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「手術不可能な胸膜中皮腫に対する、ニボルマブ(Nivolumab)とイピリムマブ(ipilimumab) を併用した第1回目治療(CheckMate 743):多医療機関によるランダム化比較試験、公開、第3相治験」論文に関する解説
2021年1月30日のLANCETの397巻375―386ページに、表題の論文が掲載されました。著者は世界の21名で、オランダ癌研究所腫瘍学のPaul Bass氏が筆頭著者で、日本からは岡山労災病院の藤本伸一氏が参加されています。
研究の背景として、非小細胞肺がんの第1選択治療とされ、その他の腫瘍でも効果があるニボルマブ(Nivolumab)「商品名オプジーボ(小野薬品)」とイピリムマブ(ipilimumab)「商品名ヤーボイ(ブリストル)」を中皮腫で使用する、ということでした。イピリムマブ「商品名ヤーボイ(ブリストル)」は分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)で、ニボルマブ「商品名オプジーボ(小野薬品)」も分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)で、分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)の二剤併用療法になります。
研究には21か国103病院が参加、治験の対象は病理で胸膜中皮腫と診断され、手術不可能と判断されたPerformance Status(PS)日常生活の制限の程度0~1(肉体的に激しい活動は制限されるが歩行可能、軽作業や座作業等軽い家事、事務作業は行える)の人です。2週間に1回ニボルマブ(Nivolumab)3mg/Kgと6週間に1回イピリムマブ(ipilimumab)を2年間以上静注しました。対照群は抗悪性腫瘍薬白金製剤(商品名シスプラチン・カルボプラチン等)(75㎎/m2)と抗悪性腫瘍薬(葉酸代謝拮抗剤)ペメトレキセド(Pemetrexed)(商品名アリムタ:イーライリリー」(500㎎/m2 )併用療法(3週ごと6サイクル)です。
結果として、2016年11月から2018年4月まで713名が登録され、605名にランダム化比較試験が行われました。303名がニボルマブ(Nivolumab)とイピリムマブ(ipilimumab)を併用、302名が対照群の抗がん剤治療を受け、平均観察期間29.7月で2020年4月に経過観察を終了しました。ニボルマブ(Nivolumab)とイピリムマブ(ipilimumab)群の全生存期間中央値は18.1月で、対照群の全生存期間中央値14.1月を4か月延長させました。ハザード比は0.74でした(ハザード比は、がん臨床試験で特定治療を受けた群と対照群を任意時点で生存率の比較評価を行う指標で、ハザード比1の場合生存率に差がなく、ハザード比が1より大か小の場合一群の方が生存率の高いことを意味します)。2年生存率は、ニボルマブ(Nivolumab)とイピリムマブ(ipilimumab)群41%、対照群は27%でした。
論文P380 図3A
縦軸:治験を受けた方で生存の方の比率、横軸:投与から生存された月数:0~39か月
青線:ニボルマブ(Nivolumab)とイピリムマブ(ipilimumab)群で、2年生存率41%
赤線:白金製剤と抗悪性腫瘍(葉酸代謝拮抗剤)ペメトレキセド群で、2年生存率27%
グレード3~4の副反応は300名中91名の30%で、90名中3名が肺炎、脳炎、心不全で死亡、対照群の副反応による死亡は1名で骨髄抑制でした。
この結果により、70歳以上、ステージが進んだ手術不可能な方の胸膜中皮腫の第一選択治療法は、ニボルマブ(Nivolumab)「商品名オプジーボ(小野薬品)」とイピリムマブ(ipilimumab)「商品名ヤーボイ(ブリストル社)」という時代になりつつあります。第2選択が抗がん剤白金製剤(商品名シスプラチン・カルボプラチン等)(75㎎/m2)とペメトレキセド「商品名アリムタ」(500㎎/m2 )併用療法(3週ごと6サイクル)ということになりました。胸膜中皮腫でステージが進みやすい非上皮型(二相型、肉腫型)の胸膜中皮腫での使用が進むと思われます。
一方今まで通り、手術可能である、60代以下の、中皮腫のステージが1~2(3)の人の治療は、(術前)抗悪性腫瘍薬、手術、(術後に)放射線療法や抗悪性腫瘍薬ということは変わりません。その際の抗悪性腫瘍薬の使用は、手術前後の免疫チェックポイント阻害剤二剤併用療法の胸膜中皮腫の治験がないため、2021年現在では抗がん剤白金製剤と商品名アリムタ併用療法という考え方も多いです。ただし今回の治験結果をうけ、イピリムマブ(ipilimumab)商品名ヤーボイとニボルマブ(Nivolumab)商品名オプジーボの分子標的治療薬(免疫チェックポイント阻害剤)の二剤併用療法という考え方も強まる可能性もあります。
2021年6月2日、「悪性胸膜中皮腫適正使用委員会 小野薬品工業株式会社/ブリストル・マイヤーズ スクイブ株式会社」は、「2021年5月27 日に、切除不能な進行・再発の悪性胸膜中皮腫に対するオプジーボ 点滴静注 20mg~240mg一般名:ニボルマブ(遺伝子組換え)と「ヤーボイ 点滴静注液 50mg一般名:イピリムマブ(遺伝子組換え)の併用療法に関する効能・効果及び用法・用量の一部変更が承認されました。」と伝えています。
(https://file.bmshealthcare.jp/yervoy/pdf/onegai_OPYV_MPM2106.pdf 、最終閲覧日2021年9月19日)。2021年9月現在二剤併用療法が保険適用で使用が開始されています。
(この内容は、2021年9月段階のものです)