野の発注システムが、固定化してしまっていて、フレキシビリティがないことが大きな原因だと考えています。現状に併せて、どういう発注ができるのか、手持ちの材料(条件)の中で、言い換えれば、今の現行の発注システムの中で何ができるのかということを、発注者自体が考えようとしていないという所に問題があると思います。同時に建設業者サイドでは、自分たちがアスベスト除去業に参画しようとしたとき、それだけの技術、ノウハウ(経験ー暗黙値と最近の経済用語のはやりでは言うようですが)があるのかないのか、自分自身が把握することが結局自社の経営リスクを回避することになるのだ-という視点を、もっと持つ必要があるでしょう。そうした視点の置き方であり、その必要性を発信するのは、我々専門紙の立場だろうと考えています。特に、「アスベストはどうも儲かりそうだ」という感覚頼りの参入が危ないのです。たとえ、動機は不純でも、アスベストの危険性を真剣に受け止める懐の深さが、建設業者サイドに必要です。リスクを理解し、知識・技術を得るためのアンテナを張り巡らせようとしている建設業者であれば、アスベスト工事に参入する資格はあるのではないか、と思います。

永倉: 石綿除去業者の質ですが、やはり具体的に現場でリスクコミュニケーションを高めていくことにより、その場で質が高まっていく印象を今までの経験から持っています。リスクコミュニケーションというきれいな話をしていますが、誰がそれをやるのか。主体性の問題が今問われています。いまは、被害者や被害者の遺族や、お子さんがばく露した経験した保護者等、交渉手法も経験も持たない人たちが、手探りで交渉しているのが現状です。その人達がアスベスト問題を、ここまで引っ張り上げている。これはやはり、少しゆがんでいると思います。労働組合や議員等、交渉技術や交渉手法をきちんと身につけている方々が、リスクコミュニケーションの担い手となって交渉していくことにより全体的に業者の質も上げていくことができる。同時に自分たちの意識も高まっていく方向を目指すべきだと思います。石綿業者の質の保障ということは、アスベストについてきちんと危機感を持って管理していくということと、非常に密接に結びついていると思っています。

司会: 残念ですが、石綿除去工事で飛散事故がおきた場合の対応について、お話しておきます。大事な事は、事実の記録を残す事です。石綿除去業者からの時間毎の事故資料の提出、詳しい説明が必要です。また不幸にも近くで石綿を吸入された方は、何日の何時から何時までどの場所で過ごされたのか、きちんと記録をつけてください。それが後のリスク評価の大事な基礎的資料になります。石綿関連疾患は、通常平均40年の潜伏期のある病気ですので、石綿を吸入した直後の胸部レントゲン写真は通常不要です。吸入直後に咳がでたりすると心配になる事は大変よくわかりますが、石綿以外のセメント他の粉塵を吸入した一時的な症状であり心配ありません。医療機関に受診して頂いても、レントゲン写真の撮影は不必要なX線の被曝となりますので、医師がどうしても必要と判断された方以外は撮影しないで下さい。石綿除去工事で飛散事故がおきた場合の対応については、文京区保育園の事例をご参考していただき、適切に対処して頂ければと思います。(文京区HP

司会: 今年の吹き付け石綿除去工事について、今までもお話がありました。今年、特に注意すべき事や、気になっている所をお話ください。

落合: この夏は公共工事だけでなく、民間も何倍もの量の吹き付け石綿除去工事があります。現場で、「おまえのところの見積もりは高い。よそより倍あるいは5割高い」と言われる事もあります。その差はなんでしょうか?物を作る時は、1平米2万円とか3万円とどこもさほど変わらない。しかし除去工事はものを無くしてしまうものですから、例えば「1万円あるいは8千円でやってくれ。」と言われたら、できてしまうわけです。そこに、石綿除去工事の仕事の本質的な問題があると思います。私どもは高いが、必要なことはやらなければならない。「所長さん、あなたはそれで、夜眠れるのですか?」という言葉を、いつも私の切り口上にしています。「不適切な工事をして、心配だったら眠れなくなるだろうな。」私はそう思います。

松岡: 今日は、様々な立場の方がいらっしゃっていると伺っています。発注者の方が、吹き付け石綿除去工事のチェックポイントをどうするか。これにつきましては、「養生の完全化」「、負圧機のコンディションがどうなっているか?」「フィルターもきちんとしたサイクルで交換しているか」、といった所のチェックを、すべきだろうと思います。一番大事な事は、原点に帰って、石綿除去工事の手順書をもう一度読み込んでいただきたい。読み込んだ中で、やはり適正な工事であるか工事でないかが、事前チェックの中でできると思います。発注者サイドではなく教員とか周囲で過ごされる方の場合は、工事の方法や具体的計画について、工事説明会という形がとれれば、そこでつっこんだ話をすることで、業者の質も、松竹梅の梅から松に上がってくるでしょう。相互の切磋琢磨が大変必要だと思います。こういう話をさせていただいていますが、正直明日我々は加害者側になる可能性がゼロとは言えません。なぜなら1人の不心得なワーカーによって、アスベストを飛散させてしまうこともあるわけです。常に自分自身を見つめ直し、再教育すべきところをしっかりやっていく。お互いに切磋琢磨しながら進めていくのがベターではないかと感じております。

脇坂: この夏に限定させていただいた場合、今の状況の中で発注者の方々、国から地方自治体に至るまで、問題意識を提起するには、あまりにも時間がなさ過ぎると思います。先ほど厚生労働省の方のお話がありましたが、基本的に法規の世界の話でした。そういう方に何を求めるのか?特に監督官の立場の方は、吹き付け石綿除去工事のフィールドで果たす事があると思います。

 今後についていうと、仮称アスベストGメンを早急に創設すべきと思います。発注される工事が適正なのか、適正でないのか、チェックするアスベストGメンを創設し現場に立ち入っていく。同時に終了した現場もチェックする。そういうチェック機能を立ち上げることが重要だろう。それをもって自分たちが、何が必要なのか認識させることが大事ではないかなと思います。

 あと一点。中長期的展望に立った時、アスベスト対策の担い手としての資質を評価する第3者評価が必要だと思います。第3者評価に基づいた公的関与の資格制度が必要です。石綿則の石綿作業主任者があるという話があるかもしれませんが、座学を中核とした10時間の講習で何がわかるのか、という話を皆さんがなさいました。くり返しトレーニングしていく事が重要というお話がありました。公的関与の資格制度を、国の財団法人、天下り機関に自分たちの存在理由とか収入源を与えるようなレベルのものでなく、もっと広範な視点に立った未来型の資格制度というのを求めていく必要があると思います。

外山: 安全衛生の専門家の立場から、少し斜めに聞こえるかもしれませんが、この夏の石綿除去工事に限って言うと、熱中症対策が実は一番重要と思っています。考えればわかりますが、初めて石綿除去工事を始める方が、石綿除去の養生(囲い)の中が、50度にもなる中で働く訳です。熱中症で亡くなってしまう方が、出てきてしまうとも思いますので、その点が非常に重要です。労働安全衛生の現場を改善していく視点から考えると、熱中症の対策や整理整頓や転落防止が十分にできない事業所には、発がん物質の管理は、とうていできないと思うわけです。そういった意味では、総合的な現場改善が必要です。作業者の命を守るということができれば、住民の皆さんの命も守るということにつながっていくわけです。そういった視点で長期的に現場の改善、少しでも向上させていくということを行っていただきたいと思います。今日は優良な石綿除去業者さんがいらっしゃっています。私は1年前にE氏の現場に、夏伺いました。養生もしっかりし、負圧も十分やっていて基本的なことを全ておさえた上で、例えば入口のすぐ脇の所にミネラルウォーターが置いてあり、ウェットティッシュが置いてありました。総合的な対策をして、全体のレベルアップにつなげていく事をやはり目指していくべきではないかと思います。

大越: 今年の工事の石綿ばく露対策に対しましては、既に皆様いろいろお聞きになっていると思います。1点別の視点から申し上げさせていただきますと、今年の夏はこういう公共施設の対策、民間施設の対策ということで、かなりアスベストの処理工事が集中します。私はそれにおける廃棄物の処分が大きな事態にならなければいいなと、非常に危惧しております。なぜかと言いますと、今日本国内で吹き付けアスベスト、これを処分できる処分場は約40数カ所しかございません。関東でいいますと埋め立ての処分場はございません。茨城県に溶融の処分場が2つ、千葉県には中小企業を対象にした小規模なところがあるぐらいでございます。本格的に受け入れができるところは、関西や中部のあたりに持って行かなくてはなりません。ちなみに現在でも、関西や中部に入れるための車の配車手配をするのに2ヶ月かかります。今6月で、8月の手配、9月の手配で動いています。緊急的に公共事業で受注された業者さんが、果たして処分ができるかという危機感をもっております。処分場は業者の優劣をつけることはないですから、「いや処分はできない2ヶ月、3ヶ月待ってください。」と夏場を過ぎてしまう危険性があると思います。業者の中にひょっとすると不法投棄というような危険性も出てくるかなというちょっと怖い思いも考えております。別の視点からばく露防止に関する考え方を述べさせていただきました。

永倉: 先日、クボタの工場周辺の疫学的な研究をされた車谷先生のお話を聞く機会がありました。クボタの工場は東海道本線に近接し、列車が大好きなお子さんを毎日お母さんが抱っこして、東海道本線の汽車を見せに行っていた。そのお子さんは結果的にアスベストを吸って、40年後に中皮腫で亡くなってしまった。お母さんが悲痛な思いでお話しをされた、という話を伺いました。非常に悲しい話ですが、同じ事態が日本中で本当に無いのか私は危惧しています。アスベストは匂いも無いし、目に見えるわけでもなく、空気ですから避けようもない。子どもも大人も一様にその中に居る現状があるのが、一つにはずさんな解体工事現場周辺だと、私は思います。最終処分場や中間処分場の周辺など幾つかも想像がつきます。

 改築解体工事の時には、きちんと住民や施設の利用者が、自分達の近隣の工事がどのような工事がされるのかということを、きちんと理解するということが必要です。説明会で、石綿除去業者の方のレベルが上がってくる。そのために住民の代表である自治体の議員さんもきちんと勉強して、工事現場のリスクコミュニケーションを組織的におこなっていく必要があると思います。また労働組合等交渉の経験のある団体が、積極的にこの問題に取り組むべきだと思います。 COSLAレポート(自治体労働安全衛生研究会発行)があります。これはスコットランドの議員たちが、地域や党派を超えてアスベスト問題について、どのくらいの予算がかかるのか、綿密に積み上げて、その結果、今後どういう対策をどのようにとったらいいかということをレポートしている冊子です。非常に意義が深いものだと思います。そういったものを参考にして日本もこれからアスベスト対策を全体的にどうするのか戦略的に構えていく必要があるのではないかと思っています。その端緒が今年の夏だと思います。

司会: 本日は、ありがとうございました。