Voices 2014

2014年ホットライン

吹付け石綿のある建物の占有者の工作物責任~近鉄・文具店事件~

2014年3月22日
弁護士 位田 浩

第1 事案の概要

 被害者は、近鉄高架下建物を1970年3月に賃借りして2002年頃まで文具店を営んでいたところ、建物内の壁面に吹き付けられた石綿(クロシドライト)粉じんに曝露して胸膜中皮腫を発病し、2004年7月に死亡した。

第2 これまでの訴訟経過

2006年6月21日 提訴
2009年8月31日 一審判決(一審被告の工作物責任を認容)
2010年3月 5日 控訴審判決(認容額を増やす)
2013年7月12日 最高裁判決(原判決破棄、大阪高裁に差戻し)
2014年2月27日 差戻し控訴審判決(差戻し前の認容額を維持)→確定

第3 最高裁判所の判断

 一審被告が本件建物の所有者として民法717条1項ただし書の規定に基づく土地工作物責任を負うか否かは、①人がその中で勤務する本件建物のような建築物の壁面に吹付け石綿が露出していることをもって、当該建築物が通常有すべき安全性を欠くと評価されるようになったのはいつの時点からであるかを証拠に基づいて確定した上で、さらに②その時点以降にAが本件建物の壁面に吹き付けられた石綿の粉じんにばく露したこととAの悪性胸膜中皮腫の発症との間に相当因果関係を認めることができるか否かなどを審理して初めて判断をすることができるというべきである。

第4 差戻し控訴審の判断

1 吹付け石綿が露出している建物が瑕疵ありと評価されるようになった時期

 遅くとも、環境庁・厚生省が通知を発した昭和63年2月ころには、建築物の吹付けアスベストの曝露による健康被害の危険性及びアスベストの除去等の対策の必要性が広く世間一般に認識されるようになったと認めるのが相当である。

2 その時期以降の石綿粉じんばく露と中皮腫発症との相当因果関係の有無

 石綿粉じん曝露と石綿関連疾患との間には量-反応関係があり、一審被告の責任期間(昭和62年2月頃から平成13年11月頃まで)も約13年9ヶ月という長期間で、それ自体中皮腫の潜伏期間として相当と考えられる期間であるから、一審被告の責任期間内の曝露と責任期間外の曝露の両者が不可分一体となって被害者を中皮腫に罹患させたと推認するのが相当である。被害者の中皮腫がもっぱら一審被告の責任期間外の曝露によるとの疑いを抱かせる程度の反証がない以上、一審被告の責任期間内の石綿粉じん曝露と石綿関連疾患との相当因果関係は高度の蓋然性をもって立証されている。

3 責任主体

 民法717条1項の「占有者」とは、被害者に対する関係で管理支配すべき地位にある者をいうところ、本件建物の壁面につき修繕等の措置をとることが許容されているのは専ら賃貸人である一審被告であるから、一審被告は被害者との関係で本件建物を管理支配すべき地位にある。「占有者」は複数存在しても支障がなく、文具店が被害者との関係で占有者にあたったとしても、一審被告の責任が免除されることはない。

以上