Voices 2014

2014年ホットライン

小学校教員 胸膜中皮腫業務上認定

— 石綿含有ボード等石綿則レベル3建材が加工される場 (人口急増地区で新築工事が繰り返し続き)から10~数十メートルのところに1年間以上滞在し、毎日の掃除で石綿ばく露が追加された方の中皮腫 業務上認定 —

中皮腫・じん肺・アスベストセンター 所長 名取雄司

 2014年3月、北海道苫小牧市の市立小学校の教員の胸膜中皮腫が、地方公務員災害基金で業務上と認定されました。小学校教員の中皮腫の業務上認定は、滋賀県の小学校教員に次いで全国で2例目です。

 A氏は苫小牧市立の数小学校に勤務され、子供好きでスケートの指導にあたっていました。苫小牧市は1950年代から1970年代に工業の発展と共に人口が急増し、戦前数校だった小学校は子供の増加に追いつつかず増築し、1校の人数が千名を超すと新規校増設による分校を繰り返してきた経緯があります。私たちの詳しい調査の結果、A先生が中皮腫になられる10年以上前に勤務されていた数小学校に吹付け石綿はありませんでした。一方校舎内の増築が繰り返され石綿含有建材が切断加工される十~数十メートルの教室でA先生は授業をし、生徒と共に校舎の掃除を熱心にされたことが判明しました。

 石綿は容易に飛散する性質があるため、石綿製造工場周囲で1kmを超す近隣被害がでているように数十メートルは容易に飛散します。タバコでも間接喫煙で10分の1程度の濃度となるように、建物内の石綿濃度は飛散源の10分の1の測定結果は多いのです(詳細に知りたい方は、文京区さしがや保育園アスベストばく露による健康対策等検討委員会報告書 参照)。飛散した石綿は風が少ない環境では10時間後に床に落下し、後に掃除をすると再飛散しますが、掃除の際の石綿濃度は飛散時の数分の1とする論文報告が多く、掃除の際の石綿濃度はかなり高いことは上記報告書でも指摘され、石綿のリスクの研究者には旧知のこととされています。

 A先生の手術肺から1g1,000本をこす石綿小体が検出され、ヘルシンキクライテリアの職業性ばく露の規準に達していたことも傍証の一つでした。家族ばく露、工場周囲の石綿ばく露、居住されてきた過去の建物からの吹付け石綿ばく露は、私たちの詳細な調査で全部否定されましので、結果的に職業のどこかしか石綿ばく露は考えられなくなりました。

 新築・増築工事の石綿含有ボード等建材の加工する場所の近傍にA先生が滞在された時間の詳細な調査を行い、1年以上の石綿ばく露が証明されたこと等で業務上とされたのです。相談から8年。当該学校の図面(矩計図と内部仕上げ表)を詳しく調査しましたし、建設工事関係者の協力もあり、多数の同僚職員・教員のご協力に感謝いたします。

 2014年段階で、小中高等学校教職員の中皮腫の業務上認定はまだ容易ではありません。過去に私たちがご相談をうけた、大学教職員4名(国立文系教員1名、公立理系教員1名、私立理系教員1名、私立文系職員1名)は、全員公務災害・労災認定されました。しかし小中高等学校の教員4名の相談では、今回が初めての公務災害認定です。

 認定させる為には、綿密な調査が必要です。具体的には、その他の原因を確実に否定すること、学校の詳細な調査が不可欠です。その他の原因の否定には、居住地の石綿ばく露、父母等からの家族石綿ばく露、過去に住んでいたすべての建物からの石綿ばく露を十分否定する専門的な調査が必要なのです。労災制度では専門性の高い担当官と職業性呼吸器疾患に明るい診査制度がありますが、地方公務員災害基金の審査体制は十分とはいえません。今後の充実が望まれます。

 教職員の業務上認定は、大阪の高校理科教員の認定もあり2014年変化の時期を迎えています。認定の前例の増加により、今後は民間教職員の労災認定、地方公務員の公務上認定が徐々に容易となり増加していくと思われます。過去に石綿健康被害救済法の申請にとどめた方も、是非業務上申請のご相談を行っていただきたいと思います。

 一方2014年段階では、小中高等学校の教職員の中皮腫等の石綿関連疾患の業務上申請は、教職員とご家族のみで行うと業務外となる場合も想定される時期です。公務災害、業務上認定経験のある団体へのご相談をお勧めします。中皮腫・じん肺・アスベストセンターでは、教員の場合原則的にご相談を複数の担当者でのプロジェクトチームを組み、医師・研究者との協力のもと年単位の調査後意見書をまとめながら、労災申請・公務災害申請の支援を行っています。

<参考>

A氏関連 名取意見書関連部分抜粋

(文京区さしがや保育園アスベストばく露による健康対策等検討委員会報告書 参照)

石綿濃度について

 今回の事案は中皮腫であり直接石綿濃度とは関係ないが、石綿曝露の周囲への飛散濃度、掃除の際の再飛散濃度等、石綿曝露について理解するために様々な場合の石綿濃度のオーダーについて理解することが必要なため、参考として石綿濃度の概要を以下に記載する。

 職業曝露は低濃度から高濃度までの作業がある。高濃度曝露では、石綿鉱山、石綿工場、石綿吹き付作業時、石綿建材切断時が知られる。低濃度でも中皮腫や胸膜肥厚斑が生じることは前述のとおりである。飛散した石綿が落下し後に掃除した際の石綿濃度は、除去、切断、加工に準じる濃度となることが知られている。

 家族曝露は、高濃度作業の作業服や工具等からの曝露であるため、その濃度が職業の10分の1に低減しても元の作業に応じて中等度から低濃度の曝露となりうる。石綿工場に隣接した民家や工場排気口から数~10mという民家の濃度データの実測値はほぼないと思われるが、理論的に考えて中等度から低濃度曝露になりうる。

 建物曝露は概ね低濃度曝露であるが、一般大気と比べて明らかに高い吹き付け石綿のある室内の濃度が知られている。又建物内で、建材切断等の石綿飛散作業や事故がある場合の濃度も同様に低濃度曝露となり、建物内に広く拡散することが知られている。

 石綿建材の切断や加工作業が行われた場合の屋外での濃度も低濃度であるが、一般大気と比べて高い値となる。石綿工場周囲の数百~1km以上の環境でも低濃度曝露になることが、尼崎の石綿工場周囲のシミュレーションから判明している。

 一般大気の石綿濃度は、0.1-0.3f/Lが日本では多く見られた濃度である。

1.職業曝露 石綿建材吹き付け・石綿建材の切断加工時の濃度3)、44)、45)

 職業性石綿曝露は、高濃度から低濃度までありえる。石綿工場や石綿鉱山が過去に高濃度曝露の典型作業とされ3)、数十f/ml以上の濃度であったとされる。建築や造船所は中等度の濃度の典型作業とされ3)、数f/ml前後の濃度が多かったとされる44)。建築の中でも、吹き付け石綿作業は数十-数百f/mlの論文もある高濃度石綿作業の典型であった44)45)なおReitzeは吹き付け部20-100f/mlの際に、22.5m離れた場所の石綿濃度を46f/mlと報告しており、吹き付け石綿が周囲に広く飛散したことを報告した47)。文京区の報告でも15メートル離れたバルコニーでも1f/mlを越える石綿濃度が報告されている44)。一方石綿建材の切断や加工・掃除作業時の石綿濃度は数f/ml~数百f/Lの中等度石綿作業が多かった44)。本橋は、石綿建材加工時の切断点と周囲15メートルの濃度として、0.58f/mlと0.5f/ml(けい酸カルシウム2種)、3.06f/mlと2.46f/ml(耐火被覆板)と周囲でもほぼ切断点と同濃度の飛散を報告した46)。その他の石綿製品の職業性曝露では、百~数十f/Lの低濃度職業性曝露も多いと考えられている3)。15~22メートルの地点でも切断点と比しわずかに低下している場合もある結果で、校内数10メートルまで広く拡散することが推定される。

 石綿肺は高濃度曝露の指標とされている。1938年のDreessen報告で確実な石綿肺が生じた濃度として、当初5mppcf(6f/ml)が定められ、1968年イギリスでクリソタイル紡績工場の捻髪音の発症が1%となる出現率で100年・繊維が得られ、1983年のイギリスの検討で石綿肺は25繊維・年数/mlで2%に出現することが判明した48)。25繊維・年数/mlは石綿肺が生じる一つの判断基準であるが、それ以下でも生じるという報告も知られている。

 肺癌及び中皮腫が1000人に1人生じる累積濃度等に着目し、日本では産業衛生学会と厚生労働省は、全石綿で30f/L(0.03f/ml)、クリソタイルのみで150f/L(0.15f/ml)を定めた48)

2.3.(中略)

4.石綿建材作業周囲の屋外における石綿濃度

 石綿作業における屋外での粉塵の飛散を確認する論文として、石綿協会データ50)も知られている。使用した石綿建材は限定されるが、屋外で粉じん発生源から10m離れた地点でも4f/L以下~24f/Lと結果を報告している。また同じ報告書のp133で「屋内の10分の1以下の程度の濃度」としている。大気濃度は0.2-0.3f/Lであるから、石綿含有建材を切断すると周辺の屋外10メートルを越え、数十メートルまで石綿濃度の上昇を見ることが、石綿協会データでも推定されている。

5.6.(中略)

7.飛散した石綿が落下し後に掃除した際の石綿濃度

 を6.5f/mlと報告した45)。吹き付け石綿の建物を初期に問題にしたLumleyは飛散時の石綿濃度11.89f/mlに対し堆積した床の掃除の石綿濃度を3.75f/mlと報告した54)。文京区の石綿飛散事故の再現実験は44)、吹き付け石綿除去時の個人ばく露濃度が35.72f/ml、翌日床に堆積した石綿線維を掃除した時の個人ばく露濃度が19.10f/mlとしている。また再現実験の各場の時間毎の濃度でも、除去2.59f/mlで掃除1.44f/ml、除去2.44f/mlで掃除1.88f/ml、除去1.51f/mlで掃除1.04f/mlと、除去時の2/3から1/2の濃度が多くの測定で見られている44)。掃除は10時間以上かけて沈降した石綿繊維を再飛散させるため、こうした濃度になるのも頷ける。掃除作業は吹き付け石綿や石綿建材切断と加工作業に準じた濃度の石綿曝露作業である事が知られた結果、石綿建材の掃除には現在HEPAフィルター付きの真空掃除機が使用され、石綿建材は二重包装のビニール袋に入れて廃棄するようになってきた経緯があるのである。  

参考文献

3) Consensus Report. Asbestos, Asbestosis, and Cancer: the Helsinki Criteria for diagnosis and attribution, Scand J Work Environ Health, 23:311-316, 1997

4) 厚生労働省石綿に関する健康管理等専門家会議マニュアル作成部会:石綿ばく露歴把握のための手引、厚生労働省:88-95、109、122、152、2006

37) 平成18年度厚生労働省石綿ばく露作業による労災認定事業所等一覧表の公表、、http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/03/h0328-4.html、(最終閲覧日2010年5月6日)

38) 平成20年度厚生労働省石綿ばく露作業による労災認定事業所等一覧表の公表について、http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000002uzk.html 、(最終閲覧日、2010年5月6日)

44) 文京区立さしがや保育園アスベストばく露による健康対策等検討委員会、文京区立さしがや保育園アスベストばく露による健康対策等検討委員会報告書、文京区福祉部保育課、1-186、平成15年12月

45) Robert N Sawyer et al Asbestos Exposure in a Yale Building Analysis and Resolution , Environmental Research : Vol13 P146-169,1977

46) W.B.Reitze et al, Application of Sprayed Inorganic Fiber Containing Asbestos Occupational Health Hazards,Am.Ind.hyg.Assoc.J:33,p178-191,1972.3

47) 本橋他、平成8年度環境庁委託業務、建築物解体に伴うアスベスト飛散防止対策に係わる調査報告書、富士総研:p1-97、1997

48) 車谷典男、職業性石綿ばく露と石綿関連疾患-基礎知識と労災補償-、三信図書:329-362、2002

49) 労働科学研究所、墨田区有施設等の吹付け材の分析及び室内浮遊粉じんの調査報告書、昭和62年11月、1-20、

50) 日本石綿協会、平成9年度通商産業省委託、石綿含有低減下製品等調査研究、平成10年3月、1-192、

51) 外山尚紀、他、建設現場における石綿建材加工時の気中石綿濃度について、労働衛生工学会、2007

52) 熊谷信二、旧石綿工場周辺の石綿濃度の推定と中皮腫死亡に関する量反応関係の検討、第47回大気環境学会年会講演要旨集、1H1112、(2006)

53) 環境省、平成19年度アスベスト大気濃度調査結果について(お知らせ)、
http://www.env.go.jp/press/press.php?serial=9756、(最終閲覧日、2010年5月6日)

54) K.P.S.Lumley, Buildings Insulated with Sprayed asbestos, Ann.Occup.Hyg:14, P255-257, 1971

55)名取雄司、建設労働者の胸部レントゲン写真に関する検討、産衛誌、vol43、385、2001

56) 佐渡市立両津小学校アスベスト健康対策等専門委員会・専門部会、佐渡市立両津小学校アスベスト健康対策等専門委員会報告書、1-115、佐渡、2008.10