石綿(アスベスト)関連疾患と日本の石綿(アスベスト)

Lecture by Dr Natori 2004

今でも学校で使われている吹き付け石綿(アスベスト)−岩綿

 こちらは東京練馬区の学校の(写真7)、吹き付けの岩綿(ロックウール)の中に入っている吹き付け石綿(アスベスト)もので、つい1年ほど前まで対策が立てられていませんでした。実際に見てみると、子どもたちがなにかモノをぶつけたとか、天井に靴の跡がついています。吹き付けの岩綿(ロックウール)は長年アスベストではないから大丈夫だと誤解されてきた訳ですが、この状況は決して練馬区だけの問題ではありません。調べてみるとみなさんが住んでいる自治体でも同じことが起こっているはずです。それはなぜでしょうか?

写真7

 1987〜88年文部省は、吹き付けアスベストの調査の通達や資料を出しましたが、「吹き付けアスベストの商品を、アスベストを含有しない商品」としたりしてしまいました。しかしその時点の調査だけで、それ以降十分な調査をしていない自治体も実は多いのです。環境省はその後訂正した結果での調査を促しますが、文部科学省は2003年石綿対策全国連の要望を受けてようやく新しい通達を出したのです。吹き付けアスベスト対策も不十分な自治体も多いのが実態ですから、アスベスト建材の対応はまだなのです。この事を知らない方が実は多いのです。

粉塵と石綿(アスベスト)

 アスベスト疾患について話す前に、一般の粉塵やアスベスト繊維の理解が必要です。まず粉塵を理解する上で大事な事は、粉じんには目に見えないサイズのものが多いという事です。また細かい粉塵は容易に飛び散ります。アスベストは目に見えないし、容易に飛び散るのです。それでは、どれくらい容易に飛び散るのでしょうか?

 図1は、10メートル四方の部屋の一番端で電動工具を使って3分間切断をした際の、部屋の反対側の粉塵の濃度です。あっという間に部屋の反対側で粉じん濃度が高くなっています。近くでは最初の数分間粉塵が見えますが、残りの時間はきれいです。まして部屋の反対側の人は「あそこは汚いけれど俺の所はきれい。」と思い、「自分は粉じんに関係ない。」と思っているのです。実はたった3分の作業で1時間その部屋の粉じん濃度は、じん肺になる濃度である、ということなのです。粉じんは見えずに漂いやすいことを示しています。

図1

 都市の大気中には、1リットル当たり0.3本程度のアスベスト繊維があります。成人の1分間の換気量は5リットルですから、成人は1分あたりに1.5本、1時間で90本アスベスト繊維を吸入しています。日本の成人を解剖するとほぼ全員の肺からアスベスト繊維を検出することができます。もちろん、仕事でアスベストを吸っている人はこの10倍から100倍、1000倍の石綿繊維が出てきます。

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