The 2nd Research Encouragement Award
研究奨励賞は、他薦3点の論文の応募があり、分野は歴史学関連が1点、環境社会学関連が1点、社会地理学関連が1点であった。選考では、扱っているテーマの重要性、内容と同分野の委員からの評価、今後の発展可能性などの点から検討を行った。今回、「アスベストセンター賞」は該当なし、とした。
受賞者名:藤川 賢(明治学院大学社会学部社会学科)
受賞者名:堀田 恭子(立正大学文学部社会学科)
掲載誌/発表した学会・研究会名:明治学院大学社会学部付属研究所年報55号p.3-20
公刊/発表年月:2025年2月
選評:
本論文は、アスベストとPCBに対する政府や企業、個々人などによる社会的対応に関する問題の共通性と差異を意識しつつ、環境社会学の視点から執筆されたものである。本論文では、製品化等を通じて目に見えない形で使用され、不可視化されたリスクが長期にわたり社会に存続した例としてアスベストを中心に考察されている。
カネミ油を摂取したかどうかは自分で確かめられる点もあるが、アスベストはそれができない、または、容易ではないこと、アスベストとPCBは用途や毒性など異なる点も大きい。ただし、産業社会からリスク社会への移行の中で、これら物質に関わって訴訟も提起され、未解決の問題も残されているなどの共通点も指摘される。本論文では、これらの点に着目して社会的対応を分析し、健康リスクよりも産業政策が重視されたことなどリスクへの対応の差異に着目する。そして、リスク評価で陥りやすい見落としや評価の恣意性、経済性、産業政策優先の価値判断がそのリスクに対する取り組みの消極姿勢を生むことを指摘する。また、比較的新しい重要な国内外の文献を踏まえつつ、アスベスト対策の必要性が隠されたことなどを指摘する。社会的公正の姿勢の必要性などが環境社会学の視点から分析、検討されており、特筆すべき点である。今後、法制度を含めてアスベスト対策とPCB対策の差異がなぜ生じたのかなどの点について、より踏み込んだ具体的検討が行われることが期待される。
受賞者コメント:
長く環境問題について学んでくる中でアスベストの問題の大きさを感じながらも、長く人任せにしてまいりました。身近で頼っていた堀畑まなみさんから、取り組む人が少なくて、このままでは被害や取り組みの歴史も見失われて、さらなる被害も増えていくと言われ、同じ研究会の仲間である堀田恭子さんたちと勉強を始めたところです。
手探りの中で、問題の奥深さと、それが国境も時代も超えて連動していることとを感じ、それに立ち向かってこられた皆さまへの敬意を新たにしております。
ご著書などから教えを受け、仰ぎ見ている先生方から、このたび過分の評価をいただいたことは身に余る光栄で、痛み入るところです。ご鞭撻を励みに今後とも精進したいと存じます。
授賞式では、各部門の選評やスピーチをうかがい、記憶や思いをつなぐ力がひろがっていることを心強く感じました。こうしたご教示にも重ねて感謝申し上げます。今後とも、どうぞよろしくお願い申し上げます。
藤川 賢
このたびは審査員特別賞を賜り、誠にありがとうございます。公害研究を社会学の視点から細々と続けてきましたが、アスベスト問題は学び始めたばかりでしたので、このような賞を頂き大変恐縮しております。同時に、社会学的視点からこの問題に向き合う責任も感じております。先人たちの研究に学びながら、個人的病ではなく社会的病としての被害構造を、政策の観点も含めて調査・研究していきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。
堀田 恭子
2025年8月20日現在
アスベストに関する問題の理解を深め、解決に向けた制度提案、重要な課題の指摘・明確化で問題の解決に資する研究を奨励し、今後の研究の発展を促すこと。
第2回の募集は締め切りました。
応募期間 : 2025年3月25日(火)-2025年6月6日(金)必着*
*郵送による応募の場合は当日消印有効
入賞者発表: 2025年8月予定
受賞作品 : アスベストセンター機関誌にて発表
アスベストセンター賞: 賞状、副賞40万円まで
審査員特別賞(1点まで): 賞状、副賞10万円
下山憲治氏(早稲田大学)、寺園淳氏(国立環境研究所)、名取雄司氏(医師)、村山武彦氏(東京科学大学)
〒136-0071 東京都江東区亀戸7-10-1 Zビル5F
NPO法人 中皮腫・じん肺・アスベストセンター
「アスベスト・研究奨励賞」係
asbestosawards@gmail.com
電話:080-8217-5022(担当:尾形)