リスクコミュニケーションで飛散を防止した事例(1)

新宿区厚生年金会館解体工事の際のリスクコミュニケーション

 2010年東京都新宿区で、「東京厚生年金会館」の解体工事が行われました。「東京厚生年金会館」に隣接した新宿区立保育園で、園児のお母さんたちは、園児たちが解体工事に伴うアスベスト粉じんにさらされることを心配し、リスクコミュニケーションの手法を使い、解体事業者のアスベストの調査漏れを事前に見つけ出し、保育園の周辺のアスベスト気中濃度を測定、監視し、安全な解体工事を実現しました。

 解体業者は、事前の工事説明会を行いました。アスベストセンターは保育園のお母さんたちの依頼を受け説明会に出席、アスベストについての質問をしたところ、この建物にはレベル3の建材はありません。というでたらめな回答が返ってきました。

 保育園のお母さんたちは、早い段階からアスベストセンターに連絡し、アスベスト粉じんを出さない安全な工事を実現しようと相談していました。アスベストセンターは、リスクコミュニケーションという手法で、より安全な工事を実現するために、

  1. 解体工事を行う事業者に、アスベストの事前調査結果を示させる。
  2. 園児の安全な保育について、新宿区に安全な工事を保障させる。
  3. 安全な工事に関する工事協定書を締結し、実行させる。
  4. アスベストセンターもしくは東京労働安全センターなどの第三者機関が、建物内部の再調査を行う。

 などを、提案しました。

  1. については、工事説明会に近隣住民(もしくは近隣保育園の保護者)に依頼された専門的な知識を有する者として、アスベストセンターのメンバーが出席し、事業者のアスベスト事前調査について、専門的な立場から質問をしました。このことで、事業者はアスベスト工事をおろそかにできないという意識を持たせることができました。
  2. については、保育園の保護者の皆さんが、熱心に保育園の園長さんや、区役所の保育課に働きかけ、安全を確保するために、保育園での説明会の開催や、工事協定書の締結などに力を尽くされました。
  3. については、事業者、行政(新宿区)、保育園保護者、アスベストセンター(第三者機関)との話し合いが進む中で、保育園保護者は弁護士に協定書の作成を依頼し、話し合いの内容を盛り込む形で協定書の締結を実現しました。
  4. については、安全な工事を実現するためにはもっとも重要です。これは、保育園の園児のアスベストばく露を心配する新宿区が、東京労働安全センターと業務委託契約を結び、区が行う工事内立ち入り調査に、東京労働安全センターが同行するというものです。この第三者機関の調査によって、新たにアスベストが見つかり、さらに以前のアスベスト除去工事の取り残しを発見しました。

 このような、解体工事の周辺住民、行政、アスベストセンターなどの第三者機関が適正なコミュニケーションを行うことで、より安全なアスベスト撤去工事を実現することは可能です。しかし、適正なリスクコミュニケーションを形成するためには、住民による事業者や行政に対する働きかけ、第三者機関の有効な活用が必要です。
 私たちは、大量にストックされたアスベストに囲まれて生活しています。それらのアスベストを適正に撤去、廃棄させていくためには、事業者、行政に任せておくだけでは、残念ながら十分ではありません。多くの適正な工事もありますが、同時に多くの不適正な工事によって、目に見えない発がん物質・アスベスト粉じんが、町を、学校を、地震の被災地を襲っている現実もまたあります。

 ここに挙げたリスクコミュニケーションの例は、保育園のお母さんたちの子供を守るという、一途なお気持ちから実現しました。わたしたちアスベストセンターの専門的な知識や経験が、このようなアスベスト被害から子供たちを守るという思いに役立つとすれば、これに変わる喜びはありません。

東京厚生年金会館解体工事に伴うアスベスト除去経緯

2010年

4月26日:

第1回目の「東京厚生年金会館解体工事」の解体工事説明会が解体施工業者S社により、近隣住民に対して行われた。この際に、S社のアスベスト担当者は、レベル1についての除去工事の説明はあったものの、レベル2、及びレベル3のアスベスト含有建材について、一切ないと説明した。

5月15日:第2回目の同工事説明会

S社は、社内の連絡が不十分なことが原因で、レベル3についての説明を前回の説明会で行わなかったと釈明し、実際にはレベル3のアスベスト含有建材があったことを説明した。また、レベル1について新たに見つかったと説明。
近隣住民は説明内容に反発、説明会は混乱した。

5月30日:

アスベストセンターは「東京厚生年金会館解体工事におけるアスベスト対策に関する意見書」を作成し、新宿区保育課に提出した。

6月14日:

解体工事が開始された。工事現場に隣接する新宿区立保育園の保護者による、新宿区保育課への抗議と工事開始延期への要請が行われた。

6月16日:

新宿第二保育園(厚生年金会館に近接した保育園)において、S社による工事説明会が開かれた。この説明会は新宿区保育課が開催し、保育園の保護者を対象。その説明会で、アスベスト建材が新たに見つかったことが報告された。
アスベストセンター職員が保護者の依頼を受け説明会に参加したが、保育課長より退席を求められる。退席を拒否したところ、保育課とS社との協議により、同席は認めたが発言を拒否される。

6月18日:

16日の説明会の経緯に対し、抗議文及び公開質問状を、新宿区長あてに提出し、秘書課に出向き趣旨説明を行い、文書回答を求める。

6月22日:

弁護士事務所にて、工事協定案を検討する。

6月28日:

新宿区子ども家庭部長(保育課を所管)と協議。区は16日の保育課の発言について謝罪した。

6月30日:

新宿区生活環境課が、保育園保護者の意見を取り入れ、区の工事立ち入り調査の際に、第3者の同行を検討。アスベストセンターの紹介で、東京労働安全衛生センターと区との契約内容について協議。

7月6日:

生活環境課長ら3名が、アスベストセンターを訪問。工事現場内のアスベスト調査同行について協議。

7月8日:

区とS社とアスベストセンターで、調査内容について協議。

7月14日:

新宿労基に業者による工事説明に問題があり、十分な監視を行政監視を行うよう求める。
S社側から別のアスベスト除去専門業者が、当該工事のアスベスト除去を、正式に請け負ったと説明。

7月16日:

新宿区生活環境課で工事と事前のアスベスト調査について協議。

7月21日:

アスベストセンターが、保育園にて、S社及び保護者に対し、アスベスト除去工事についての講義を行う。同時に協定案の説明を行う。

7月30日:

保育園にて工事協定についての協議。保育園保護者、区保育課、S社。

8月5日:

区生活環境課との打ち合わせ。

8月6日:

保育園にて、保護者に対し協定書案の説明会を行う。

8月23日:

協定書締結。

 協定書締結後、新宿区と東京労働安全衛生センターの業務委託契約に基づいて、工事の立ち入り調査を区の調査に同行する形で、東京労働安全衛生センターが行い、新たなアスベスト建材や、従前のアスベスト除去工事の際の取り残しを発見しました。また、保育園敷地内での濃度測定を継続して行って、工事の安全を確認しました。