石綿(アスベスト)関連疾患と日本の石綿(アスベスト)

Lecture by Dr Natori 2004

 はじめまして、内科医をしている名取と言います。現在、NPO「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」の所長もしています。日本の石綿関連がんの労災補償状況を見てください。現在日本では悪性中皮腫という病気が大変増えてきていて、1995年には500人だった中皮腫の方が2002年には810名になっているということが分かります。鹿児島県のデータがありますが、1998年中皮腫で8名、99年が15名、2000年が7名、01年が8名、02年が12名と毎年かなりの方が中皮腫で亡くなっています。ところが労災の認定件数がありますが、鹿児島県は真っ白です。この間鹿児島県では、肺がんや中皮腫で誰も仕事による病気として認めてこられなかったのです。今回初めて鹿児島の安全センターの方々が努力されて、中皮腫の方が労災認定されました。来年の資料には輝かしく1という数字が入ると思います。初めて一人の方が認められた事をさらに広げていく必要があります。そういう事で、今回私もお招き頂きました。また明日からホットライン、中皮腫・アスベストの被害を受けた方の相談を受けます。

私たちの周りのどこに石綿(アスベスト)があるか?

 バリーさんがお話しする前に、30分ほど日本の石綿(いしわた・アスベスト)を巡る状況を簡単にお話しさせて頂きます。ご存じだと思いますが、これが石綿(アスベスト)のひとつの原石クロシドライトと呼ばれるものです(写真1・提供フランス国立安全衛生研究所(INRS))。これは裂けるチーズのようにどんどん裂けていき、実際には目には全く見えません。アスベストは臭いもないし、目には見えない、天然の鉱物です。では、それがどこにあるのか?

写真1

 下の黒い屋根はよく住宅に見られる屋根で、住宅屋根用化粧スレートで、石綿(アスベスト)含有が多かったものです(写真2-1)。工場の波形の屋根は、昔から使われている波形スレートで、多くが石綿(アスベスト)含有です(写真2-1)。家の横の壁は(写真2-2)サイディングと言われる建材で、石綿(アスベスト)含有が多かったものです。次によくトイレや台所の天井や軒にありますが、有名なフレシキルボードと呼ばれる非常に堅くて、性能が良いと言われる石綿(アスベスト)入りと思われる建材が使われています(写真3)。皆さんもどこかで見たことがある石綿(アスベスト)建材には天井に丸い小さい穴があいている板、よく学校の音楽室や放送室の天井などによく使われていましたが、昔よく使われていた穴あき岩綿吸音板もアスベスト含有でした。

写真2-1

写真2-2

写真3

 次のスライドは石綿(アスベスト)ではなく吹き付けロックウール(岩綿)ですが(写真4)、吹き付けロックウールの中にしばしば石綿(アスベスト)が使われています。公的には1980年までがアスベストが使われていたとされていますが、実際はその後まで使用されていた例がどんどん見つかっています。吹き付けロックウールが完全にアスベスト非含有になったのは、どうも1988年前後の可能性が高まっています。今後1980年代のロックウール(岩綿)はサンプリング等が必要です。

写真4

 これはみなさんがよく見るまちのビルの光景です(写真5)。何気なくビルを通り過ぎると思いますが、よく見ると左の下にビニールシートを敷いて何か中でやっています。ビルの中では実は天井にある石綿建材をバールでたたいて解体し、改築をやっていたのです(写真6)。いったん壊した所に新たに床とか壁とか天井を作り、住居やあらたなお店にする。このような場合高濃度の石綿粉じんが出ます。しかし外を通っている人や、ビルの他の階の人は何も知らない。こういう事が起こっているのが、日本の現状です。

写真5

写真6

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