解体・改築の環境ばく露「文京区保育園事例」

Symposium 2008/08/28

解体・改築の環境ばく露「文京区保育園事例」(1/3)

 内山です。今、環境省の座長というご紹介がありましたが、今日は学者として、一個人として参加させていただいております。発言も私個人の発言としてお捉えいただけるとありがたいと思います。

 今日は、今現実に起こってしまった問題を片岡さんの方からお話をいただきましたけれども、私の方からはこれから解体ですとか、改築の時に起こりうる可能性についての事例を話させていただきたいと思います。


 なぜ私が、この文京区の保育園の改修のときの園児のばく露事例の相談を受けたかというと、私は平成7年から8年に当時の環境庁に「建築物の解体に係わるアスベスト対策検討委員会」という委員会がありまして、その委員をおおせつかって、当時の委員とともにいろいろな検討をおこなってきたということがあります。その後大気汚染防止法の改正があり、99年当時、東京都は都条例で立派なアスベスト解体時の飛散を防止する条例を持っていましたので、この件を聞いた時、まさかと耳を疑ったわけです。同じ東京都のしかも区立の保育園で、こういう無責任といいますか、条例を無視するような工事がおこなわれていたというのは、環境省のそういうマニュアルをつくった一人として、作ったはいいけれど、通達を出したら出しっぱなしの典型例ではないかと思いました。末端でそれが守られなければそういうものをせっかく作っても全く意味は無い。私自身の反省も込めて非常に愕然としたわけです。そしてこういう場合にどれくらいの園児たちがばく露を受けてしまったのかということを念頭において、現在は国立保健医療科学院という名称になっておりますが、当時は国立公衆衛生院という厚生省の研究所におりましたので、建築衛生学部の入江先生にも相談いたしました。こういう事例があって、だいたいこれくらいの吹きつけアスベストが剥離されたときにどれくらいの飛散があるものだろうかということを伺って、簡単なリスク計算をして説明会に伺ったという記憶がございます。

 99年当時というのは閾値のない発がん物質に関して、数年前から「リスク」の概念が行政の中に取り入れられてきた時期でした。この99年の文京区の保育園の例はこの時期でございます。

 1992年に一番最初にリスクの概念で水道水質基準が決められました。そのときの10−5というのはWHOの勧告に従って、厚生省が決めたので、ほとんど国民の目に触れることなく、水道水質基準の中の発がん物質は10−5以下ということで、すんなり改正があったわけです。

 この後、中央環境審議会答申の後に、ベンゼンなどの4物質の発がんあるいは発がんの疑われる物質に対して当面10−5以下ということで環境基準が、決められてきたわけです。私が当然そこで考えたのはアスベストが閾値の無い発がん物質ということは基本的にわかっておりましたから、そういう考え方でリスクを評価しなければいけないということでした。

 最初に相談を受けましたのは99年の7月です。園舎の改修工事の際に天井裏の吹きつけアスベストが一部剥離されてしまったために、アスベストに園児が曝露したということです。その時に都条例はあったわけですが、密閉せずに工事を開始しておりましたし、集塵装置はしていなかったわけです。

 文京区という土地柄か、保育園にお子さん方を預けていらっしゃるご父兄はアスベストに関する知識を非常にお持ちであったようでして、この工事の3ヶ月前に保育園側から工事の説明をされた時に、保護者はアスベストを使っているかどうかを問い合わせて、この建物はアスベストを使っているはずだから十分注意して欲しい、工事で安全が配慮されているかどうかということを行政に問い合わせ、十分な配慮を要請いたしました。

 その時、行政の最初の回答がアスベストはこの建物には使用されていないという回答だったそうです。ただし、おそらく設計図書を調べられたと思うのですが、数日後に訂正がありまして、天井の裏側に一部アスベストが使用されているが、天井は工事範囲ではなく、今回の改修工事では天井裏までは触らないということでした。それで保護者は了解して、隣の部屋で保育が行なわれながら工事が始まったわけです。

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