第3回シンポジウム2004 地震とアスベスト

The 3rd Symposium 2004 Earthquake and Asbestos

シンポジウム第2部 なぜ飛散を防げなかったのか?

司会: それでは次に、なぜ飛散を防げなかったのかについて話し合っていきたいと思います。アスベストがどういう飛散をしたのか、なぜ健康影響が心配されるのか、その実態が掴めたように思います。もし健康影響が心配されるのなら、なぜ事前に対策できなかったのか、なぜ問題であったのか。問題点、課題の整理をしていきたいと思います。環境コンサルタントの大越さん、何が問題でしたか?

大越: 阪神淡路大震災の際に、先程から皆様のデータを拝見して、私が仕事をしていたものとほぼ似ていました。当時、アスベスト処理対策が必要とした建物の中で適正に処理されたものというのは、数分の一ではないかと思われます。

 それはなぜかと言いますと、一つは当時の法規制が、正常に建っている建物の改修とか解体におけるアスベスト対策を目的とした規制でありまして、このような災害にあった建物における処理についてルール化されたものが何もなかったということが大きな要因ではないかと思われます。現実に私は神戸に半年ばかり、毎週行っておりました。その中でいろいろなお客さまのお問い合わせの中で、アスベストを処理したいということではございました。当時はとにかく早く復旧をしたいと、今壊れた建物を解体して建て直し商売に専念したいというようなことがあるので、法律で規制されてない所についてはできるだけ目を瞑って、又は極端なことを言うと、法律で規制されても、このドタバタな事態だからいいのではないか、というようなことでやられているケースが多かったのではないかと思われます。現実には、アスベスト対策工事は若干の行政指導があった様ですが、ほとんど野放し状態ではなかったかと思われます。

 そういう意味からも、今後の問題としましては、やはり行政側としては、きちんとした体制をとった規制をしていかないことには、いくら民間ペースでアスベストの処理を高めていこうと、認識を高めようと言いましても、なかなか難しい問題があるのではないかと思う次第であります。

中地: まず問題は、建物があれほど壊れるとは予想していなかったことです。なおかつ解体する際に吹き付けアスベストの飛散を防ぐようなことをしなければいけない、ということを想定していなかったことが一番大きいと思っております。

 それとの関連で言いますと、例えば1987、88年の頃に文部省で調査をして学校施設などの吹き付けアスベストの除去工事をされたわけですが、1995年の阪神淡路大震災の時に来られた解体業者或いは建築工事の人達の現場監督レベルで、どれだけアスベスト除去工事の必要性を知っている人がいたのかというと、非常に少ないと思われます。実際、地震後1ヶ月後の2月か3月位に何度か交渉しました。その当時、大手のゼネコンに神戸市や兵庫県が、おたくは中央区、おたくは灘区という形で割り当てをしていき、各ゼネコンが元締めになり順番に解体業者のお世話をするようなシステムになっていました。現場監督は若いので全然除去のことを知らないわけです。ましてや吹き付けアスベストなど教わっていませんし、除去工事に詳しい人はまずいないわけです。そういう人を相手に、吹き付けアスベストをきちんと除去をした上で解体をするのではないですか、ということを説明することから始め、非常に苦労したというのが現実でした。

 行政の対応が遅かったということで言いますと、寺園さんの報告でもありましたが、神戸市が家屋解体に伴う粉塵対策指導指針をだしたのは5月です。結局労働基準局と一緒に合同で、解体業者向けに、指針をどう解釈すべきか、アスベスト対策の説明会を開いたのは7月の初めでした。その時点では6-7割の解体工事が終わっていたということですが、それ以降の対策はある程度大丈夫だったということです。それ以前は初期の頃の問題が残っていたと思っております。以上です。

司会: ありがとうございました。中地さんから、あれ程建物が倒壊するとは思っていなかった、又、アスベストが飛散するとは思わなかったという話がありました。私が取材した時に関西の方がなんと言ったかというと、建物が建っていればいい、東京で心配するような地震は起きないと、また、特に昭和30年代後半は鉄筋が高価で、検査が終わった後、鉄筋を抜いていくという話を関係者から聞いたことがあります。またコンクリートの質も悪く、そこには、地震に対する大きな油断があったと思います。

 これは阪神地区だけではなく、去年スーパーゼネコンの会長と話していて、最近非常に建築費が削られて困っているのだと、そういうようなことをおっしゃっていまして、自分で建設業をやりながら言うのもなんだけど、今の建物の耐震性に非常に自信がもてない、大きな地震が起きたら何が起きるか分からない、と今でもおっしゃっています。又、住宅メーカーの幹部と定期的に会合しましたが、その時に30年以上もつものを造ったら私達の商売は成り立たない、今でもそういうことを言います。

 ですから、そういう一般に造られている建物というのはどういう寿命なのかを認識しておかないといけない、と私は思います。(先日豪雨のあった)新潟でも福島でも、基本的には弱者が被害を受けると思います。お金持ちは地盤の良い所に住んでいて、物凄くお金をかけ、壊れなくて安全な建物にします。庶民は地価の安い所に建て、しかもギリギリの建築費で建てます。そういったことで、被害を受けやすいのです。ですから、そういう人達をどのようにして守るかということが重要で、アスベストだけに関心を持つというよりも、アスベストを使っている建物というのはどのくらい安全なのかというところまで皆さんが関心をもって頂かないと、この問題はなかなか解決が難しいと思われます。

 それでは名取さんお願いします。

名取: アスベストの問題というのは、この間ヨーロッパから対策がたてられてきたと思います。ヨーロッパは、イタリアやギリシャでは地震がありますが、地震のない国のほうも多いので、アメリカ以外では地震の時にアスベストが飛散するというような話の自体が非常に少なく、データの蓄積があまりなかったのです。逆に言うと地震の多いのが日本ですから、アスベストと地震の関係については他の所を頼ることなく、日本で調査をし、研究をし、独自の道を開かないといけないのでしょう。継続的な調査がなかったことが飛散を招いた一番の原因ではないかと思います。しかし、今後はアスベスト飛散の想定をある程度できるわけです。各関係者と話をしながら、あのような大きな災害があるといくら想定しても無理な部分は残るとは思いますが、飛散をどう減らしていくか、ということについて定期的に考えなかったのがこれまでの一番の問題ではないかと思います。

司会: ありがとうございました。それでは牧さんお願いします。

牧: 今、皆さんのお話の中で、本当に認識していたのかということを中地さんがおっしゃいましたが、ある程度、大手の中堅の方々など、知っていた人は必ずいるとは思います。その中で知識と認識という違いがあったのではと思います。作業員さんを含めて現実に今までご紹介頂いたように適正な処置がなされていない事例があった。認識がおそらくなかったことが原因で無防備にアスベストを吸ってしまった。深く認識していたかというと疑問です。

 今後の大きな改善点として、特に関係者が情報を共有するということが当時はなく、認識があればできたはずということです。認識しておかなくてはならないのは、アスベストの飛散を止めるということができるのか? 今、平常時に関係法令を守っていれば、不用意にアスベストが飛ぶということはありえないわけですが、災害時に本当にできるのかというところが疑問でやれることはやるということではないのかと。あまりにも認識のない人が当時いたからではないかと思われます。一方で、聞いた話ですが、水をかければアスベストの飛散は随分抑えられるということですが、水がなかったと言う話があります。それでいろいろな所から井戸を掘ったりして水を確保して、なんとか水を撒きながら最低限の処置をしたというわけです。それでもアスベストは飛ぶわけです。だからやるだけのことはやるということです。

 もう一つは、そもそも自分の身に降り掛かる話なので、きちんと認識をしていれば技術者の方も作業員の方も自ら注意するようになるわけです。その結果周辺環境にも影響しないということになるので、それが何故できなかったかというのは、やはり認識がなかったからだと思います。このことは、私どもや他の方々はこれから活動していなければならないと思います。

司会: 会場の皆様からお話、質問があればどうぞ。

会場2: 石綿対策全国連のものです。11月のアスベストの世界会議の準備をしておりまして、皆さんにも来ていただきたいと思います。実は、ニューヨークのテロで世界貿易センターが解体した後の、あそこの救援ボランティア活動に携わった人達の健康状態が今後何十年か後に変化するのかしないのかをチェックするためのプログラムが始まっています。まずは今の時点で1万人分位の健康状態をチェックしたということです。これを数十年間にわたってモニターするというプログラムが始まっているということです。その話を聞くと、阪神淡路大震災の時に何故日本でそれができなかったのかと痛恨の思いがあります。それから比べると世界貿易センターの時には政府が凄く早く動いて、観測データなんかも24時間インターネットで逐次濃度がわかるようにしていました。しかし、ニューヨークでも数日のタイムラグがあり、やはりNPOが問題を提起するまでは阪神淡路大震災と同じで何も動きがなかったようです。

 やはり阪神淡路大震災以降、アジアで地震が起きる度に日本はどうしたのかと、経験を聞かれる機会が増えているような気がします。或いは東ティモールの内戦後の解体回収工事をどうするか。これについてはたまたまオーストラリア軍の安全衛生担当者が自分達の兵士を展開させる前に対策を取ったという話しを聞いています。地震から10年経ってしまいましたが、何らかの経験を生かすことは大事だと思います。ただパネリストの方々のお話も聞きながら、一つの、我々の身の周りにとっての教訓としては、やはり非常時という問題はあるけれども、そもそも平常時から建築物の解体っていうのはこうなければならないのだと。建物には大体アスベストを使っているのが当たり前であるのだから、あるものとしてとらえるべきです。では、どのようにすればよいのか。除去してから解体するのは当たり前だ、という基本がきちんとできていれば防げたのですね。不要な曝露というのは山ほどあったのだということをパネリストの方の話を聞きながらあらためて思っています。その点では日本の現状はまだまだ充分ではなかろうという気がします。

 今年の10月からのアスベスト建材が使われなくなるということに合わせて、せっかくのチャンスですからこの機会にまた、平常時を含めた対策、平常時が徹底していれば、でも水がない場合どうしたらいいのかという緊急時にはそれにあった発想の仕方ができると思います。お考えを聞けたらと思うのは、やはり現状での、ある意味どなたでも解体回収ができる、という状況に若干の不安は持っています。飛散性の高い吹き付けなども、そもそも、やはりもう少し一定の資格がある人が携わる免許制を採るということです。そういう問題の立て方ができないのかな、ということをお申立頂ければと思います。

牧: 免許制ということは一応あります。解体工事士や、解体工事をやるためには建設業許可などを持っているか、或いは解体工事業者の登録がされているかということです。登録といっても不備があれば当然取り消されます。その中で有資格者がいることが原則となっております。(編注:労働安全衛生法の省令のなかでアスベストに関する講習を受けた者等の関与を義務づける改正が行われる予定)その中でアスベストについてどれだけ認識しているかということはわかりません。条文を全部網羅すれば、制度的にはできていて、では現場でできているかどうかというと、端的には不明な部分があります。全て適法にやっているかどうかという話です。(古谷さんから)よいご指摘を頂きしたが、平常時からちゃんとやるということが大事です。

 アスベストはあまりしつこくやってきていなかったかもしれませんが、解体関係のいろいろな制度のところでも、制度というか具体的に取り組んでもらおうと思います。例えばそれを試験問題に出すとか、或いは工法の周知を徹底的にやってもらうのも案です。ただ災害時の作業員さんは普通時より莫大に増えます。ですから、それだけでは足りなくて、きちんと引継ぎできるか不明ですが、新しく入った作業員さん・技術者の方、要するにきちんと伝えるように現場で努力をしていかなくてはいけない。このもとが日頃からの教育や講習だと思います。

 資格制度の件は、解体工事がこんなもので、よいのだろうかと言われますが、歴史的なものと言いますか、誰でもできた世界だからやってこれたと聞いたという状況でございますので、どこまでできるか、ただ、法律を決めるのは国民ですので、また是非とも具体的な話は国土交通省のメール等をご利用いただきたいと思います。

会場1: 今の関連で大越さんの配布物に建物のアスベストを平時からきちんと除去していく方向で規制して頂きたいということですが、その震災時にアスベスト対策に対してのお金が出るということで、非常に対策が進んだという一面があるというお話でした。そういう意味で言うと平時に、国からなのか自治体からなのかはわかりませんが、アスベスト除去に対して、公共施設についてはそれぞれ建物に対する補助などがあるようですけど、一般の建物のアスベスト除去に対する援助・支援というものと、アスベストが除去された建物について、『この建物にはアスベストがありません』という印か何かがついていれば震災の時に選択できるわけです。そういうことを考えて頂けないかと思いました。

牧: ご提案としてはあり得る話だと思います。しかし、まず税負担の話をすると、これは役人がどうこう言う話ではなくて、国民全体が負担するか、その所有者の方が負担するか、地域で負担するか、こういう問題です。今は所有者が負担するという仕組みになっているわけです。(そのやり方は)いろいろありうると思います。事前調査を直前に義務付けることになっています。大気汚染防止法でも、建設リサイクル法の中でも、労働安全衛生法の中でも事前の調査があるのですが、それはあくまで解体工事が発生してお金が動き出しているからできるのであって、一般的に調査できるかというと特に使用中の建物であるとオーナーさんの抵抗もあるだろうし、印付けができる場合とできない場合があるのではないかと思います。

 

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