Question and Answers
このページは2023年以前に当センターが任意団体時代に作成したページです。アスベストに関する問題の中には普遍的な事実も多くあるため、2024年4月時点で変わらない内容は、そのまま掲載しています。
(2024年4月 NPO法人中皮腫・じん肺・アスベストセンター)
職業性石綿曝露と石綿関連疾患-基礎知識と労災補償−森永謙二編
三信図書 2002年
大気汚染物質レビュー 石綿・ゼオライトのすべて 環境庁大気保全局企画課監修
財団法人日本環境センター 1987年
アスベスト排出抑制マニュアル 環境庁大気保全局大気規制課監修
株式会社 ぎょうせい 1985年
静かなる時限爆弾 アスベスト災害 広瀬弘忠著 新曜社 1985年
環境と公害 特集・アスベスト問題の新展開 VOL32 NO2.
岩波書店AUT 2002
アスベスト読本‐造船の街からの警鐘‐名取雄司
じん肺アスベスト被災者救済基金 1998年
Asbestos: ‐Medical and Legal Aspects fourth edition ‐ Barry I Castleman ASPEN ,1996
アスベスト代替品のすべて 環境庁大気保全局企画課監修(1989)
日本環境衛生センター
I..M..I.G. (2004)VII Meeting of the International Mesothelioma Interest Group FINAL PROGRAM AND ABSTRACT BOOK
Harries P.G.(1971), Asbestos dust concentrations in ship repairing: a practical approach to improving asbestos hygienein naval dockyards, Ann .Occ .Hyg. VOL14: p241‐p254
石綿 杉山旭著(昭和9年6月) 工政会出版部
ここが危ない/アスベスト アスベスト根絶ネットワーク著 緑風出版 1996年
石綿(せきめん・いしわた)は、天然の繊維性けい酸塩鉱物の総称です。日本語では、「いしわた」「せきめん」と言いますが、英語では「アスベスト」を言います。石綿(いしわた・アスベスト)には、角閃石(かくせんせき)系石綿と蛇門石系石綿があります。角閃石系の石綿(いしわた・アスベスト)繊維としてはクロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)、アクチノライト、トレモライト、アンソフィライトの5種類があり、蛇紋石系にはクリソタイル(白石綿)があります。国際労働機関(ILO)は「石綿(アスベスト)とは蛇紋石および角閃石グループに属する繊維状の無機けい酸塩鉱物」と定義しています。
石綿(アスベスト)は天然の鉱物で、クロシドライトやアモサイトは先カンブリア紀の縞状鉄鉱層中に生成、クリソタイルはかんらん石等の起塩基性岩が変性作用をうけ蛇紋岩化、また石灰岩-苦灰岩の蛇紋岩化、またフォステライトが母岩に貫入し500度以下の比較的低温で反応し形成されます。一方岩綿(ロックウール)は繊維性鉱物ですが、主原料は製鉄高炉スラグを用いており、人工の工業製造過程から生じる繊維で天然(自然)の繊維ではありません。ガラス繊維も同様です。自然の過程で形成されたものでない繊維は、人造鉱物繊維(MMMF=Man Made Mineral Fiber)と呼ばれています。
「繊維」については世界保健機関(WHO)の定義では、顕微鏡下で長さが5μmより大きくかつ幅が3μm未満のもので、長さと幅の比が3:1以上の形状のものを、いいます。難しい言葉ではアスペクト比という事もありますが、長さと幅の比が3:1以下のサイズの物質は「繊維」とは呼びません。直径は数ミクロンからクリソタイルでは0.02-0.03ミクロン程度、長さは数ミクロンから数十ミクロンが多いとされます。
名前の通り、石(いし)の綿(わた)で、軽い綿状の性質がある事だと思います。石綿(アスベスト)製品を見ると、石綿繊維らしきものが直径0.5ミリで長さ1ミリ前後の細かい繊維として眼に見える状態があります。これは直径0.1-1ミクロンの何千本の繊維が「よ(撚)りあわさって」一本に見えるにすぎません。1本に見える繊維がほぐれていけば、途中では網目状、木の枝状、シート状等様々な形で存在し、更に別れて1ミクロン以下の直径になるわけです。近くに杉の木がない大都会で杉の花粉症が生じるのは、遠く数十キロ先の山から花粉が飛散する訳ですが、石綿繊維は直経数十ミクロンの花粉より小さいサイズなのです。クリソタイルは、繊維自体の中が開いている中腔管状の形態をした繊維です。
軽く綿状の性質である事は、様々な形に加工しやすく、吸音や吸着性、引っ張る力に強い等の利点と共に、眼に見えないサイズで容易に飛散する欠点でもありました。石である性質は、断熱性、耐火性、電気絶縁性、耐酸性、耐アルカリ性といった利点と共に、肺に吸入されても石綿繊維は分解されずに、消化を試みた肺のリンパ球系の細胞が死滅するという欠点でもありました。
石綿(いしわた・せきめん・アスベスト)繊維は、大変飛散しやすい性質を持っています。石綿の綿状の性質を強くもつ「吹きつけ石綿」の飛散しやすさは有名です。吹きつけアスベストのあるビルで6-9階を対策をせずに解体した場合、敷地の石綿(アスベスト)濃度は37-74f/Lで、風下の隣のビルの10階でも3.6-15f/Lとなり、風下でない隣のビルの10階でも1.3-5.8f/Lでした。石綿工場の近くでも高速道路の料金所付近でも石綿(アスベスト)濃度の上昇が認められました(アスベスト排出抑制マニュアルP118)。大気中の石綿濃度は、風向と希釈で距離により低下しやすいのですが、それでも周囲に一定の影響がでている事がわかります。
これがビル内や船舶内といったある程度区切られた空間になると、濃度は一変して高値となります。次にお示しするのは、イギリスで1960年代に、過去の石綿(アスベスト)曝露を再現しようとして、古い艦船で以前の作業方法に準じた作業を行った際の、各室の濃度の論文を元にわかりやすく改変したものです。<図 造船所での石綿拡散濃度>吹きつけ石綿(アスベスト)が除去されている時に、上の階で仕事をしている人は、眼に見えない石綿繊維をまさか自分が吸うことはあるまいと思って仕事をされていた事でしょう。しかし家庭内の間接喫煙同様に、石綿繊維は船内広くに飛散している事が一目で理解できると思います。工場やビル等の建設現場でも同様に、目に見えない石綿(アスベスト)がかなり遠くまで飛散していく事がご理解頂けると思います。
以上の話は、主に吹きつけアスベストの話でした。石綿含有の製品では、石綿以外にセメントやゴム等の物質と混合されているため、その他の物質との結合が強ければ飛散しにくく、結合が弱まる性質の製品は飛散しやすいと言えます。
原綿としての石綿繊維自体や、セメントと混合されているものの綿状の性質の高い「吹きつけ石綿(アスベスト)」や石綿保温材は、使用された初期から飛散しやすい石綿(アスベスト)の代表と言えます。代表的な石綿建材の様々な環境での、石綿(アスベスト)濃度を2000年時点で調査した結果を、お示し致します。
詳しくお知りになりたい方は巻末の資料1をご参考下さい。吹きつけアスベストの場合も、劣化や様々な行為が石綿(アスベスト)濃度に影響を与える事がわかります。
対照的に石綿とゴム等の製品を混合して結合が強い製品は飛散がしにくい製品の代表と考えられ、Pタイル等はそのまままでは飛散しにくい製品の代表といえるでしょう。一概にはいえませんが、重さの軽いもの(かさ比重の低いもの)が飛散しやすい傾向があり、重いもの(かさ比重の高い)ものは、飛散しにくい傾向もあります。建材の多くを占める石綿(アスベスト)含有ボード等は、建築物中に存在するだけならとりたてて飛散するわけではありません。
しかし石綿製品には使用により劣化や変質するものと、使用初期から経年劣化により飛散しやすくなるものがあります。波形スレートは経年的にセメントが脱落する傾向があり、経年劣化があることが有名です。
問題はどの石綿製品でも、こすったり、割ったり、機械等で切断したり、外力がかかれば程度は異なりますが、石綿繊維が飛散するのが共通な事です。クリソタイルの石綿製品の多くが諸外国で禁止され、日本でも今回禁止となるのは石綿(クリソタイル)製品を使用すれば、使用時と補修時や除去時に飛散がさけられないからです。一部で言われた「非飛散性石綿」という表現は、誤解を招くので使用されない傾向にあります。最盛期に3000種類とされた石綿製品の様々な行為時及び経年劣化の濃度のすべては、十分には調査ができてはいません。類似の製品の石綿濃度データで類推して頂くことも必要だと思います。
日本でも石綿は産出されており、江戸時代に秩父の石綿が布として使用された話もあります。日本の石綿消費の多くは、カナダや南アフリカやロシア等の諸外国からの輸入が主でした。世界の主要な石綿生産国は変遷しますが、旧ソ連(現ロシア等)、カナダ、南アフリカ、中国、ブラジル等です。第2次世界大戦中に連合国は日本への石綿の輸出を制限したために、日本の各地や韓国で石綿鉱山の開発が進みました。戦後も同様に輸入が主でしたが、一部の石綿鉱山が稼働していました。世界の石綿の産出量の概要を示します。日本の鉱山や土壌中の石綿については今後お示ししていきます。
日本の石綿輸入量(出典 日本関税貿易統計 全国安全センター作成)
対策が進んだから、今後アスベストは大丈夫と考える発想こそが陥穽だったと思います。
この間アスベストの危険等を促す報道で視聴者が不安を感じた後に、一定の対策とその報道で一件落着、という様な受け止め方が多く、その後の検証の報道もなかったと思われます。そのため含め多くの人が既に対策済みと誤解してきたし、多くの国民が石綿(アスベスト)は過去の問題と誤解してきたと思われます。
現在までのアスベストでの大きな展開は、4回あったと思われるのです。
第1回目は、1975年の「危険な吹き付けアスベストの新規使用禁止」という対策で、確かに大きな進展ではあるのですが、「重量で5%以上が石綿(アスベスト)」との定義を元に、「実際には岩綿(ロックウール)にアスベストを5%以上超えて混ぜ吹き付けていた(多くの業者の証言)」という実態は明らかにされず、1987-88年に一部の関係者が問題に気づいたままで現在に至ってしまっています。
第二には1988年の吹き付けアスベストの危険報道で、多くの人に石綿(アスベスト)のかなり危険の認識は高まった一方で、「学校の吹き付け石綿(アスベスト)は、除去・封じ込め・表面固化処理の対策」の報道で、「石綿(アスベスト)問題は終わった。」と多くの国民が考えていました。しかし「文部省の通達の対象は3商品名で、多くの吹き付けアスベスト材が調査に漏れていた。」のが実態で、学校以外の公共建築物や民間の建築物の吹きつけ石綿問題も残されたままでした。
第3は1995年の阪神・淡路大震災後の対策で、「改築及び解体に際してアスベスト吹き付けや建材の時前の記録を義務づけ」ましたが、記録する主任等の制度が十分でなく、費用負担もあり、多くの現場で実態としてアスベスト含有建材の事前記録は実施されていませんでした。
第4回目は、2002年の中皮腫の将来予測、その後の石綿の自動車や主要建材での禁止、横須賀の石綿訴訟の国の敗訴、中皮腫・じん肺・アスベストセンターの活動、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の活動、2004世界アスベスト会議東京の開催、と報道は増加しています。
今回2004年のアスベストの報道が適切でないと、「色々な問題や被災者は今後でるが」、対策としては「アスベストも禁止され、新規使用はないし」と誤解し、「今後の曝露防止対策もたったようだ。」と多くの国民が理解したら大変危険です。2005年以降の検証報道が、今後の人々の健康と命の予防に重要であると思います。
労働安全衛生と環境問題は連続しており、一体の問題としてとらえる視点が重要です。職場での安全衛生活動が充実し、リスクの把握ができて対策が立てられれば、環境への飛散は当然なくなります。労働環境でアスベスト飛散が続く限り、環境への飛散もなくなりません。住民の立場での飛散の監視と、働く作業者の自主的な安全衛生活動の協同が重要だと思います。さらに施主責任の強化と、監督署による監督、違法例への法的処罰等の複合した対策が必要でしょう。今後の石綿(アスベスト)飛散の防止と石綿(アスベスト)被災者の救済は、今後予想される10万人規模での被害、曝露労働者の総数は数百万人規模、環境での国民全員への曝露を考えると、大変重要な問題であり、石綿(アスベスト)の問題は、2040-50年まで続く大きな問題である事は確実だと思います。
石綿は物質として安定し変化しにくく、飛散しやすく飛散しても気づきにくい上に、悪性中皮腫や肺がんを起こす発ガン性があります。最初の石綿(アスベスト)吸入からおおむね40年前後の潜伏期をへて、石綿(アスベスト)肺、石綿(アスベスト)肺癌、悪性中皮腫、といった健康障害がおきる事が、大分以前からわかっています。 石綿による健康障害の中でじん肺の一つである石綿(アスベスト)肺は、10年以上職業性に石綿を吸入していた方にのみ起こるとされています。悪性中皮腫はより少量の石綿吸入であったり、短期間の曝露でおきることが知られています。
特に2002年、日本の男性で2000‐2040年の今後40年間の悪性中皮腫の死亡数が10万に達するという、早稲田大学の村山教授の研究が公表された事が大きな衝撃を与えています。また在使用されている製品から様々な理由で飛散した石綿(アスベスト)が現在どなたかに吸入されたとすると40年後の2044年に健康障害を起こす可能性があるわけです。こうした将来の世代への危険も問題とされる理由の一つだと思います。
の3点です。
それぞれを順に説明しましょう。
石綿(アスベスト)がおこす健康障害には、主に5種類あると言われています。
これらの病気の特徴は、初めて石綿(アスベスト)を吸入してから、平均40年前後の潜伏期(原因から病気が発病するまでの期間)がある事です。石綿(アスベスト)を吸入してから20-30年間は症状も病気も全くでない人が多いのです。この時期に石綿(アスベスト)を以前吸入したから心配だと思って、色々検査を行っても所見がありません。仕事で20‐40代で石綿(アスベスト)を初めて曝露された方の多くが、60才までの在職中に所見が少なく、それ以降に発病する理由は、この潜伏期のためです。以上の話は平均ですから、20才の初曝露で30才で潜伏期10年で悪性胸膜中皮腫になった方もいるし、16才の初曝露で86才で潜伏期70年で悪性胸膜中皮腫になる方もいます。
石綿(アスベスト)によるこれらの病気は今後は治る病気となる可能性も高いのですが、現状では治りにくい病気が多いのが特徴です。
大変難しい質問です。
第一に、石綿(アスベスト)吸入の量や濃度を推定する事自体が、前例や測定例がなく困難で答えられない場合や、濃度の時間的推移が不明で答えにくい場合があります。 第二に石綿(アスベスト)の吸入量(曝露量)が判明しても、その量に応じた中皮腫や肺がんの発症は、リスクのモデルによりかなり100倍程度の幅で異なる事もあります。さらに判明した一定のリスクを、どのオーダー(10のマイナス7乗、10のマイナス6乗、10のマイナス5乗、10のマイナス3乗)から問題とするのかは、様々な立場で異なる問題だからです。
はっきりしている事は、二つあると思います。石綿(アスベスト)肺は、概ね10年以上の職業性石綿(アスベスト)曝露を受けた人にのみ発症することです。石綿肺は職業性でも吸入期間が数年程度や環境曝露ではまず発症がない疾患です。その点、悪性中皮腫はもちろん、石綿(アスベスト)肺がんや胸膜肥厚斑等は、低濃度の短期曝露でも発症が知られています。
第二には、現在の一般大気中の石綿(アスベスト)濃度をバックグラウンドとして考える事です。鉱山周囲や土壌に石綿や関連鉱物が含有されている地域では、胸膜肥厚斑や悪性中皮腫の発症が報告されています。しかし現在のところ、それ以外の地域での一般大気中の曝露だけで胸膜肥厚斑が生じたとする報告はないと思います。もちろん一般大気自体で悪性中皮腫等が生じるリスクは今後考えなければいけない問題です。日本の都市では現在0.2-0.3f/L以下の大気中石綿(アスベスト)濃度の環境が多いと思います。残念ながら私たちは毎日息を吸う中で、石綿(アスベスト)をさほど危険と思わずに吸入してきています。成人は1分間に5Lの大気を吸入するので、
1年に吸入する石綿本数
=0.2-0.3本/L-5L/分-60分-24時間-365日=525,600-788,400本となります。
1日に1500-2000本以上、1年で50万本から80万本の石綿(アスベスト)繊維を日本人は吸入しているわけです。
もしあなたが石綿製品の側で石綿(アスベスト)繊維が500本/Lの環境に1時間いたとすると、
吸入した石綿本数=500本/L - 5L/分-60分=150,000本(15万本)となります。
大気中の石綿(アスベスト)の3ヶ月を1時間で吸入したわけです。人生が仮に70年とすると、大気中から吸入する石綿(アスベスト)の量が、3500万本から3515万本に増えたともいえます。
この程度なら心配ないという考え方もあると思いますが、皆さんはいかがでしょうか? 肺癌や中皮腫には閾値はないという考え方もあります。吸入した濃度と時間に応じて発病のリスクは増加するわけで、曝露が数日や高濃度になれば許容できないリスクと感じる方が増加するのが当然です。リスクをどの程度から許容するのかは、大変難しい問題です。
まだ十分名前が知られていないために、名前を突然言われて驚かれている方も多い事と思います。ヒトのからだが発生してくる時、上皮、中皮、内皮という細胞にわかれている時期があります。上皮は更に分化して皮膚や消化管や呼吸器系となり、内皮は血管や血液や筋肉や脂肪組織となります。中皮は、胸膜や腹膜や心膜等を覆う薄い膜となります。
一般に上皮からできた悪性疾患を、「がん」といいます。皮膚癌、胃がん、大腸がん、肺癌というわけです。内皮にできた悪性疾患を、筋肉腫や脂肪肉腫や悪性リンパ腫や白血病と言います。中皮にできた悪性疾患を、悪性中皮腫と言うわけです。「がん」の一種と考えて良いわけです。
悪性胸膜中皮腫は肺の外側を薄く包む胸膜に、悪性腹膜中皮種は腹部の外側を包む腹膜にそれぞれできた悪性腫瘍です。最初の症状は、悪性胸膜中皮腫では息切れや胸痛が多く、悪性腹膜中皮腫では腹部膨満感や腹痛等で気づく事が多いとされます。
悪性中皮腫の診断は、レントゲン写真やCTや超音波写真の後に行われる、胸水や腹水の穿刺のよる細胞診断、その後の胸腔鏡や腹腔鏡等による組織診断に基づいて行われます。
複数の免疫染色により、肺癌やその他の癌の転移との区別がつけやすくなってきました。但し胸水や腹水の出現時に悪性所見を呈さない例もあり、診断まで数ヶ月以上かかる事がやむをえない場合もある、診断の難しい疾患である事は今も変わりはありません。2018年の中皮腫について詳しく知りたい方は、当HP内の「中皮腫」をご覧ください。この病気について詳しくお知りになりたい方は、ひまわり診療所HP をご覧ください。
様々な国や地域の論文で、悪性中皮腫に占める職業性石綿曝露の比率は異なる訳ですが、その理由として職歴聴取と確認の方法が統一化されていない事がその大きな理由です。国際的な石綿(アスベスト)関連疾患の診断基準を定めたヘルシンキ・クライテリアでは、「悪性中皮腫の80%に職業性石綿曝露が認められた。」としており、これが大筋での共通理解と考えて良いと思います。1987年の石綿・ゼオライトのすべてによれば、石綿(アスベスト)以外の原因として、一卵性双生児での発症例を含めた家族集積例は9例報告され、トロトラストという放射性同位元素での発症例は4例、医療用放射線での発症例は7例、ベリリウム曝露が2例、パラフィン油が2例報告されていました。これらはケースの報告で大規模な数の報告ではありませんでした。石綿(アスベスト)による悪性中皮腫の発症の報告は国や産業で、数百人単位の集団も多く最大で千人を超す規模であるのと比べると、石綿(アスベスト)以外の物質や物理的因子の悪性中皮腫への関与の比率は大変少ないと考えられています。そのため悪性中皮腫は、石綿曝露の指標となる腫瘍(signal tumour)と言われて来ました。
なお遺伝子レベルでの悪性中皮腫の研究が急速に進んでおり、遺伝子の関与が今後解明されていくのは確実だと思います。中皮腫になりやすい遺伝子をもったヒトとなりにくいヒトがいる事が、将来的にわかってくる可能性もあるでしょう。現在SV40ウイルスというウイルスが、石綿と共に悪性中皮腫の発症に関与している可能性を示す動物等での研究が最近報告されています。SV40ウイルスがヒトにおいて悪性中皮腫の発症にどれだけ関与しているのかは、ヒト集団で石綿曝露の(あり)(なし)、SV40ウイルスの感染の(あり)(なし)という比較研究がないため現在では不明の状態です。今後の研究が待たれる所です。
通常の肺癌と同様の肺癌が、石綿曝露者に多い事が知られています。肺癌には、扁平上皮癌、小細胞癌、腺癌、大細胞癌の4種類が代表的なものですが、石綿曝露で特にどの組織型が増加すると言うことはなくて全体的に増加するようです。
肺癌というと喫煙による影響が有名ですが、石綿による影響も古くから知られています。特に疫学的に有名なのは、喫煙の「なし」「あり」、石綿の職業性曝露「あり」「なし」で、相乗的に影響がでる事です。以下に有名な疫学データをお示ししましょう。
様々な疫学調査の結果から、悪性胸膜中皮腫数の2倍程度の方が、毎年石綿による肺癌にかかっていると推測されています(ヘルシンキ・クライテリア)。2002年日本で悪性中皮腫が810名とされているので、石綿による肺癌の方も約1600名位と推計されます。石綿との関係が明白な悪性中皮腫と異なり、肺癌の場合で「喫煙」との関係を聞かれても、石綿との関係を尋ねられる事は少ないです。また後述の胸膜肥厚斑の読影や石綿小体の算定が行われていない事が多いので、本人も医療関係者も気づいていない例が多数あると推定されています。
増加するのは確実です。早稲田大学の村山教授等は、誕生年代と50歳代、60歳代等の死亡時年代を一定の群とする方法で、日本の男性の過去の悪性胸膜中皮腫の死亡率を産出しました。その結果から今後の悪性胸膜中皮腫の推計を行った結果が、次の図です。
今後日本男性の悪性胸膜中皮腫で、40年間で平均10万人の死亡が推定されたのです。石綿肺癌の男性はこの約2倍、悪性腹膜中皮腫と女性での発病を推計し合計すると、かなりの影響が予想されます。石綿(アスベスト)関連疾患は平均して40年前後の潜伏期間がありますから、石綿の消費年代(その際の石綿の、作業環境や一般環境への飛散)から約40年して発症の時期になるわけです。1920-1930年代の日本の石綿の消費と石綿曝露は、造船所、鉄道や発電等の蒸気機関周囲が多く、あとは石綿製造工場でした。消費される地域も石綿製造工場の多かった大阪泉南地区や神奈川県、横須賀市や呉市や長崎市等の造船所地域等で、その時期の影響が1970-1990年代にその地域で顕著に見られた訳です。1940年代日本は戦争のため石綿の輸入の制限で、石綿の使用が激減します。1949年から再開された石綿(アスベスト)の輸入と消費は、1960‐1990年代まで、多くは建材として全国で使用され、また自動車や電気製品等様々な産業で使用されました。吹きつけ石綿(アスベスト)も広範な地域で使用されたのです。40年後に発症の時期が来るとすると、2000年から2030年代以降まで、様々な病気の発症が予想されるわけです。
胸膜肥厚斑とは、石綿(アスベスト)によりほぼ特異的に出来る胸膜直下の繊維性病変です。場所と特徴的な形状から、石綿(アスベスト)曝露者に特異性が高い変化のため、この病変があれば以前石綿曝露があったと推定できるものです。詳しくはひまわり診療所の「健康と医療について・胸膜肥厚斑」 をご参考ください。
石綿小体は、石綿(アスベスト)繊維を芯にして、タンパク質と鉄が結合して肺内で形成される物質です。石綿に特異的な物質で、石綿曝露の指標とされます。詳しくはひまわり診療所の「健康と医療について・石綿小体(アスベスト小体)」 をご参考ください。
「後腹膜線維症について」のページをご覧ください。
残念ことですが、今後も日本では石綿と石綿製品の新規の使用が続きます。新規使用の問題が一切なくなるという様な、誤解を伝えて頂いては大変危険です。今回の規制は、2004年9月以前に販売された石綿製品の回収はいっさい義務づけていないため、2004年9月までに販売された石綿建材(スレートやボード類)が代理店から現場にある時期まで流通しています。生鮮食品と異なる安定的な商品のため、通常販売後2-3年は市場に製品がでているとされます。今回禁止された石綿含有建材の消費が2006年頃まで残る可能性がまずあります。
次に、2004年の日本の石綿の新規使用の制限は、建材と自動車製品の主要な10種類に限定されたものです。石綿布や石綿糸、その他の石綿含有建材(左官用材質)等は規制の対象とはなっていません。建築現場から石綿製品はなくなりません。ジョイントシートやパッキング等も規制の対象でないため、機械関連での今後の石綿の新規使用が続きます。諸外国の石綿原則禁止と比べて「大変緩い」事が問題とされています。全面禁止ではなく、かっこつきの「原則禁止」なのです。2004年に使用禁止となる石綿製品が、現在までの使用の90%前後をしめていたため、2005年の日本での石綿使用はようやく数千トンレベルに減少すると予想されています。
過去に船舶や鉄道、自動車や建築物、ポンプや配管、工場で使用されてきた石綿製品の多くが現在も廃棄されずに残っています。現在も残存している石綿含有製品の事を、既存石綿(きぞんアスベスト)と言います。こうした製品は、経年劣化や使用に伴う破損及び摩滅により飛散しやすくなりますし、改築・補修・改修・廃棄の際に著しく飛散する場合が多いわけです。1970‐1990年代に多用された石綿製品の改修や廃棄が増加するのは2010年以降とされています。
既存石綿(アスベスト)の対策で悩んでいるのは、1980年代-1990年代に石綿(アスベスト)の製造や輸入を禁止した北欧やアメリカ等の国も同様です。2000年ブラジルで初めての世界アスベスト国際会議が開催されましたが、その際石綿(アスベスト)が禁止された国での悩みとして報告されたのが、石綿(アスベスト)を飛散させる違法工事の件数の多さでした。石綿(アスベスト)の製造や輸入は禁止され、労働安全衛生や大気汚染に関する環境等の法律や行政や各種団体による活動にもかかわらず、補修や改築や解体等石綿(アスベスト)が飛散する事例があとをたたないというのです。石綿(アスベスト)を飛散させない技術は既にほとんど確立しています。それにもかかわらず、既存アスベストの問題で続くのはいくつかの理由がありそうです。石綿(アスベスト)お危険が社会全体に広く認識されていない事、所有者が十分な経済的コストを負担しない事、石綿(アスベスト)作業での的確な資格制度の不備、行政の監督の不十分、違反工事の際の罰則の不備等が複合しているといわれています。
改修や廃棄の際の飛散防止対策を十分たてておかないと、それに携わる作業者をもちろんの事、周囲で気づかずに他の作業をしている者や、周囲の環境への石綿(アスベスト)飛散が今後懸念されている訳です。こうした事を総称して、既存石綿の問題と言います。吹きつけ石綿(アスベスト)の問題が典型ですし、石綿含有建材の問題も同様です。地震の際の飛散や、廃棄物対策も問題です。詳しくはこのホームページのシンポジウムの項目をご参照ください。
クリソタイル石綿が、石綿肺を起こす事は1900年代前半には、知られていました。石綿肺を起こさない様に石綿繊維の曝露量を定めた1968年のBOHS報告は、主にクリソタイルを使用していた英国内の紡績工場に1933年から少なくとも10年以上従事した労働者290人のものでした。捻髪音の発症リスクが1%になる累積曝露量として、100年・繊維/mlとし、50年曝露であれば2繊維/mlとしたのでした。 1972年国際癌研究機構(IARC,International Agency for Research on Cancer)は、クロシドライトとアモサイトと共にクリソタイル石綿が、悪性中皮腫を引き起こすとしています。 日本産業衛生学会許容濃度等に関する委員会(2000)は、クリソタイル単独曝露コホート4データで、肺癌の推定過剰死亡数3.0(対千人)、中皮腫の推定過剰死亡数3.6(対千人)、合計推定過剰死亡数6.5(対千人)、千分の1のリスク相当値0.153f/mlとしました。クリソタイル繊維単独で0.153本/mlの環境で16才から50年曝露した場合1000人中6.5人がクリソタイルで過剰に死亡する推定結果でした。クリソタイル石綿は以前から、石綿肺、肺癌、悪性中皮腫の原因とされています。しかし、石綿関連の業界団体を中心に、「クリソタイル石綿は安全」もしくは「比較的安全」という情報が流されました。しかしクリソタイルの危険性が明らかであるから、多くの国は石綿禁止に踏み切ってきたのです。クリソタイルに含有される角閃石のトレモライトが中皮腫の原因とする説が唱えられた時期もありましたが、クリソタイル単独でも中皮腫が発症する事が報告されています。
1906年にイギリスのMurray医師が石綿(アスベスト)肺の初めての報告を行い、以後フランス、イタリア、ドイツから報告がなされました。1924年にはイギリスのCooke氏が石綿(アスベスト)肺と命名し、以後石綿(アスベスト)肺はじん肺の一つとして産業衛生の教科書的な疾患となりました。日本での石綿(アスベスト)製造業者向けの日本語の初めての書籍「石綿 杉山旭著」(昭和9年)にも、この点が触れられているほど有名な健康障害でした。
石綿(アスベスト)肺がんの報告は1935年からなされ、ドイツでは1940年代から労災補償の対象疾患とされ、1947年にはMerewetherの剖検例での報告が続きました。1955年のDollの疫学的報告で石綿(アスベスト)と肺がんの因果関係は確立しています。
悪性中皮腫も1935年頃から石綿(アスベスト)との関係が疑われ、1950年代にドイツから報告が続き、1959年のWagner報告で石綿(アスベスト)との関係が広く知られるようになりました。
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会の調査によると、悪性中皮腫と診断された殆どの患者さんとご家族が、言われた時は悪性中皮腫という病名を知らない状態であったと答えています。悪性中皮腫及び肺癌と診断された時に石綿(アスベスト)の言葉を知らなかった方が32%もいました。この事は、高血圧と塩分の関係が広く知られている様に、本来健康リスクのある人が知らなくてはいけない基本的な情報すら、全く本人や家族に伝わっていない事を示しています。使用者は雇用した従業員に対して、安全や衛生に関して配慮する義務があります。当然の事ながら、職場における石綿(アスベスト)の使用の事実と、今後生じうる悪性中皮腫等の疾患に対する健康教育及び健康診断、及び取りうる防塵対策に関して、使用者は入社時及びその後の安全衛生活動の中で十分果たさなければいけない責務をおっています。しかしながら、石綿(アスベスト)という言葉すら発症時に知らなかった方が多い実態は、こうした事が十分行われてこなかった事を如実に物語っています。
健康診断及び発症後の健康対策については、中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会 の要望をご参考下さい。
蛭石(ひる石、バーミキュライト)吹付けの石綿含有関連の問題についてのQ&Aは次のPDFファイルをご参考ください。
参考資料1 様々な建築作業での石綿(アスベスト)濃度
参考資料2 悪性中皮腫の死亡数と労災認定数